機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

29 / 29
■第2巻 第7章 「観測ノイズ」

海は静かだった。

 

 

さっきまでの戦闘が、

嘘みたいに。

 

 

波が寄せる。

 

 

風が吹く。

 

 

焦げた匂いだけが、

現実として残っていた。

 

 

 

■海岸線

 

避難誘導が続いている。

 

 

消防車。

 

救急車。

 

連邦軍。

 

 

誰もが慌ただしく動いている。

 

 

それなのに。

 

 

レイジだけが、

その流れから取り残されていた。

 

 

フィロメラの足元へ座り込む。

 

 

疲れていた。

 

 

身体じゃない。

 

 

もっと奥。

 

 

何かが擦り減っている。

 

 

「……終わったんじゃ

ねぇのかよ」

 

 

小さく呟く。

 

 

返事はない。

 

 

波音だけが続く。

 

 

それで良かった。

 

 

今は、

誰の声も聞きたくなかった。

 

 

 

■フィロメラ

 

白い機体は動かない。

 

 

赤かったサイコフレームも、

今は穏やかだった。

 

 

まるで何事もなかったみたいに。

 

 

ただ。

 

 

完全な沈黙ではない。

 

 

時折。

 

 

本当に時折だけ。

 

 

微かな脈動が走る。

 

 

レイジはそれを見つめる。

 

 

「お前も疲れんのかよ」

 

 

苦笑する。

 

 

もちろん返事はない。

 

 

だが。

 

 

少しだけ気持ちが楽になる。

 

 

 

■アマテラス艦橋

 

艦内は慌ただしかった。

 

 

被害確認。

 

 

救助活動。

 

 

戦闘記録整理。

 

 

誰も休んでいない。

 

 

その中で。

 

 

ミライだけが、

海を見ていた。

 

 

モニターではない。

 

 

窓の向こう。

 

 

本物の海。

 

 

「妙ね……」

 

 

小さく呟く。

 

 

セラーナが振り向く。

 

 

「何が?」

 

 

ミライは少し考える。

 

 

説明できない。

 

 

だから。

 

 

「静かすぎるの」

 

 

それだけ言った。

 

 

セラーナは答えない。

 

 

ただ。

 

 

同じ海を見る。

 

 

 

■海岸線

 

レイジが立ち上がる。

 

 

帰ろうと思った。

 

 

母が待っている。

 

 

ベルトーチカが。

 

 

その時だった。

 

 

違和感。

 

 

レイジが足を止める。

 

 

風景は変わらない。

 

 

波も。

 

空も。

 

人も。

 

 

何も変わらない。

 

 

それなのに。

 

 

何かが違う。

 

 

「……なんだ?」

 

 

振り返る。

 

 

誰もいない。

 

 

 

だが。

 

 

見られている。

 

 

そんな感覚だけが残る。

 

 

背中。

 

 

首筋。

 

 

呼吸の隙間。

 

 

どこかに。

 

 

確かに。

 

 

レイジは周囲を見回す。

 

 

誰もいない。

 

 

それでも。

 

 

消えない。

 

 

 

■アマテラス艦橋

 

警報が鳴る。

 

 

一瞬だけ。

 

 

本当に一瞬。

 

 

そして止まる。

 

 

オペレーターが首を傾げる。

 

 

「……誤作動?」

 

 

記録を確認する。

 

 

何も残っていない。

 

 

異常なし。

 

 

だが。

 

 

艦橋の空気だけが、

妙に重かった。

 

 

 

■セラーナ

 

窓の外を見る。

 

 

海がある。

 

 

静かな海。

 

 

けれど。

 

 

本当に静かなのだろうか。

 

 

そう思った瞬間。

 

 

胸の奥が小さく揺れた。

 

 

「……近い」

 

 

誰にも聞こえない声。

 

 

それ以上は言わない。

 

 

言葉にすると、

何かが形になってしまう気がした。

 

 

 

■海岸線

 

レイジはまだ立っていた。

 

 

帰るはずだった。

 

 

なのに。

 

 

足が動かない。

 

 

見られている。

 

 

その感覚だけが離れない。

 

 

やがて。

 

 

海風が吹く。

 

 

その瞬間。

 

 

誰かが、

すぐ後ろで息をした気がした。

 

 

レイジが振り返る。

 

 

誰もいない。

 

 

海だけがある。

 

 

静かな海。

 

 

それでも。

 

 

海はまだ鳴っていた。

 

 

低く。

 

 

深く。

 

 

まるで。

 

 

何かがこちらへ近づいているように。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

キラ・ヤマトになってしまった…(作者:星乃 望夢)(原作:機動戦士ガンダムSEED)

なお、准将みたいに頑張らないと世界が簡単に破滅しそうな戦略兵器がポコポコ簡単に撃たれるマッポーめいた終わらない明日へ目指して「それでもっ、守りたい世界があるんだぁぁぁ!!!!」しないとならない模様。▼将来別嬪なお姫さまが嫁になったり、カッコいいロボットに乗ってオレTUEEEEE!!!!出来るイケメン主人公ではあるが、絶対に転生したくない主人公の1人である。▼…


総合評価:22285/評価:8.49/連載:117話/更新日時:2026年06月19日(金) 18:00 小説情報

神様に「リリカルなのは『みたいな』世界に転生したい」って要望したら「幼女戦記」の世界に入った話。(作者:スレ主)(原作:幼女戦記)

「もし生まれ変わるなら、魔法少女リリカルなのは『みたいな』世界を! ついでにレイジングハート『みたいな』最高の相棒(AI)と、可愛い幼馴染もセットでお願いします!」▼死の間際、俺が神様に放った精一杯の強欲な願い。▼目覚めた俺の脳内(システム)に、聞き覚えのある凛とした声が響く。▼『……マスター。再起動を確認。……セットアップ、オールグリーン。……全力でサポー…


総合評価:26073/評価:8.67/連載:40話/更新日時:2026年06月11日(木) 14:06 小説情報

百式観音を背負いて。(作者:ルール)(原作:NARUTO)

▼ 憧れた姿を追い求め、▼ ただひたすら繰り返し、▼ オッサンはついにソレに辿り着く。▼ そんな狂気のオッサンが混じった忍者活劇。


総合評価:32593/評価:8.17/連載:94話/更新日時:2026年06月15日(月) 06:04 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>