機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

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■第2巻 第12章 「届かない場所」

■アマテラス艦橋

 

静かだった。

 

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誰も騒がない。

 

誰も叫ばない。

 

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ただ。

 

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全員が同じものを見ていた。

 

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モニターの向こう。

 

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そこに、

ブライト・ノアがいる。

 

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確かにいる。

 

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見えている。

 

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それなのに。

 

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どうしても届かない。

 

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■ミライ

 

「距離は?」

 

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オペレーターが答える。

 

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「変化ありません」

 

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「接近も離脱もありません」

 

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ミライは黙る。

 

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おかしい。

 

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艦は進んでいる。

 

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計器もそう示している。

 

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それなのに。

 

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ブライトだけが近づかない。

 

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まるで。

 

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同じ場所にいないみたいに。

 

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■レイジ

 

フィロメラの中から、

その光景を見ていた。

 

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ブライトという男の顔は知らない。

 

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だが。

 

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みんなが迎えに行こうとしている。

 

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それだけは分かる。

 

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「なんでだよ」

 

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小さく呟く。

 

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「そこにいるじゃねぇか」

 

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見えている。

 

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声も届きそうだ。

 

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それなのに。

 

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手を伸ばせない。

 

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■ブライト

 

静かに座っている。

 

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何かを待っているようにも見える。

 

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諦めているようにも見える。

 

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だが。

 

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その表情だけは変わらない。

 

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長い時間を生きた人の顔だった。

 

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■ミライ

 

気づけば、

空席を見ていた。

 

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艦長席。

 

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本来なら。

 

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あそこへ座っているはずだった人。

 

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何度も喧嘩した。

 

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何度も支えた。

 

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何度も帰りを待った。

 

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そして今も。

 

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待っている。

 

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「帰ってきなさいよ……」

 

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声は小さい。

 

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誰にも聞こえない。

 

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聞かせるつもりもない。

 

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ただ。

 

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それが本音だった。

 

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■セラーナ

 

窓の向こうを見る。

 

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海鳴りがする。

 

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宇宙なのに。

 

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やはり聞こえる。

 

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「まだね」

 

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小さく呟く。

 

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レイジが通信越しに聞く。

 

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「何がだよ」

 

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セラーナは少しだけ考える。

 

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そして。

 

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珍しく答えた。

 

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「帰る理由」

 

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レイジが眉をひそめる。

 

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意味が分からない。

 

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だが。

 

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どこかで引っ掛かった。

 

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■ブライト

 

視線だけが動く。

 

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遠く。

 

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アマテラスの方へ。

 

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ほんの一瞬だけ。

 

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その目が、

柔らかくなった気がした。

 

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■ミライ

 

息を呑む。

 

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今。

 

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見た気がした。

 

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こちらを。

 

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見ていた気がした。

 

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「ブライト……」

 

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だが次の瞬間。

 

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姿が揺らぐ。

 

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輪郭が薄れる。

 

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消える。

 

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そして戻る。

 

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誰も声を出せなかった。

 

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そこにいる。

 

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だが。

 

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まだ帰れない。

 

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■レイジ

 

拳を握る。

 

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理由は分からない。

 

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理屈も知らない。

 

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それでも。

 

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ひとつだけ思った。

 

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「連れて帰ろうぜ」

 

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誰へ向けた言葉でもない。

 

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それでも。

 

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その一言だけが、

フィロメラの奥へ静かに沈んでいった。

 

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海が鳴る。

 

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低く。

 

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深く。

 

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届かない場所の向こうで。

 

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誰かが帰り道を探しているみたいに。

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