大変申し訳ございませんでした。
宇宙世紀0112年。
サイド6。
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その外周宙域は、
かつて幾度も戦火に晒された場所だった。
今は違う。
少なくとも、
記録上は。
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戦争は終結している。
連邦も、
コロニー群も、
企業連合も、
そう定義していた。
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だが実際には、
終わったのは“戦争”ではない。
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「戦争という呼称」だった。
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■工業コロニー群外周
巨大工廠ブロック。
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そこでは今日も、
退役したモビルスーツや艦艇の解体作業が続いていた。
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鉄骨を断ち切る音。
溶接光。
低く唸るジェネレーター。
油と焼けた金属の匂い。
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平和の音ではない。
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戦争の残響を、
無理やり“安全な形”へ変換する音だった。
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■工廠区画D-12
作業机の上には、
分解されたジェガンの腕部フレーム。
解析途中の駆動基板。
古い制御チップ。
散乱する工具。
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その奥で、
ひとりの男が黙々と手を動かしていた。
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五十代半ば。
作業着姿。
目立たない男。
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だが、
指先だけが異様に正確だった。
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機械は嘘をつかない。
だから機械を扱う人間もまた、
誤魔化しが効かない。
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男は端末表示へ目を向ける。
古い制御系ログ。
ただの再起動記録。
そのはずだった。
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「……まだ生きてたか」
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小さく呟く。
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違和感がある。
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単なる再起動ではない。
まるで、
“向こう側から呼び返された”
ような感覚。
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男は眉を寄せる。
最近、
こういう現象が増えていた。
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説明不能な動作。
存在しないはずの同期。
停止した機体の自己起動。
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連邦はノイズ扱いしている。
だが現場の技術者達は知っていた。
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何かが、
戦後から静かに変質している。
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その時だった。
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通信ランプが点灯する。
未登録回線。
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男の手が止まる。
嫌な予感だけが、
静かに背中をなぞった。
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通信を開く。
ノイズ。
短い空白。
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そして——
女の声。
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『……久しぶりね』
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男の目が細くなる。
数秒の沈黙。
そして苦く笑った。
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「驚いたな」
「セイラか」
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通信の向こうで、
わずかな沈黙。
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『元気そうね』
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「どうだかな」
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男は椅子へ深く体を預ける。
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「で?」
「何があった」
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短い沈黙。
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だが、
それだけで理解できる。
通常案件ではない。
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そしてセイラは告げた。
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『ブライトが“消えた”の』
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空気が止まる。
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男の表情から、
わずかに色が抜けた。
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「……消えた?」
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『連邦記録上は拘束中』
『でも実態は違う』
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『もう通常座標には存在していない』
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男はゆっくり息を吐く。
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「また連邦が、
厄介な実験でもやったのか」
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『違う』
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セイラは静かに否定した。
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『連邦も触れられない』
『触れた瞬間、
状態がずれる』
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男の目が変わる。
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「空間異常じゃないな」
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『ええ』
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『“存在固定”そのものが崩れている』
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工廠の低い振動音だけが響く。
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男は小さく舌打ちした。
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「厄物だな」
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通信の向こうで、
セイラは静かに続ける。
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『お願い』
『力を貸して』
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男はすぐには答えない。
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視線を遠くへ投げる。
工廠の騒音。
溶接光。
解体される機体群。
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もう終わったはずの戦争。
だが、
その“波”だけが未だ消えていない。
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ブライト・ノア。
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あの男は、
いつも前へ出すぎる艦長だった。
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そして——
最後まで、
人を切り捨てられなかった男だった。
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男は小さく息を吐く。
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「……生きてるのか」
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『生存反応だけは確認できている』
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即答だった。
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「だったら話は早い」
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『え?』
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「死んでないなら、
連れ戻せる」
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セイラが小さく息を呑む。
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男は続ける。
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「で?」
「俺は何をすればいい」
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通信ウィンドウへ、
データが転送される。
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外縁宙域。
異常観測領域。
白い機体。
赤く脈動するサイコフレーム。
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そして——
ひとりの青年。
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男の目が細くなる。
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「こいつが?」
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『レイジ・イルマ』
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「軍人には見えんな」
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『そうね』
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「なのに中心にいる」
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セイラは少しだけ沈黙する。
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『そういう子よ』
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男は苦笑した。
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「説明になってない」
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その時だった。
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映像の中で、
レイジがこちらを振り向く。
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瞬間。
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工廠の音が、
一瞬だけ遠のいた。
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「……なんだ?」
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似ている訳じゃない。
誰かを思い出した訳でもない。
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だが違う。
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映像越しなのに。
まるで、
向こうがこちらを“観測している”
ような感覚。
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男の背筋を、
古い戦場勘が静かに撫でた。
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知っている世界と、
微妙に噛み合わない。
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その違和感だけが残る。
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セイラが静かに言った。
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『その子が』
『ブライトへ届くための鍵になる』
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男は映像を見つめたまま呟く。
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「厄介事ばかりだな」
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『断る?』
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即答だった。
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「んなわけないだろ」
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沈黙。
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男はロッカーを開く。
古い連邦ジャケット。
擦り切れた部隊章。
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かつての戦争の匂いが、
まだそこに残っている。
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それを静かに手に取る。
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「引退した人間を、
いつまで働かせる気だ」
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だがその声には、
わずかに熱が戻っていた。
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■サイド6外周ドック
作業用シャトルが発進する。
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行き先は、
外縁宙域。
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ノアズアーク隊。
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そして——
“波の向こう側”。
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■終端ログ
『S.N.R.I.技術顧問権限:再起動』
『ノアズアーク部隊合流申請:承認』
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男は最後に、
レイジの映像を見る。
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「……妙な目をしてるな」
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誰かを思い出しかける。
だがまだ、
その名前には届かない。