機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

119 / 139
■第6巻 第12章 「未起動の圧」

■工業コロニー群外周

 

巨大工廠ブロック。

 

⸻

 

無数の金属群が、

静かに稼働している。

 

⸻

 

だが。

 

⸻

 

その静けさは、

通常の工業音とは違っていた。

 

⸻

 

低い振動。

 

⸻

 

わずかな軋み。

 

⸻

 

海鳴りのような共鳴。

 

⸻

 

まるで。

 

⸻

 

世界そのものが、

重くなっている。

 

⸻

 

⸻

 

■ジョブ・ジョン

 

端末を見つめている。

 

⸻

 

受信ログは正常。

 

⸻

 

輸送コードも問題ない。

 

⸻

 

だが。

 

⸻

 

内容だけが、

どこか現実感を失っている。

 

⸻

 

匿名ラベル。

 

⸻

 

未登録構造番号。

 

⸻

 

発信元空白。

 

⸻

 

本来なら、

絶対に通るはずのないデータ。

 

⸻

 

なのに。

 

⸻

 

誰も止めていない。

 

⸻

 

⸻

 

■ジョブ

 

「……気持ち悪ぃな」

 

⸻

 

少し間。

 

⸻

 

■ジョブ

 

「最初から、

通ることになってたみてぇだ」

 

⸻

 

⸻

 

背後の整備員達を見る。

 

⸻

 

■ジョブ

 

「全部まとめろ」

 

⸻

 

⸻

 

■整備員

 

「全部ですか?」

 

⸻

 

⸻

 

■ジョブ

 

「ああ」

 

⸻

 

「どうせもう、

誰かが決めてる」

 

⸻

 

⸻

 

誰が。

 

とは言わない。

 

⸻

 

言えない。

 

⸻

 

ジョブ自身、

分かっていないからだ。

 

⸻

 

⸻

 

■ジョブ

 

「アナハイムへ運べ」

 

⸻

 

「俺も後から行く」

 

⸻

 

⸻

 

整備員達が動き始める。

 

⸻

 

コンテナ群。

 

⸻

 

匿名ラベル。

 

⸻

 

中身を知る者はいない。

 

⸻

 

だが。

 

⸻

 

その全てが、

一つの場所へ向かっている。

 

⸻

 

⸻

 

■ジョブ

 

コンテナを見送る。

 

⸻

 

■ジョブ

 

「輸送じゃねぇな……」

 

⸻

 

少し間。

 

⸻

 

■ジョブ

 

「呼ばれてる」

 

⸻

 

⸻

 

その瞬間。

 

⸻

 

工廠全体が、

わずかに軋む。

 

⸻

 

低い振動。

 

⸻

 

遠い海鳴り。

 

⸻

 

ジョブが顔を上げる。

 

⸻

 

■ジョブ

 

「……なんだ今の」

 

⸻

 

誰も答えない。

 

⸻

 

だが。

 

⸻

 

空気だけが変わっていた。

 

⸻

 

⸻

 

■海沿い居住区画

 

夜。

 

⸻

 

静かな部屋。

 

⸻

 

窓の外には黒い海。

 

⸻

 

⸻

 

■セイラ・マス

 

端末を閉じる。

 

⸻

 

部屋が静まる。

 

⸻

 

画面には、

無数の構造データ。

 

⸻

 

リヴァイブ計画。

 

⸻

 

未完成。

 

⸻

 

未接続。

 

⸻

 

未定義。

 

⸻

 

⸻

 

■エリシア・マス

 

「間に合うの?」

 

⸻

 

⸻

 

長い沈黙。

 

⸻

 

セイラは答えない。

 

⸻

 

ただ。

 

⸻

 

窓の外を見る。

 

⸻

 

夜の海。

 

⸻

 

深い蒼。

 

⸻

 

⸻

 

■セイラ

 

「分からないわ」

 

⸻

 

⸻

 

エリシアが目を見開く。

 

⸻

 

初めて聞く言葉だった。

 

⸻

 

⸻

 

■セイラ

 

「まだ完成していないもの」

 

⸻

 

⸻

 

少し間。

 

⸻

 

■セイラ

 

「でも——」

 

⸻

 

視線は海の向こう。

 

⸻

 

⸻

 

■セイラ

 

「世界の方が急いでいる」

 

⸻

 

⸻

 

沈黙。

 

⸻

 

その言葉だけが、

部屋へ残る。

 

⸻

 

⸻

 

■アマテラス

 

通信は崩れている。

 

⸻

 

言葉が届かない。

 

⸻

 

意味が定着しない。

 

⸻

 

⸻

 

■ブライト・ノア(断片)

 

『アムロ!!』

 

⸻

 

⸻

 

■ベルトーチカ・イルマ(断片)

 

『お願い……!』

 

⸻

 

⸻

 

波形が崩れる。

 

⸻

 

意味が消える。

 

⸻

 

⸻

 

■通信士

 

「意味変換不能!」

 

⸻

 

■通信士

 

「文章構造維持できません!」

 

⸻

 

⸻

 

誰も何も出来ない。

 

⸻

 

ただ。

 

⸻

 

何かが近づいている事だけは分かる。

 

⸻

 

⸻

 

■医療区画

 

レイジ・イルマ。

 

⸻

 

静かに目を開く。

 

⸻

 

⸻

 

■レイジ

 

「……また増えてる」

 

⸻

 

⸻

 

深蒼の波。

 

⸻

 

海鳴り。

 

⸻

 

呼び声。

 

⸻

 

⸻

 

拳を握る。

 

⸻

 

だが。

 

⸻

 

まだ動けない。

 

⸻

 

身体ではない。

 

⸻

 

存在そのものが、

追いついていない。

 

⸻

 

⸻

 

■レイジ

 

「呼んでるなら……」

 

⸻

 

少し間。

 

⸻

 

■レイジ

 

「繋げよ」

 

⸻

 

⸻

 

返事はない。

 

⸻

 

だが。

 

⸻

 

深蒼だけが、

わずかに揺れる。

 

⸻

 

⸻

 

■外縁宙域

 

白と赤の戦闘は続いている。

 

⸻

 

だが。

 

⸻

 

それはもう、

戦闘ではなかった。

 

⸻

 

現象。

 

⸻

 

遅延。

 

⸻

 

維持。

 

⸻

 

決着だけが発生しない空間。

 

⸻

 

⸻

 

■コルヴス・クロウ

 

「未識別接続増加」

 

⸻

 

「戦域外因子進行中」

 

⸻

 

⸻

 

■オペレーター

 

「模写同期維持不能!」

 

⸻

 

⸻

 

■コルヴス

 

沈黙。

 

⸻

 

そして。

 

⸻

 

初めて僅かに眉を動かす。

 

⸻

 

■コルヴス

 

「……模写では追いつかないか」

 

⸻

 

⸻

 

■ラプラス・コア

 

長い沈黙。

 

⸻

 

そして。

 

⸻

 

■ラプラス・コア

 

「想定内」

 

⸻

 

⸻

 

世界はまだ固定されていない。

 

⸻

 

だが。

 

⸻

 

起動だけは近づいている。

 

⸻

 

まだ動いていない。

 

⸻

 

まだ完成していない。

 

⸻

 

それでも。

 

⸻

 

世界そのものが、

その存在を必要とし始めていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。