■アマテラス艦橋
静かな時間だった。
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誰も大きな声を出さない。
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ブライトの声が届いてから。
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艦橋の空気が、
少しだけ変わっていた。
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沈黙は同じ。
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だが。
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諦めの沈黙ではない。
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ミライはモニターを見つめていた。
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ブライトの反応はない。
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変化もない。
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それでも。
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目を離せなかった。
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「変ね……」
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小さく呟く。
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誰に向けた言葉でもない。
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「ずっと見てきたのに」
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今までだって。
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待つことには慣れていた。
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帰りを待つことも。
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無事を祈ることも。
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なのに。
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今は少し違う。
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生きていると分かってしまったから。
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■フィロメラ
レイジもまた黙っていた。
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モニターを見る。
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何も変わらない。
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それでも視線を外せない。
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「来るな、か……」
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ブライトの声を思い出す。
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あの言葉。
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怒っていた訳じゃない。
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追い返したかった訳でもない。
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ただ。
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心配していた。
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それだけは分かった。
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「勝手だよな」
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苦笑する。
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会ったこともない。
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話したこともない。
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それなのに。
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妙に人間臭かった。
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■セラーナ
後ろで静かに言う。
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「似てるのかもね」
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レイジが振り返る。
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「誰と」
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セラーナは少し考える。
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そして。
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「帰れなくなった人達」
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レイジは意味が分からない。
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だが。
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なぜか胸に残った。
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■アマテラス艦橋
オペレーターが声を上げる。
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「反応です!」
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全員が顔を上げる。
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だが大きな変化じゃない。
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数字が少し揺れただけ。
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本当にそれだけ。
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それでも。
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ミライは息を止めた。
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「今……」
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誰も答えない。
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答えられない。
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だが全員が思っていた。
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今。
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向こうもこちらを見た。
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そんな気がした。
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■ブライト
遠い場所。
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届かない場所。
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ブライトは静かに目を開く。
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疲れた目だった。
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それでも。
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ほんの少しだけ。
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表情が和らいでいた。
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「……馬鹿だな」
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誰へ向けた言葉なのか。
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本人にも分からない。
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ミライか。
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レイジか。
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それとも。
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昔の自分か。
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■レイジ
フィロメラの中で、
ゆっくり拳を握る。
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怖さは消えない。
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分からないことばかりだ。
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それでも。
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今は少しだけ違う。
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「届くよな」
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独り言。
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誰も答えない。
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だが。
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フィロメラのサイコフレームが、
微かに白く脈動した。
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呼吸みたいに。
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穏やかに。
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海鳴りは聞こえない。
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それでも。
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どこかで波の音がした気がした。
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届かない場所。
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帰れない場所。
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その間で。
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人だけが。
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少しずつ近づき始めていた。