機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

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■第4巻 巻末外伝 ■アマテラスの日常 「お化け」

夜。

 

アマテラス。

 

 

通路。

 

 

誰もいない。

 

 

■セラーナ・カーン

 

「……」

 

 

暗い。

 

 

静か。

 

 

ギシッ

 

 

■セラーナ

 

「ひっ」

 

 

振り返る。

 

 

誰もいない。

 

 

■セラーナ

 

「……気のせいです」

 

 

歩き出す。

 

 

ギシッ

 

 

■セラーナ

 

「ひぃっ!」

 

 

また振り返る。

 

 

誰もいない。

 

 

■セラーナ

 

「…………」

 

 

少し早歩き。

 

 

角を曲がる。

 

 

白い影。

 

 

■セラーナ

 

「きゃああああああ!!」

 

 

■レイジ

 

「うおっ!?」

 

 

■セラーナ

 

「お、お化けぇぇぇぇ!!」

 

 

■レイジ

 

「俺だよ!!」

 

 

■セラーナ

 

「レイジ君!?」

 

 

■レイジ

 

「何してんだよ」

 

 

■セラーナ

 

「だ、だって今、白い影が!」

 

 

■レイジ

 

「俺のシャツだよ」

 

 

沈黙。

 

 

■レイジ

 

「怖いのか?」

 

 

■セラーナ

 

「違います」

 

 

■レイジ

 

「今、悲鳴上げてただろ!(笑)」

 

 

■セラーナ

 

「警戒です」

 

 

■レイジ

 

「へー。そうなんだ」

 

 

歩き出す。

 

 

■セラーナ

 

(ぴたっ)

 

 

■レイジ

 

「なんで後ろ来るの?」

 

 

■セラーナ

 

「偶然です」

 

 

■レイジ

 

「服掴んでるぞ」

 

 

■セラーナ

 

「偶然です」

 

 

■レイジ

 

「無理があるわっ!」

 

 

沈黙。

 

 

■セラーナ

 

「わ、私……」

 

 

ガタガタ。

 

 

■セラーナ

 

「じ、実は……

お、お化けは苦手なんですぅ……」

 

 

■レイジ

 

「ん?」

 

 

■レイジ

 

「んじゃ、あのシャアって人と親父は?」

 

 

■セラーナ

 

「え?」

 

 

■レイジ

 

「あの人ら」

 

 

■レイジ

 

「どう考えてもお化けだろ」

 

 

沈黙。

 

 

■セラーナ

 

「…………?」

 

 

■セラーナ

 

「言われてみればそうでした……」

 

 

■レイジ

 

「今気付いたのかよっ!?」

 

 

■セラーナ

 

「観測対象なので」

 

 

■レイジ

 

「意味わかんねぇ!!」

 

 

■セラーナ

 

「そもそも残留思念体と、

お化けはまったく別物です」

 

 

■レイジ

 

「何が違うんだよ」

 

 

■セラーナ

 

「残留思念体は、

サイコフレームを介して現実へ干渉する、

観測可能な思念現象です」

 

 

■レイジ

 

「うん」

 

 

■セラーナ

 

「お化けは……」

 

 

沈黙。

 

 

■レイジ

 

「お化けは?」

 

 

■セラーナ

 

「…………お化けです」

 

 

■レイジ

 

「説明諦めたな!?」

 

 

■セラーナ

 

「違います!」

 

 

■レイジ

 

「じゃあ何が怖いんだよ」

 

 

■セラーナ

 

「だって……」

 

 

小声。

 

 

■セラーナ

 

「……急に出てくるじゃないですか」

 

 

■レイジ

 

「シャア達も急に出てくるぞ」

 

 

■セラーナ

 

「…………」

 

 

■レイジ

 

「しかも勝手に喋るぞ」

 

 

■セラーナ

 

「…………」

 

 

■レイジ

 

「たまに人の頭ん中にも入ってくるぞ」

 

 

■セラーナ

 

「…………」

 

 

■レイジ

 

「お化けより怖くね?」

 

 

長い沈黙。

 

 

■セラーナ

 

「……観測対象なので大丈夫です」

 

 

■レイジ

 

「便利だな!!

“観測対象”って言葉!!」

 

 

その時。

 

 

ギシッ。

 

 

二人。

 

同時に止まる。

 

 

■レイジ

 

「…………」

 

 

■セラーナ

 

「…………」

 

 

■レイジ

 

「今の何?」

 

 

■セラーナ

 

「知りません」

 

 

■レイジ

 

「観測しろよ」

 

 

■セラーナ

 

「嫌です」

 

 

■レイジ

 

「即答!?」

 

 

その時。

 

 

通路の奥から声。

 

 

■アムロ

 

「違うっっ!!」

 

 

■レイジ

 

「……え?」

 

 

暗闇の奥。

 

 

人影。

 

 

■アムロ

 

「誰がお化けだ!!

俺たちは残留思念体だ!!」

 

 

■レイジ

 

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 

 

■セラーナ

 

「ぎゃあああああ!!」

 

 

■アムロ

 

「なんでだぁ!?」

 

 

アマテラスの夜に、

 

二人の悲鳴と、

 

理不尽な抗議が響いた。




あとがき

第4巻『境界の名前』、最後までお読みいただきありがとうございました。

今回は、これまでの『残響』の中でも、かなり不思議な巻になったと思います。

戦っているようで、戦っていない。

敵がいるようで、誰が敵なのかも分からない。

現実と記録、過去と現在、人間と残響。

その境界そのものが少しずつ曖昧になっていく中で、レイジ達はブライト・ノアを取り戻すため、未接続領域のさらに深い場所へ踏み込んでいきました。

そして。

この第4巻で描きたかったもう一つの大きな軸が、エリシアです。

彼女は突然生まれたわけではありません。

最初から、エリシアはエリシアでした。

ただ。

名前も、記憶も、自分が誰なのかさえ届かない場所にいた。

反射し。

模倣し。

言葉を覚え。

感情に触れ。

「ひとりは嫌」と願い。

少しずつ、自分自身へ帰っていく。

だから、第24章でセイラが「エリシア」と呼んだ瞬間も、彼女に新しい名前を与えたわけではありません。

ずっとそこにいた少女を、ようやく名前で呼ぶことができた。

そんな場面として書きました。

「名前を与えたんじゃない」

「戻ってきた」

この二つの言葉が、第4巻『境界の名前』というタイトルの意味そのものなのかもしれません。

そしてもう一人。

この巻では、ブライト・ノアという人物の存在についても、改めて考えながら書きました。

ニュータイプでもない。

モビルスーツに乗るわけでもない。

それでも彼は、いつも戦場にいました。

アムロやシャアをはじめ、多くの人間が迷い、戦い、時には人間という境界すら越えてしまいそうになる中で、それでも現実に立ち続ける人。

だから『残響』では、ブライトを「錨」として描いています。

帰ってくるためには、帰る場所が必要だから。

そして。

第4巻で境界の向こうから帰ってきたものは、ブライトだけではありませんでした。

エリシアもまた、自分の名前へ帰ってきた。

では。

帰ってきた彼女は、これから何を見るのか。

アムロとシャアは、どこへ向かうのか。

レイジは、この不可思議な現象の中で何を選ぶのか。

そして『残響』そのものは、彼らをどこへ連れていくのか。

物語は、まだ途中です。

理解できないものは、まだたくさんあります。

それでも。

理解できないからこそ、人は誰かを知ろうとする。

理解し合えないから、人は惹かれる。

そんな『残響』の物語に、もう少しだけお付き合いいただければ嬉しいです。

それでは。

第4巻『境界の名前』。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。

また、第5巻で。
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