機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

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■第7巻 第2章 「境界海域」

■空間転移領域

 

音がない。

 

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光も。

 

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速度も。

 

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距離さえも。

 

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すべてが、

“意味を持つ前”のまま漂っている。

 

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■フィロメラガンダム・コクピット

 

レイジ・イルマが、

浅く息を呑む。

 

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モニターは動いている。

 

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計器も正常。

 

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だが、

そこに映っているものを、

彼の知る“宇宙”は説明できなかった。

 

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深蒼。

 

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海の底のような色が、

空間全体へ滲んでいる。

 

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■レイジ

 

「……何だ、ここ」

 

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■通信回線

 

ノイズ。

 

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だが途切れない。

 

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むしろ逆だった。

 

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何かが、

無理やりこちらへ繋ぎ止めている。

 

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そんな感覚だけが残る。

 

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■アムロ・レイ(通信)

 

「視界に引っ張られるな」

 

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静かな声。

 

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■アムロ

 

「認識を固定しろ」

 

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■レイジ

 

深く息を吸う。

 

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だが、

空間は一定ではない。

 

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遠くに見えていた光が、

次の瞬間には真横へ現れる。

 

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後方だったはずの残光が、

コクピット前面を横切る。

 

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■レイジ

 

「距離が……」

 

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喉が乾く。

 

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■レイジ

 

「おかしい……」

 

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■シャア・アズナブル(通信)

 

短く笑う声。

 

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■シャア

 

「距離ではない」

 

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一拍。

 

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■シャア

 

「位相だ」

 

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■空間

 

深蒼が揺れる。

 

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海のようだった。

 

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波は存在しない。

 

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だが確かに、

“潮流”だけがある。

 

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その奥。

 

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何かが脈動していた。

 

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■レイジ

 

視線を向ける。

 

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見えた瞬間。

 

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背筋が凍る。

 

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■レイジ

 

「いる……!」

 

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■モニター

 

輪郭が定まらない。

 

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人影。

 

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艦影。

 

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残骸。

 

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その全てに見えて、

そのどれでもない。

 

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“存在だけ”が、

そこにあった。

 

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■アムロ

 

静かに呟く。

 

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■アムロ

 

「レヴナント……」

 

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■通信ノイズ

 

一瞬だけ、

反転する。

 

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その瞬間。

 

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“向こう側”から、

視線が返る。

 

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■レイジ

 

呼吸が止まる。

 

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■レイジ

 

「見られてる……!」

 

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■シャア

 

視線を動かさない。

 

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■シャア

 

「違うな」

 

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静かな声。

 

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■シャア

 

「測られている」

 

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■空間

 

深蒼の海が揺れる。

 

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その揺れに呼応するように、

フィロメラの白い装甲奥で、

赤い燐光が脈動する。

 

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装甲表面を、

微かな振動が走る。

 

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機械振動ではない。

 

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もっと、

呼吸に近い。

 

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■システム

 

『同期圧上昇』

 

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■システム

 

『境界固定率、低下』

 

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■レイジ

 

「固定率……?」

 

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■アムロ

 

短く答える。

 

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■アムロ

 

「こっち側が薄くなってる」

 

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■シャア

 

低く言う。

 

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■シャア

 

「向こうが近づいているんだ」

 

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■深蒼領域

 

奥底。

 

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赤い光が灯る。

 

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一つ。

 

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また一つ。

 

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さらに。

 

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無数。

 

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■レイジ

 

声を失う。

 

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喉だけが震える。

 

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■レイジ

 

「……嘘だろ」

 

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■アムロ

 

静かに前を見る。

 

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■アムロ

 

「始まる」

 

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■シャア

 

わずかに笑う。

 

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■シャア

 

「いや」

 

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一拍。

 

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■シャア

 

「もう始まっている」

 

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■深蒼の海

 

無数の赤い光群が、

ゆっくりとこちらへ向きを変える。

 

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空間そのものが、

呼吸を始める。

 

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誰もまだ、

その正体を知らない。

 

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だが全員が理解していた。

 

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これは、

戦争ではない。

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