整備音だけが遠くに響いている。
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白い通路。
無機質な照明。
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だが。
その光は、
わずかに遅れて点滅していた。
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世界の同期ズレが、
まだ完全には収まっていない。
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遠くで警報ノイズ。
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聞き取れない通信断片。
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艦そのものが、
不安定な現実を無理矢理維持している。
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その中を、
二つの影が並んで歩く。
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アムロ・レイ。
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シャア・アズナブル。
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靴音だけが、
やけに規則正しく響いている。
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短い沈黙。
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先に口を開いたのは、
アムロだった。
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■アムロ
「なぁ、シャア」
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■シャア
「なんだ」
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■アムロ
「もういいのか」
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シャアの視線が、
わずかに揺れる。
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■アムロ
「人類の粛正とか」
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歩く音だけが続く。
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遠くで、
整備アームの駆動音。
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誰かの怒鳴り声。
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そして、
通信ノイズ。
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世界はまだ、
完全に戦場のままだった。
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■シャア
「粛正……か」
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小さく息を吐く。
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■シャア
「ついさっきまで、
本気でやっていた気もするがな」
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■アムロ
「お前ならな」
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沈黙。
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■シャア
「だがな」
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少し間。
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通路照明が、
一瞬だけ遅れて明滅する。
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■シャア
「お前や、
あいつらの感情が同期してから」
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「そんなものは、
どうでもよくなった」
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アムロは何も言わない。
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ただ、
少しだけ視線を落とす。
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シャアが、
こんな言葉を口にする。
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昔なら、
想像もしなかった。
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■シャア
「ブライト」
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「ミライ」
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「ベルトーチカ」
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歩みは止まらない。
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だが。
言葉だけが、
わずかに遅れる。
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■シャア
「……アルテイシア」
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その名前だけ。
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ほんの少しだけ、
呼吸が乱れる。
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■シャア
「人類という言葉で括るには」
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「もう、
うるさすぎる」
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アムロが横目で見る。
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■シャア
「ひとりひとりが、
違う顔をしている」
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静かな間。
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遠くで、
警報が短く鳴る。
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すぐにノイズへ変わる。
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■アムロ
「……変わったな、お前も」
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■シャア
小さく笑う。
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「お前ほどではない」
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沈黙。
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だが。
その空気は、
かつてのような刺々しさを持っていない。
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■シャア
「エリシアか」
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ほんの一瞬だけ、
声が揺れる。
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■シャア
「……良く似ている」
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■アムロ
「誰にだ」
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シャアは答えない。
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視線だけが、
ほんの少し遠くへずれる。
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ララァ。
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セイラ。
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守れなかったもの。
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戻れなかった時間。
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その全てを、
飲み込むような沈黙。
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それ以上、
言葉は続かない。
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通路の奥で、
ドアが開く音。
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その瞬間。
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外縁宙域の戦況データが、
壁面モニターへ流れ込む。
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崩壊しかけた座標。
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深蒼ノイズ。
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接続誤差。
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世界はまだ、
戦場のままだった。
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だが。
この瞬間だけ。
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戦う理由が、
一段深い層へ沈んでいく。
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■シャア
「アムロ」
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■アムロ
「なんだ」
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■シャア
「戻るぞ」
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■アムロ
「……ああ」
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靴音が揃う。
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その瞬間。
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艦内照明が全て消える。
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完全な暗闇。
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■艦内放送
『深蒼反応急増!』
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『医療区画より異常同期反応!』
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『レイジ・イルマ反応増大!』
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アムロとシャアが同時に振り返る。
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■アムロ
「来たか」
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■シャア
「ああ」
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短い沈黙。
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■シャア
「今度はあの子達の番だ」
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二人は同時に走り出す。