機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

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■第2巻 第7章 「観測ノイズ」

海は静かだった。

 

 

さっきまでの戦闘が、

嘘みたいに。

 

 

波が寄せる。

 

 

風が吹く。

 

 

焦げた匂いだけが、

現実として残っていた。

 

 

 

■海岸線

 

避難誘導が続いている。

 

 

消防車。

 

救急車。

 

連邦軍。

 

 

誰もが慌ただしく動いている。

 

 

それなのに。

 

 

レイジだけが、

その流れから取り残されていた。

 

 

フィロメラの足元へ座り込む。

 

 

疲れていた。

 

 

身体じゃない。

 

 

もっと奥。

 

 

何かが擦り減っている。

 

 

「……終わったんじゃ

ねぇのかよ」

 

 

小さく呟く。

 

 

返事はない。

 

 

波音だけが続く。

 

 

それで良かった。

 

 

今は、

誰の声も聞きたくなかった。

 

 

 

■フィロメラ

 

白い機体は動かない。

 

 

赤かったサイコフレームも、

今は穏やかだった。

 

 

まるで何事もなかったみたいに。

 

 

ただ。

 

 

完全な沈黙ではない。

 

 

時折。

 

 

本当に時折だけ。

 

 

微かな脈動が走る。

 

 

レイジはそれを見つめる。

 

 

「お前も疲れんのかよ」

 

 

苦笑する。

 

 

もちろん返事はない。

 

 

だが。

 

 

少しだけ気持ちが楽になる。

 

 

 

■アマテラス艦橋

 

艦内は慌ただしかった。

 

 

被害確認。

 

 

救助活動。

 

 

戦闘記録整理。

 

 

誰も休んでいない。

 

 

その中で。

 

 

ミライだけが、

海を見ていた。

 

 

モニターではない。

 

 

窓の向こう。

 

 

本物の海。

 

 

「妙ね……」

 

 

小さく呟く。

 

 

セラーナが振り向く。

 

 

「何が?」

 

 

ミライは少し考える。

 

 

説明できない。

 

 

だから。

 

 

「静かすぎるの」

 

 

それだけ言った。

 

 

セラーナは答えない。

 

 

ただ。

 

 

同じ海を見る。

 

 

 

■海岸線

 

レイジが立ち上がる。

 

 

帰ろうと思った。

 

 

母が待っている。

 

 

ベルトーチカが。

 

 

その時だった。

 

 

違和感。

 

 

レイジが足を止める。

 

 

風景は変わらない。

 

 

波も。

 

空も。

 

人も。

 

 

何も変わらない。

 

 

それなのに。

 

 

何かが違う。

 

 

「……なんだ?」

 

 

振り返る。

 

 

誰もいない。

 

 

 

だが。

 

 

見られている。

 

 

そんな感覚だけが残る。

 

 

背中。

 

 

首筋。

 

 

呼吸の隙間。

 

 

どこかに。

 

 

確かに。

 

 

レイジは周囲を見回す。

 

 

誰もいない。

 

 

それでも。

 

 

消えない。

 

 

 

■アマテラス艦橋

 

警報が鳴る。

 

 

一瞬だけ。

 

 

本当に一瞬。

 

 

そして止まる。

 

 

オペレーターが首を傾げる。

 

 

「……誤作動?」

 

 

記録を確認する。

 

 

何も残っていない。

 

 

異常なし。

 

 

だが。

 

 

艦橋の空気だけが、

妙に重かった。

 

 

 

■セラーナ

 

窓の外を見る。

 

 

海がある。

 

 

静かな海。

 

 

けれど。

 

 

本当に静かなのだろうか。

 

 

そう思った瞬間。

 

 

胸の奥が小さく揺れた。

 

 

「……近い」

 

 

誰にも聞こえない声。

 

 

それ以上は言わない。

 

 

言葉にすると、

何かが形になってしまう気がした。

 

 

 

■海岸線

 

レイジはまだ立っていた。

 

 

帰るはずだった。

 

 

なのに。

 

 

足が動かない。

 

 

見られている。

 

 

その感覚だけが離れない。

 

 

やがて。

 

 

海風が吹く。

 

 

その瞬間。

 

 

誰かが、

すぐ後ろで息をした気がした。

 

 

レイジが振り返る。

 

 

誰もいない。

 

 

海だけがある。

 

 

静かな海。

 

 

それでも。

 

 

海はまだ鳴っていた。

 

 

低く。

 

 

深く。

 

 

まるで。

 

 

何かがこちらへ近づいているように。

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