機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

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■第1巻 第8章 「自問」

海は荒れていた。

 

 

波が高いわけではない。

 

 

嵐でもない。

 

 

だが。

 

 

海そのものが、

落ち着きを失っていた。

 

 

白い飛沫が舞う。

 

 

その中心。

 

 

フィロメラガンダムが、

静かに海上を見据えている。

 

 

白い装甲。

 

 

胸部では、

赤いサイコフレームが脈動していた。

 

 

鼓動のように。

 

 

まるで。

 

 

生きているみたいに。

 

 

 

■コックピット

 

 

セイラは荒い呼吸を整えていた。

 

 

操縦桿を握る両手が、

微かに震えている。

 

 

怖かった。

 

 

敵が。

 

 

戦場が。

 

 

ではない。

 

 

自分自身が。

 

 

何故。

 

 

乗ったのだろう。

 

 

何故。

 

 

今も操縦桿を握っているのだろう。

 

 

使わずに済めば良かった。

 

 

本当に。

 

 

そのために、

アマテラスを作った。

 

 

そのために、

ノアズアークを準備した。

 

 

そのために、

戦場から離れて生きてきた。

 

 

なのに。

 

 

気付けば、

再びコックピットに座っている。

 

 

セイラは目を閉じる。

 

 

答えは出ない。

 

 

ただ。

 

 

目の前の現実だけが存在していた。

 

 

警報。

 

 

『敵機接近』

 

 

『迎撃距離到達』

 

 

 

敵影接近。

 

 

黒い特殊部隊MS。

 

 

四機。

 

 

隊列を維持したまま、

海上を滑るように迫ってくる。

 

 

『対象確認』

 

 

『フィロメラ回収を優先』

 

 

無機質な通信。

 

 

セイラは眉をひそめる。

 

 

回収。

 

 

その言葉だけが、

妙に胸へ引っ掛かった。

 

 

何故。

 

 

この機体を。

 

 

何故。

 

 

今なのか。

 

 

問いは尽きない。

 

 

だが。

 

 

考える時間は与えられなかった。

 

 

敵機が発砲する。

 

 

ビーム。

 

 

ミサイル。

 

 

連続攻撃。

 

 

セイラが反応するより早く、

フィロメラが動いた。

 

 

白い機体が横へ流れる。

 

 

回避。

 

 

続く連続の射撃。

 

 

全て外れる。

 

 

セイラの目が見開かれる。

 

 

自分で避けた。

 

 

確かに。

 

 

だが。

 

 

あまりにも自然だった。

 

 

まるで。

 

 

機体の方が先に知っていたように。

 

 

『何だあの反応は!?』

 

 

敵通信。

 

 

動揺が混じる。

 

 

フィロメラが前へ出る。

 

 

白い残光。

 

 

距離が消える。

 

 

次の瞬間。

 

 

敵機の側面へ回り込んでいた。

 

 

セイラ自身が驚く。

 

 

速い。

 

 

速過ぎる。

 

 

こんな機体ではなかったはずだ。

 

 

拳が振り上がる。

 

 

敵コックピットへ向かう。

 

 

あと僅か。

 

 

その瞬間。

 

 

止まる。

 

 

フィロメラの拳が。

 

 

敵機寸前で。

 

 

沈黙。

 

 

敵も動かない。

 

 

セイラも動けない。

 

 

殺せない。

 

 

違う。

 

 

そうではない。

 

 

何故、

こんな事になっているのか。

 

 

それが分からなかった。

 

 

敵パイロットの荒い呼吸が聞こえる。

 

 

セイラの呼吸も乱れていた。

 

 

その時。

 

 

海が揺れた。

 

 

小さく。

 

 

だが確かに。

 

 

全てのモニターへ、

異常警告が走る。

 

 

『高エネルギー反応!』

 

 

『発生源不明!』

 

 

『海上対象反応増大!』

 

 

セイラが顔を上げる。

 

 

海の向こう。

 

 

黒い艦。

 

 

その輪郭が、

一瞬だけ歪んで見えた。

 

 

敵部隊にも動揺が走る。

 

 

『何だこれは!?』

 

 

『聞いていないぞ!』

 

 

『隊長!!』

 

 

通信が乱れる。

 

 

やがて。

 

 

敵隊長の声。

 

 

『全機後退』

 

 

一拍。

 

 

『回収作戦を中止する』

 

 

敵機群が離脱を始める。

 

 

セイラは追わない。

 

 

追う気になれなかった。

 

 

視線は。

 

 

ただ一つ。

 

 

海の向こうへ向いていた。

 

 

黒い艦。

 

 

見ているだけで、

胸の奥がざわつく。

 

 

敵なのか。

 

 

味方なのか。

 

 

それすら分からない。

 

 

ただ。

 

 

あれを見た瞬間。

 

 

フィロメラが応えた。

 

 

それだけは確かだった。

 

 

フィロメラ胸部で、

サイコフレームが脈動する。

 

 

一度。

 

 

二度。

 

 

三度。

 

 

まるで。

 

 

何かへ応えるように。

 

 

セイラは小さく呟く。

 

 

「……何なの」

 

 

答えはない。

 

 

ただ。

 

 

海鳴りだけが、

静かに響いていた。

 

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