機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

35 / 119
■第2巻 第13章 「接触」

■アマテラス艦橋

 

静寂だった。

 

⸻

 

誰も大きな声を出さない。

 

⸻

 

モニターの向こうには、

ブライト・ノアがいる。

 

⸻

 

見えている。

 

⸻

 

それなのに。

 

⸻

 

まだ遠い。

 

⸻

 

⸻

 

オペレーターが息を呑んだ。

 

⸻

 

「反応……」

 

⸻

 

艦橋の空気が止まる。

 

⸻

 

「反応があります」

 

⸻

 

⸻

 

ミライが顔を上げる。

 

⸻

 

「ブライト?」

 

⸻

 

返事はない。

 

⸻

 

だが。

 

⸻

 

今までとは違う。

 

⸻

 

確かに何かが変わった。

 

⸻

 

⸻

 

■フィロメラ

 

レイジも気づいていた。

 

⸻

 

圧が違う。

 

⸻

 

拒絶じゃない。

 

⸻

 

何かがこちらを見ている。

 

⸻

 

そんな感覚。

 

⸻

 

「……なんだ」

 

⸻

 

フィロメラのサイコフレームが、

静かに脈動する。

 

⸻

 

赤い光が揺れる。

 

⸻

 

まるで。

 

⸻

 

遠い誰かの呼吸みたいに。

 

⸻

 

⸻

 

■ブライト

 

視線が動く。

 

⸻

 

ほんの僅か。

 

⸻

 

だが確かに。

 

⸻

 

アマテラスの方へ向いた。

 

⸻

 

⸻

 

■ミライ

 

息を止める。

 

⸻

 

見間違いじゃない。

 

⸻

 

今。

 

⸻

 

こちらを見た。

 

⸻

 

⸻

 

「ブライト」

 

⸻

 

思わず名前を呼ぶ。

 

⸻

 

何年も一緒にいた。

 

⸻

 

どんな顔をしていても分かる。

 

⸻

 

今の視線は。

 

⸻

 

確かにブライトだった。

 

⸻

 

⸻

 

■ブライト

 

口が動く。

 

⸻

 

声にはならない。

 

⸻

 

届かない。

 

⸻

 

それでも。

 

⸻

 

何かを伝えようとしている。

 

⸻

 

必死に。

 

⸻

 

⸻

 

■アマテラス

 

通信系が震える。

 

⸻

 

ノイズ。

 

⸻

 

乱れた波形。

 

⸻

 

意味にならない音。

 

⸻

 

だが。

 

⸻

 

その奥から。

 

⸻

 

かすかな声が落ちてきた。

 

⸻

 

『……ミラ……』

 

⸻

 

艦橋が静まり返る。

 

⸻

 

⸻

 

ミライの目が揺れる。

 

⸻

 

今のは。

 

⸻

 

聞き間違いじゃない。

 

⸻

 

⸻

 

『……ミライ……』

 

⸻

 

⸻

 

声だった。

 

⸻

 

ブライトの。

 

⸻

 

⸻

 

ミライは言葉を失う。

 

⸻

 

嬉しい訳じゃない。

 

⸻

 

安心した訳でもない。

 

⸻

 

むしろ逆だった。

 

⸻

 

声が届いたからこそ。

 

⸻

 

どれほど遠い場所にいるのか分かってしまった。

 

⸻

 

⸻

 

■レイジ

 

その様子を見ていた。

 

⸻

 

何も言えない。

 

⸻

 

今ここへ入るべきじゃない。

 

⸻

 

そんな気がした。

 

⸻

 

⸻

 

ブライトという男。

 

⸻

 

ミライという人。

 

⸻

 

二人の間には。

 

⸻

 

自分の知らない時間がある。

 

⸻

 

⸻

 

■ブライト

 

視線がさらに揺れる。

 

⸻

 

何かを伝えようとする。

 

⸻

 

だが。

 

⸻

 

世界がそれを許さない。

 

⸻

 

輪郭が崩れる。

 

⸻

 

存在が薄れる。

 

⸻

 

⸻

 

そして。

 

⸻

 

ようやく。

 

⸻

 

ひとつだけ届いた。

 

⸻

 

『……来るな』

 

⸻

 

⸻

 

ミライの表情が止まる。

 

⸻

 

その言葉に。

 

⸻

 

拒絶はなかった。

 

⸻

 

怒りもなかった。

 

⸻

 

恐怖だけがあった。

 

⸻

 

⸻

 

こちらを拒んでいるんじゃない。

 

⸻

 

こちらが来てしまう未来を恐れている。

 

⸻

 

そんな声だった。

 

⸻

 

⸻

 

次の瞬間。

 

⸻

 

接触が途切れる。

 

⸻

 

ブライトの姿が揺らぐ。

 

⸻

 

輪郭が消える。

 

⸻

 

沈黙。

 

⸻

 

⸻

 

■ミライ

 

静かに目を閉じる。

 

⸻

 

「馬鹿ね……」

 

⸻

 

小さく呟く。

 

⸻

 

誰にも聞こえない声。

 

⸻

 

⸻

 

「そんなこと言われたら」

 

⸻

 

⸻

 

ゆっくり目を開く。

 

⸻

 

前を見る。

 

⸻

 

⸻

 

「余計に迎えに行くでしょう」

 

⸻

 

⸻

 

誰も何も言わない。

 

⸻

 

だが。

 

⸻

 

その言葉だけは。

 

⸻

 

確かにアマテラス全体へ広がっていった。

 

⸻

 

海が鳴る。

 

⸻

 

低く。

 

深く。

 

⸻

 

届かなかった声が。

 

⸻

 

初めて届いた夜だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。