朝だった。
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海沿いの街は、
いつもと変わらない。
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人が歩く。
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車が走る。
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店も開いている。
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それなのに。
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何かがおかしい。
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誰も口にはしない。
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だが。
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街全体が、
息を潜めているようだった。
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■海岸線
レイジは海を見ていた。
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昨夜から眠れていない。
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目を閉じるたびに、
知らない景色が流れ込んでくる。
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白い光。
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赤い光。
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宇宙。
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そして。
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誰かを守ろうとする強い感情。
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理由は分からない。
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だが。
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胸だけが痛む。
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「……なんなんだよ」
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呟く。
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返事はない。
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その時だった。
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海が揺れた。
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波じゃない。
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もっと深い場所。
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海そのものが、
呼吸したみたいだった。
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レイジは顔を上げる。
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海が赤い。
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夕焼けじゃない。
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海の奥で、
赤い光が脈打っている。
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まるで。
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心臓みたいに。
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「……は?」
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言葉が漏れる。
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そして。
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頭の奥へ、
知らない声が落ちてきた。
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『まだ終わっていない』
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レイジの背筋が凍る。
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振り返る。
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誰もいない。
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だが。
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確かに聞こえた。
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海の向こう。
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空が揺れている。
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雲じゃない。
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光でもない。
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世界のどこかが、
軋んでいる。
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そんな違和感だった。
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■アマテラス艦橋
静かな緊張があった。
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誰も騒がない。
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だが誰も、
平常だとは思っていない。
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ミライは海を見つめていた。
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赤い海。
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揺れる空。
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長い人生だった。
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戦争も見た。
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別れも見た。
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帰れなくなった人達も見た。
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だから分かる。
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これは始まりだ。
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良いものか。
悪いものか。
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まだ分からない。
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それでも。
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何かが始まった。
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それだけは確かだった。
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「……始まったわね」
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誰に言うでもなく。
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その言葉だけが落ちる。
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■セラーナ
海を見る。
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その目は遠い。
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ずっと遠く。
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まだ誰も見ていない場所を見ている。
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「来てる……」
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小さな声。
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だが。
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その言葉だけで、
空気が少し重くなる。
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■アマテラス格納庫
静寂。
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白い機体が眠っている。
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フィロメラ。
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誰も近付かない。
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誰も触れない。
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それでも。
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機体の奥で。
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赤い光が脈打つ。
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一度。
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また一度。
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まるで。
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遠くの誰かへ応えるように。
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整備員が息を呑む。
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「また……」
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誰も答えない。
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フィロメラは沈黙している。
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だが。
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その沈黙は。
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待っている者の沈黙だった。
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遠く。
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海が赤く脈動する。
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まるで。
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何かを迎えるように。
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そして。
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まだ名前も知らない誰かを。
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ずっと待ち続けていたように。
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誰もその意味を知らないまま。