機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

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はじめに

『機動戦士ガンダム:残響』第4巻『境界の名前』を手に取っていただき、本当にありがとうございます。

この巻では、「境界」という言葉を一つのテーマとして描きました。

現実と記録。

人とレヴナント。

過去と現在。

そして、人が「自分」であり続けるための境界。

戦いの中で失われたもの。

忘れられたもの。

名前すら届かなくなった存在。

それでも、人は誰かを呼び、誰かを想い、その繋がりの中で再び自分を取り戻していきます。

第4巻は、大きな戦闘よりも、「存在が帰ってくる物語」になりました。

その先に待つ未来が、希望なのか、それとも新たな戦いなのか。

それは、まだ誰にも分かりません。

『境界の名前』という物語を、最後まで楽しんでいただければ幸いです。


第4巻『境界の名前』
■第4巻 プロローグ 「海の声」


地球。

 

 

早朝。

 

 

海は静かだった。

 

 

風だけが、

白い波を揺らしている。

 

 

■地中海沿岸・某所

 

白い館。

 

 

そのバルコニーに、

一人の女性が立っていた。

 

 

■セイラ・マス

 

静かに海を見ている。

 

 

だが視線は、

海にはなかった。

 

 

もっと遠く。

 

 

届かない場所。

 

 

■セイラ・マス

 

「……またなのね」

 

 

波の音だけが続く。

 

 

その時だった。

 

 

■“声”

 

『戻ってきて!!』

 

 

セイラの瞳が揺れる。

 

 

■ベルトーチカの残響

 

『アムロ!!』

 

 

通信ではない。

 

夢でもない。

 

 

誰かの感情だけが、

遠い場所から届いている。

 

 

セイラは目を閉じる。

 

 

■セイラ・マス

 

「兄さん……」

 

 

海風が吹く。

 

 

その瞬間。

 

 

世界がわずかに軋んだ。

 

 

青い海が揺れる。

 

 

赤。

 

 

白。

 

 

二つの色が、

波の奥で重なった。

 

 

■セイラ・マス

 

「……まさか」

 

 

遠い。

 

 

けれど確かに感じる。

 

 

孤独。

 

 

ひどく静かな孤独。

 

 

■???

 

『……ひとりは』

 

 

セイラの呼吸が止まる。

 

 

■???

 

『嫌……』

 

 

知らない声だった。

 

 

だが。

 

 

どこか懐かしい。

 

 

胸の奥が痛むほどに。

 

 

■セイラ・マス

 

「あなたは……」

 

 

一瞬だけ。

 

 

赤い軍服。

 

 

仮面。

 

 

背を向けて歩く男。

 

 

そして。

 

 

振り返ることのなかった後ろ姿。

 

 

■セイラ・マス

 

「……兄さん」

 

 

映像は消える。

 

 

残ったのは、

海だけだった。

 

 

電子音。

 

 

室内通信。

 

 

■カイ・シデン(通信)

 

『……嫌な感じがするな』

 

 

■セイラ・マス

 

「あなたまで?」

 

 

■カイ・シデン

 

『また始まる顔してるぞ』

 

 

セイラは海を見る。

 

 

■カイ・シデン

 

『今度は何だ?』

 

『戦争か?』

 

 

■セイラ・マス

 

「違うわ」

 

 

波の音。

 

 

風。

 

 

■セイラ・マス

 

「今度は……」

 

 

一拍。

 

 

■セイラ・マス

 

「終わっていないの」

 

 

沈黙。

 

 

■カイ・シデン

 

『……そうかよ』

 

 

通信が切れる。

 

 

静寂。

 

 

背後から、

穏やかな声が届く。

 

 

■マルク・ハインツ

 

「お嬢様」

 

 

セイラは振り返らない。

 

 

■マルク

 

「また海を見ておられますな」

 

 

■セイラ・マス

 

「ええ」

 

 

■マルク

 

「良くない顔をしております」

 

 

セイラは少しだけ笑う。

 

 

■セイラ・マス

 

「あなたまで同じことを言うの?」

 

 

■マルク

 

「カイ様にも言われましたかな」

 

 

セイラは答えない。

 

 

波の音だけが続く。

 

 

■マルク

 

「迎えに行かれるのですか」

 

 

沈黙。

 

 

セイラは海を見る。

 

 

遥か遠く。

 

 

まだ届かない場所を。

 

 

■セイラ・マス

 

「ええ」

 

 

一拍。

 

 

■セイラ・マス

 

「今度こそ」

 

 

マルクは何も言わない。

 

 

ただ静かに頭を下げた。

 

 

小さな足音。

 

 

セイラが振り返る。

 

 

そこには、

少女の後ろ姿。

 

 

長い淡金髪。

 

 

白いワンピース。

 

 

■少女

 

「……お母様?」

 

 

セイラの瞳が揺れる。

 

 

ほんの一瞬だけ。

 

 

別の誰かの面影が重なる。

 

 

だが。

 

 

セイラは首を振った。

 

 

■セイラ・マス

 

「違うわ」

 

 

少女が首を傾げる。

 

 

■セイラ・マス

 

「あなたは、あなたよ」

 

 

少女は意味が分からないまま、

小さく笑う。

 

 

セイラも微笑む。

 

 

だがその瞳は、

海の向こうを見ていた。

 

 

■セイラ・マス

 

(もし本当に始まるのなら)

 

 

波が揺れる。

 

 

海鳴り。

 

 

深蒼。

 

 

■セイラ・マス

 

(今度こそ迎えに行く)

 

 

遠い宇宙で、

何かが動き始めていた。

 

 

■第4巻 プロローグ

 

「海の声」 END

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