機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

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■第2巻 巻末外伝 ■アマテラスの日常 「洗剤」

■アマテラス・ランドリー区画

 

朝。

 

 

アマテラスは平和だった。

 

 

戦闘なし。

 

警報なし。

 

レヴナントなし。

 

 

ただの日常。

 

 

■セラーナ

 

洗濯機の前に立っている。

 

 

真剣な顔。

 

 

とても真剣な顔だった。

 

 

手には洗剤。

 

 

大型ボトル。

 

新品。

 

 

セラーナは考える。

 

 

汚れを落とす。

 

 

なら。

 

 

沢山入れればもっと綺麗になる。

 

 

合理的。

 

 

完璧な理論だった。

 

 

セラーナは頷く。

 

 

そして。

 

 

ドボドボドボドボドボドボドボドボ

 

 

洗剤一本投入。

 

 

 

■レイジ

 

たまたま通りかかる。

 

 

数秒後。

 

 

洗濯機から。

 

 

泡。

 

 

泡。

 

 

泡。

 

 

さらに泡。

 

 

レイジ

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

ランドリー区画が真っ白になる。

 

 

レイジ

 

「なにやってんだぁぁぁ〜!!!」

 

 

■セラーナ

 

振り返る。

 

 

「洗濯ですが?」

 

 

レイジ

 

「それくらい、見たら分かるわっ!!」

 

 

レイジ

 

「どれだけ入れたんだよぉ〜っ!!」

 

セラーナ

 

「これ一本全部入れました。」

 

 

その手には空きの大型ボトル…

 

 

レイジ

 

「なんで一本入れたぁ〜っ!!」

 

 

セラーナ

 

「沢山入れた方が

綺麗になるかと思いまして」

 

 

レイジ

 

「ならねぇよ!!」

 

 

 

■ベルトーチカ

 

騒ぎを聞いてやって来る。

 

 

ベルトーチカ

 

「何事……」

 

 

沈黙。

 

 

泡まみれのランドリー。

 

 

泡まみれのレイジ。

 

 

泡まみれのセラーナ。

 

 

ベルトーチカ

 

「……」

 

 

レイジ

 

「聞いてくれ母さん!!」

 

 

セラーナ

 

「私なりに頑張ったんです」

 

 

ベルトーチカ

 

「その洗ってる服」

 

 

一拍。

 

 

「私のお気に入りなんだけど………」

 

 

 

沈黙。

 

 

■セラーナ

 

「……」

 

 

レイジ

 

「……」

 

 

ベルトーチカ

 

「……」

 

 

 

セラーナ

 

「逃げます」

 

 

■アマテラス通路

 

ダッシュ。

 

 

本人は全力だった。

 

 

レイジ

 

「待てぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

ベルトーチカ

 

「逃がさないわよ!!」

 

 

セラーナ

 

「捕まえられるものなら――」

 

 

三秒後。

 

 

レイジが肩を掴む。

 

 

セラーナ

 

「……」

 

 

レイジ

 

「遅ぇ!!」

 

 

セラーナ

 

「私は全力です」

 

 

ベルトーチカ

 

「それは見れば分かるわ」

 

 

セラーナ

 

「今日はとても調子が悪いんです」

 

 

レイジ

 

「毎回言ってるだろそれ!!」

 

 

再び逃走開始。

 

 

速い。

 

 

本人の中では。

 

 

整備員A

 

「なぁ…お、おい…」

 

 

整備員B

 

「あれって走ってるんだよな?」

 

 

整備員A

 

「あれなら歩いてる方が早くないか?」

 

 

整備員B

 

「セラーナさんって運動神経なさすぎるだろ…」

 

 

整備員A

 

「家事と運動神経以外は

完璧なんだけどな」

 

 

セラーナ

 

「聞こえていますよ」

 

 

整備員達

 

笑いを堪えて

「す、すみません…ぷっ笑」

 

 

整備員達はお腹を押さえて笑っていた。

 

 

角を曲がる。

 

 

セラーナ

 

「このまま逃げ切れば――」

 

 

足がもつれる。

 

 

バタンッ!!顔面からド派手に転ぶ。

 

 

レイジ

 

「ほらぁ!!」

 

 

ベルトーチカ

 

「だから走らないでって言ったのよ!!」

 

 

床に倒れ込んだまま。

 

 

セラーナ

 

「床が悪いんでふ」

 

 

レイジ

 

「いやいや、セラーナさんだろ!!」

 

 

ベルトーチカ

 

「あなたね!!」

 

 

珍しく二人の声が揃った。

 

 

■アマテラス艦橋

 

オペレーター

 

「ランドリー区画が泡で埋まりました」

 

 

ミライ

 

「またセラーナさん?」

 

 

オペレーター

 

「はい」

 

 

ミライ

 

「今度は何を?」

 

 

オペレーター

 

「洗剤大型ボトル一本です」

 

 

沈黙。

 

 

ミライ

 

「そう……」

 

 

オペレーター

 

「ちなみにベルトーチカさんの服らしいです」

 

 

さらに沈黙。

 

 

ミライ

 

「頑張って…セラーナ…」

 

 

誰に向けた言葉かは分からなかった。

 

 

■アマテラス・ランドリー区画

 

後には。

 

 

泡の海だけが残っていた。

 

 

そして翌日。

 

 

セラーナは洗濯当番から外された。

 

 

本人は最後まで。

 

 

納得していなかった。

 

 




■あとがき

ここまで『機動戦士ガンダム:残響 第2巻 境界観測』を読んでいただき、本当にありがとうございます。

第2巻はいかがだったでしょうか。

第1巻が「始まり」の物語なら、第2巻は「帰るための物語」が動き始めた巻でした。

帰る場所を失った人達。

迎えに行こうとする人達。

そして、まだ届かない場所。

この巻では、「待つこと」と「信じること」をひとつのテーマとして描いています。

誰かの帰りを待つこと。

誰かを迎えに行くこと。

それは簡単なようで、とても難しいことなのだと思います。

それでも人は、どうしても諦められない誰かのために、手を伸ばしてしまう。

『機動戦士ガンダム:残響』は、そんな人達の物語です。

そして今、レイジ達はようやく「届かない場所」を見つけました。

まだ届かない。

まだ帰れない。

それでも、確かに道だけは見え始めています。

ここから先、物語はさらに深く、静かに、そして大きく動いていきます。

そして――。

『アマテラスの日常』はいかがでしたか?

本編ではなかなか見せられない、彼らの少しだけ平和な時間を描いてみました。

たくさん笑っていただけたなら、とても嬉しく思います。

シリアスな物語だからこそ、帰れる場所には笑顔があってほしい。

そんな願いを込めて書いています。

もし少しでも、

「アマテラスって、本当に家族みたいだな」

そう感じていただけたなら、作者としてこれ以上の幸せはありません。

それでは。

また、海鳴りの向こう側で。

片蔵清優
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