「覚醒」
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地下格納庫。
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冷たい空気が、
コンクリートの奥へ沈んでいた。
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白い巨人が、
暗闇の中で静かに立っている。
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フィロメラ。
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セイラは、
発光するツインアイを見上げたまま動けなかった。
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起動していない。
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そのはずだった。
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エネルギーラインは遮断済み。
制御系も停止状態。
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なのに。
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機体は、
まるで呼吸しているみたいに微かに脈動していた。
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胸部フレーム奥。
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赤い光が、
静かに明滅している。
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鼓動。
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そう見えてしまう。
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セイラは目を伏せる。
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「……嫌な感じね」
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その時。
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格納庫奥の隔壁が開く。
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「また反応しておりますなぁ〜」
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低く落ち着いた声。
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マルクだった。
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黒い執事服。
白手袋。
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だがその手には、
整備用端末が握られている。
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執事。
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そして。
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フィロメラ整備主任。
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セイラは小さく息を吐く。
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「“また”って言うの、
やめてくださる?」
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マルクは苦笑する。
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「しかし事実ですので」
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彼はフィロメラを見上げる。
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白い装甲。
静かな巨体。
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だが。
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胸部フレーム奥では、
赤い光だけが脈動している。
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マルクの表情が、
わずかに曇る。
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「……妙ですな」
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セイラが振り返る。
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「何が?」
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「電源は落ちております」
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「制御系も停止状態です」
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一拍。
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「ですが……」
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マルクは小さく目を細めた。
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「どうにも、
そう見えんのです」
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セイラは再びフィロメラを見る。
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白い装甲。
金のライン。
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そして。
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鼓動のように脈打つ赤い光。
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「……そうね」
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短い返答。
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だが。
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二人とも同じ違和感を抱いていた。
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機械を見ているはずなのに。
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まるで。
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誰かが眠っているような感覚。
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マルクは静かに呟く。
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「長いこと見ておりますが……」
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「こんな反応は初めてですな」
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沈黙。
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格納庫の空気が重い。
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やがて。
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マルクは小さく息を吐いた。
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「まるで」
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一拍。
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「誰かを待っているようです」
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セイラの呼吸が、
わずかに止まる。
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アクシズの光を思い出す。
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あの時も。
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世界は、
こんな色をしていた。
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セイラの呼吸が浅くなる。
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その瞬間。
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格納庫の空気が、
わずかに“ズレた”。
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セイラの視界が揺れる。
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ノイズ。
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一瞬だけ。
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“誰か”がこちらを見ていた。
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そんな感覚。
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セイラは反射的に振り返る。
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誰もいない。
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だが。
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確かに何かがいた。
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別室。
観測ブロック。
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薄暗いモニタールームで、
セラーナ・カーンは無言のまま波形を見つめていた。
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フィロメラのサイコフレーム波形。
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数値自体は異常じゃない。
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だが。
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構造が違う。
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波形が、
まるで“自分自身を観測している”。
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セラーナは小さく息を吐く。
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「……接続が始まってる」
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背後の技術員が振り向く。
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「何がです?」
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セラーナは答えない。
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答えられなかった。
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まだ。
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言葉に出来る段階じゃない。
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だが理解していた。
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これは戦闘兵器じゃない。
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もっと曖昧で。
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もっと深い場所へ触れている。
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“記録”そのものへ。
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その時。
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警報。
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基地全域が赤く染まる。
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『高高度降下艇接近』
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『所属不明部隊確認』
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観測ブロックの空気が変わる。
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技術員達が一斉にモニターへ向かう。
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警報音。
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通信ノイズ。
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走る足音。
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静かだった施設が、
一瞬で軍事施設の顔を取り戻していく。
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セラーナはモニターへ視線を向ける。
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高高度から接近する複数の降下艇。
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識別信号なし。
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だが。
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その飛行パターンには見覚えがあった。
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「……来たか」
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誰にも聞こえない声。
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技術員が振り返る。
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「敵ですか?」
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セラーナは少しだけ考える。
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そして。
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静かに首を振った。
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「違う」
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一拍。
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「これは回収よ」
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技術員が顔を曇らせる。
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その意味を理解したからだ。
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回収。
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保護。
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管理。
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連邦はいつだって、
都合の悪いものへ別の名前を付ける。
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モニター映像が切り替わる。
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海上。
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雨の中を降下する黒い輸送艇。
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重厚な機体。
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軍用仕様。
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中央には、
赤い識別コードが表示されていた。
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サイコフレーム管理局。
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近年設立された、
サイコフレーム関連技術を管理する
連邦直属機関。
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表向きは研究管理組織。
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だが。
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実際には違う。
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異常を隔離し。
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解析し。
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管理する。
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そのための組織だった。
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セラーナは小さく目を閉じる。
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嫌な予感がしていた。
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ずっと前から。
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フィロメラの反応が始まった時から。
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連邦は必ず動く。
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そう思っていた。
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格納庫。
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同時刻。
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警報音が鳴り響く。
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赤色灯が点滅する。
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セイラとマルクが同時に振り返る。
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『高高度降下艇接近』
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『所属不明部隊確認』
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『警戒レベル上昇』
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機械音声が続く。
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マルクの表情が引き締まる。
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「お客様ではなさそうですな」
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セイラはモニターへ目を向ける。
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そこに映っていたのは、
雨雲を切り裂きながら降下する黒い輸送艇。
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そして。
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赤い識別コード。
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セイラの表情が僅かに変わる。
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「管理局……」
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マルクが低く呟く。
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「思ったより早かったですな」
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セイラは答えない。
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ただ。
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静かにフィロメラを見る。
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白い機体。
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静かな巨人。
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その胸部では今も。
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赤い光が脈動している。
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まるで。
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何かを知っているように。
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何かを待っているように。
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その瞬間。
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フィロメラの赤い光が、
一段階強く明滅した。
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セイラの目が見開かれる。
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マルクも息を呑む。
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誰も触れていない。
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誰も起動していない。
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それでも。
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機体は反応していた。
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赤。
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白。
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赤。
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一瞬だけ。
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ツインアイが白く揺らぐ。
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ほんの一瞬。
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見間違いだと、
言い切れない程度の時間。
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だが。
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確かに。
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何かがそこにいた。
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セイラの胸が強く鳴る。
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アクシズ。
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あの光。
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あの日の記憶。
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忘れたことなど一度もない。
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そして。
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フィロメラの奥で。
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誰にも聞こえないはずの声が、
微かに響いた気がした。
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それは言葉にならない。
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音ですらない。
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ただ。
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長い海の底から届く。
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海鳴りのような何か。
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セイラは目を閉じる。
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祈るように。
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願うように。
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そして。
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誰にも聞こえない声で呟いた。
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「……もう少しだけ待っていて」
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返事はない。
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だが。
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フィロメラの胸部フレームは、
もう一度だけ静かに脈動した。
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まるで。
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その問いへ応えるように。
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雨音だけが、
静かに響いていた。