機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

45 / 47
■第3巻 第2章 「同期異常」

艦内ログは異常を示していない。

 

 

空調正常。

 

重力安定。

 

機関出力正常。

 

 

だが。

 

 

誰もその表示を信じていなかった。

 

 

何かがおかしい。

 

 

理由は分からない。

 

 

ただ。

 

 

艦内には説明できない違和感が漂っていた。

 

 

 

■観測室

 

セラーナは端末を見つめている。

 

 

表示されているのは一つだけ。

 

 

『フィロメラ:同期率変動』

 

 

■ミライ

 

「変動?」

 

 

セラーナは答えない。

 

 

表示だけが変化する。

 

 

『+0.3% → −1.1% → +0.7%』

 

 

■レイジ

 

「上がってんのか」

 

 

「下がってんのか」

 

 

「どっちだよ」

 

 

セラーナは静かに言う。

 

 

■セラーナ

 

「どちらでもない」

 

 

「揺れてる」

 

 

■レイジ

 

「揺れるってなんだよ」

 

 

セラーナは数値を見つめたまま答える。

 

 

■セラーナ

 

「……迷ってるみたい」

 

 

■ミライ

 

「迷ってる?」

 

 

■セラーナ

 

「分からない」

 

 

一拍。

 

 

「でも」

 

 

「決まってない」

 

 

 

その瞬間。

 

 

艦内照明がわずかに揺れる。

 

 

誰も気付かない。

 

 

だが。

 

 

セラーナだけが顔を上げた。

 

 

■セラーナ

 

「……今」

 

 

沈黙。

 

 

■ミライ

 

「何?」

 

 

■セラーナ

 

「近付いた」

 

 

■レイジ

 

「だから何がだよ」

 

 

セラーナは答えない。

 

 

答えられなかった。

 

 

 

■フィロメラ深層

 

そこは機械の内部ではない。

 

 

暗闇でもない。

 

 

空間でもない。

 

 

ただ。

 

 

白い残光と、

 

赤い揺らぎが重なっている。

 

 

近付いて。

 

 

離れて。

 

 

また重なる。

 

 

輪郭は見える。

 

 

だが。

 

 

まだ誰でもない。

 

 

名前もない。

 

 

ただ。

 

 

そこには確かに意志があった。

 

 

 

■アマテラス艦橋

 

突然。

 

 

レイジが頭を押さえる。

 

 

■レイジ

 

「……っ」

 

 

■ミライ

 

「どうしたの!?」

 

 

■レイジ

 

「なんか……来る」

 

 

セラーナの表情が変わる。

 

 

■セラーナ

 

「違う」

 

 

一拍。

 

 

「これは呼んでるんじゃない」

 

 

■ミライ

 

「何が?」

 

 

■セラーナ

 

「近付いてきてる」

 

 

レイジの背筋が冷える。

 

 

■レイジ

 

「なんだよそれ……」

 

 

 

■外縁宙域

 

暗い宇宙。

 

 

その奥。

 

 

一筋の赤が走る。

 

 

静かだった。

 

 

だが。

 

 

どこか懐かしい色だった。

 

 

 

■フィロメラ深層

 

声はない。

 

 

音もない。

 

 

だが。

 

 

確かに何かがいた。

 

 

そして。

 

 

『……まだ』

 

 

その瞬間。

 

 

レイジの視界が白く染まる。

 

 

宇宙。

 

 

閃光。

 

 

そして。

 

 

赤。

 

 

誰かがいる。

 

 

隣にいる。

 

 

だが。

 

 

顔だけが見えない。

 

 

■レイジ

 

「今の……誰だ」

 

 

誰も答えない。

 

 

セラーナだけが小さく呟く。

 

 

■セラーナ

 

「フィロメラ」

 

 

■ミライ

 

「通信じゃないわよね」

 

 

セラーナは首を振る。

 

 

■セラーナ

 

「違う」

 

 

一拍。

 

 

「返してる」

 

 

■レイジ

 

「何をだよ」

 

 

■セラーナ

 

「……分からない」

 

 

 

モニターの表示が変わる。

 

 

『同期率:0.0% → 0.0% → 0.0%』

 

 

■ミライ

 

「戻った……?」

 

 

セラーナは首を振る。

 

 

■セラーナ

 

「違う」

 

 

「止まった」

 

 

沈黙。

 

 

それは安心できる言葉ではなかった。

 

 

 

■セイラ通信

 

ノイズ混じりの声。

 

 

■セイラ

 

『フィロメラに触れないで』

 

 

■レイジ

 

「触れてねぇよ!」

 

 

セイラの声は静かだった。

 

 

だが硬い。

 

 

■セイラ

 

『もう触れているの』

 

 

 

■ミライ

 

「どういう意味かしら」

 

 

短い沈黙。

 

 

■セイラ

 

『レイジが中心になっている』

 

 

空気が止まる。

 

 

■レイジ

 

「は?」

 

 

セラーナが表示を見る。

 

 

■セラーナ

 

「……変ね」

 

 

一拍。

 

 

「フィロメラが」

 

 

「あなたを見ている」

 

 

レイジの顔から血の気が引く。

 

 

■レイジ

 

「意味わかんねぇって……」

 

 

その瞬間。

 

 

艦内ログが更新される。

 

 

『フィロメラ:応答待機』

 

 

一拍。

 

 

『対象:レイジ・イルマ』

 

 

 

誰も動かない。

 

 

■ミライ

 

「これ……戦闘準備じゃないわね」

 

 

■セラーナ

 

「違う」

 

 

一拍。

 

 

「待ってる」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。