機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

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■第3巻 第14章 「白と赤の境界」

未接続領域。

 

 

そこは宇宙ではなかった。

 

 

闇。

 

 

だが、

虚無ではない。

 

 

時間も。

 

距離も。

 

音すらも。

 

 

意味を失っている。

 

 

ただ。

 

 

“止まった意思”だけが、

そこに存在していた。

 

 

 

■フィロメラ・コックピット

 

警告灯が赤く明滅する。

 

 

同期率上昇。

 

サイコフレーム反応増大。

 

観測位相、不安定化。

 

 

レイジは息を呑んだ。

 

 

フィロメラの前方モニター。

 

 

そこに広がっていたのは、

宇宙ではない。

 

 

黒い空間。

 

深すぎる静寂。

 

 

その中心。

 

 

静止したラー・カイラム。

 

 

そして。

 

 

その背後に浮かぶ、

二つの光。

 

 

白。

 

 

赤。

 

 

レイジの鼓動が跳ねる。

 

 

 

■アマテラス艦橋

 

艦橋全体が静まり返っていた。

 

 

誰も動けない。

 

 

モニターに映る光景を、

理解しきれない。

 

 

ミライが小さく息を呑む。

 

 

「まさか……」

 

 

その先を言えない。

 

 

言葉にした瞬間、

それは“現実”になってしまう。

 

 

 

■ジョブ・ジョン

 

顔色が変わる。

 

 

遠い記憶。

 

一年戦争。

 

ア・バオア・クー。

 

 

白いモビルスーツ。

 

赤い彗星。

 

 

過去が、

突然現在へ滲み出してくる。

 

 

「……なんで今さら」

 

 

掠れた声。

 

 

「お前達なんだよ……」

 

 

 

■未接続領域

 

白い光。

 

 

輪郭は曖昧。

 

 

だが、

その立ち姿だけで分かる。

 

 

アムロ・レイ。

 

 

そして。

 

 

赤い光。

 

 

こちらも不完全。

 

 

しかし、

圧倒的な存在感。

 

 

シャア・アズナブル。

 

 

それはノーネームではない。

 

 

英雄像の模写でもない。

 

 

オブリヴィオンでもない。

 

 

忘却に堕ちた赤でもない。

 

 

そこにあるのは、

かつて確かに生きた者達の残響だった。

 

 

 

■ブライト・ノア

 

ラー・カイラム艦橋。

 

 

ブライトは静かに目を閉じた。

 

 

「遅いぞ、お前達……」

 

 

苦笑。

 

 

その顔だけで、

どれほど長く独りだったかが分かった。

 

 

 

■レイジ

 

「ブライトさん!!」

 

 

叫ぶ。

 

 

今度は違う。

 

 

確かに。

 

 

声が届いた。

 

 

ブライトの目が、

ゆっくりこちらを見る。

 

 

■ブライト

 

「来るな」

 

 

即答だった。

 

 

レイジが固まる。

 

 

「は……?」

 

 

■ブライト

 

「ここはまだ、

人が入っていい場所じゃない」

 

 

赤い光が揺れる。

 

 

■シャア残響

 

『相変わらずだな、ブライト』

 

 

低い声。

 

 

静か。

 

 

だが。

 

 

その一言だけで、

未接続領域そのものが張り詰める。

 

 

ミライの呼吸が止まる。

 

 

「シャア……」

 

 

誰よりも。

 

 

その声を知っている。

 

 

 

■シャア残響

 

『人類はまだ同じ場所にいる』

 

 

『争い』

 

 

『執着』

 

 

『未練』

 

 

『残響』

 

 

赤い光が広がる。

 

 

未接続領域全体へ、

静かな重みが満ちていく。

 

 

 

■その時

 

白い光が動く。

 

 

■アムロ残響

 

『……違う』

 

 

艦橋が凍る。

 

 

その声。

 

 

優しく。

 

静かで。

 

どこか不器用な響き。

 

 

レイジの息が止まる。

 

 

理由は分からない。

 

 

でも。

 

 

涙が流れていた。

 

 

■アムロ残響

 

『それでも』

 

 

一拍。

 

 

『人は前へ進もうとする』

 

 

強さではない。

 

 

人間の声だった。

 

 

 

■シャア残響

 

沈黙。

 

 

赤い光が、

わずかに揺れる。

 

 

『甘いな、アムロ』

 

 

■アムロ残響

 

『そうかもな』

 

 

その返答に。

 

 

ほんの少しだけ。

 

 

空間の圧力が緩む。

 

 

 

■ジョブ

 

呆然としていた。

 

 

「なんなんだよ……これ……」

 

 

誰も答えない。

 

 

答えられない。

 

 

 

■ベルトーチカ

 

静かに前へ出る。

 

 

誰よりも強い目で。

 

 

白い光を見る。

 

 

その足が止まる。

 

 

声が出ない。

 

 

出るはずだった言葉が、

全部喉の奥で絡まる。

 

 

十七年。

 

 

長かった。

 

 

探した。

 

 

待った。

 

 

諦めようとした。

 

 

それでも。

 

 

諦めきれなかった。

 

 

だから。

 

 

今。

 

 

目の前にある白い光から、

目を離せない。

 

 

唇が震える。

 

 

そして。

 

 

ようやく声になる。

 

 

「……あなたね」

 

 

白い光が揺れる。

 

 

ほんの僅かに。

 

 

それだけで十分だった。

 

 

居る。

 

 

本当に居る。

 

 

ベルトーチカは目を閉じる。

 

 

笑いたい。

 

 

泣きたい。

 

 

怒りたい。

 

 

全部同時だった。

 

 

だから最初に出た言葉は。

 

 

「また全部ひとりで抱え込んで」

 

 

少しだけ声が震える。

 

 

「何も変わってないじゃない……」

 

 

怒っているようで。

 

 

責めているようで。

 

 

その実。

 

 

ずっと会いたかっただけだった。

 

 

長い沈黙。

 

 

誰も口を挟まない。

 

 

挟めない。

 

 

それは。

 

 

十七年間という時間そのものだった。

 

 

■アムロ残響

 

『……すまない』

 

 

その声に。

 

 

ベルトーチカの瞳が揺れる。

 

 

 

■ブライト

 

苦笑する。

 

 

「変わらんな、お前達は」

 

 

 

その瞬間。

 

 

空間が軋む。

 

 

未接続領域全体が震え始める。

 

 

■セラーナ

 

「まずい!」

 

 

「領域維持限界!!」

 

 

■ジョブ

 

「向こう側が崩れる!!」

 

 

白と赤の光が揺らぐ。

 

 

消えかける。

 

 

■レイジ

 

「待て!!」

 

 

叫ぶ。

 

 

その瞬間。

 

 

アムロ残響が、

初めてレイジを見る。

 

 

真正面から。

 

 

■アムロ残響

 

『お前は……』

 

 

言葉が止まる。

 

 

まるで。

 

 

誰かを思い出しかけるように。

 

 

■シャア残響

 

『なるほど』

 

 

赤い光が揺れる。

 

 

『だからか』

 

 

■レイジ

 

「なんだよ……」

 

 

「俺がなんだってんだよ!!」

 

 

答えは返らない。

 

 

未接続領域が崩壊していく。

 

 

白。

 

 

赤。

 

 

二つの光が、

闇へ溶けていく。

 

 

最後に。

 

 

アムロの声だけが残る。

 

 

『まだ終わってない』

 

 

接続断絶。

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