機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

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■第2巻 第9章 「レヴナント起動」

 

 

空が変だった。

 

 

割れている訳じゃない。

 

 

崩れている訳でもない。

 

 

ただ。

 

 

そこに在ってはいけないものが、

在る。

 

 

そんな感覚だけがあった。

 

 

 

■海岸線

 

人々は空を見上げていた。

 

 

誰も説明できない。

 

 

言葉にできない。

 

 

それでも。

 

 

何かがおかしい。

 

 

それだけは分かる。

 

 

海の上。

 

 

黒い裂け目。

 

 

夜より暗い。

 

 

影より深い。

 

 

何も映していないはずなのに。

 

 

見ているだけで、

視線を感じる。

 

 

 

■フィロメラ コクピット

 

レイジは息を詰めていた。

 

 

嫌な感じがする。

 

 

理由は分からない。

 

 

だが。

 

 

本能が警鐘を鳴らしていた。

 

 

逃げろ。

 

 

近づくな。

 

 

見るな。

 

 

そんな声が、

頭の奥で繰り返される。

 

 

「……何なんだよ」

 

 

喉が渇く。

 

 

フィロメラのサイコフレームが、

不安そうに脈動する。

 

 

赤。

 

 

白。

 

 

赤。

 

 

白。

 

 

呼吸が乱れているみたいだった。

 

 

 

■アマテラス艦橋

 

警報が鳴り続ける。

 

 

だが。

 

 

誰もその意味を説明できない。

 

 

オペレーターが呟く。

 

 

「攻撃じゃない……」

 

 

「でも、

何かが来ています……」

 

 

ミライは海を見る。

 

 

黒い裂け目。

 

 

見ているだけで、

胸が苦しくなる。

 

 

まるで。

 

 

そこにいてはいけないものを、

見てしまったように。

 

 

 

■レイジ

 

視界が揺れる。

 

 

一瞬だけ。

 

 

本当に一瞬だけ。

 

 

世界の色が消えた。

 

 

海も。

 

空も。

 

フィロメラも。

 

 

全部が薄くなる。

 

 

そして。

 

 

声が聞こえた。

 

 

いや。

 

 

声じゃない。

 

 

もっと曖昧な何か。

 

 

意味だけが落ちてくる。

 

 

『確認』

 

 

レイジの背筋が凍る。

 

 

『確認』

 

 

再び。

 

 

感情はない。

 

 

怒りもない。

 

 

優しさもない。

 

 

ただ。

 

 

何かを調べている。

 

 

そんな感覚。

 

 

『不一致』

 

 

レイジの呼吸が止まる。

 

 

『不一致』

 

 

『定義不能』

 

 

 

「……何だよ」

 

 

手が震える。

 

 

「何の話だよ……」

 

 

 

意味が落ちてくる。

 

 

冷たく。

 

 

容赦なく。

 

 

『お前は誰だ』

 

 

 

レイジの心臓が跳ねる。

 

 

誰だ。

 

 

そんなこと。

 

 

自分だって知らない。

 

 

ただ。

 

 

レイジ・イルマだ。

 

 

そう答えようとして。

 

 

言葉が出ない。

 

 

なぜなら。

 

 

相手は名前を聞いていない。

 

 

もっと別の何かを見ている。

 

 

 

『お前は誰だ』

 

 

三度目。

 

 

レイジは歯を食いしばる。

 

 

「知らねぇよ……!」

 

 

叫ぶ。

 

 

「そんなもん!」

 

 

 

フィロメラが震える。

 

 

サイコフレームが脈動する。

 

 

赤い光。

 

 

激しく。

 

 

苦しそうに。

 

 

 

『定義不能』

 

 

『不整合』

 

 

『再判定』

 

 

 

「やめろ……」

 

 

レイジの額を汗が流れる。

 

 

「勝手に決めるな……」

 

 

 

黒い裂け目が脈打つ。

 

 

海が揺れる。

 

 

空が軋む。

 

 

世界そのものが、

何かを探しているみたいだった。

 

 

 

そして。

 

 

その瞬間。

 

 

別の何かが割り込む。

 

 

怒りではない。

 

 

優しさでもない。

 

 

もっと強い拒絶。

 

 

ただ。

 

 

「違う」

 

 

そう言うような気配。

 

 

 

世界が揺れる。

 

 

黒い裂け目が、

ほんの一瞬だけ沈黙する。

 

 

レイジは息を呑む。

 

 

今のは何だったのか。

 

 

分からない。

 

 

誰なのかも分からない。

 

 

ただ。

 

 

自分を否定する何かと。

 

 

それを否定する何か。

 

 

その間に。

 

 

自分が立っている。

 

 

それだけは分かった。

 

 

 

■海岸線

 

風が戻る。

 

 

波が戻る。

 

 

音が戻る。

 

 

だが。

 

 

黒い裂け目は消えない。

 

 

まだそこにある。

 

 

静かに。

 

 

こちらを見ながら。

 

 

レイジは震える手を握り締めた。

 

 

「……ふざけんな」

 

 

小さく呟く。

 

 

「俺は俺だ」

 

 

その言葉は。

 

 

誰かに向けたものではなかった。

 

 

自分自身へ向けた。

 

 

精一杯の抵抗だった。

 

 

海が鳴る。

 

 

低く。

 

深く。

 

 

まるで。

 

 

世界のどこかで、

何かが目を覚ましたように。

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