海岸基地。
⸻
その朝はまだ、
“戦場になる前の静けさ”を残していた。
⸻
海は暗い。
⸻
波だけが、
静かに岸へ打ち寄せている。
⸻
まるで。
⸻
何かを待っているみたいに。
⸻
その静けさを、
最初に壊したのは警報だった。
⸻
『高エネルギー反応接近』
『所属不明戦力確認』
⸻
基地内を兵士達が走る。
⸻
銃を持つ手は正確だった。
だが視線だけが定まらない。
⸻
恐怖じゃない。
⸻
もっと根本的な違和感。
⸻
“理解できないもの”へ触れた時の顔。
⸻
遠くの海上。
⸻
黒い影が浮かんでいる。
⸻
艦に見える。
⸻
だが。
⸻
見ていると、
輪郭がズレる。
⸻
現実と噛み合っていない。
⸻
ミライが息を呑む。
⸻
「……何、あれ」
⸻
誰も答えられない。
⸻
その瞬間。
⸻
空気が沈んだ。
⸻
重い。
⸻
海そのものが、
一瞬だけ呼吸を止めたみたいだった。
⸻
直後。
⸻
沿岸防衛線が消えた。
⸻
爆発じゃない。
⸻
光でもない。
⸻
そこにあった構造だけが、
“なかったこと”になる。
⸻
兵士の声が途中で途切れる。
⸻
音ごと消えていた。
⸻
沈黙。
⸻
誰も、
何が起きたのか理解できない。
⸻
セイラだけが、
その“消え方”を知っていた。
⸻
アクシズ。
⸻
あの光の向こう側。
⸻
世界が、
壊れかけた時と同じ。
⸻
その時。
⸻
地下格納庫が揺れる。
⸻
低い警報音。
⸻
まるで、
巨大な心臓が動き出したみたいだった。
⸻
フィロメラ。
⸻
白い巨体が、
暗闇の中で目を開ける。
⸻
ツインアイ発光。
⸻
胸部奥では、
赤い光が脈打ち始めていた。
⸻
セイラの呼吸が止まる。
⸻
「……また、
目覚めるの?」
⸻
誰へ向けた言葉でもない。
⸻
だが。
⸻
フィロメラは、
確かに“応えている”。
⸻
次の瞬間。
⸻
格納庫天井が崩壊する。
⸻
黒い光。
爆風。
⸻
施設の一部が消失した。
⸻
破壊じゃない。
⸻
存在そのものが、
削除されている。
⸻
兵士達が後退する。
⸻
本能が理解していた。
⸻
これは、
戦争じゃない。
⸻
黒い特殊部隊MSが降下する。
⸻
その動きには、
殺意すら感じられなかった。
⸻
ただ。
⸻
“回収手順”。
⸻
それだけ。
⸻
『対象確認』
『フィロメラ回収を優先』
⸻
無機質な通信。
⸻
セイラは操縦席へ走る。
⸻
足が重い。
⸻
それでも止まれない。
⸻
止まれば。
⸻
この世界ごと、
沈んでいく気がした。
⸻
コックピットへ座った瞬間。
⸻
視界が変わる。
⸻
赤い線。
白い光。
⸻
誰かの感情が流れ込む。
⸻
怒り。
焦燥。
悲しみ。
⸻
アムロ。
シャア。
ララァ。
⸻
そして。
⸻
知らない“何か”。
⸻
「やめて……」
⸻
セイラの声が震える。
⸻
だがフィロメラは止まらない。
⸻
むしろ。
⸻
それら全てを、
受け入れている。
⸻
敵機が一斉射撃。
⸻
その瞬間。
⸻
フィロメラが一歩動く。
⸻
ただ、
それだけだった。
⸻
次の瞬間。
⸻
敵機一機が消える。
⸻
断絶。
⸻
空間ごと、
切り離されていた。
⸻
セイラの視界が赤く染まる。
⸻
「違う……
これは戦いじゃない……」
⸻
その言葉へ、
フィロメラの鼓動がわずかに乱れる。
⸻
まるで。
⸻
問いへ反応したみたいに。
⸻
海上の黒い艦が、
ゆっくり動く。
⸻
それは攻撃じゃない。
⸻
“選別”。
⸻
セイラは理解する。
⸻
見られている。
⸻
違う。
⸻
“認識されている”。
⸻
フィロメラが前へ出る。
⸻
その瞬間。
⸻
海が揺れた。
⸻
白と赤が重なる。
⸻
戦場の意味が、
静かに書き換わっていく。
⸻