機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

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■第2巻 第6章 「フィロメラ起動」

世界が赤く染まっていた。

 

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光ではない。

 

警告でもない。

 

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もっと曖昧なもの。

 

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意識の奥へ染み込んでくる、

何かだった。

 

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■フィロメラ コクピット

 

レイジは息を荒げていた。

 

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警告灯が点滅している。

 

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だが。

 

それが何を意味しているのか、

理解できない。

 

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いや。

 

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理解する前に、

別の情報が流れ込んでくる。

 

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機体姿勢。

 

推進状態。

 

周辺座標。

 

武装配置。

 

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そして。

 

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感情。

 

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「なんだよ……」

 

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声が震える。

 

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「なんなんだよ、これ……」

 

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フィロメラは機械じゃない。

 

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少なくとも。

 

レイジが知っている機械ではなかった。

 

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理解する前に伝わる。

 

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考える前に感じる。

 

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そんな異常さだけがあった。

 

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モニターへ表示が流れる。

 

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『同期率上昇』

 

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『サイコフレーム安定領域接近』

 

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文字は読める。

 

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だが。

 

意味が頭へ入らない。

 

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その瞬間。

 

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視界の奥で光が弾ける。

 

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宇宙。

 

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爆光。

 

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叫び。

 

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知らない誰かの悲しみ。

 

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知らない誰かの後悔。

 

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そして。

 

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守りたい。

 

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ただそれだけの感情。

 

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純粋すぎる願い。

 

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強すぎる祈り。

 

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レイジは頭を押さえた。

 

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「やめろ……!」

 

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息が乱れる。

 

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「俺じゃない……!」

 

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胸の奥が軋む。

 

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その感情を知っている気がした。

 

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だが。

 

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自分のものじゃない。

 

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そのはずだった。

 

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■アマテラス艦橋

 

『サイコフレーム出力上昇!』

 

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『搭乗者精神波形不安定!』

 

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オペレーター達の声が飛ぶ。

 

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ミライはモニターを見つめていた。

 

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「切り離さないで」

 

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静かな声だった。

 

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だが。

 

誰も逆らえない。

 

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「まだ帰れる」

 

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一拍。

 

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「まだ帰って来られる側にいる」

 

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その言葉は命令ではない。

 

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祈りだった。

 

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■海岸線

 

黒い巨影が動く。

 

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砲口が持ち上がる。

 

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避難民。

 

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ジェガン隊。

 

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崩れた道路。

 

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全てを飲み込める角度。

 

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レイジの呼吸が止まる。

 

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考える。

 

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怖い。

 

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降りたい。

 

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逃げたい。

 

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それでも。

 

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目の前の人達は逃げられない。

 

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その瞬間。

 

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フィロメラが動いた。

 

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レイジの意思より先に。

 

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白い機体が戦場を駆ける。

 

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加速ではない。

 

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跳躍でもない。

 

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まるで。

 

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そこから外れた。

 

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そう見えた。

 

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景色だけが遅れる。

 

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世界だけが置いていかれる。

 

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次の瞬間。

 

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フィロメラは砲撃軸上に立っていた。

 

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レイジは息を呑む。

 

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「……今の」

 

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喉が震える。

 

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「今の、俺じゃない」

 

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恐怖だった。

 

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自分より正しい動きをされる恐怖。

 

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自分が必要なくなる恐怖。

 

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フィロメラは何も答えない。

 

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ただ。

 

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静かに立っている。

 

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レイジの呼吸を待つように。

 

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■レイジ

 

鼓動が聞こえる。

 

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自分のものか。

 

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フィロメラのものか。

 

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分からない。

 

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だが。

 

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少しだけ。

 

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重なり始めていた。

 

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怖さは消えない。

 

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理解もできない。

 

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それでも。

 

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逃げる理由より。

 

守りたい理由の方が。

 

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少しだけ大きかった。

 

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レイジは操縦桿を握る。

 

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震える手で。

 

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ぎこちなく。

 

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それでも。

 

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自分の意思で。

 

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フィロメラが前へ出る。

 

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海が鳴った。

 

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低く。

 

深く。

 

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まるで。

 

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二つの呼吸が、

初めて重なったように。

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