機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

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■第2巻 第3章 「アマテラス」

■アマテラス艦橋

 

海が赤い。

 

 

数時間前なら、

誰も信じなかっただろう。

 

 

だが今は違う。

 

 

現実だった。

 

 

誰も理由を説明できない。

 

 

それでも。

 

 

海は確かに赤く脈打っている。

 

 

ミライは黙ったまま、

モニターを見つめていた。

 

 

長い人生だった。

 

 

戦争も見た。

 

 

平和も見た。

 

 

だが。

 

 

こんな静かな恐怖は知らない。

 

 

 

オペレーターの声が響く。

 

 

『海岸線付近に反応』

 

 

『接近中です』

 

 

艦橋に緊張が走る。

 

 

ミライは小さく息を吐いた。

 

 

「MS隊」

 

 

一拍。

 

 

「出てちょうだい」

 

 

それは命令というより。

 

 

願いに近かった。

 

 

 

■アマテラスMSデッキ

 

格納庫が開く。

 

 

ジェガン隊が並ぶ。

 

 

新しい機体じゃない。

 

 

若い兵士達でもない。

 

 

それでも。

 

 

誰も後ろを向かない。

 

 

ベテランの一人が笑う。

 

 

「戦争なら楽なんだがな」

 

 

誰も返事をしない。

 

 

皆。

 

 

同じ事を思っていたからだ。

 

 

戦争なら。

 

 

敵がいる。

 

 

守る場所もある。

 

 

勝ち負けもある。

 

 

だが今は違う。

 

 

何と戦えばいいのか。

 

 

誰にも分からない。

 

 

 

それでも。

 

 

守りたいものだけは分かる。

 

 

だから飛ぶ。

 

 

ジェガンが夜空へ飛び出した。

 

 

続いて二機。

 

 

三機。

 

 

白い光が、

赤い海へ溶けていく。

 

 

 

■海岸線

 

黒い影が動いている。

 

 

人はそれをザクと呼ぶ。

 

 

だが。

 

 

本当にそうなのか。

 

 

誰にも分からない。

 

 

輪郭はザクだった。

 

 

歩き方も。

 

 

影も。

 

 

だが。

 

 

どこか違う。

 

 

まるで。

 

 

記憶だけで作られた何か。

 

 

そんな異物感があった。

 

 

 

■レイジ

 

窓の外を見る。

 

 

遠くで光が瞬く。

 

 

戦闘。

 

 

そう呼ぶには、

どこか現実感がない。

 

 

頭が痛い。

 

 

最近ずっとだ。

 

 

海を見る度。

 

 

知らない景色が流れ込んでくる。

 

 

白い光。

 

 

宇宙。

 

 

そして。

 

 

誰かを守ろうとする強い意志。

 

 

 

「……なんなんだよ」

 

 

額を押さえる。

 

 

呼吸が乱れる。

 

 

だが。

 

 

痛みの奥にある感情だけは、

少しずつ分かり始めていた。

 

 

怖いのだ。

 

 

誰かを失う事が。

 

 

理由も知らないまま。

 

 

その感情だけが、

胸の奥へ残る。

 

 

 

■アマテラス格納庫最深部

 

静寂。

 

 

白い機体が眠っている。

 

 

フィロメラ。

 

 

誰も近付かない。

 

 

誰も声を掛けない。

 

 

それでも。

 

 

そこには確かな存在感があった。

 

 

兵器じゃない。

 

 

偶像でもない。

 

 

もっと別の何か。

 

 

 

機体の奥で。

 

 

微かな光が脈打つ。

 

 

一度。

 

 

また一度。

 

 

 

まるで。

 

 

誰かを待っているように。

 

 

ずっと昔から。

 

 

その時を知っていたように。

 

 

 

ゆっくりと。

 

 

コクピットハッチが開く。

 

 

中には誰もいない。

 

 

だが。

 

 

空でもなかった。

 

 

 

そこには。

 

 

言葉にならない願いだけがあった。

 

 

帰って来てほしい。

 

 

来てほしい。

 

 

待っている。

 

 

そんな感覚だけが。

 

静かに残っている。

 

 

 

■レイジ

 

胸がざわつく。

 

 

理由は分からない。

 

 

だが。

 

 

分かってしまう。

 

 

あの白い機体は。

 

 

自分を待っている。

 

 

 

「……お前」

 

 

小さく呟く。

 

 

「何なんだよ」

 

 

答えはない。

 

 

ただ。

 

 

赤い海の向こうで。

 

 

白いガンダムだけが。

 

 

静かに。

 

 

待ち続けていた。

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