世界が赤く染まっていた。
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光ではない。
警告でもない。
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もっと曖昧なもの。
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意識の奥へ染み込んでくる、
何かだった。
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■フィロメラ コクピット
レイジは息を荒げていた。
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警告灯が点滅している。
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だが。
それが何を意味しているのか、
理解できない。
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いや。
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理解する前に、
別の情報が流れ込んでくる。
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機体姿勢。
推進状態。
周辺座標。
武装配置。
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そして。
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感情。
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「なんだよ……」
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声が震える。
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「なんなんだよ、これ……」
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フィロメラは機械じゃない。
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少なくとも。
レイジが知っている機械ではなかった。
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理解する前に伝わる。
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考える前に感じる。
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そんな異常さだけがあった。
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モニターへ表示が流れる。
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『同期率上昇』
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『サイコフレーム安定領域接近』
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文字は読める。
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だが。
意味が頭へ入らない。
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その瞬間。
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視界の奥で光が弾ける。
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宇宙。
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爆光。
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叫び。
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知らない誰かの悲しみ。
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知らない誰かの後悔。
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そして。
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守りたい。
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ただそれだけの感情。
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純粋すぎる願い。
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強すぎる祈り。
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レイジは頭を押さえた。
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「やめろ……!」
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息が乱れる。
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「俺じゃない……!」
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胸の奥が軋む。
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その感情を知っている気がした。
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だが。
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自分のものじゃない。
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そのはずだった。
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■アマテラス艦橋
『サイコフレーム出力上昇!』
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『搭乗者精神波形不安定!』
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オペレーター達の声が飛ぶ。
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ミライはモニターを見つめていた。
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「切り離さないで」
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静かな声だった。
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だが。
誰も逆らえない。
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「まだ帰れる」
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一拍。
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「まだ帰って来られる側にいる」
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その言葉は命令ではない。
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祈りだった。
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■海岸線
黒い巨影が動く。
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砲口が持ち上がる。
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避難民。
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ジェガン隊。
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崩れた道路。
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全てを飲み込める角度。
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レイジの呼吸が止まる。
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考える。
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怖い。
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降りたい。
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逃げたい。
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それでも。
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目の前の人達は逃げられない。
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その瞬間。
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フィロメラが動いた。
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レイジの意思より先に。
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白い機体が戦場を駆ける。
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加速ではない。
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跳躍でもない。
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まるで。
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そこから外れた。
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そう見えた。
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景色だけが遅れる。
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世界だけが置いていかれる。
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次の瞬間。
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フィロメラは砲撃軸上に立っていた。
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レイジは息を呑む。
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「……今の」
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喉が震える。
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「今の、俺じゃない」
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恐怖だった。
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自分より正しい動きをされる恐怖。
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自分が必要なくなる恐怖。
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フィロメラは何も答えない。
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ただ。
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静かに立っている。
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レイジの呼吸を待つように。
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■レイジ
鼓動が聞こえる。
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自分のものか。
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フィロメラのものか。
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分からない。
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だが。
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少しだけ。
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重なり始めていた。
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怖さは消えない。
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理解もできない。
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それでも。
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逃げる理由より。
守りたい理由の方が。
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少しだけ大きかった。
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レイジは操縦桿を握る。
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震える手で。
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ぎこちなく。
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それでも。
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自分の意思で。
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フィロメラが前へ出る。
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海が鳴った。
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低く。
深く。
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まるで。
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二つの呼吸が、
初めて重なったように。