外縁宙域は静かだった。
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警報は鳴らない。
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誰もが異常を理解しているのに。
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システムだけが、
何も起きていないと言い続けていた。
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■アマテラス艦橋
ミライがモニターを見る。
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「状況は?」
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オペレーターは困惑していた。
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「反応はあります」
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「ですが……」
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言葉が続かない。
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「危険判定が出ません」
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艦橋が静まる。
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見えている。
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だが。
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敵として認識されない。
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■レイジ
「なんだよそれ……」
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嫌な汗が流れる。
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敵が見えない訳じゃない。
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見えている。
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それなのに。
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本能だけが警鐘を鳴らしていた。
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■外縁宙域
そこに何かがいる。
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レーダーは沈黙。
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センサーも沈黙。
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だが。
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視界だけが、
確かにそれを捉えていた。
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空間が揺れる。
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近い。
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遠い。
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その感覚が曖昧になる。
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■フィロメラ
レイジは眉をひそめた。
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「……寒い」
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次の瞬間。
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視界が歪む。
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機体が揺れた訳じゃない。
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自分がズレた。
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そんな感覚だった。
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「っ!」
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身体が遅れて引き戻される。
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レイジが歯を食いしばる。
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「なんだ今の!」
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■艦橋
「被弾じゃない!」
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ミライの声が飛ぶ。
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「空間干渉よ!」
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■セラーナ
表示を睨む。
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「もう接触してる……」
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その瞬間。
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視界が白く染まる。
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誰かがいた。
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立っている。
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確かに。
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だが。
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見えた瞬間に消える。
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■レイジ
息を呑む。
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「今の……」
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呼吸が浅くなる。
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恐怖だった。
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だが。
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敵意に対する恐怖じゃない。
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見られている。
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理解されようとしている。
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そんな感覚だった。
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■フィロメラ
サイコフレームが赤く脈動する。
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一度。
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二度。
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三度。
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まるで何かを拒むように。
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■レイジ
「来るな……」
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知らず呟く。
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その時だった。
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ビームが走る。
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フィロメラの一撃。
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真っ直ぐ前へ伸びた光。
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確かに届いた。
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そう見えた。
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だが。
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消える。
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レイジの目が揺れる。
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「……は?」
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■艦橋
ジョブがモニターを見つめる。
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「当たってねぇ」
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沈黙。
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「いや……」
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ジョブの眉が寄る。
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「違うな」
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それ以上は言わない。
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だが。
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嫌な予感だけは確実に膨らんでいた。
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■外縁宙域
何かがいる。
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そこにいる。
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それだけは分かる。
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そして。
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ノイズが流れ込む。
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声じゃない。
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言葉じゃない。
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それでも。
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何かが押し寄せてくる。
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■レイジ
頭を押さえる。
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「うるせぇ……!」
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視界が反転する。
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そこに誰かがいた。
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レイジだった。
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もう一人のレイジ。
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静かに。
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ただ静かに。
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こちらを見ている。
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■レイジ
喉が震える。
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「……誰だ」
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返事はない。
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だが。
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視線だけは消えない。
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■艦橋
「レイジ!」
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ミライの声。
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「戻って!」
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■セラーナ
「レイジ!」
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声が遠い。
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レイジは理解する。
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理解したくなくても。
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これは戦闘じゃない。
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何かが。
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こちらへ触れようとしている。
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■外縁宙域
その瞬間。
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レヴナントが動く。
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初めて。
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確かに。
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■衝撃
フィロメラが弾かれる。
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今度は明確な衝撃だった。
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白い残光。
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一瞬だけ。
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機体の傍らへ現れる。
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そして。
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その隣。
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赤い気配。
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次の瞬間には消えている。
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レイジの呼吸が止まる。
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「ぐっ……!」
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■艦橋
「物理衝撃確認!」
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ミライが叫ぶ。
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セラーナは表示を見つめる。
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「戻ってる……」
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「境界が……戻り始めてる」
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■外縁宙域
距離が戻る。
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空間が戻る。
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だが。
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あれは消えない。
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そこにいる。
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確かに。
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存在している。