機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

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■第5巻 第2章 「揺れる海」

外縁宙域。

 

 

ブライト拘束領域は、

依然として安定していない。

 

 

だがそれは、

崩壊ではなかった。

 

 

■“失われた存在が、

再び定義され始めている状態”

 

 

 

■アマテラス艦橋

 

静寂。

 

 

警報は鳴っていない。

 

 

その事実そのものが、

艦内の緊張を深めていた。

 

 

■ミライ

 

「……音が無い方が怖いなんてね」

 

 

 

■セラーナ

 

モニターを見つめたまま呟く。

 

 

「違う」

 

 

「戦闘が止まってるんじゃない」

 

 

「“戻り始めてる”のよ」

 

 

 

■ジョブ・ジョン

 

低く息を吐く。

 

 

「来るな……」

 

 

「今度は、

“人間側”だ」

 

 

 

■外縁宙域

 

白いノイズ。

 

 

その中心で、

少女の輪郭だけが揺れている。

 

 

■エリシア

 

『……レイジ』

 

 

声は届いている。

 

 

だが。

 

 

まだ、

どこにも完全固定されていない。

 

 

 

■エリシア

 

『ここ……どこ?』

 

 

 

戦場ログが揺れる。

 

 

ザク。

 

ジム。

 

百式。

 

νガンダム。

 

サザビー。

 

 

無数の戦争記録。

 

 

だが、

誰も攻撃しない。

 

 

■“記憶だけが残っている戦場”

 

 

 

■レイジ

 

コクピットで、

静かに息を吐く。

 

 

「またかよ……」

 

 

 

■エリシア

 

『こわい』

 

 

 

■レイジ

 

「ああ」

 

 

「そりゃ怖ぇよな」

 

 

少しだけ間。

 

 

そして。

 

 

■レイジ

 

「でも」

 

 

「お前は、

もうここへ戻ってきてる」

 

 

 

その瞬間。

 

 

フィロメラのサイコフレームが、

淡く白く脈動する。

 

 

 

■アマテラス艦橋

 

 

■セラーナ

 

「接続安定……違う」

 

 

「存在定義が戻り始めてる」

 

 

 

■ミライ

 

「戻ってるの……?」

 

 

 

■セラーナ

 

「分からない」

 

 

一拍。

 

 

「でも」

 

 

「消えなくなり始めてる」

 

 

 

■外縁宙域

 

エリシアは、

自分の両手を見る。

 

 

指がある。

 

 

掌がある。

 

 

胸へ触れれば、

そこに自分がいる。

 

 

けれど。

 

 

それが本当に自分なのか。

 

 

まだ、

分からなかった。

 

 

名前も。

 

記憶も。

 

この身体さえも。

 

 

誰かから与えられたものなのか。

 

自分で選んだものなのか。

 

 

それすら、

まだ曖昧だった。

 

 

ただ。

 

 

一つだけ。

 

 

聞こえている声がある。

 

 

■レイジ

 

「エリシア」

 

 

呼ばれた。

 

 

その音だけは、

不思議と怖くなかった。

 

 

 

■エリシア

 

ゆっくり、

胸へ手を当てる。

 

 

 

■エリシア

 

『わたしは……』

 

 

揺らぐ。

 

 

遠くで。

 

 

誰かが呼んだ気がした。

 

 

海の向こうから。

 

 

長い時間の向こうから。

 

 

そして。

 

 

■エリシア

 

『……エリシア』

 

 

それは、

思い出した名前ではなかった。

 

 

誰かに教えられた答えでもない。

 

 

今。

 

 

初めて自分の口で、

自分へ返した名前だった。

 

 

 

その瞬間。

 

 

世界の揺れが、

一瞬だけ静止する。

 

 

 

■地球・地中海沿岸

 

夜明け前の海。

 

 

セイラ・マスが、

静かに海を見つめている。

 

 

理由は分からない。

 

 

けれど。

 

 

ずっと遠くにあった何かが、

ほんの少しだけ近づいた。

 

 

そんな気がした。

 

 

 

■セイラ・マス

 

「……届いたのね」

 

 

 

海面が揺れる。

 

 

波ではない。

 

 

■“観測の応答”

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