■アマテラス艦橋
静寂だった。
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誰も大きな声を出さない。
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モニターの向こうには、
ブライト・ノアがいる。
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見えている。
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それなのに。
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まだ遠い。
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オペレーターが息を呑んだ。
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「反応……」
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艦橋の空気が止まる。
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「反応があります」
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ミライが顔を上げる。
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「ブライト?」
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返事はない。
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だが。
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今までとは違う。
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確かに何かが変わった。
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■フィロメラ
レイジも気づいていた。
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圧が違う。
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拒絶じゃない。
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何かがこちらを見ている。
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そんな感覚。
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「……なんだ」
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フィロメラのサイコフレームが、
静かに脈動する。
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赤い光が揺れる。
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まるで。
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遠い誰かの呼吸みたいに。
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■ブライト
視線が動く。
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ほんの僅か。
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だが確かに。
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アマテラスの方へ向いた。
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■ミライ
息を止める。
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見間違いじゃない。
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今。
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こちらを見た。
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「ブライト」
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思わず名前を呼ぶ。
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何年も一緒にいた。
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どんな顔をしていても分かる。
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今の視線は。
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確かにブライトだった。
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■ブライト
口が動く。
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声にはならない。
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届かない。
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それでも。
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何かを伝えようとしている。
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必死に。
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■アマテラス
通信系が震える。
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ノイズ。
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乱れた波形。
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意味にならない音。
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だが。
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その奥から。
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かすかな声が落ちてきた。
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『……ミラ……』
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艦橋が静まり返る。
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ミライの目が揺れる。
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今のは。
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聞き間違いじゃない。
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『……ミライ……』
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声だった。
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ブライトの。
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ミライは言葉を失う。
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嬉しい訳じゃない。
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安心した訳でもない。
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むしろ逆だった。
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声が届いたからこそ。
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どれほど遠い場所にいるのか分かってしまった。
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■レイジ
その様子を見ていた。
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何も言えない。
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今ここへ入るべきじゃない。
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そんな気がした。
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ブライトという男。
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ミライという人。
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二人の間には。
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自分の知らない時間がある。
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■ブライト
視線がさらに揺れる。
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何かを伝えようとする。
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だが。
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世界がそれを許さない。
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輪郭が崩れる。
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存在が薄れる。
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そして。
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ようやく。
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ひとつだけ届いた。
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『……来るな』
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ミライの表情が止まる。
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その言葉に。
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拒絶はなかった。
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怒りもなかった。
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恐怖だけがあった。
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こちらを拒んでいるんじゃない。
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こちらが来てしまう未来を恐れている。
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そんな声だった。
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次の瞬間。
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接触が途切れる。
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ブライトの姿が揺らぐ。
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輪郭が消える。
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沈黙。
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■ミライ
静かに目を閉じる。
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「馬鹿ね……」
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小さく呟く。
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誰にも聞こえない声。
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「そんなこと言われたら」
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ゆっくり目を開く。
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前を見る。
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「余計に迎えに行くでしょう」
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誰も何も言わない。
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だが。
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その言葉だけは。
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確かにアマテラス全体へ広がっていった。
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海が鳴る。
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低く。
深く。
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届かなかった声が。
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初めて届いた夜だった。