機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

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■第2巻 第10章 「観測された存在」

海は静かだった。

 

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静かすぎた。

 

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それが、

ベルトーチカには嫌だった。

 

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波の音。

 

風の音。

 

遠くの機械音。

 

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全部ある。

 

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それなのに。

 

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何かだけが足りない。

 

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■アマテラス

 

ブリーフィングルームは静まり返っていた。

 

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誰も大きな声を出さない。

 

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モニターにはデータが並んでいる。

 

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だが。

 

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誰もそれを信用していなかった。

 

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数字が正しい気がしない。

 

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そんな空気だけがある。

 

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■ベルトーチカ

 

彼女は画面を見ていなかった。

 

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もっと遠く。

 

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見えない場所を見ている。

 

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そして。

 

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小さく呟く。

 

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「……薄い」

 

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誰も反応できない。

 

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「アムロの気配が薄い」

 

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その声は独り言だった。

 

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説明ではない。

 

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分析でもない。

 

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ただ。

 

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そう感じてしまった。

 

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それだけだった。

 

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■ミライ

 

その言葉で顔を上げる。

 

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何も言わない。

 

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言えなかった。

 

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自分も同じだったから。

 

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最近ずっと。

 

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何かがおかしい。

 

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だが。

 

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どこがおかしいのか分からない。

 

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■フィロメラ

 

レイジはモニターを睨んでいた。

 

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情報は山ほどある。

 

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だが。

 

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知りたいことだけが分からない。

 

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イライラする。

 

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その時。

 

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画面の向こうにいるベルトーチカが見えた。

 

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レイジは眉をひそめる。

 

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「なんで……」

 

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小さく呟く。

 

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「そんな顔してるんだよ」

 

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悲しそうだった。

 

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怒っている訳じゃない。

 

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泣いている訳でもない。

 

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それでも。

 

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何かを失くした人の顔だった。

 

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■セラーナ

 

窓の外を見る。

 

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海。

 

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空。

 

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そして。

 

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その奥。

 

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「まだ……」

 

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誰にも聞こえない声。

 

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「まだ開いてない」

 

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それ以上は言わない。

 

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言葉にした瞬間。

 

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何かが壊れそうな気がした。

 

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■ベルトーチカ

 

静かに目を閉じる。

 

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アムロ。

 

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そう呼んでみる。

 

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返事はない。

 

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当たり前だった。

 

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それでも。

 

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昔なら。

 

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もっと近かった気がする。

 

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もっと確かだった気がする。

 

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今は違う。

 

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遠い。

 

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あまりにも遠い。

 

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まるで。

 

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誰かが間へ入り込んできたみたいに。

 

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その瞬間。

 

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フィロメラのサイコフレームが、

一度だけ白く脈動した。

 

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誰も気づかない。

 

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記録にも残らない。

 

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ただ。

 

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ベルトーチカだけが目を開く。

 

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「……いるのね」

 

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微かな笑み。

 

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安心ではない。

 

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確認でもない。

 

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ただ。

 

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完全には消えていない。

 

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それだけが分かった。

 

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海が鳴る。

 

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低く。

 

深く。

 

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遠い誰かの呼吸みたいに。

 

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ベルトーチカは何も言わなかった。

 

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言葉にしてしまえば。

 

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その微かな気配まで、

消えてしまう気がしたから。

 

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だからただ。

 

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静かに海を見つめ続けた。

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