■アマテラス艦橋
静かだった。
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誰も騒がない。
誰も叫ばない。
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ただ。
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全員が同じものを見ていた。
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モニターの向こう。
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そこに、
ブライト・ノアがいる。
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確かにいる。
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見えている。
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それなのに。
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どうしても届かない。
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■ミライ
「距離は?」
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オペレーターが答える。
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「変化ありません」
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「接近も離脱もありません」
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ミライは黙る。
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おかしい。
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艦は進んでいる。
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計器もそう示している。
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それなのに。
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ブライトだけが近づかない。
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まるで。
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同じ場所にいないみたいに。
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■レイジ
フィロメラの中から、
その光景を見ていた。
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ブライトという男の顔は知らない。
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だが。
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みんなが迎えに行こうとしている。
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それだけは分かる。
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「なんでだよ」
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小さく呟く。
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「そこにいるじゃねぇか」
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見えている。
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声も届きそうだ。
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それなのに。
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手を伸ばせない。
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■ブライト
静かに座っている。
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何かを待っているようにも見える。
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諦めているようにも見える。
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だが。
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その表情だけは変わらない。
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長い時間を生きた人の顔だった。
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■ミライ
気づけば、
空席を見ていた。
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艦長席。
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本来なら。
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あそこへ座っているはずだった人。
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何度も喧嘩した。
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何度も支えた。
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何度も帰りを待った。
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そして今も。
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待っている。
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「帰ってきなさいよ……」
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声は小さい。
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誰にも聞こえない。
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聞かせるつもりもない。
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ただ。
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それが本音だった。
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■セラーナ
窓の向こうを見る。
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海鳴りがする。
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宇宙なのに。
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やはり聞こえる。
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「まだね」
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小さく呟く。
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レイジが通信越しに聞く。
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「何がだよ」
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セラーナは少しだけ考える。
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そして。
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珍しく答えた。
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「帰る理由」
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レイジが眉をひそめる。
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意味が分からない。
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だが。
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どこかで引っ掛かった。
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■ブライト
視線だけが動く。
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遠く。
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アマテラスの方へ。
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ほんの一瞬だけ。
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その目が、
柔らかくなった気がした。
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■ミライ
息を呑む。
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今。
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見た気がした。
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こちらを。
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見ていた気がした。
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「ブライト……」
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だが次の瞬間。
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姿が揺らぐ。
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輪郭が薄れる。
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消える。
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そして戻る。
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誰も声を出せなかった。
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そこにいる。
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だが。
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まだ帰れない。
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■レイジ
拳を握る。
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理由は分からない。
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理屈も知らない。
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それでも。
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ひとつだけ思った。
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「連れて帰ろうぜ」
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誰へ向けた言葉でもない。
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それでも。
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その一言だけが、
フィロメラの奥へ静かに沈んでいった。
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海が鳴る。
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低く。
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深く。
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届かない場所の向こうで。
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誰かが帰り道を探しているみたいに。