機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

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■第2巻 第2章 「赤い海」

 

朝だった。

 

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海沿いの街は、

いつもと変わらない。

 

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人が歩く。

 

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車が走る。

 

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店も開いている。

 

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それなのに。

 

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何かがおかしい。

 

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誰も口にはしない。

 

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だが。

 

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街全体が、

息を潜めているようだった。

 

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■海岸線

 

レイジは海を見ていた。

 

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昨夜から眠れていない。

 

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目を閉じるたびに、

知らない景色が流れ込んでくる。

 

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白い光。

 

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赤い光。

 

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宇宙。

 

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そして。

 

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誰かを守ろうとする強い感情。

 

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理由は分からない。

 

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だが。

 

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胸だけが痛む。

 

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「……なんなんだよ」

 

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呟く。

 

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返事はない。

 

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その時だった。

 

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海が揺れた。

 

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波じゃない。

 

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もっと深い場所。

 

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海そのものが、

呼吸したみたいだった。

 

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レイジは顔を上げる。

 

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海が赤い。

 

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夕焼けじゃない。

 

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海の奥で、

赤い光が脈打っている。

 

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まるで。

 

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心臓みたいに。

 

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「……は?」

 

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言葉が漏れる。

 

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そして。

 

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頭の奥へ、

知らない声が落ちてきた。

 

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『まだ終わっていない』

 

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レイジの背筋が凍る。

 

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振り返る。

 

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誰もいない。

 

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だが。

 

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確かに聞こえた。

 

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海の向こう。

 

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空が揺れている。

 

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雲じゃない。

 

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光でもない。

 

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世界のどこかが、

軋んでいる。

 

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そんな違和感だった。

 

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■アマテラス艦橋

 

静かな緊張があった。

 

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誰も騒がない。

 

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だが誰も、

平常だとは思っていない。

 

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ミライは海を見つめていた。

 

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赤い海。

 

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揺れる空。

 

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長い人生だった。

 

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戦争も見た。

 

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別れも見た。

 

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帰れなくなった人達も見た。

 

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だから分かる。

 

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これは始まりだ。

 

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良いものか。

 

悪いものか。

 

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まだ分からない。

 

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それでも。

 

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何かが始まった。

 

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それだけは確かだった。

 

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「……始まったわね」

 

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誰に言うでもなく。

 

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その言葉だけが落ちる。

 

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■セラーナ

 

海を見る。

 

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その目は遠い。

 

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ずっと遠く。

 

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まだ誰も見ていない場所を見ている。

 

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「来てる……」

 

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小さな声。

 

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だが。

 

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その言葉だけで、

空気が少し重くなる。

 

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■アマテラス格納庫

 

静寂。

 

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白い機体が眠っている。

 

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フィロメラ。

 

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誰も近付かない。

 

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誰も触れない。

 

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それでも。

 

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機体の奥で。

 

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赤い光が脈打つ。

 

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一度。

 

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また一度。

 

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まるで。

 

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遠くの誰かへ応えるように。

 

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整備員が息を呑む。

 

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「また……」

 

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誰も答えない。

 

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フィロメラは沈黙している。

 

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だが。

 

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その沈黙は。

 

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待っている者の沈黙だった。

 

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遠く。

 

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海が赤く脈動する。

 

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まるで。

 

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何かを迎えるように。

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そして。

 

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まだ名前も知らない誰かを。

 

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ずっと待ち続けていたように。

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誰もその意味を知らないまま。

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