Fate/Draco―蛇竜王戦線―   作:ぴーらー

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第1話:極地にて竜は目覚める

2020.03.31 23:59 UTC

 

 彼は独り、海を見ていた。

 魂すらも凍える極寒の地。純白の地獄に立ち――彼は独り、ただひたすらに海を見ていた。

 彼は独りだった。連れ合いを亡くし、子を亡くし、友を亡くした。

 仲間を、家族を、居場所を、失った。

 ……いや、友はいたはずだった。海の向こうにも。

 だが、「彼ら」はいつまで経っても来ることはなかった。

 

 どれほどの波を数えただろう。どれほどの夜を越えたのだろう。それでも、「彼ら」の船が訪れることはなかった。

 彼はその時、この上なく感傷的な気分だった。

 

 だから――海ではなく、空を見上げたのだ。

「……?」

 宙に奔る、見たこともない色彩。それは「狼煙」であり、「呼びかけ」であり、「布告」であった。

「……!」

 彼は、黒衣の上に刻まれた印と、その熱に驚く。それはこの地において、不必要なほどに輝いていた。

 光を纏う「目立ちすぎる獲物」に、忍び寄る影が一つ。

 背後から迫る、魔力を帯びた灰色の巨獣。鋭い牙、分厚い脂肪、肉の重みを乗せた滑るような動き。

 ――そして。

 

「危ねえっ!!」

 轟音と共に、灰色の巨獣は遥か後方の氷塊に叩きつけられ、海に沈んだ。

 男の前に現れたのは――甲羅のような鎧に包まれた、重厚な影。

「全く……戦わずして早々にマスター脱落なんて洒落にならねえっすよ。気ぃ付けてくださいや」

 それは、竜であった。

 長剣を背負い、「巨獣」など比較にならないほどの体躯を持っていた。

「サーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上しやした。それにしても……随分とちっこいマスターですなあ」

 その声は、驚くほど人間的だった。マスターと呼ばれた黒衣の男は、全く状況が掴めないとばかりに首をかしげる。

「いや、あんたが呼んだんでしょうが、ワシを。令呪あるでしょ、左手に」

 その指摘に従い、男は自身の「手」――いや、翼を見る。

 

 そこには確かに三つの刻印が燃えており、「セイバー」と見えない何かで繋がっているようであった。

「まあ、仕方ねえですわな。そもそもワシがサーヴァントとして来る聖杯戦争なんて、イレギュラーもイレギュラーなんだ。呼んだのが“姐さん”じゃないどころか、ヒトですらないなんて別におかしくはない……のかねえ」

 竜の名は、タラスク。

 伝承に名を刻んだ、竜種にして守護の獣。

 その目が、黒衣の「マスター」をまじまじと見つめた。

 ヒトが呼ぶところの Aptenodytes forsteri……即ち、「コウテイペンギン」を。

 

 

 2017年、冬。人類は消滅した。

 

 ――この世界には、数え切れぬほどの並行世界が存在する。

 しかし、次々と増えゆく無数の世界すべてを存続させるエネルギーは存在しない。

 そのため、定期的に「少なくともあと100年は続けられる」と判断された「善い流れの世界」が「編纂事象」として残され、「悪い流れの世界」は「剪定事象」として、木を育てる際の不要な枝のように切り捨てられる……そんなシステムが組み込まれていた。

 その並行世界の一つで、ある時から「亜種聖杯戦争」と呼ばれる小規模の儀式が世界各地で乱発され始めた。

 

 聖杯戦争――あらゆる願いを叶える「聖杯」を手に入れるため、選ばれた「マスター」と、聖杯によって召喚された七騎の「サーヴァント」が生き残りを懸けて戦う儀式。

 しかしその聖杯は「三回目の聖杯戦争」でとある魔術師に奪われ、術式の一部が外部へ流出。それを模して造られたのが、「亜種聖杯戦争」――本来の儀式とは似て非なる、模造品の戦争だった。

 当然それは小規模なものであり、しかもそのすべてが不完全に終わっている……はずだった。

 

 2017年に行われた亜種聖杯戦争。それは偶然にも「正しい聖杯戦争の儀式」のあり方を踏襲したものであり、勝利者の前に確かに「小さな聖杯」は顕現した。

 それでも召喚された英霊はわずかに四騎。勝利者となった男も、「上手くいったとして大した願いは叶えられないだろう」と理解していた。

「俺は地球の環境問題を何とかしたい」

 その男は、小さな聖杯に願った。具体案はないが、聖杯ならうまくやってくれるだろうと思いながら。

 ――しかし、更なるイレギュラーは重なっていた。

 

 優勝者の彼が呼び、令呪によって自害させ、聖杯の中の魔力となった英霊。彼の宝具は「対象を無へと帰し、代わりに自然を再生させる」能力であり……それは、聖杯の力と願いをより強固なものにしてしまったのだ。

 加えて、不完全な聖杯は「極端な解釈により、強引だろうと最短距離で」願いを叶えようとした。

 瞬間、男の願いにより「現代の地球上において最も地球を汚す存在」――即ち、人類は消滅することとなった。

 それらは数十億の塵に分解され、地球環境を良くするための糧として消えた。

 

 

 だが、それでも聖杯戦争のシステムは消えてはいなかった。

 人類が消えてから約二年。神代すら超えたマナに満ちた地球で、その「裁定者」は目覚めた。

 彼女の頭部にはアーチ状の巨大な角が二本。十字に輝く瞳は、静かに涙を流していた。「母」たる彼女は知ったのだ。ここが自らの「子」たちが大量に消滅した世界であることを。

 ……かつて「見送った」彼らが、報われなかった世界だということを。

 だが、同時に自らの役割も理解していた。ヒトならざる者たちの聖杯戦争。その監督者にして裁定者として、自分は喚ばれたことを。

 

2020.04.01 00:00 UTC

 

「――原初の母、ティアマトの名において告げる。聖杯戦争の始まりを」

 宣言と共に、赤と青の星は螺旋となって宙を駆けた。それこそは戦争の「布告」にして「狼煙」――そして「参加資格」だった。七騎の竜種による、異端の聖杯戦争の。

 

 その星の瞬きに願い、祈り、応えた命が七つ。

 ヒトならざる――動物たち。

 彼らに向けて、裁定者は告げる。

「おまえたちは、願いを持った。選び、戦い、抗う資格を持った。だから……“名前”を贈ろう。おまえたちが、“個”であるために。――汝ら七匹よ。七騎の幻想の王と並び立つ者として、ここに在れ」

 

2020.04.01 03:02 UTC / 南極・とある海岸

 

「さて、時間はかかりやしたがおおよそ説明できましたかね……まだちょっと怪しいっスか。まあ、ゆっくり飲み込んでいきましょう」

 セイバーは聖杯戦争のこと、セイバーが何なのか、何ができるのかを実演しながら説明を終える。ペンギンは頷きながらも、目の前の竜が持つ巨大な牙が未だに気になって仕方ないようだった。

 彼らの天敵である、先程吹き飛ばされたような巨獣……もとい、ヒョウアザラシの牙など比較にならないほどの大きさなのである。

 ヒョウアザラシは基本的に陸上ではペンギンを襲わない。海中では若い個体や「弱い」個体を狙い、待ち伏せて捕食を行う。しかし、先程の個体は膨大なマナの影響を受けた魚を食べ続けたことで、凶暴性が増幅していたのだろう。

 そして、サーヴァントとはそれを歯牙にもかけないほど強力な存在なのだった。

「あー……まあ、こういうもんなんで慣れてもらうしかないっスわ。こう見えて属性も秩序・善なんスよ? よく分からない? だよなあ……

で、早速こんな寒い所からは移動――と行きたいところなんですが、ちょいと気になることがありまして」

 そう言って、セイバーは周囲を見渡す。その視線は、少し遠くの山へと向いていた。

「魔力の乱流……いや、残滓か? どうも、あっちから変な気配がしてまして。念のため確認しておきやしょう。さ、乗って下せえ」

 セイバーに促され、その背中に向かってペタペタとペンギンは進む。

 ……その歩みはあまりにも遅く、小さな山じみた竜に乗るには日が暮れそうなほどだった。

「ですよねぇ……一応聞いておきますが、肉体強化の魔術とか使えないんですかい?」

 よく分からないが、とりあえず否定の意思を伝えるペンギン。

「ううむ……いや、こうしましょう。危ないのでちょいとどいて下せえ」

 タラスクは少し距離を取り、背中の剣を器用に下ろして口に咥える。

 そして氷を薄く一閃し、その氷板を自身の頭部にスロープめいて立てかけたのである。

「これでよし。さ、改めてどうぞ」

 ペンギンがスロープの上を滑って頭部にどうにか乗ると、タラスクは静かに息を吐き、魔術障壁を展開。

 雪煙を巻き上げ、白銀の荒野を走り出した。

「それにしても、ワシがセイバーとして召喚されるとはなぁ……剣士としての逸話は無い筈なんですが、多分“聖女の守護騎士”みたいな解釈ですかね。もしくは、ワシが最後に召喚されてセイバーの枠しか余ってなかったとか――ああ、こっちの話です。お気になさらず、戦いに一切支障はありませんぜ!」

 しばらくして彼らの前に現れたのは、凍てついた山中に崩れかけたドーム状の建造物だった。

 

 その外壁は激しく損壊し、遺棄されてから数年は経っているように見える。周囲の岩肌は爆発でもあったかのように抉れており、建物の背後には崩落した氷河の谷が広がっていた。

 中には、停止したままの機械がいくつも並んでいるのが外からでも見える。それらは吹雪によって凍り付いている……かと思いきや、床には雪の粒すら存在していなかった。まるで、外気が遮断されていたかのように。

「想像以上に妙なことになってますなあ。魔力の残滓の原因はこれか? まあ大方、魔術師の仕業なんでしょうが……」

 セイバーは破壊された壁の隙間から内部を覗き込み、一度ペンギンを降ろしてから霊体化し、慎重に踏み入る。やがて、彼の魔力に反応したのか、一台の機械だけがかすかに明滅し始めた。

「おっと。これは……魔力を電気に変換して動かすタイプですか。ワシの魔力をうまく繋げて何とかするとして、あとはモニターか。マスター、説明しますんで手伝ってくだせえ」

 ……七転八倒すること数時間。ようやくモニターが点灯した。

 ペンギンの腕、もとい翼は物を掴むようにできていない。嘴を使ったちょっとした作業が限界であり、半分以上はセイバーがやることになったのだった。ペンギンはその横で、疲労のため仮眠を取っていた。

「我ながら、ここまで器用にやれるとは……よし。そんじゃ、行きますよッ!」

 セイバーはケーブルを咥え、魔力を込める。画面には世界地図が映し出され、いくつかの光点と文字が浮かび上がっていた。ペンギンは急な光に驚くが、未知の色に興味を示していた。

「おお。どうやらこいつは、『聖杯戦争を観測する機械』らしいっスね。一体ここはなんの施設なのやら……文字も霞んでまともに読めねぇですし」

 セイバーは、モニターの情報を目視で丁寧に確認していく。

「今いるのが……南極大陸、と。道理で寒いわけっスわ。それで、既に七騎が召喚済みってことで……何? この位置は確か、インドだったか。で、そこに超巨大な魔力反応? ふうむ、ワシを差し置いて『超巨大』とは……」

 ペンギンは、一度寝たことで思考が整理されたのか――ようやく事態を理解し始める。

 自分の願いのために、他の「願いを持つ者たち」と戦わねばならないということを。

「そういうことっス。そのためにはとにかく敵と会わなきゃ始まらねえ……まずはここ、インドに行くことにしやしょう!」

 セイバーは建物を離れ、ペンギンを背に乗せる。再び魔術障壁を展開し、「マスターが浮いたような状態」になったのを確認すると、大きく吠えた。

 そして、セイバーは手足を甲羅に引っ込めると、ジェット噴射と共に回転しながら、滑るように「空」を駆け上がっていく――!

 

 

 数秒後、彼らは森林の中に「着弾」した。衝撃とともに大地が揺れ、驚いた鳥たちが逃げていく。

「よぉし、うまくいった! ぶっつけ本番でしたが、案外なんとかなるもんですなあ!」

 かつて、タラスクは聖女マルタの導きのもと修行を積み、最終的に幻想が息づく地――「世界の裏側」へと至る術を得た。この「転移」は、その術の応用である。

 「表側の世界」から最高速で「裏側」へと突入しようとしても、マスターという「幻想種ならざる通常の生物」を伴う以上、世界そのものに弾かれてしまう。

 だがセイバーは、その弾かれる「向き」を制御することで、狙った地点の「表側」へと再出現した。

 それはまさしく、神代級の膨大なマナと上位の竜種たるタラスクの耐久力あってこそ可能な、常識を越えた荒業であった。

 背の上のペンギンは何が起こったかも理解できず、ただ目の前の光景に驚愕していた……が、それ以上に、彼は気温の変化に狼狽え始めていた。

 ちなみに南極の気温はマイナス40からマイナス20℃、四月におけるインドの気温は20から25℃。

 その気温差はおよそ50℃以上。セイバーの魔術障壁があるとはいえ、はっきり言ってグロッキーであった。

「うおッ!? そうか、マスターは暑いの駄目か!? すみません、ワシがもっと魔術に詳しければちゃんとした障壁を張れたのに……!」

 ――そうやって狼狽える巨大な竜は、上空から見れば格好の獲物だった。

 刹那、黒い影が上空から急降下し、巨大な質量が地表を抉る。凄まじい衝撃に爆煙が上がり、森は一帯ごと吹き飛んだ。

「……ほう、無傷とはな。それが貴様の宝具ということか?」

 静まり返る地上に降り立ったのは――漆黒の竜。超高高度から強襲を仕掛けた彼は、宝具により強襲を防ぎ切ったセイバーを見下ろす。

「応ともよぉ。『盾鋼の聖獣(クストーディア・タラスコニス)』……悪いが、この絶対防御を超えられる英霊なぞ!ワシは一人しか知らんぞォ!!」




「参加者が全員竜種の聖杯戦争とか面白そうじゃね?」「だったらマスターは全員人間じゃない動物にするべきでは?」という発想から執筆が始まりました。
二次創作歴0年!オリジナル聖杯戦争に挑戦します!!!
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