海は静かだった。
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静かすぎた。
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それが、
ベルトーチカには嫌だった。
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波の音。
風の音。
遠くの機械音。
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全部ある。
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それなのに。
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何かだけが足りない。
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■アマテラス
ブリーフィングルームは静まり返っていた。
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誰も大きな声を出さない。
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モニターにはデータが並んでいる。
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だが。
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誰もそれを信用していなかった。
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数字が正しい気がしない。
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そんな空気だけがある。
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■ベルトーチカ
彼女は画面を見ていなかった。
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もっと遠く。
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見えない場所を見ている。
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そして。
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小さく呟く。
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「……薄い」
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誰も反応できない。
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「アムロの気配が薄い」
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その声は独り言だった。
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説明ではない。
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分析でもない。
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ただ。
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そう感じてしまった。
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それだけだった。
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■ミライ
その言葉で顔を上げる。
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何も言わない。
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言えなかった。
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自分も同じだったから。
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最近ずっと。
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何かがおかしい。
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だが。
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どこがおかしいのか分からない。
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■フィロメラ
レイジはモニターを睨んでいた。
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情報は山ほどある。
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だが。
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知りたいことだけが分からない。
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イライラする。
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その時。
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画面の向こうにいるベルトーチカが見えた。
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レイジは眉をひそめる。
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「なんで……」
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小さく呟く。
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「そんな顔してるんだよ」
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悲しそうだった。
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怒っている訳じゃない。
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泣いている訳でもない。
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それでも。
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何かを失くした人の顔だった。
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■セラーナ
窓の外を見る。
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海。
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空。
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そして。
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その奥。
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「まだ……」
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誰にも聞こえない声。
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「まだ開いてない」
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それ以上は言わない。
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言葉にした瞬間。
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何かが壊れそうな気がした。
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■ベルトーチカ
静かに目を閉じる。
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アムロ。
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そう呼んでみる。
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返事はない。
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当たり前だった。
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それでも。
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昔なら。
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もっと近かった気がする。
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もっと確かだった気がする。
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今は違う。
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遠い。
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あまりにも遠い。
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まるで。
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誰かが間へ入り込んできたみたいに。
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その瞬間。
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フィロメラのサイコフレームが、
一度だけ白く脈動した。
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誰も気づかない。
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記録にも残らない。
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ただ。
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ベルトーチカだけが目を開く。
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「……いるのね」
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微かな笑み。
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安心ではない。
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確認でもない。
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ただ。
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完全には消えていない。
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それだけが分かった。
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海が鳴る。
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低く。
深く。
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遠い誰かの呼吸みたいに。
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ベルトーチカは何も言わなかった。
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言葉にしてしまえば。
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その微かな気配まで、
消えてしまう気がしたから。
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だからただ。
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静かに海を見つめ続けた。