宇宙世紀0112年。
サイド6外縁。
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特殊観測艦アマテラス。
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艦橋は静かだった。
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警報は鳴っていない。
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誰も叫んでいない。
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だが。
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誰も安心していなかった。
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■ミライ
「状況は?」
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■オペレーター
「外縁宙域レヴナント反応、継続中」
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一拍。
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「変化ありません」
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沈黙。
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その返答に、
誰も安堵しない。
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変化がないこと自体が、
不自然だった。
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■観測モニター
暗い宇宙が映っている。
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何もない。
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本当に何もない。
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だが。
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誰もそこを見て、
安全だとは思えなかった。
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■セラーナ
「……変ね」
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ミライが振り向く。
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■ミライ
「何が?」
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セラーナはモニターから目を離さない。
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■セラーナ
「近付いている」
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■レイジ
「だから何がだよ」
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セラーナは小さく首を振る。
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■セラーナ
「まだ分からない」
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一拍。
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「でも」
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「遠ざかってはいない」
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表示されているのは一行だけ。
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『ブライト・ノア:生存反応確認』
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レイジの動きが止まる。
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■レイジ
「……生きてんのかよ」
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一拍。
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「だったら何で助けられねぇんだよ」
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誰も答えない。
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答えられなかった。
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■通信回線
セイラからの回線が開く。
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艦橋の空気が、
わずかに張り詰める。
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■ミライ
「セイラさん」
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画面の向こう。
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セイラは静かに頷いた。
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■セイラ
『状況は把握しているわ』
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一拍。
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『ブライトはそこにいる』
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■レイジ
「どこだよ」
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短い沈黙。
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■セイラ
『届かない場所』
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それだけだった。
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だが。
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その言葉は重かった。
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その時だった。
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通信ログにノイズが走る。
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一瞬。
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本当に一瞬だけ。
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『……まだ』
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艦橋の空気が止まる。
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■ミライ
「今のは!?」
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■オペレーター
「不明です!」
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「記録に残っていません!」
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■レイジ
小さく息を呑む。
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「……まただ」
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■ミライ
「また?」
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■レイジ
「ああ」
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「前にも聞いた」
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誰も何も言わない。
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ただ。
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レイジだけが、
何かに見られているような感覚を覚えていた。
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その瞬間。
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艦橋の照明が、
わずかに揺れる。
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■セラーナ
「……反応した」
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■レイジ
「何が」
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■セラーナ
「フィロメラ」
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沈黙。
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セラーナは表示を見つめる。
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■セラーナ
「変ね」
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■レイジ
「だから何が」
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■セラーナ
「フィロメラが」
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一拍。
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「あなたから目を離さない」
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レイジの表情が曇る。
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■レイジ
「なんだよそれ……」
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■セイラ
『レイジ』
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レイジが顔を上げる。
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■セイラ
『あなたはもう聞こえているはずよ』
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■レイジ
「何がだよ」
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セイラは答えない。
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ただ。
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静かにレイジを見る。
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■セイラ
『それでも』
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『まだ戻れない場所じゃない』
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レイジの目が揺れる。
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■レイジ
「戻る場所なんて」
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一拍。
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「最初からねぇよ」
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通信がわずかに乱れる。
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セイラは目を伏せた。
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■セイラ
『……そう』
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それ以上は言わなかった。
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レイジは再び外縁宙域を見る。
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何もない。
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本当に何もない。
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だが。
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そこには確かに、
何かがいた。
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そんな気がした。
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■レイジ
「……行くしかねぇんだろ」
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誰も答えない。
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静かな宇宙だけが、
その先を見つめていた。