機動戦士ガンダム0080FUMO   作:wash I/O

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4.September / settember 0079

「実は……公務員になろうかと思ってる。」

 

 ドゥーリにそう言われて、「なるほど、そう来たか!」とボクは内心ほくそ笑んだ。

 同時に、どうしてこの場にギエリ、ペイデルが誘われなかったのかについても得心がいった。あいつらは開口一番「阿呆か、おまえは!」と茶化したに決まっているからだ。

 

 11年次に進んで1ヶ月ほど過ぎた9月の半ば、学校でドゥーリから「相談したいことがある」と声を掛けられた。ボクは、極自然にギエリとペイデルも呼ぼうとしたが、これはドゥーリに阻止された。

 

「あいつらでは話にならない。」

 

とのこと。

 

「もし次の祝日、キミのお父さんが仕事であるならキミの家で語らいたい。」

 

 実際、祈りの祝日(ベターク)は父さんは仕事だったのでボクはこの申し出を快諾した。

 ボクが9年次に至って以降、父さんはより幼い子のいる同僚に祝祭日の非番を譲るようになった。どうもドゥーリは、それを承知の上でこれを持ち掛けた感じだ。

 

 否応なくボクは、もちろん秘密にしたままの、まだ記憶に新しいギエリとの一件を思い出した。

 あれからギエリとスタスィア、あるいはビニャとの間に何か進展があった様子はないが、自身の家族やボクの父さん、ギエリ、ペイデルをも遠ざけて持ち掛けられる相談、となると、ボクには女の子絡みの話としか思えなかった。あのドゥーリがよりによってこのボクに、という気はしないでもないが、今のところボク自身にそういう要はないものの、逆の立場にあれば同じようにしたかも知れない、という思いはある。

 

 ところが。

 

 蓋を開けてみれば、約束通りボクの家を訪ねて来たドゥーリが、勧めるハーブティーに口もつけずに開口一番言い出したのは、予想もしなかった公務員志望だった。

 

 グラウビュンデンにおける公務員、厳密に言えば就職先となる下級公務員は、言葉は悪いが底辺の職業で、生活保護の性格すら有するものだ。要するに、箸にも棒にも掛からない無能に、食うに困らぬ(すべ)と社会参加の機会を与えるべくある雑用係、という側面がある。

 対して上級公務員は就任に選挙当選を要するもので、事実上グラウビュンデンの支配者は彼らだ、ということにはなるものの、4年毎の選挙に落選すればたちまちに失職するし、1年ずつずらして4組からなる非改選時であっても名指しで一定数以上の欠格要求があるとやはり失職するという代物。しかも選挙権者の評価を直接左右する日々の政策は()()下級公務員を使って実現しなければならないのだから、決して誰もがやりたがる仕事ではない。

 義務教育を終えた学生が見習い生(レルネンデ)として奉職できるのはもちろん下級公務員のみで、職業学校については制度上は任意の選択が可能でドゥーリもそうするのだろうが、教習事業所(レーア・ベトリーブ)に役所を選ぶような輩は適正試験に合格できない場合がほとんどで、こういった手合には義務教育の最低限のおさらいをおこなう補助学校、と呼ばれるものが用意されていた。

 もちろんそんなことは(みな)よく承知しているので、ギエリ、ペイデルがドゥーリの公務員志望を知れば、いつぞやの意趣返しに「大人への第一歩に白旗掲げてご登場とは!」と煽って喧嘩になるのは日を見るより明らかだった。

 

 では、ボクがたちまちにそういった態度を取らないのは何故か?

 

 上級公務員の被選挙権は等しく全市民にあるが、実質的にはまず兵役を終えていること……つまりこの時点で女性の多くには分が悪い……が求められ、加えて、家業を子弟に譲った事業の成功者が立候補する場合を除けば上級公務員を目指す専門学校の卒業者がほとんどだが、後者は私立学校で事実上は上級公務員の子弟以外には門戸を閉ざしている。

 つまるところ、ドゥーリが、

 

「所詮、ここは旧世紀中世よろしくの世襲社会なのさ。」

 

と諦観混じりに嘯くのはまったくもって正しいのだが、ここには一つ抜け穴があった。

 軍隊にあっても、極稀に一般士卒からその資質を見出されて士官に昇る者があるように、下級公務員にも目立って優れた働きをした者を、局長級以上の推挙を経て上級公務員候補に薦める制度がある。叩き上げの政治家、ということになるが、ドゥーリの狙いはこれであるに違いなく、あぁ、我らが4人組の頭脳担当らしい深慮遠謀だ、とボクは感じ入った。

 

 のだが。

 

「キミは何か勘違いしているようだが。」

 

 と、ここで言葉を切ってハーブティーを一口啜るドゥーリ。

 

「ボクは、選挙に出るなんて恥ずかしい真似をするつもりは毛頭ないんだ。」

「……はぁ?」

 

 更に予想を裏切る展開に……それ以上に、ボクがまだ何も言っていないのに頭の中を読まれて、ボクはただ、ぽかん、と口を開けて間抜けな声を漏らすしかなかった。

 

「じゃぁ……なんでまた公務員なのさ?」

 

 いささか無作法だ、とは思いつつも、それでも問わずにはいられなかったボクは敢えてそう直言した。

 ベッドに腰掛けるボクに対し、ボクの椅子に座ったドゥーリは、ボクの様子を楽しむような微笑みを浮かべながら、ボクの問うたところとはまったく無関係なこと……でもないのか?……を話し始めた。

 

「歴史の教科書を始めとして関連する書籍は、それぞれに浅深の差こそあれ口を揃えて旧世紀の末に人類が中近世の悪弊を振り払って民主主義を手に入れたと語るを好むか、あるいはそれを暗黙の前提とするが、有り体に言えばアレは大嘘だ。」

「はぃ?」

 

「民主政自体は古代から連綿と続く人類社会に普遍的な統治の一形態に過ぎず、それがもっとも優れているという証明は現代に至るまでもなされてはいない。」

「いや、待って!待って!」

 

 たまらずボクは悲鳴をあげた。

 ドゥーリは、きょとん、とした顔で「なんだ?」と言いたげだが、それはこっちの台詞だ。

 

「いったい何なんだい、藪から棒に?」

 

 辛うじてボクはそう応じたが、ドゥーリは変わらず涼しい顔だった。

 

「すまない、やや抽象に過ぎたかも知れない。では言いを換えよう。

 ボクらはあまりにも聞き分けが良すぎる……そう思ったことはないかい?」

 

「それ……ギエリも含めて言ってる?」

 

 何とかこの緊張感を和らげようとボクは冗談めいた口調でそう問うてみたが、やはりドゥーリは顔色を変えなかった。

 

「確かに彼は直截(ちょくさい)に過ぎるけど、越えてはならない一線がわからない(やつ)じゃない。」

 

 いやいや……ちょっとヤバかったんだよ、とボクは投石未遂の一件をバラしてしまいたい衝動に駆られたが(すんで)のところで踏み(とど)まった。男と男の約束は守らねばならない。

 

「大人もそうだ。先生たちも相談員も、ボクらの親だって、(みな)厳しくはあるが物分かりがよく、決して理不尽を押し付けてくることはない。そう見えることがあるとしても、それは言われるボクらがその理路をまだ理解していないときであって、わかってしまえばなるほど、と思うことばかりだ。」

 

 どうにもドゥーリの物言いは、言っていることはわかるし如何にも彼らしいし、何より自身考えたこともなかったことながらも納得させられるものではあったが、それでもボクには彼の言わんとすることがよくわからなかった。

 

 続く言葉が発せられるまでは。

 

「思い出してみてくれ。

 いつの間にか見なくなった同級生……いるだろ?」

 

「……!」

 

 ボクら自身がその最終年次に至った義務教育は、無条件に進級を許すものではない。ボク自身の実感としては普通にやっていれば何の問題もないものに過ぎなかったが、稀に落第したり不適合と判断されて留年するか、あるいはそういった子どもたちのケアを目的とした特別な学校に送られる者があった。

 が、ドゥーリにこうして問われるまで、それを特に意識することはなかったように思う。と言うのも、そういった羽目に陥る子たちは、おしなべてボクからすれば話の通じない子であって、会釈以上の付き合いがなく、ある時点から教室で顔を合わせなくなったとしても何の印象も残さなかったからだ。

 

「言わばボクたちはその上澄みだ。大人たちもまたその延長線上にある。

 かくして我らがグラウビュンデンは、宇宙戦争が報じられる最中(さなか)も理知的な平穏を享受している、というわけさ。」

 

 ボクは最早、衝撃を受けたことを隠すことが叶わなかった。

 ドゥーリの考えそのもの、もさることながら、彼の主張は、ボクが今般の紛争勃発が報じられて以降、漠然と感じ続けて来た不安の鏡像であるような気がしたからだ。

 

「……で。」

 

 と、ボク。

 ドゥーリは相変わらず涼しい顔をしているが、その目は挑発的にこちらに向けられている感じがする。彼が開陳してみせたこの考えに、こちらがどう反応するかを興味深く待ち構えているかのように。

 

「で、ドゥーリは公務員になってどうするつもりなの?」

 

 一旦はボクが思い浮かべた上級公務員を目指す野心を言わずもがなに否定してみせたドゥーリだが、言っていることはまるで世界の真実を暴く革命家のそれだ。

 こんなことを問うて正直に本心を語ってくれると期待するのもどうかしていると思わなくもないが、それでも、彼がこれを語る相手にボクを選んでくれたのは紛れもない事実。だからボクは、敢えて間抜けを演じる覚悟でそう尋ねたが、ドゥーリの返答はこれまた想像の斜め上だった。

 

「どうもしないよ。ボクはペイデルのご両親の顰に倣うつもりだ。」

「……はぁ?」

 

 またも文脈を無視したまったく予期せぬ友人の名が持ち出され、ボクは自分で覚悟した以上の間抜けな声を漏らしてしまった。

 

「ランセル夫妻は銀行員、なんてお堅い仕事をされておいでだが、別に州の経済に特別の関心があってやっておいでなわけではない。あのお二人にとっては、自分たちのやりたいことに見合う収入をもたらす仕事がたまたま銀行員だった、ただそれだけのことさ。」

 

 ペイデルのご両親の鉄道模型趣味はサメーダンでは有名で、自宅のリビングには正確に1/87の縮尺で再現されたランドヴァッサー橋がある。そこをたくさんの貨車を牽いて走行するGe663の精巧な自作模型は、実物の面倒を見ているボクの父さんも舌を巻くものだった。

 

「幸いにしてボクのやりたいことにそこまでの収入は必要ない、ペンと図書館があれば足りるからね。であれば、糊口を凌ぐ(すべ)はご夫妻のようなストレスフルなものである必要はまったくなく、グラウビュンデンで最も気楽な仕事であるに()くはなし。」

 

「……ペンは剣よりも強し、ってことなのかい?」

 

 ボクは、この恐ろしく老成したことを言う友人が、自分が見抜いたと信じる……彼の言には一定の説得力があるものの、果たしてすべて正しいのかボクには判断ができなかった……世界の真実をペンの力で暴こうというのだろうか、とそう問うたが、

 

「キミはボクを買い被り過ぎだ。物語を書こうと思っているのは事実だが、何かを誰かに訴えよう、なんてつもりはまったくない。ランセル夫妻がそうであるように、ただただ自分のためだけに物語を書く。それだけだよ。」

 

 そう言い切ったドゥーリは、ふふ、と自嘲気味に笑った……ような気がした。

 しばし居心地の悪い沈黙があった後、彼は不意に、窓際のフックに吊り下げていた10×32の双眼鏡を指差した。

 

「実は、レトに相談を持ち掛けておいて、この話を本当にするかどうかはここに来るまで決めかねていたんだ。が、久しぶりに訪れたキミの部屋に入ってすぐそれが目に()まって、ボクの選択が正しかったことに気づいた。」

 

 今以て、ボクはドゥーリの真意を掴みかねていたが、それ以上によくわからないのは、なぜボクにこの話をしたのか、そしてボクに何を期待しているか、だった。

 

「どういう……こと?」

 

「毎夜ラグランジュ点を眺めてるだろ?戦火を捉えることができないか、と。」

「……!」

 

「ボクも同じことをした……もっとも二週間と続かなかったけどね。キミのことだ、きっと月の見える晴れた夜は今なお観察を続けていて、そしてもし期待の光景を捉えたらボクらに話さないわけはないから、それは一度たりとも見えたことはない。違うかい?」

 

 なんてことだ!

 この慧眼な友人は、ボクが父さんにも打ち明けることの出来なかった疑念を抱え込んでいることに、聡くも気づいていたのか!

 

「ボクがこの話をレトにしたのは、キミならば……キミにだけはボクの言うところが言葉のままに理解できるだろう、と思ったからだ。事実キミは、荒唐無稽なボクのこの話を、ここに至るまで一切頭ごなしに否定することがなかった。」

 

 うーん、これは褒めてくれている……のかな?

 

「そこで相談というのは他でもない。キミの忌憚のない感想を聞かせて欲しい。」

 

 そう言うとドゥーリは、急かすつもりはないからゆっくり考えてくれ、と言わんばかりに既に冷めてしまったハーブティーをゆっくりと飲み始めた。ボクは、自身はあまりの急展開に困惑続きで口をつけることがなかったマグカップを両手の中に抱えたまま、しばらくそれをみつめることしかできなかった。

 

 この友人に、ボクはどう応じてやるべきなのだろう?

 

「実は……」

 

 必ずしも考えがまとまったわけではなかったが、ともかくボクはドゥーリに対して誠実であろう、と言葉を絞り出し始めた。

 

「もしキミが進路を決めあぐねているのだとしたら、お節介は覚悟の上で士官学校の受験を勧めようか、と思ってたんだ。」

 

「それはボクを高く買ってくれてのことだから、そのことには素直に謝意を表明するよ、ありがとう……お節介極まりないけどね。」

 

 ドゥーリがおどけてそう言うのでボクは笑い、ドゥーリもまた笑った。

 

「キミの言う通り、ここしばらくの出来事を通じて、ボクもまた、この世界は果たして思っていた通りの世界なんだろうか?どこまでが本当なんだろうか?と疑問を抱えていたのは事実だ。キミの話を聞かされて、その疑問は一層深まった。」

 

 ボクは素直にドゥーリへの共感を示した。

 その上で、ボクの示すことができる精一杯の誠意はこれだ、と信じてこう続けた。

 

「同様に、キミの話そのものに対しても……どこまでが本当なんだろうか……と思う。

 キミの世界観、これからどうするつもりなのかという話、そのどちらもに、だ。」

 

 ドゥーリはボクのこの言いに、沈黙したままただ興味深げに耳を傾けている。

 ボクは、綺麗事に過ぎるのではないか、と思いつつも敢えてこう言った。

 

「が、キミ自身の考えは尊重したいと思う。むしろ、打ち明ける相手にボクを選んでくれたことを誇らしく思うよ、本当にありがとう。」

 

 勇気を振り絞って真っすぐ彼をみつめてそう言うと、少しの間だけ彼は何か考えている様子を見せた。

 ボクは、彼の期待するところを裏切ってしまっただろうか?

 

 が、ドゥーリはやおら、

 

「さしあたっての問題は。」

 

と、言葉を切った。

 

「……?」

 

「さしあたっての問題は、カトーメンさんをどう丸め込むか、だ。

 レトが言うくらいだから、十中八九、彼女も士官学校を勧めてくるに違いない。何か妙案はないか?」

 

 どうやら。

 彼は……ボクを()()()として認めてくれたらしい!

 

「そうだなぁ……こういうのはどうだろう!

 高く評価いただけているのはありがたいですが、信じる振りは出来ても信じることの出来ない正義に殉じるのはしんどいので勘弁願います……なんてのは。カトーメンさんのことだから、こいつは腑抜けに違いないから公務員がお似合いだ、と率先して差配してくれるんじゃないか?」

 

 ボクが冗談半分にそう言うと、ドゥーリは、ハハッ、と快闊に笑って、

 

「それは傑作だ!いよいよ追い詰められたら使わせてもらおう!」

 

と応じた。

 

 どうにもボクは友人と秘密を抱え込む星の下に生まれたものらしい、と悩ましく思いつつ、

 

「この話は誰にも……」

 

と言いかけると、やはりドゥーリは早くもボクの言わんとするところを見抜いたようで、

 

「キミが誰かに話すなんて(はな)から思ってないし、仮に話したとしても誰も本気で耳を傾けたりはしないさ。」

 

と、やはり笑い交じりに応じた。

 心なしか、やって来た時点ではあからさまにそうでこそないものの、それでもどこか思い詰めた感のあったドゥーリの表情が、普段のさわやかでありつつも毒舌鋭い理屈屋のそれに戻ったような気がする。

 

「一つ、約束してくれないか?」

 

 交換条件を出しても(ばち)は当たるまい、とボクは持ち掛けた。

 

「もちろんキミの双眼鏡の件も……」

「そうじゃない!」

 

 ドゥーリと言えども、百発百中でボクの頭の中を読むことは叶わないようだ。

 まぁ、そんなことは御免被りたいところだが。

 

「物語を書いた暁には、ボクを最初の読者にしてもらえるだろうか?」

 

 彼はまったく呻吟することなく右手を差し出しながら、

 

「もちろんだとも!」

 

と即答し、ボクらは固い握手を交わしたのだった。

 

 

                    *

 

 

 ドゥーリに看破されたところの月夜のラグランジュ点観察をボクは惰性で続けているが、戦火らしき閃光を捉えたことは一度もないままだ。

 宇宙戦争、と言えば言葉は派手だが、地球・月圏の広大な空間に比して、人類の操る宇宙機などすべて集めたとて芥子粒ほどですらない。それがまばらに行動していて、たまたま行き当たったら戦火を交えているのだとすれば、これをアルプスの奥深くから見上げてみつけることができる、と期待しているボクの(ほう)がおかしいのかもしれない。

 思えば、二月頭時点で報じられた、喧嘩別れに終わったと伝わる地球連邦と自称ジオン公国の休戦交渉では、以降の核兵器の不使用だけは約されたらしい。観測可能なラグランジュ点で戦略兵器級の核爆発があればこれは確実に視認できるはずだが、双方が生真面目にこの取り決めを守っているのだとすれば、地球上から戦火を認める可能性はより低くなっている、ともいえるだろう。

 

 この時期も、戦況についての続報はほとんど変わり映えはなく、詳細を欠いたままに一進一退が続いていると語られるのみで、父さんを含め周囲の大人たちはほとんど関心を失っている様子だった。

 無論、それを非難するつもりなんて毛頭ない。彼らには彼らで社会を回し続けるために……たとえそれがドゥーリの言うように虚構と欺瞞に(まみ)れたものであるのだとしても……やるべきことが山ほどあり、それはボクら子どもとて、背負う重みこそ異なれど同様だ。

 

 唯一、ボクらが心を動かされたのは、丁度ドゥーリがボクの部屋を訪ねた直後に、地球連邦軍が鹵獲したというザクの写真が公表されたことだった。

 

「一つ目の巨人は無敵、ってーわけでもないらしいな。」

 

と言い出したのはギエリ。

 ボクらは昼休みに彼の携帯情報端末(ハント)が映し出すそれを見ながら雑談していたのだが、決して鮮明ではない写真の中のそれは格納庫か何かの中で膝をついて擱座しており、装甲のあちらこちらに弾痕があって右腕を丸ごと欠いていた。

 

「そりゃそうだろう。サイズはどうあれ扱う武器は似たようなもんだろうから、当たればいけるだろうさ。」

 

 何を根拠にそう言い切るのかよくわからないが、ペイデルがそんな軽口を叩く。

 一方、この世界に何も期待していない(てい)をボクにだけ語ったドゥーリは、以降、そんな様子をこの四人で居るときには(おくび)にも見せることはなく、むしろこの場においても常の毒舌を放った。

 

「キミたちの目は節穴か。」

 

「「……何だとーッ!」」

「待って!待って!」

 

 いつぞやと同じになるのを憚って、ボクはギエリが殴りかかる前に(あいだ)に割って入った。

 

「で、ドゥーリは何に気づいたんだよ?」

 

 そちらに話題を振ってしまえばギエリもペイデルも暴れはすまい、と思って話を進めてみれば、案の定、二人はドゥーリの返しにたちまちに心を奪われた。

 

「ここを見て。」

 

 ドゥーリは素早くギエリの情報端末を操作して写真の一部をズームする。彼の指差す先は、前方に振り出されたザクの右足のつまさきだ。

 ボクは、どうしても全体の印象に引きずられがちで細部を検討する発想を持たなかったので今の今まで気づかなかったが、改めて注目してみると笑ってしまうスリッパのような偏平足だ。これでは、無重力の宇宙であればいざしらず、重力下でこの足で歩けるとは思えない。

 

 が。

 

「湿った泥がついているように見えないか?」

「「「!」」」

 

 元が不鮮明な写真な上にスリッパの部分が黒く塗装されているので俄に判じ難いが、言われてみればそう見えなくもない。写真には、軍事機密であるから、かも知れないが何処で撮影されたものかについての言及は添えられてはいなかった。

 

「ドゥーリ……ひょっとしてこいつが地球上に降り立ってるかも知れない、って言ってる?」

 

 ボクは恐る恐る彼にそう問うてみたのだが、返事は彼一流のものだった。

 

「少なくともこの写真を公開した連中が、そう思われても構わない、と考えているのは間違いないんじゃないかな。」

 

 ギエリとペイデルはたちまちに目を輝かせ、ボクは深い溜息をついた。

 ドゥーリの洞察が正しかった、とわかるのは雪が降り出してからのことで、しかもそれは、またしても驚天動地の一報だった。

 

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