機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

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■第2巻 第15章 「まだ」

■アマテラス艦橋

 

静かな時間だった。

 

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誰も声を上げない。

 

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警報は鳴っている。

 

だが、

誰もそれを気にしていなかった。

 

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皆が見ている。

 

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同じ場所を。

 

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ブライト・ノア。

 

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届かない場所にいる人を。

 

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ミライはモニターを見つめていた。

 

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何も変わらない。

 

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それでも。

 

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さっきまでとは違う。

 

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確かに。

 

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一度だけ届いた。

 

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ブライトの声が。

 

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「来るな」

 

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その言葉だけが、

まだ胸の奥へ残っている。

 

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■フィロメラ

 

レイジは腕を組んだまま黙っていた。

 

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苛立っている。

 

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理由は自分でも分かっている。

 

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見えたからだ。

 

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届きそうだったからだ。

 

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だから余計に。

 

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諦められなくなった。

 

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「そこにいるんだろ……」

 

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小さく呟く。

 

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返事はない。

 

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それでも。

 

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今は確信できる。

 

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ブライトは生きている。

 

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■アマテラス

 

艦内通路。

 

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ベルトーチカは一人で歩いていた。

 

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誰もいない。

 

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静かな通路。

 

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その静けさが、

今はありがたかった。

 

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立ち止まる。

 

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窓の向こうに、

暗い宇宙が見える。

 

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「本当に……」

 

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声が漏れる。

 

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「本当に行くのね」

 

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誰へ向けた言葉か。

 

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自分でも分からない。

 

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ブライトか。

 

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ミライか。

 

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レイジか。

 

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それとも。

 

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遠い昔にいなくなった人か。

 

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■フィロメラ

 

レイジが目を閉じる。

 

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頭の奥で、

誰かの声がする。

 

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聞き取れない。

 

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言葉にならない。

 

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それでも。

 

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寂しさだけが残る。

 

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まるで。

 

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帰りたいのに、

帰れない誰かみたいに。

 

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「親父……」

 

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知らない人だ。

 

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会ったこともない。

 

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なのに。

 

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なぜか胸が苦しくなる。

 

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■アマテラス艦橋

 

ミライが振り返る。

 

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そこに、

ベルトーチカが立っていた。

 

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「どうしたの?」

 

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ベルトーチカは答えない。

 

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モニターを見る。

 

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ブライトの反応。

 

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届かない場所。

 

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それを見つめる。

 

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「行くつもりなのね」

 

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ミライは静かに頷いた。

 

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「ええ」

 

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短い沈黙。

 

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「助けたいもの」

 

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ベルトーチカは目を閉じる。

 

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その言葉は正しい。

 

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誰より正しい。

 

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だから苦しい。

 

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「分かってる」

 

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小さな声。

 

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「でも……」

 

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ミライは何も言わない。

 

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続きを待つ。

 

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ベルトーチカは、

遠い場所を見るように呟いた。

 

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「まだ」

 

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その一言だけだった。

 

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まだ。

 

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ブライトを失いたくない。

 

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まだ。

 

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レイジを行かせたくない。

 

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まだ。

 

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終わったと認めたくない。

 

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その全部が。

 

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たった一言へ詰まっていた。

 

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ミライは答えない。

 

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答えられなかった。

 

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それは命令じゃない。

 

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理屈でもない。

 

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人の願いだったから。

 

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■フィロメラ

 

レイジはゆっくり目を開く。

 

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理由は分からない。

 

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だが。

 

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誰かの寂しさだけが伝わった気がした。

 

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フィロメラのサイコフレームが、

微かに白く光る。

 

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呼吸みたいに。

 

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優しく。

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