■アマテラス艦橋
海が赤い。
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数時間前なら、
誰も信じなかっただろう。
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だが今は違う。
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現実だった。
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誰も理由を説明できない。
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それでも。
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海は確かに赤く脈打っている。
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ミライは黙ったまま、
モニターを見つめていた。
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長い人生だった。
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戦争も見た。
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平和も見た。
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だが。
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こんな静かな恐怖は知らない。
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オペレーターの声が響く。
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『海岸線付近に反応』
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『接近中です』
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艦橋に緊張が走る。
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ミライは小さく息を吐いた。
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「MS隊」
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一拍。
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「出てちょうだい」
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それは命令というより。
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願いに近かった。
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■アマテラスMSデッキ
格納庫が開く。
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ジェガン隊が並ぶ。
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新しい機体じゃない。
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若い兵士達でもない。
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それでも。
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誰も後ろを向かない。
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ベテランの一人が笑う。
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「戦争なら楽なんだがな」
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誰も返事をしない。
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皆。
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同じ事を思っていたからだ。
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戦争なら。
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敵がいる。
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守る場所もある。
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勝ち負けもある。
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だが今は違う。
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何と戦えばいいのか。
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誰にも分からない。
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それでも。
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守りたいものだけは分かる。
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だから飛ぶ。
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ジェガンが夜空へ飛び出した。
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続いて二機。
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三機。
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白い光が、
赤い海へ溶けていく。
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■海岸線
黒い影が動いている。
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人はそれをザクと呼ぶ。
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だが。
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本当にそうなのか。
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誰にも分からない。
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輪郭はザクだった。
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歩き方も。
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影も。
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だが。
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どこか違う。
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まるで。
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記憶だけで作られた何か。
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そんな異物感があった。
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■レイジ
窓の外を見る。
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遠くで光が瞬く。
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戦闘。
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そう呼ぶには、
どこか現実感がない。
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頭が痛い。
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最近ずっとだ。
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海を見る度。
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知らない景色が流れ込んでくる。
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白い光。
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宇宙。
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そして。
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誰かを守ろうとする強い意志。
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「……なんなんだよ」
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額を押さえる。
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呼吸が乱れる。
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だが。
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痛みの奥にある感情だけは、
少しずつ分かり始めていた。
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怖いのだ。
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誰かを失う事が。
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理由も知らないまま。
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その感情だけが、
胸の奥へ残る。
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■アマテラス格納庫最深部
静寂。
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白い機体が眠っている。
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フィロメラ。
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誰も近付かない。
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誰も声を掛けない。
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それでも。
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そこには確かな存在感があった。
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兵器じゃない。
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偶像でもない。
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もっと別の何か。
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機体の奥で。
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微かな光が脈打つ。
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一度。
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また一度。
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まるで。
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誰かを待っているように。
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ずっと昔から。
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その時を知っていたように。
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ゆっくりと。
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コクピットハッチが開く。
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中には誰もいない。
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だが。
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空でもなかった。
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そこには。
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言葉にならない願いだけがあった。
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帰って来てほしい。
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来てほしい。
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待っている。
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そんな感覚だけが。
静かに残っている。
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■レイジ
胸がざわつく。
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理由は分からない。
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だが。
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分かってしまう。
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あの白い機体は。
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自分を待っている。
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「……お前」
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小さく呟く。
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「何なんだよ」
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答えはない。
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ただ。
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赤い海の向こうで。
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白いガンダムだけが。
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静かに。
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待ち続けていた。