機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

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■第1巻 第6章 「赤い波」

海岸基地。

 

 

その朝はまだ、

“戦場になる前の静けさ”を残していた。

 

 

海は暗い。

 

 

波だけが、

静かに岸へ打ち寄せている。

 

 

まるで。

 

 

何かを待っているみたいに。

 

 

その静けさを、

最初に壊したのは警報だった。

 

 

『高エネルギー反応接近』

 

『所属不明戦力確認』

 

 

基地内を兵士達が走る。

 

 

銃を持つ手は正確だった。

 

だが視線だけが定まらない。

 

 

恐怖じゃない。

 

 

もっと根本的な違和感。

 

 

“理解できないもの”へ触れた時の顔。

 

 

遠くの海上。

 

 

黒い影が浮かんでいる。

 

 

艦に見える。

 

 

だが。

 

 

見ていると、

輪郭がズレる。

 

 

現実と噛み合っていない。

 

 

ミライが息を呑む。

 

 

「……何、あれ」

 

 

誰も答えられない。

 

 

その瞬間。

 

 

空気が沈んだ。

 

 

重い。

 

 

海そのものが、

一瞬だけ呼吸を止めたみたいだった。

 

 

直後。

 

 

沿岸防衛線が消えた。

 

 

爆発じゃない。

 

 

光でもない。

 

 

そこにあった構造だけが、

“なかったこと”になる。

 

 

兵士の声が途中で途切れる。

 

 

音ごと消えていた。

 

 

沈黙。

 

 

誰も、

何が起きたのか理解できない。

 

 

セイラだけが、

その“消え方”を知っていた。

 

 

アクシズ。

 

 

あの光の向こう側。

 

 

世界が、

壊れかけた時と同じ。

 

 

その時。

 

 

地下格納庫が揺れる。

 

 

低い警報音。

 

 

まるで、

巨大な心臓が動き出したみたいだった。

 

 

フィロメラ。

 

 

白い巨体が、

暗闇の中で目を開ける。

 

 

ツインアイ発光。

 

 

胸部奥では、

赤い光が脈打ち始めていた。

 

 

セイラの呼吸が止まる。

 

 

「……また、

目覚めるの?」

 

 

誰へ向けた言葉でもない。

 

 

だが。

 

 

フィロメラは、

確かに“応えている”。

 

 

次の瞬間。

 

 

格納庫天井が崩壊する。

 

 

黒い光。

 

爆風。

 

 

施設の一部が消失した。

 

 

破壊じゃない。

 

 

存在そのものが、

削除されている。

 

 

兵士達が後退する。

 

 

本能が理解していた。

 

 

これは、

戦争じゃない。

 

 

黒い特殊部隊MSが降下する。

 

 

その動きには、

殺意すら感じられなかった。

 

 

ただ。

 

 

“回収手順”。

 

 

それだけ。

 

 

『対象確認』

 

『フィロメラ回収を優先』

 

 

無機質な通信。

 

 

セイラは操縦席へ走る。

 

 

足が重い。

 

 

それでも止まれない。

 

 

止まれば。

 

 

この世界ごと、

沈んでいく気がした。

 

 

コックピットへ座った瞬間。

 

 

視界が変わる。

 

 

赤い線。

 

白い光。

 

 

誰かの感情が流れ込む。

 

 

怒り。

 

焦燥。

 

悲しみ。

 

 

アムロ。

 

シャア。

 

ララァ。

 

 

そして。

 

 

知らない“何か”。

 

 

「やめて……」

 

 

セイラの声が震える。

 

 

だがフィロメラは止まらない。

 

 

むしろ。

 

 

それら全てを、

受け入れている。

 

 

敵機が一斉射撃。

 

 

その瞬間。

 

 

フィロメラが一歩動く。

 

 

ただ、

それだけだった。

 

 

次の瞬間。

 

 

敵機一機が消える。

 

 

断絶。

 

 

空間ごと、

切り離されていた。

 

 

セイラの視界が赤く染まる。

 

 

「違う……

これは戦いじゃない……」

 

 

その言葉へ、

フィロメラの鼓動がわずかに乱れる。

 

 

まるで。

 

 

問いへ反応したみたいに。

 

 

海上の黒い艦が、

ゆっくり動く。

 

 

それは攻撃じゃない。

 

 

“選別”。

 

 

セイラは理解する。

 

 

見られている。

 

 

違う。

 

 

“認識されている”。

 

 

フィロメラが前へ出る。

 

 

その瞬間。

 

 

海が揺れた。

 

 

白と赤が重なる。

 

 

戦場の意味が、

静かに書き換わっていく。

 

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