ここまで『機動戦士ガンダム:残響』を読んでいただき、本当にありがとうございます。
第7巻『海鳴りの停泊地』。
物語はここから、いよいよ終盤へと入っていきます。
アムロ・レイ。
シャア・アズナブル。
セイラ・マス。
そして、彼らの後を生きる者達。
長い時間の中で失われたもの。
それでも残ったもの。
もう一度出会えたもの。
それぞれが抱えてきた「残響」が、少しずつ同じ場所へ集まり始めます。
この物語を書き始めた頃、私が描きたかったのは「もし、あの人達にもう少しだけ時間があったなら」という、ただそれだけの願いだったように思います。
ですが、ここまで彼らと歩いてきて、その気持ちは少し変わりました。
理解し合うこと。
許すこと。
忘れないこと。
そして――帰ること。
それはきっと、同じ意味ではありません。
分かり合えなかったからこそ残るものもある。
届かなかった言葉だからこそ、いつまでも胸のどこかで響き続けることもある。
私は、それもまた人と人との繋がりなのだと思っています。
第7巻では、そんな彼らの「残ったもの」が、これまで以上に強く物語を動かしていきます。
どうか最後まで。
彼らがどこへ辿り着くのか。
その航海を見届けていただければ嬉しいです。
そして。
もし読み終えたあと、皆さんの中にも何か一つ、小さな音が残っていたなら。
作者として、これ以上嬉しいことはありません。
それでは。
第7巻『海鳴りの停泊地』。
遠くから聞こえる海鳴りとともに、お楽しみください。
――片蔵清優
■アマテラス・ブリッジ
静かな警報が続いている。
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だが誰も、
それを“異常”として扱ってはいない。
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すでにそれは、
日常と異常の境界を越えていた。
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■オペレーター
「外部干渉波、継続中……」
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■オペレーター
「強度変化なし……しかし」
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言葉が止まる。
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■オペレーター
「位置固定、不能です」
⸻
⸻
■ブライト・ノア
モニターを見たまま言う。
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■ブライト
「固定できないんじゃない」
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一拍。
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■ブライト
「“固定”という概念が、
意味を失い始めている」
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⸻
空気が、
わずかに沈む。
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誰も反論しない。
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もう理論では追いつけないと、
理解しているからだ。
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⸻
■レイジ・イルマ
モニターを睨む。
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視線の先には、
何もない。
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だが確かに、
“何か”だけが存在している。
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■レイジ
「……また揺れてる」
⸻
⸻
世界の奥で、
何かが軋む。
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耳ではない。
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もっと深い場所で聞こえている。
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■レイジ
「見えないのに……いる」
⸻
⸻
■アムロ・レイ
静かに口を開く。
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■アムロ
「いや」
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短い間。
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■アムロ
「見えていないだけだ」
⸻
⸻
■シャア・アズナブル
壁にもたれたまま、
短く息を吐く。
⸻
■シャア
「現実の方が、
遅れているだけかもしれんな」
⸻
⸻
視線をモニターへ向ける。
⸻
■シャア
「ノアズアーク隊……か」
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わずかに口元が歪む。
⸻
■シャア
「ノアの方舟とは、
随分と大仰な名前だ」
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⸻
視線を横へ流す。
⸻
■シャア
「なあ、ブライト」
⸻
⸻
■ブライト・ノア
一瞬だけ目を向ける。
⸻
■ブライト
「言うな」
⸻
⸻
■シャア
小さく鼻で笑う。
⸻
■シャア
「相変わらず、
真面目な男だ」
⸻
⸻
空間の揺れは止まらない。
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むしろ、
静かに深くなっていく。
⸻
⸻
■アムロ
小さく息を吐く。
⸻
■アムロ
「それだけ、
ブライトに背負わせてきたってことだ」
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一拍。
⸻
■アムロ
「茶化すな、シャア」
⸻
⸻
■シャア
一瞬だけ目を細める。
⸻
■シャア
「……ほう」
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わずかに笑う。
⸻
■シャア
「ずいぶん庇うようになったな」
⸻
⸻
■ブライト・ノア
視線は前のまま。
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■ブライト
「戦場だ」
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短い沈黙。
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■ブライト
「感傷は後にしろ」
⸻
⸻
■レイジ
その空気を見ている。
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戦場の会話ではない。
⸻
もっと長い時間を、
互いに背負ってきた者達の沈黙だった。
⸻
■レイジ
「……これが」
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小さく呟く。
⸻
■レイジ
「昔の戦争を生きた人間かよ」
⸻
⸻
■空間
音のないひび割れ。
⸻
世界の輪郭が、
わずかにズレる。
⸻
それでも確実に、
“何か”だけが近付いている。
⸻
⸻
■ブライト
低く言う。
⸻
■ブライト
「……もう始まっている」
⸻
⸻
沈黙。
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誰も動かない。
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だがそれは、
停止ではなかった。
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覚悟だった。
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⸻
■ブライト・ノア
静かに続ける。
⸻
■ブライト
「各機、出撃準備」
⸻
⸻
空気が変わる。
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観測空間だったブリッジが、
一瞬で“実戦”へ切り替わる。
⸻
⸻
■通路
赤い警告灯。
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揺れているのは艦ではない。
⸻
世界そのものだった。
⸻
⸻
■アマテラス・ドック
静かな警報。
⸻
だがここにいる者達は、
それを警報として聞いていない。
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環境音。
⸻
あるいは、
海鳴り。
⸻
そんなものに近かった。
⸻
⸻
■整備スタッフ
「外部干渉波、継続中!」
⸻
■整備スタッフ
「機体同期、
安定域ギリギリ維持!」
⸻
⸻
■ハンガー区画
白い機体。
⸻
フィロメラガンダム。
⸻
白い装甲の奥で、
赤い燐光が微かに脈動している。
⸻
その周囲だけ、
空間が僅かに遅れて見えた。
⸻
存在そのものが、
現実と同期し切れていない。
⸻
⸻
■ブライト・ノア
観測通路から見下ろす。
⸻
■ブライト
「ここまで来れば、
あとは同じだ」
⸻
⸻
■レイジ
機体足元で呟く。
⸻
■レイジ
「……本当に、
これで行くのか」
⸻
⸻
■アムロ
コクピットハッチ前。
⸻
一度だけ振り返る。
⸻
■アムロ
「行く」
⸻
⸻
■シャア
少し遅れて歩く。
⸻
■シャア
「やはり、
そうなるか」
⸻
⸻
沈黙。
⸻
その瞬間。
⸻
空間が、
薄くなる。
⸻
ドック音が遠ざかる。
⸻
誰かの呼吸だけが、
異様に近い。
⸻
⸻
■レイジ
息を呑む。
⸻
■レイジ
「今の……何だ?」
⸻
⸻
■アムロ
淡々と言う。
⸻
■アムロ
「もう、
“戻る場所”じゃない」
⸻
⸻
■シャア
機体を見上げたまま。
⸻
■シャア
「出る前に、
終わっていることもある」
⸻
⸻
■ブライト・ノア
低く言う。
⸻
■ブライト
「感傷はここまでだ」
⸻
⸻
■ハンガー制御音
ロック解除。
⸻
フィロメラが、
わずかに沈む。
⸻
⸻
■レイジ
「これで……」
⸻
喉が乾く。
⸻
■レイジ
「本当に戦場へ行くのか?」
⸻
⸻
■アムロ
即答。
⸻
■アムロ
「もう向こうにある」
⸻
⸻
■シャア
わずかに笑う。
⸻
■シャア
「こちらが、
追いつくだけだ」
⸻
⸻
■アラート
『転送準備完了』
⸻
⸻
■ドック全体
空間が、
一瞬だけ切り離される。
⸻
重力が消える。
⸻
呼吸音だけが残る。
⸻
■ブライト・ノア
最後に一言。
⸻
■ブライト
「出ろ」
⸻
⸻
■アムロ
コクピットへ入る。
⸻
⸻
■シャア
続く。
⸻
⸻
■レイジ
一瞬遅れて、
深く息を吸う。
⸻
■システム
『出撃プロトコル開始』
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⸻
■ドック
すべての輪郭が、
外側へ向かってズレていく。
⸻
まるで世界そのものが、
深蒼へ接続され始めていた。