機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

44 / 48
■第3巻 第1章 「揺れる現実」

宇宙世紀0112年。

 

サイド6外縁。

 

 

特殊観測艦アマテラス。

 

 

艦橋は静かだった。

 

 

警報は鳴っていない。

 

 

誰も叫んでいない。

 

 

だが。

 

 

誰も安心していなかった。

 

 

■ミライ

 

「状況は?」

 

 

■オペレーター

 

「外縁宙域レヴナント反応、継続中」

 

 

一拍。

 

 

「変化ありません」

 

 

沈黙。

 

 

その返答に、

 

誰も安堵しない。

 

 

変化がないこと自体が、

 

不自然だった。

 

 

 

■観測モニター

 

暗い宇宙が映っている。

 

 

何もない。

 

 

本当に何もない。

 

 

だが。

 

 

誰もそこを見て、

 

安全だとは思えなかった。

 

 

■セラーナ

 

「……変ね」

 

 

ミライが振り向く。

 

 

■ミライ

 

「何が?」

 

 

セラーナはモニターから目を離さない。

 

 

■セラーナ

 

「近付いている」

 

 

■レイジ

 

「だから何がだよ」

 

 

セラーナは小さく首を振る。

 

 

■セラーナ

 

「まだ分からない」

 

 

一拍。

 

 

「でも」

 

 

「遠ざかってはいない」

 

 

 

表示されているのは一行だけ。

 

 

『ブライト・ノア:生存反応確認』

 

 

レイジの動きが止まる。

 

 

■レイジ

 

「……生きてんのかよ」

 

 

一拍。

 

 

「だったら何で助けられねぇんだよ」

 

 

誰も答えない。

 

 

答えられなかった。

 

 

 

■通信回線

 

セイラからの回線が開く。

 

 

艦橋の空気が、

 

わずかに張り詰める。

 

 

■ミライ

 

「セイラさん」

 

 

画面の向こう。

 

 

セイラは静かに頷いた。

 

 

■セイラ

 

『状況は把握しているわ』

 

 

一拍。

 

 

『ブライトはそこにいる』

 

 

■レイジ

 

「どこだよ」

 

 

短い沈黙。

 

 

■セイラ

 

『届かない場所』

 

 

それだけだった。

 

 

だが。

 

 

その言葉は重かった。

 

 

 

その時だった。

 

 

通信ログにノイズが走る。

 

 

一瞬。

 

 

本当に一瞬だけ。

 

 

『……まだ』

 

 

艦橋の空気が止まる。

 

 

■ミライ

 

「今のは!?」

 

 

■オペレーター

 

「不明です!」

 

 

「記録に残っていません!」

 

 

■レイジ

 

小さく息を呑む。

 

 

「……まただ」

 

 

■ミライ

 

「また?」

 

 

■レイジ

 

「ああ」

 

 

「前にも聞いた」

 

 

誰も何も言わない。

 

 

ただ。

 

 

レイジだけが、

 

何かに見られているような感覚を覚えていた。

 

 

 

その瞬間。

 

 

艦橋の照明が、

 

わずかに揺れる。

 

 

■セラーナ

 

「……反応した」

 

 

■レイジ

 

「何が」

 

 

■セラーナ

 

「フィロメラ」

 

 

沈黙。

 

 

セラーナは表示を見つめる。

 

 

■セラーナ

 

「変ね」

 

 

■レイジ

 

「だから何が」

 

 

■セラーナ

 

「フィロメラが」

 

 

一拍。

 

 

「あなたから目を離さない」

 

 

レイジの表情が曇る。

 

 

■レイジ

 

「なんだよそれ……」

 

 

 

■セイラ

 

『レイジ』

 

 

レイジが顔を上げる。

 

 

■セイラ

 

『あなたはもう聞こえているはずよ』

 

 

■レイジ

 

「何がだよ」

 

 

セイラは答えない。

 

 

ただ。

 

 

静かにレイジを見る。

 

 

■セイラ

 

『それでも』

 

 

『まだ戻れない場所じゃない』

 

 

レイジの目が揺れる。

 

 

■レイジ

 

「戻る場所なんて」

 

 

一拍。

 

 

「最初からねぇよ」

 

 

通信がわずかに乱れる。

 

 

セイラは目を伏せた。

 

 

■セイラ

 

『……そう』

 

 

それ以上は言わなかった。

 

 

 

レイジは再び外縁宙域を見る。

 

 

何もない。

 

 

本当に何もない。

 

 

だが。

 

 

そこには確かに、

 

何かがいた。

 

 

そんな気がした。

 

 

■レイジ

 

「……行くしかねぇんだろ」

 

 

誰も答えない。

 

 

静かな宇宙だけが、

 

その先を見つめていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。