機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

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■第3巻 第8章 「静かな残響」

静かだった。

 

 

音はない。

 

 

光もない。

 

 

ただ。

 

 

海鳴りだけが続いている。

 

 

 

そこは存在しない。

 

 

誰にも観測されない。

 

 

誰にも記録されない。

 

 

それでも。

 

 

確かに残り続けていた。

 

 

 

■アムロ

 

「……また深くなったな」

 

 

静かな声だった。

 

 

長い時間。

 

 

あまりにも長い時間を越えてきた声。

 

 

 

■シャア

 

『深くなったんじゃない』

 

 

一拍。

 

 

『近付いた』

 

 

 

アムロは何も言わない。

 

 

ただ遠くを見る。

 

 

 

外縁宙域。

 

 

アマテラス。

 

 

そして。

 

 

境界。

 

 

 

■アムロ

 

「始まったか」

 

 

■シャア

 

『まだだ』

 

 

『始まる前だ』

 

 

 

沈黙。

 

 

敵同士だった。

 

 

長い時間。

 

 

互いを憎み続けた。

 

 

それでも。

 

 

今はこうして同じものを見ている。

 

 

 

■アムロ

 

「……変な話だな」

 

 

■シャア

 

『何がだ』

 

 

■アムロ

 

「お前と並んで同じ景色を見てる」

 

 

 

ノイズが揺れる。

 

 

 

■シャア

 

『歳を取ったんだろう』

 

 

■アムロ

 

「死んでるかもしれないぞ」

 

 

 

シャアが笑う。

 

 

小さく。

 

 

本当に小さく。

 

 

 

■シャア

 

『その可能性は否定できんな』

 

 

 

沈黙。

 

 

だが不思議と居心地は悪くない。

 

 

 

その時だった。

 

 

映像が揺れる。

 

 

 

白。

 

 

 

誰も知らない機体。

 

 

それでも。

 

 

どこか見覚えがあった。

 

 

 

■アムロ

 

「……いたのか」

 

 

■シャア

 

『見つけたようだな』

 

 

■アムロ

 

「違う」

 

 

一拍。

 

 

「見つけられた」

 

 

 

ノイズが走る。

 

 

白い機体。

 

 

その双眼が。

 

 

一瞬だけこちらを向いた。

 

 

 

アムロは目を細める。

 

 

■アムロ

 

「嫌な目だな」

 

 

■シャア

 

『ああ』

 

 

『迷いがない』

 

 

 

映像の中。

 

 

白い機体は静かだった。

 

 

静か過ぎる。

 

 

 

■アムロ

 

「そんな戦い方はしない」

 

 

 

ノイズが揺れる。

 

 

 

■シャア

 

『感情か』

 

 

■アムロ

 

「違う」

 

 

一拍。

 

 

「人間だ」

 

 

 

沈黙。

 

 

そして。

 

 

今度は赤。

 

 

 

巨大な影。

 

 

静かな圧力。

 

 

見る者の心を沈めるような存在感。

 

 

 

■シャア

 

『……来たか』

 

 

■アムロ

 

「知ってるのか」

 

 

■シャア

 

『いや』

 

 

一拍。

 

 

『だが』

 

 

『理解できてしまう』

 

 

 

アムロは何も言わない。

 

 

その言葉だけで十分だった。

 

 

 

映像が揺れる。

 

 

 

今度は。

 

 

レイジ。

 

 

 

フィロメラ。

 

 

白い光。

 

 

そして赤。

 

 

不安定なまま前へ進む姿。

 

 

 

■アムロ

 

静かに息を吐く。

 

 

「……似てないな」

 

 

■シャア

 

『ああ』

 

 

『だから面白い』

 

 

 

■アムロ

 

「お前は変わらないな」

 

 

■シャア

 

『変わったさ』

 

 

一拍。

 

 

『だから見ている』

 

 

 

海鳴りが揺れる。

 

 

遠く。

 

 

本当に遠く。

 

 

外縁宙域の向こうで。

 

 

何かが動き始めていた。

 

 

 

■アムロ

 

「……始まるな」

 

 

■シャア

 

『ああ』

 

 

一拍。

 

 

『今度こそ』

 

 

 

通信は途切れる。

 

 

だが。

 

 

海鳴りだけは消えない。

 

 

長い時間。

 

 

残り続けた想いのように。

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