機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

123 / 124
■第6巻 第16章 「同期前夜」

アマテラス。

 

⸻

 

静かな艦内。

 

⸻

 

誰も動かない。

 

⸻

 

だが、

昨日までとは違っていた。

 

⸻

 

わずかにズレていた空気が、

 

今はゆっくりと、

揃い始めている。

 

⸻

 

昨日まで聞こえていた、

微妙なノイズ。

 

⸻

 

照明の遅延。

 

⸻

 

音のズレ。

 

⸻

 

それらが、

少しずつ消えている。

 

⸻

 

それは安定ではない。

 

⸻

 

むしろ。

 

⸻

 

“何かが近づいている静けさ”だった。

 

⸻

 

⸻

 

■ブリーフィングルーム

 

アムロが窓の外を見ている。

 

⸻

 

外縁宙域。

 

⸻

 

何もない宇宙。

 

⸻

 

だが。

 

その奥で、

何かが揃い始めている。

 

⸻

 

⸻

 

■アムロ

 

「追撃は?」

 

⸻

 

⸻

 

■シャア

 

壁にもたれたまま答える。

 

⸻

 

⸻

 

■シャア

 

「来ない」

 

⸻

 

⸻

 

■アムロ

 

「妙だな」

 

⸻

 

⸻

 

■シャア

 

「あちらも測っている」

 

⸻

 

少し間。

 

⸻

 

⸻

 

■シャア

 

「不用意に動けば、

飲まれる」

 

⸻

 

沈黙。

 

⸻

 

誰も反論しない。

 

⸻

 

戦闘ではない。

 

⸻

 

“接続”そのものが、

危険になり始めている。

 

⸻

 

⸻

 

■ベルトーチカ

 

小さく眉を寄せる。

 

⸻

 

⸻

 

■ベルトーチカ

 

「……空気が違う」

 

⸻

 

⸻

 

■アムロ

 

「ああ」

 

⸻

 

⸻

 

■ベルトーチカ

 

「昨日より静か」

 

⸻

 

⸻

 

■シャア

 

「違うな」

 

⸻

 

全員の視線が向く。

 

⸻

 

⸻

 

■シャア

 

「揃い始めたんだ」

 

⸻

 

沈黙。

 

⸻

 

その言葉だけが、

妙に自然に落ちる。

 

⸻

 

昨日まで感じていた:

 

・ズレ

・誤差

・不一致

 

それらが、

少しずつ消えている。

 

⸻

 

代わりに。

 

⸻

 

“同じものを見始めている感覚”

 

だけが残る。

 

⸻

 

⸻

 

■アムロ

 

「……近いな」

 

⸻

 

⸻

 

■シャア

 

「感じるか」

 

⸻

 

⸻

 

■アムロ

 

「ああ」

 

⸻

 

少し間。

 

⸻

 

アムロは窓の外を見る。

 

⸻

 

宇宙は静かだ。

 

⸻

 

静かすぎる。

 

⸻

 

⸻

 

■アムロ

 

「嫌な感じだ」

 

⸻

 

⸻

 

■シャア

 

「怖いか」

 

⸻

 

⸻

 

アムロは、

すぐには答えない。

 

⸻

 

⸻

 

■アムロ

 

「……分からない」

 

⸻

 

「でもこれは、

もう戦争じゃない」

 

⸻

 

⸻

 

沈黙。

 

⸻

 

⸻

 

■アムロ

 

「撃って、

避けて、

勝って負ける」

 

⸻

 

「そんな話じゃなくなっていく」

 

⸻

 

拳を握る。

 

⸻

 

⸻

 

■アムロ

 

「人が戦ってる感じが、

薄れていくんだ」

 

⸻

 

⸻

 

シャアは静かに聞いている。

 

⸻

 

否定しない。

 

⸻

 

怒らない。

 

⸻

 

ただ、

少しだけ目を細める。

 

⸻

 

⸻

 

■シャア

 

「……そうかもしれんな」

 

⸻

 

その声には、

妙な静けさがあった。

 

⸻

 

まるで。

 

⸻

 

“既に半分理解している者”

 

のように。

 

⸻

 

⸻

 

■アマテラス・医療ブロック

 

簡易隔離区画。

 

⸻

 

消灯された室内。

 

⸻

 

レイジはベッドに座ったまま、

天井を見ている。

 

⸻

 

昨日まで感じていた違和感。

 

⸻

 

だが今日は違う。

 

⸻

 

⸻

 

■レイジ

 

「……遠くない」

 

⸻

 

拳をゆっくり開く。

 

⸻

 

何かが近づいている。

 

⸻

 

いや。

 

⸻

 

“自分が近づいている”。

 

⸻

 

⸻

 

■レヴナント領域

 

暗い観測空間。

 

⸻

 

無数の波形。

 

⸻

 

だが、

どれも安定していない。

 

⸻

 

⸻

 

■オペレーター

 

「同期率上昇」

 

⸻

 

「ですが、

固定できません」

 

⸻

 

⸻

 

■コルヴス・クロウ

 

波形を見つめる。

 

⸻

 

⸻

 

■コルヴス

 

「当然だ」

 

⸻

 

少し間。

 

⸻

 

⸻

 

■コルヴス

 

「今はまだ触れるな」

 

⸻

 

⸻

 

■オペレーター

 

「ですが——」

 

⸻

 

⸻

 

■コルヴス

 

「位相が定まっていない」

 

⸻

 

空間が微かに揺れる。

 

⸻

 

⸻

 

■オペレーター

 

「ラプラス・コア反応増大」

 

⸻

 

⸻

 

■コルヴス

 

目を細める。

 

⸻

 

⸻

 

■コルヴス

 

「……模写では追いつかないか」

 

⸻

 

その声には、

以前存在しなかった“思考”がある。

 

⸻

 

⸻

 

■アナハイム極秘工廠

 

■リヴァイブ・ガンダム

 

深蒼フレーム。

 

⸻

 

わずかな発光。

 

⸻

 

昨日より長い。

 

⸻

 

⸻

 

■エリシア

 

「反応継続」

 

⸻

 

⸻

 

■セイラ

 

無言。

 

⸻

 

ただ、

機体を見つめている。

 

⸻

 

⸻

 

■エリシア

 

「まだ起動しません」

 

⸻

 

⸻

 

■セイラ

 

「ええ」

 

⸻

 

少し間。

 

⸻

 

⸻

 

■セイラ

 

「でも、“待ってる”」

 

⸻

 

その言葉で、

空気が少し変わる。

 

⸻

 

兵器ではない。

 

⸻

 

まるで。

 

⸻

 

“誰かを待っている存在”。

 

⸻

 

⸻

 

■レイジ

 

静かに目を閉じる。

 

⸻

 

昨日までは、

“引っ張られている”感覚だった。

 

⸻

 

だが今は違う。

 

⸻

 

向こうも、

こちらを見ている。

 

⸻

 

⸻

 

■レイジ

 

「……来る」

 

⸻

 

その瞬間。

 

⸻

 

■リヴァイブ・ガンダム

 

深蒼フレームが、

一瞬だけ強く発光する。

 

⸻

 

⸻

 

■エリシア

 

「反応上昇!」

 

⸻

 

⸻

 

■セイラ

 

「まだ触らないで」

 

⸻

 

エリシアが息を呑む。

 

⸻

 

機体が動いた訳ではない。

 

⸻

 

だが。

 

⸻

 

“視線だけ”が合った感覚。

 

⸻

 

⸻

 

■アムロ

 

ブリーフィングルームで、

足を止める。

 

⸻

 

⸻

 

■アムロ

 

「……来たな」

 

⸻

 

⸻

 

■シャア

 

ゆっくり目を細める。

 

⸻

 

⸻

 

■シャア

 

「ああ」

 

⸻

 

昨日までのズレが消えている。

 

⸻

 

代わりに。

 

⸻

 

“接続直前の静けさ”だけが残る。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。