機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

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■第6巻 第17章 「接続」

アマテラス。

 

⸻

 

艦内は静まり返っている。

 

⸻

 

だが。

 

その静けさは、

“停止”ではない。

 

⸻

 

何かが始まり。

 

⸻

 

そして全員が、

それを待っている。

 

⸻

 

昨日まで艦内を覆っていた、

微細なズレ。

 

⸻

 

照明の遅延。

 

⸻

 

通信ノイズ。

 

⸻

 

音の重なり。

 

⸻

 

それらは、

ゆっくりと消え始めていた。

 

⸻

 

だが誰も、

安心はしていない。

 

⸻

 

むしろ逆だった。

 

⸻

 

“揃い始めた”事そのものが、

不気味だった。

 

⸻

 

⸻

 

■ブリーフィングルーム

 

沈黙。

 

⸻

 

誰も口を開かない。

 

⸻

 

だが空気だけが、

昨日とは違っている。

 

⸻

 

“ズレ”ていた感覚が。

 

⸻

 

今は、

ゆっくりと同じ方向へ揃い始めている。

 

⸻

 

⸻

 

■アムロ

 

「……レイジは?」

 

⸻

 

⸻

 

■ベルトーチカ

 

「医療ブロック」

 

⸻

 

少し迷う。

 

⸻

 

⸻

 

■ベルトーチカ

 

「……でも、

たぶん寝てないわね」

 

⸻

 

アムロは、

何も言わず立ち上がる。

 

⸻

 

その動きに、

ベルトーチカが振り向く。

 

⸻

 

⸻

 

■ベルトーチカ

 

「アムロ?」

 

⸻

 

⸻

 

■アムロ

 

「様子を見る」

 

⸻

 

短い沈黙。

 

⸻

 

⸻

 

■シャア

 

「甘いな、アムロ」

 

⸻

 

アムロは立ち止まらない。

 

⸻

 

⸻

 

■アムロ

 

「そうかもな」

 

⸻

 

少し間。

 

⸻

 

その背中へ。

 

⸻

 

シャアが、

静かに言葉を落とす。

 

⸻

 

⸻

 

■シャア

 

「……そういうところだぞ、お前は」

 

⸻

 

その声には、

皮肉も敵意もない。

 

⸻

 

ただ。

 

⸻

 

長い時間を経てなお、

変わらないものを見るような響き。

 

⸻

 

⸻

 

■アマテラス・通路

 

静かな通路。

 

⸻

 

アムロの足音だけが響く。

 

⸻

 

照明は正常。

 

⸻

 

空調も正常。

 

⸻

 

だが。

 

⸻

 

静かすぎる。

 

⸻

 

まるで艦全体が、

息を止めているようだった。

 

⸻

 

アムロの表情は険しい。

 

⸻

 

だが焦ってはいない。

 

⸻

 

むしろ。

 

⸻

 

“確かめに行く者”

 

の顔だった。

 

⸻

 

⸻

 

■アマテラス・医療ブロック

 

簡易隔離区画。

 

⸻

 

消灯された室内。

 

⸻

 

心拍モニタだけが、

静かな光を刻んでいる。

 

⸻

 

レイジは、

ベッドへ腰掛けたまま俯いていた。

 

⸻

 

昨日まで感じていた違和感。

 

⸻

 

だが今は違う。

 

⸻

 

静かすぎる。

 

⸻

 

何かが、

来る直前の静けさ。

 

⸻

 

⸻

 

■レイジ

 

「……なんなんだよ」

 

⸻

 

返事はない。

 

⸻

 

だが次の瞬間。

 

⸻

 

空気が揺れる。

 

⸻

 

レイジが顔を上げる。

 

⸻

 

白い残光。

 

⸻

 

赤い気配。

 

⸻

 

視界の奥で、

一瞬だけ交差する。

 

⸻

 

⸻

 

■レイジ

 

「っ……!」

 

⸻

 

誰かがいる。

 

⸻

 

だが姿は見えない。

 

⸻

 

⸻

 

■???

 

「焦るな」

 

⸻

 

レイジの目が見開かれる。

 

⸻

 

⸻

 

■レイジ

 

「誰だ!」

 

⸻

 

沈黙。

 

⸻

 

今度は別の気配。

 

⸻

 

⸻

 

■???

 

「まだ揃っていない」

 

⸻

 

⸻

 

■レイジ

 

息を呑む。

 

⸻

 

声ではない。

 

⸻

 

頭の中でもない。

 

⸻

 

“感覚そのもの”が、

流れ込んでくる。

 

⸻

 

温度。

 

⸻

 

感情。

 

⸻

 

焦燥。

 

⸻

 

静けさ。

 

⸻

 

その全部が、

境界なく触れてくる。

 

⸻

 

⸻

 

■レイジ

 

「……っ!」

 

⸻

 

頭を押さえる。

 

⸻

 

だが苦痛ではない。

 

⸻

 

むしろ。

 

⸻

 

“近い”。

 

⸻

 

その瞬間。

 

⸻

 

ドアが開く。

 

⸻

 

⸻

 

■アムロ

 

「レイジ!」

 

⸻

 

レイジが振り向く。

 

⸻

 

だがその瞳は、

まだ揺れている。

 

⸻

 

アムロは、

すぐには近づかない。

 

⸻

 

一瞬だけ迷う。

 

⸻

 

自分が今、

何を言うべきなのか。

 

⸻

 

何を触れれば、

壊さずに済むのか。

 

⸻

 

その迷いが、

ほんのわずかに表情へ出る。

 

⸻

 

それから、

ゆっくり近づく。

 

⸻

 

⸻

 

■アムロ

 

「聞こえたのか」

 

⸻

 

⸻

 

■レイジ

 

「……わからない」

 

⸻

 

呼吸が乱れている。

 

⸻

 

⸻

 

■レイジ

 

「でも、

誰かいた」

 

⸻

 

アムロの表情が、

わずかに変わる。

 

⸻

 

⸻

 

■アムロ

 

「そうか」

 

⸻

 

少し間。

 

⸻

 

⸻

 

■レイジ

 

「怖くは、ない」

 

⸻

 

アムロは、

静かにレイジを見る。

 

⸻

 

⸻

 

■レイジ

 

「でも——」

 

⸻

 

拳を握る。

 

⸻

 

⸻

 

■レイジ

 

「戻れなくなる感じがする」

 

⸻

 

沈黙。

 

⸻

 

アムロは答えない。

 

⸻

 

ただ。

 

⸻

 

ゆっくりと、

レイジの肩へ手を置く。

 

⸻

 

その手は、

戦場を知っている手だった。

 

⸻

 

失う事も。

 

⸻

 

帰れなくなる事も。

 

⸻

 

全部知っている手。

 

⸻

 

⸻

 

■アムロ

 

「なら、戻って来い」

 

⸻

 

レイジが目を見開く。

 

⸻

 

⸻

 

■アムロ

 

「何処まで行ってもいい」

 

⸻

 

少し間。

 

⸻

 

⸻

 

■アムロ

 

「でも」

 

⸻

 

⸻

 

■アムロ

 

「戻る場所だけは忘れるな」

 

⸻

 

レイジの呼吸が、

少しだけ落ち着く。

 

⸻

 

その瞬間。

 

⸻

 

■レヴナント領域

 

観測波形が乱れる。

 

⸻

 

⸻

 

■オペレーター

 

「同期値急上昇!」

 

⸻

 

⸻

 

■コルヴス・クロウ

 

「来たか」

 

⸻

 

その声には、

待っていた響きがある。

 

⸻

 

⸻

 

■オペレーター

 

「固定不能!」

 

⸻

 

⸻

 

■コルヴス

 

目を細める。

 

⸻

 

⸻

 

■コルヴス

 

「接続が始まった」

 

⸻

 

空間が揺れる。

 

⸻

 

戦場ではない。

 

⸻

 

“存在同士”が、

繋がり始めている。

 

⸻

 

⸻

 

■アナハイム極秘工廠

 

■リヴァイブ・ガンダム

 

深蒼フレームが脈打つ。

 

⸻

 

周期が、

揃い始めている。

 

⸻

 

⸻

 

■エリシア

 

「反応パターン変化!」

 

⸻

 

⸻

 

■セイラ

 

機体を見つめたまま呟く。

 

⸻

 

⸻

 

■セイラ

 

「……見つけたのね」

 

⸻

 

その声は、

母親のものだった。

 

⸻

 

⸻

 

■アムロ

 

静かに目を閉じる。

 

⸻

 

⸻

 

■アムロ

 

「始まったな」

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