■アマテラス・医療ブロック
静かな部屋。
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だが空気は、
先程までとは違っていた。
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重く張り詰めていた感覚が、
少しだけ和らいでいる。
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レイジはベッドに腰掛けたまま、
ゆっくりと呼吸を整えていた。
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その傍にはアムロ。
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そして。
ドアの横には、
シャアが変わらず壁にもたれている。
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誰も口を開かない。
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それでも。
先程までの沈黙とは、
少しだけ違っていた。
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その時。
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通路の向こうから、
慌ただしい足音が響く。
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一つ。
二つ。
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次第に近づいてくる。
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そして。
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ドアが開いた。
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■ベルトーチカ
「アムロ!」
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息を切らしながら、
ベルトーチカが飛び込んでくる。
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その視線は真っ直ぐ、
アムロとレイジへ向いていた。
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■ベルトーチカ
「大丈夫なの!?」
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レイジが少し驚く。
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アムロが振り返った。
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■アムロ
「あぁ、大丈夫だ」
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だが。
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ベルトーチカは止まらない。
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そのまま二人の前まで歩み寄り——
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強く抱きしめた。
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■レイジ
「……っ」
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レイジが目を見開く。
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アムロも、
少し驚いたように瞬きをする。
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だが。
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ベルトーチカは離れなかった。
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■ベルトーチカ
「……よかった」
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震える声。
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■ベルトーチカ
「二人とも、無事に戻ってきて……」
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静かな部屋。
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その言葉だけが、
小さく響く。
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ベルトーチカの肩が震えていた。
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■ベルトーチカ
「もう……」
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声が掠れる。
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■ベルトーチカ
「もう誰も失いたくないの……」
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沈黙。
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アムロの表情が、
ゆっくりと和らぐ。
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そして。
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レイジごと、
そっとベルトーチカを抱き返した。
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■アムロ
「……あぁ」
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短い間。
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■アムロ
「もちろんだ」
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静かな声。
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だが。
その言葉には、
確かな温度があった。
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レイジは何も言わない。
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ただ。
二人の間にある温もりを、
静かに受け入れていた。
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しばらくして。
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ベルトーチカが、
ゆっくりと腕を解く。
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それでも。
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レイジの肩から、
手だけは離さなかった。
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■ベルトーチカ
「レイジ」
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■レイジ
「……ん?」
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ベルトーチカは、
涙の跡を残したまま。
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少しだけ困ったように笑った。
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■ベルトーチカ
「無茶するところまで似なくていいのよ」
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一瞬。
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レイジが固まる。
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そして。
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隣にいるアムロを見る。
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■レイジ
「……だってさ」
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■アムロ
「俺を見るな」
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■レイジ
「いや、どう考えてもあんただろ」
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■アムロ
「お前だって大概だ」
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■レイジ
「俺はあんたほどじゃねぇよ」
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■アムロ
「言うようになったな」
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ほんの少し。
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ベルトーチカが笑った。
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涙を残したまま。
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それはきっと。
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ずっと見たかった光景だった。
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失ったと思っていた人と。
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その人が残してくれた、
大切な息子。
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二人が同じ場所にいる。
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同じ時間の中で。
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くだらない言葉を交わしている。
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ただ。
それだけのこと。
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けれど。
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ベルトーチカにとっては、
どんな奇跡よりも大切な光景だった。
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もう。
特別な奇跡なんて、
必要なかった。
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ただ。
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帰ってくる場所に。
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帰ってきてくれれば。
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それだけでよかった。
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ドアの横。
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シャアはその光景を、
黙ったまま見つめていた。
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アムロ。
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ベルトーチカ。
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レイジ。
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三人を見つめるその目だけが、
少しだけ遠い。
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やがて。
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誰にも聞こえないほど、
小さな声が零れた。
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■シャア
「……帰る場所、か」
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だが。
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その言葉を、
アムロだけは聞いていた。
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アムロは振り向かない。
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ベルトーチカとレイジの傍に立ったまま。
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■アムロ
「お前にもあるさ」
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シャアの目が、
わずかに揺れる。
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短い沈黙。
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その脳裏に何が浮かんだのか。
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アムロには分からない。
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シャアの視線が、
ほんの一瞬だけレイジへ向く。
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そして。
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すぐに逸れた。
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■シャア
「どうかな」
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だが。
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その声は、
どこか穏やかだった。
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窓の外。
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静かな宇宙。
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その暗闇の向こうでは、
まだ世界が揺れている。
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境界も。
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記憶も。
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人の存在さえ。
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まだ何一つ、
確かなものではない。
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それでも。
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今だけは。
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この小さな部屋にだけ、
確かなものがあった。
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帰る人がいて。
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待っている人がいる。
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そして。
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帰ってきた時に、
抱きしめてくれる人がいる。
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それをきっと。
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帰る場所と呼ぶのだろう。