■空間転移領域
音がない。
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光も。
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速度も。
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距離さえも。
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すべてが、
“意味を持つ前”のまま漂っている。
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■フィロメラガンダム・コクピット
レイジ・イルマが、
浅く息を呑む。
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モニターは動いている。
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計器も正常。
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だが、
そこに映っているものを、
彼の知る“宇宙”は説明できなかった。
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深蒼。
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海の底のような色が、
空間全体へ滲んでいる。
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■レイジ
「……何だ、ここ」
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■通信回線
ノイズ。
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だが途切れない。
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むしろ逆だった。
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何かが、
無理やりこちらへ繋ぎ止めている。
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そんな感覚だけが残る。
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■アムロ・レイ(通信)
「視界に引っ張られるな」
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静かな声。
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■アムロ
「認識を固定しろ」
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■レイジ
深く息を吸う。
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だが、
空間は一定ではない。
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遠くに見えていた光が、
次の瞬間には真横へ現れる。
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後方だったはずの残光が、
コクピット前面を横切る。
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■レイジ
「距離が……」
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喉が乾く。
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■レイジ
「おかしい……」
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■シャア・アズナブル(通信)
短く笑う声。
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■シャア
「距離ではない」
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一拍。
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■シャア
「位相だ」
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■空間
深蒼が揺れる。
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海のようだった。
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波は存在しない。
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だが確かに、
“潮流”だけがある。
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その奥。
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何かが脈動していた。
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■レイジ
視線を向ける。
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見えた瞬間。
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背筋が凍る。
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■レイジ
「いる……!」
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■モニター
輪郭が定まらない。
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人影。
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艦影。
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残骸。
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その全てに見えて、
そのどれでもない。
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“存在だけ”が、
そこにあった。
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■アムロ
静かに呟く。
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■アムロ
「レヴナント……」
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■通信ノイズ
一瞬だけ、
反転する。
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その瞬間。
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“向こう側”から、
視線が返る。
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■レイジ
呼吸が止まる。
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■レイジ
「見られてる……!」
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■シャア
視線を動かさない。
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■シャア
「違うな」
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静かな声。
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■シャア
「測られている」
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■空間
深蒼の海が揺れる。
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その揺れに呼応するように、
フィロメラの白い装甲奥で、
赤い燐光が脈動する。
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装甲表面を、
微かな振動が走る。
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機械振動ではない。
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もっと、
呼吸に近い。
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■システム
『同期圧上昇』
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■システム
『境界固定率、低下』
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■レイジ
「固定率……?」
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■アムロ
短く答える。
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■アムロ
「こっち側が薄くなってる」
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■シャア
低く言う。
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■シャア
「向こうが近づいているんだ」
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■深蒼領域
奥底。
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赤い光が灯る。
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一つ。
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また一つ。
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さらに。
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無数。
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■レイジ
声を失う。
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喉だけが震える。
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■レイジ
「……嘘だろ」
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■アムロ
静かに前を見る。
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■アムロ
「始まる」
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■シャア
わずかに笑う。
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■シャア
「いや」
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一拍。
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■シャア
「もう始まっている」
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■深蒼の海
無数の赤い光群が、
ゆっくりとこちらへ向きを変える。
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空間そのものが、
呼吸を始める。
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誰もまだ、
その正体を知らない。
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だが全員が理解していた。
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これは、
戦争ではない。