機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

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■第2巻 第11章 「発艦」

■アマテラス艦橋

 

艦橋は静かだった。

 

 

警報もない。

 

怒号もない。

 

 

それなのに。

 

 

誰もが、

これから始まるものを理解していた。

 

 

戦闘ではない。

 

 

もっと重い何か。

 

 

 

ミライ・ノアは、

艦長席の隣に立っていた。

 

 

誰も座っていない席。

 

 

ずっと空いたままの席。

 

 

そこへ視線を向ける。

 

 

ほんの一瞬だけ。

 

 

それだけだった。

 

 

「……ブライト」

 

 

小さな呟き。

 

 

誰にも聞こえない。

 

 

聞かせるつもりもない。

 

 

本当なら。

 

 

ここにいるはずだった。

 

 

こんな時こそ。

 

 

誰より先に立ち。

 

誰より最後まで残る人だった。

 

 

だが今はいない。

 

 

だから。

 

 

自分が立つしかない。

 

 

ミライは静かに顔を上げた。

 

 

■艦橋

 

オペレーター達が、

それぞれの持ち場へ着いている。

 

 

緊張している。

 

 

不安もある。

 

 

だが逃げてはいない。

 

 

その姿を見て。

 

 

ミライは少しだけ微笑んだ。

 

 

変わらない。

 

 

昔から。

 

 

人はいつも、

不安を抱えたまま前へ進む。

 

 

 

「発進じゃないわ」

 

 

艦橋が静まる。

 

 

誰もがミライを見る。

 

 

「私達は戦いに行くんじゃない」

 

 

一拍。

 

 

「迎えに行くの」

 

 

静かな声だった。

 

 

だが。

 

 

その言葉は、

誰の胸にも届いた。

 

 

ブライト。

 

 

帰れなくなった人。

 

 

置き去りになった人。

 

 

その人を迎えに行く。

 

 

それが今回の航海だった。

 

 

 

「ノアズアーク作戦領域へ移行します」

 

 

誰も異議を唱えない。

 

 

唱える理由がなかった。

 

 

ミライは続ける。

 

 

「艦長代行として」

 

 

一度だけ、

空席へ目を向ける。

 

 

「全指揮権を引き継ぎます」

 

 

 

■セラーナ

 

後方で静かに目を閉じる。

 

 

海鳴りが聞こえる。

 

 

ここは宇宙なのに。

 

 

不思議と聞こえる。

 

 

「ここから先は……」

 

 

小さく呟く。

 

 

「帰る場所を忘れたら駄目」

 

 

誰へ向けた言葉でもない。

 

 

レイジへ。

 

 

ミライへ。

 

 

そして。

 

 

まだ見えない誰かへ。

 

 

 

■フィロメラ

 

レイジは前方スクリーンを見ていた。

 

 

難しいことは分からない。

 

 

観測も。

 

構造も。

 

 

そんなものはどうでもよかった。

 

 

ただ一つだけ。

 

 

分かることがある。

 

 

「迎えに行くんだな」

 

 

誰に言うでもなく呟く。

 

 

ブライトという男を。

 

 

みんなが迎えに行こうとしている。

 

 

だから進む。

 

 

それだけだった。

 

 

レイジはゆっくり息を吐く。

 

 

少しだけ。

 

 

本当に少しだけ。

 

 

自分がここにいる理由が見えた気がした。

 

 

 

■アマテラス

 

艦体が動き始める。

 

 

振動はない。

 

 

衝撃もない。

 

 

それでも。

 

 

確かに前へ進んでいた。

 

 

まるで海を渡る船みたいに。

 

 

静かに。

 

 

ゆっくりと。

 

 

誰かの帰りを迎えに行くために。

 

 

 

■ミライ

 

艦橋の正面を見据える。

 

 

ブライト。

 

 

帰ってきなさい。

 

 

声にはしない。

 

 

だが。

 

 

その想いだけは、

確かにそこにあった。

 

 

 

アマテラスは進む。

 

 

赤い海の向こうへ。

 

 

閉ざされた場所へ。

 

 

帰れなくなった人を迎えに行くために。

 

 

静かに。

 

 

確かに。

 

 

最初の航海が始まった。

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