機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

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■第6巻 第19章 「帰る場所」

■アマテラス・医療ブロック

 

静かな部屋。

 

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だが空気は、

先程までとは違っていた。

 

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重く張り詰めていた感覚が、

少しだけ和らいでいる。

 

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レイジはベッドに腰掛けたまま、

ゆっくりと呼吸を整えていた。

 

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その傍にはアムロ。

 

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そして。

 

ドアの横には、

シャアが変わらず壁にもたれている。

 

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誰も口を開かない。

 

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それでも。

 

先程までの沈黙とは、

少しだけ違っていた。

 

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その時。

 

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通路の向こうから、

慌ただしい足音が響く。

 

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一つ。

 

二つ。

 

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次第に近づいてくる。

 

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そして。

 

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ドアが開いた。

 

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■ベルトーチカ

 

「アムロ!」

 

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息を切らしながら、

ベルトーチカが飛び込んでくる。

 

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その視線は真っ直ぐ、

アムロとレイジへ向いていた。

 

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■ベルトーチカ

 

「大丈夫なの!?」

 

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レイジが少し驚く。

 

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アムロが振り返った。

 

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■アムロ

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

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だが。

 

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ベルトーチカは止まらない。

 

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そのまま二人の前まで歩み寄り——

 

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強く抱きしめた。

 

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■レイジ

 

「……っ」

 

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レイジが目を見開く。

 

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アムロも、

少し驚いたように瞬きをする。

 

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だが。

 

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ベルトーチカは離れなかった。

 

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■ベルトーチカ

 

「……よかった」

 

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震える声。

 

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■ベルトーチカ

 

「二人とも、無事に戻ってきて……」

 

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静かな部屋。

 

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その言葉だけが、

小さく響く。

 

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ベルトーチカの肩が震えていた。

 

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■ベルトーチカ

 

「もう……」

 

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声が掠れる。

 

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■ベルトーチカ

 

「もう誰も失いたくないの……」

 

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沈黙。

 

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アムロの表情が、

ゆっくりと和らぐ。

 

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そして。

 

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レイジごと、

そっとベルトーチカを抱き返した。

 

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■アムロ

 

「……あぁ」

 

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短い間。

 

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■アムロ

 

「もちろんだ」

 

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静かな声。

 

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だが。

 

その言葉には、

確かな温度があった。

 

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レイジは何も言わない。

 

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ただ。

 

二人の間にある温もりを、

静かに受け入れていた。

 

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しばらくして。

 

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ベルトーチカが、

ゆっくりと腕を解く。

 

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それでも。

 

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レイジの肩から、

手だけは離さなかった。

 

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■ベルトーチカ

 

「レイジ」

 

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■レイジ

 

「……ん?」

 

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ベルトーチカは、

涙の跡を残したまま。

 

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少しだけ困ったように笑った。

 

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■ベルトーチカ

 

「無茶するところまで似なくていいのよ」

 

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一瞬。

 

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レイジが固まる。

 

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そして。

 

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隣にいるアムロを見る。

 

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■レイジ

 

「……だってさ」

 

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■アムロ

 

「俺を見るな」

 

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■レイジ

 

「いや、どう考えてもあんただろ」

 

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■アムロ

 

「お前だって大概だ」

 

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■レイジ

 

「俺はあんたほどじゃねぇよ」

 

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■アムロ

 

「言うようになったな」

 

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ほんの少し。

 

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ベルトーチカが笑った。

 

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涙を残したまま。

 

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それはきっと。

 

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ずっと見たかった光景だった。

 

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失ったと思っていた人と。

 

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その人が残してくれた、

大切な息子。

 

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二人が同じ場所にいる。

 

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同じ時間の中で。

 

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くだらない言葉を交わしている。

 

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ただ。

 

それだけのこと。

 

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けれど。

 

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ベルトーチカにとっては、

どんな奇跡よりも大切な光景だった。

 

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もう。

 

特別な奇跡なんて、

必要なかった。

 

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ただ。

 

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帰ってくる場所に。

 

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帰ってきてくれれば。

 

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それだけでよかった。

 

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ドアの横。

 

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シャアはその光景を、

黙ったまま見つめていた。

 

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アムロ。

 

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ベルトーチカ。

 

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レイジ。

 

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三人を見つめるその目だけが、

少しだけ遠い。

 

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やがて。

 

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誰にも聞こえないほど、

小さな声が零れた。

 

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■シャア

 

「……帰る場所、か」

 

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だが。

 

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その言葉を、

アムロだけは聞いていた。

 

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アムロは振り向かない。

 

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ベルトーチカとレイジの傍に立ったまま。

 

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■アムロ

 

「お前にもあるさ」

 

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シャアの目が、

わずかに揺れる。

 

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短い沈黙。

 

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その脳裏に何が浮かんだのか。

 

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アムロには分からない。

 

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シャアの視線が、

ほんの一瞬だけレイジへ向く。

 

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そして。

 

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すぐに逸れた。

 

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■シャア

 

「どうかな」

 

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だが。

 

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その声は、

どこか穏やかだった。

 

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窓の外。

 

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静かな宇宙。

 

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その暗闇の向こうでは、

まだ世界が揺れている。

 

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境界も。

 

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記憶も。

 

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人の存在さえ。

 

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まだ何一つ、

確かなものではない。

 

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それでも。

 

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今だけは。

 

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この小さな部屋にだけ、

確かなものがあった。

 

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帰る人がいて。

 

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待っている人がいる。

 

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そして。

 

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帰ってきた時に、

抱きしめてくれる人がいる。

 

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それをきっと。

 

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帰る場所と呼ぶのだろう。

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