夜の海岸は、
もう“戦場”ではなかった。
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もっと別の何かへ、
変わり始めていた。
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砂は焼け。
潮の匂いは消え。
代わりに、
金属と爆煙の臭いが満ちている。
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波音だけが遠い。
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まるで海そのものが、
この場所を拒絶しているようだった。
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■海岸線
白い機体が立っている。
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フィロメラ。
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赤いサイコフレームが、
装甲の奥で脈動していた。
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鼓動。
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そう表現するしかない。
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機械の発光ではない。
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生きている。
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そんな錯覚だけが、
周囲の空気へ染み込んでいた。
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レイジは、
その前に立っていた。
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開かれたコクピット。
空席。
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だが。
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そこに誰かがいる、
とは思わない。
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ただ。
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何かが待っている。
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そんな感覚だけが残る。
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「……俺を呼んでるのか」
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答えはない。
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だが、
拒絶もなかった。
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その時。
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後方で爆発が起きる。
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ザクがまだ前進していた。
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ジェガン隊が応戦する。
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だが。
戦線は押し込まれ始めている。
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爆炎の向こうで、
避難車両が横転する。
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「くそっ……!」
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レイジの視線が揺れる。
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助けに行くべき場所。
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目の前の場所。
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その両方が、
同時に存在していた。
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■ベルトーチカ
「乗ったら」
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静かな声だった。
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「もう戻れないわよ」
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レイジは振り返らない。
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ベルトーチカも、
それ以上は近づかなかった。
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近づけば。
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届かなくなる気がした。
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「それはモビルスーツじゃない」
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「あなたの人生を巻き込む、
何かよ」
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レイジは苦く笑う。
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「……最初からさ」
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小さく呟く。
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「選べるような人生じゃ
なかったんだよ」
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短い沈黙。
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ベルトーチカの目が揺れる。
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「あなたはアムロじゃない」
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震える声。
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「だから」
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「アムロにならなくていい」
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レイジは答えない。
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答えられなかった。
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その瞬間。
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フィロメラのサイコフレームが、
一段深く赤く光る。
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空気が変わる。
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海が静止する。
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波が止まり。
雨音だけが、
遅れて聞こえる。
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世界の位相が揺れる。
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レイジの視界が白く染まった。
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宇宙。
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光。
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質量。
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押し返す腕。
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叫び。
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『行けぇぇぇ!!』
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レイジは膝をつきかける。
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だが。
倒れない。
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「……やめろ」
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息が乱れる。
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「俺の中に入ってくんな……!」
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その叫びと同時に。
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海が裂けた。
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深海の奥から、
巨大な反応が浮上する。
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黒い巨影。
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ジオン系MSのシルエット。
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だが。
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正しくない。
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輪郭が崩れている。
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装甲の一部が、
ノイズのように欠落していた。
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存在そのものが揺れている。
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■アマテラス艦橋
警報が跳ね上がる。
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『レヴナント反応急速増大!』
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『存在座標固定不能!』
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『観測値、維持できません!』
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オペレーター達の声が飛ぶ。
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セラーナが低く呟く。
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「記憶が……形になってる」
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ミライは海を見る。
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黒い巨影。
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赤い脈動。
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そして。
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白いフィロメラ。
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全てが。
十九年前の続きを始めていた。
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■海岸線
レイジは、
その巨影を見た瞬間に理解する。
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敵じゃない。
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現象だ。
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戦争そのものが。
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形を持ってしまった。
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そんな存在。
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そして。
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巨影の砲口が、
海岸線へ向く。
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避難している人々。
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崩れた道路。
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ジェガン部隊。
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全部まとめて、
消し飛ばせる角度。
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ベルトーチカが息を呑む。
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「……レイジ!!」
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その声と同時に。
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レイジは走っていた。
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迷いはない。
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正義感でもない。
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使命感でもない。
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ただ。
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見ていられなかった。
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それだけだった。
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フィロメラへ向かう。
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背後から声が追う。
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「戻りなさい!!」
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レイジは一瞬だけ止まる。
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振り返らない。
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ただ小さく言う。
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「……もう選んでるよ」
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コクピットへ飛び込む。
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その瞬間。
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世界が揺れた。
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光。
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記憶。
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感情。
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無数の残響が流れ込む。
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白いガンダム。
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戦場。
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宇宙。
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アクシズ。
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そして。
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ひとつの後ろ姿。
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レイジは息を止める。
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「……親父」
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モニターが起動する。
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『認証開始』
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『サイコフレーム同期』
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ノイズ。
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無数の記録。
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無数の声。
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誰かの名前が、
浮かびかける。
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だが。
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定着しない。
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消えていく。
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フィロメラは、
名前を呼ばない。
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ただ。
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レイジを見ていた。
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レイジの目が揺れる。
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見られている。
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そんな感覚だけが残る。
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だが。
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何を見られているのかは、
分からない。
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■アマテラス艦橋
ミライが小さく呟く。
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「……始まったわね」
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その声に歓喜はない。
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祈りでもない。
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ただ。
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覚悟だけがあった。
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ベルトーチカは、
静かに目を閉じる。
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「やっぱり……」
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続きは、
言葉にならなかった。
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■海岸線
フィロメラが立ち上がる。
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白い巨人。
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赤い残響。
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動きはぎこちない。
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初めて歩くみたいに。
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レイジの呼吸と。
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フィロメラの鼓動が。
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まだ完全には揃わない。
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それでも。
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少しずつ重なり始めていた。
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白い機体が、
海岸の戦場へ一歩踏み出す。
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その瞬間。
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海が鳴った。
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低く。
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深く。
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そして。
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どこかで。
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誰かが、
振り返った気がした。