艦内ログは異常を示していない。
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空調正常。
重力安定。
機関出力正常。
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だが。
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誰もその表示を信じていなかった。
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何かがおかしい。
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理由は分からない。
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ただ。
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艦内には説明できない違和感が漂っていた。
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■観測室
セラーナは端末を見つめている。
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表示されているのは一つだけ。
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『フィロメラ:同期率変動』
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■ミライ
「変動?」
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セラーナは答えない。
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表示だけが変化する。
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『+0.3% → −1.1% → +0.7%』
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■レイジ
「上がってんのか」
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「下がってんのか」
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「どっちだよ」
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セラーナは静かに言う。
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■セラーナ
「どちらでもない」
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「揺れてる」
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■レイジ
「揺れるってなんだよ」
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セラーナは数値を見つめたまま答える。
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■セラーナ
「……迷ってるみたい」
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■ミライ
「迷ってる?」
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■セラーナ
「分からない」
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一拍。
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「でも」
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「決まってない」
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その瞬間。
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艦内照明がわずかに揺れる。
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誰も気付かない。
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だが。
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セラーナだけが顔を上げた。
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■セラーナ
「……今」
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沈黙。
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■ミライ
「何?」
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■セラーナ
「近付いた」
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■レイジ
「だから何がだよ」
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セラーナは答えない。
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答えられなかった。
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■フィロメラ深層
そこは機械の内部ではない。
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暗闇でもない。
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空間でもない。
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ただ。
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白い残光と、
赤い揺らぎが重なっている。
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近付いて。
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離れて。
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また重なる。
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輪郭は見える。
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だが。
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まだ誰でもない。
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名前もない。
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ただ。
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そこには確かに意志があった。
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■アマテラス艦橋
突然。
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レイジが頭を押さえる。
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■レイジ
「……っ」
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■ミライ
「どうしたの!?」
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■レイジ
「なんか……来る」
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セラーナの表情が変わる。
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■セラーナ
「違う」
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一拍。
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「これは呼んでるんじゃない」
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■ミライ
「何が?」
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■セラーナ
「近付いてきてる」
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レイジの背筋が冷える。
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■レイジ
「なんだよそれ……」
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■外縁宙域
暗い宇宙。
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その奥。
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一筋の赤が走る。
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静かだった。
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だが。
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どこか懐かしい色だった。
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■フィロメラ深層
声はない。
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音もない。
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だが。
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確かに何かがいた。
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そして。
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『……まだ』
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その瞬間。
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レイジの視界が白く染まる。
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宇宙。
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閃光。
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そして。
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赤。
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誰かがいる。
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隣にいる。
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だが。
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顔だけが見えない。
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■レイジ
「今の……誰だ」
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誰も答えない。
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セラーナだけが小さく呟く。
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■セラーナ
「フィロメラ」
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■ミライ
「通信じゃないわよね」
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セラーナは首を振る。
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■セラーナ
「違う」
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一拍。
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「返してる」
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■レイジ
「何をだよ」
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■セラーナ
「……分からない」
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モニターの表示が変わる。
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『同期率:0.0% → 0.0% → 0.0%』
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■ミライ
「戻った……?」
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セラーナは首を振る。
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■セラーナ
「違う」
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「止まった」
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沈黙。
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それは安心できる言葉ではなかった。
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■セイラ通信
ノイズ混じりの声。
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■セイラ
『フィロメラに触れないで』
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■レイジ
「触れてねぇよ!」
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セイラの声は静かだった。
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だが硬い。
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■セイラ
『もう触れているの』
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■ミライ
「どういう意味かしら」
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短い沈黙。
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■セイラ
『レイジが中心になっている』
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空気が止まる。
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■レイジ
「は?」
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セラーナが表示を見る。
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■セラーナ
「……変ね」
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一拍。
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「フィロメラが」
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「あなたを見ている」
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レイジの顔から血の気が引く。
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■レイジ
「意味わかんねぇって……」
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その瞬間。
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艦内ログが更新される。
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『フィロメラ:応答待機』
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一拍。
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『対象:レイジ・イルマ』
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誰も動かない。
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■ミライ
「これ……戦闘準備じゃないわね」
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■セラーナ
「違う」
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一拍。
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「待ってる」