◆
2020.04.01 19:00 UTC / ランサー領・中枢部 / 視点:パラニール
「……始まりましたな。パラニール殿」
「――ああ。これより、指揮を開始する」
遂に、戦端は開かれた。
現状では、状況はランサーたちがかなり有利なようだ。
セイバーも走り回りながら適切に攻撃を繰り返しているが、槍とナーガの軍団がそれを上手く阻んでいる。
……まさか、背中の鎧が分離して砲台になるとは思わなかったが。
本人が言うのを聞く限り、「エアリアル・ドライブ」という名前の礼装らしい。
伝承において、タラスクは退却の際、燃えさかる糞をばら撒いたとされている。
だが恐らくそれは、当時の人間が爆薬や燃焼反応の残留臭を理解できず、曲解して記録したのだろう。
その実態は、ジェット噴射で飛行するドローンのような小型自律兵装――!
「剣士」のクラスでありながら、複数の遠距離攻撃手段を持つ彼は中々厄介な相手だ。
ナーガ兵たちも、幻想種とはいえ強力なサーヴァントと真っ向から渡り合うのは難しい。
だがそれでも、数というのは強力な武器だ。
陣を組み、ランサーの加護を得ることで十分な抑止力を発揮している。
加えて、ランサーは術によって自在に地下階層への通路を開閉できる。
それにより、部隊の撤退・再編・増援といった戦術的展開が極めて柔軟に行われているのだ。
私は国民たちと共に安全な階層に避難しつつ、ナーガ兵たちの指揮を執っている。
ここは、ランサーの宝具
だというのに、現在、外部の影響は一切受けていない。
ランサーがどれほど動こうとも、部屋が揺れることもなければ重力の乱れすらない。
この中にいる限り、外敵が侵入する可能性は極めて低いはず――だが、それでも油断はできない。相手はサーヴァント。それも、ランサーと同じように常識を超えた能力の持ち主だ。
ランサーからも、「危険があれば即座に令呪を使え」と言われている。
この場にも十数名のナーガ衛兵が控えており、万全の守りを固めている。
私はランサーの視界を借りて戦況を見ているが……今のところ戦場にアーチャーの姿は見えない。
いや、地下の階層に潜んでいるのは分かっている。
彼は気候・天候を操ることができる。実際、そのスキルで南極出身のアルヴェイルがこちらの気温に対応できるまで空気を「調整」しているのを見た。
それを応用し、空気を纏って光を屈折させることで姿を隠しているらしい。
「居る」ことはわかるのに、「視えない」という厄介な存在。
――恐らく、戦場を俯瞰しつつ、ランサーの力や戦術構造の情報を集めているのだろう。
ランサーとしても、まだ戦闘に加わっていない者に無理に手を出すつもりはないようだった。
……そう。あくまで「今は」だ。
セイバーの広範囲ブレスが地面を舐め、ナーガたちは地下へと退避する。
そこへ即座に、ランサーの槍が叩き込まれる――だが、セイバーの剣が光り輝き、持ち主の手を離れて自律防御。
そして、カウンターで槍の一本を打ち砕いた。
その隙を突いて、ブレスと礼装がランサーを襲う。
他の槍で防御したため被害は軽微で済んだが、無視できない威力だった。
セイバーの左後ろに「通路」が開き、ナーガ弓兵たちを出撃させる。
狙うは火炎ブレス直後、熱で軟化した喉元。
……だが、セイバーはすかさず首と手足を甲羅に仕舞い込み、背面の噴射機構による高速回転で弾丸のごとき防御態勢を取る。
更に剣による自動反撃が弓兵たちを襲う。
数名のナーガが吹き飛び、地に叩きつけられた。
飛び散る血飛沫に、思わず目を背けそうになる。
私もこの国に来てから、戦争に備えて軍略や敵対する英霊について学んだ。
来たるべきサーヴァントとの戦いに備え、殺し合いへの覚悟を――自分なりに、固めてきたつもりだった。
殺害の意思まで全てランサーに任せきる、卑怯者ではありたくなかったからだ。
ランサーも、私の我儘と意志を汲み……ナーガ兵の指揮権を預けてくれた。
だが、初の実戦ではこうだ。
……我々の先祖は人間と共に戦い、歴史においても重要な役割を果たしたという。
ハンニバル、ダレイオス、アショーカ――
偉大なる英雄たちの傍らにいた、伝説の戦象たち。
……私は、そうなれそうにない。
セイバーの背に乗り、戦場を見据えるアルヴェイルの方が、余程剛胆に見えた。
偉大なるガネーシャ神よ。
どうか、この小さき心に勇気を。
ただ、そう祈るしかなかった。
……私の心が一瞬戦場から離れたからか、ふと別の思考が頭をよぎった。
アーチャーとそのマスターはともかく、ダルグレインは何処に行った?
流石のアーチャーも彼まで隠す余裕はないはず……いや待て。
そもそも、いつからダルグレインは居なかった……!?
その疑念を吹き飛ばすかのように、大地が揺れた。
轟音が「国」全体を貫くように響き渡り、左側の外壁と門が爆散する。
現れたのは、黒き厄災。
引き延ばされた空間を意にも介さず高速で飛来したそれは、咆哮と共に地上を炎で塗り潰す。
そして――火炎を切り裂いて、地下から烈風が立ち昇った。
風はランサーの腹部を掠め、更に炎を巻き込む竜巻となりナーガ兵の陣列を吹き飛ばした。
セイバー、アーチャー、ライダー。
恐るべき三騎の竜が、一堂に会した瞬間だった。
「ライダーがここで戻ってくるか……ッ!」
動揺に、思わず思考が止まる。
「落ち着いてください、パラニール殿! 貴方は我らが神の代理人も同然。貴方の叡智と慈悲を見込み、我らは命を預けたのです。動揺すれば、それは国民たちにも伝播します……!」
側に控えていたナーガが、必死に私を奮い立たせる。
そうだ。私の命は私だけのものではない。
国を守るとはそういうことだ。王とはそういうものだ。
ランサーが、ずっとそうしてきたように。
一度、目を閉じ――深く息を吐く。
心を落ち着ける。
……目を開けた瞬間、視界から先ほどのナーガが掻き消えていた。
隣に控えていた別の衛兵が異常に気づき、私の前に身を投げ出そうとし――
その首が、宙を舞った。
「――ッ!?」
何かがまずい。
何かがいる。
だが、見えない……!
「ランサーッ!!」
額の令呪が、焼けるように熱を帯びる。
……間一髪、私の心臓が抉り出されるのを、白銀の槍が防いでいた。
現れたのは、白いナーガ。
ランサーの分霊が、間一髪で介入したのだ。
令呪を用いた召喚。その分「本体」の力は削がれることになるが……そうでもなければ私は死んでいた。
それは、ランサーの即時敗北である。
それだけは、絶対に避けなければならない。
それでも、私の胴には深い傷が刻まれていた。
残った衛兵が私の止血を施してくれたが、かなりの重傷だ。
意識が少しずつ霞んでいく。
……本来ならば、この空間に国の外から直接侵入するなど不可能なはずだ。
どんな魔術であろうとも、ランサーの守りをいきなり超える術はない。
恐らく、先ほどの爆発で門を破って入り込んだ後……この空間へ道を繋ぎ、暗殺者は入ってきたのだ。
擬態が揺らぎ、その姿が見える。
それは、サーヴァントですらない「小型の竜」のような爬虫類だった。
だが、その体は通常の動物ではありえない邪悪な魔力に満ち……
そして、明確な殺意の視線をこちらに向けていた。
「ククク……残念だ。いきなり王手をかけられたと思ったのだがな」
その後ろに控えるのは、冠を被った黒い蛇。
「こうなればマスター殺しは厳しい……が、このまま帰るのもつまらない。――俺の名はバーサーカー。蛇神の分霊よ、ちょいと俺と遊んでいってもらおうか!」
◆
2020.04.01 19:15 UTC / インド・ケーララ州 / 視点:ネゼミア
「……というわけでね、セイバーの旦那には悪いですが、囮となってもらいやす。アーチャーの旦那と相談した結果、セイバーの旦那には作戦内容も伝えないことにしました。あの方、考えたことが顔に出やすいので」
ダルグレインと名乗った灰色のオオカミは、そう言った。
「狼煙」を見た僕たちは、例の釣り上げた魚を食べて魔力を回復してからインドに向かった。
ちょうど「狼煙」のそばに転移してきた僕たちは、元キャスターのマスターだという彼と合流。
まず、セイバーとアーチャーに関する具体的な情報が共有された。
前提として――ライダーがセイバーに刻んだ呪いと重傷。
その治癒のために、ダルグレインの案でセイバーはランサーの「国」に入った。
そして、歓迎されたらしい。
その国の霊薬を貰ったセイバーの傷はほとんど癒えたそうだが、そもそも何故そんな薬を貰えたのかについては「長い話になる」ということで省略された。
アサシンとライダーはかなり訝しんでいたが、時間が無いのは事実だというバーサーカーの意見により話は次に進んだ。
続いて語られたのは、アーチャーが考案したという作戦の全貌だった。
アーチャーたちは、国の内部を調査することで、ランサーの異常な強さと宝具の「規模」を把握した。
それにより、ランサーが宝具の内部を自在に知覚できることも確認したのだ。
そのため、アーチャーは「秘密の術」によりランサーに情報がバレないようにした部屋を用意した(恐らく宝具か)。
そこからアーチャーの「地脈・龍脈を操作する」という宝具
そしてそこからダルグレインは、退去したキャスターが遺してくれたという「術式」を使い、「狼煙」を上げたのだ……という。
「……いや、待ちなさいよダルグレイン。そもそもキャスターはライダーに殺られたのでしょう?
それなのに、優先するのがランサー? 復讐するは無いの?」
アサシンが問い詰める。
確かに、命を拾った者がなお聖杯戦争に関わり続ける動機として、「復讐」以外の理由は思いつきにくい。
「へへ……いやまったくおっしゃる通りで。実際、あっしはずっとライダー殿が恐ろしくて仕方ありやせんよ。どうにか仇を取ってくれまいかとアーチャーの旦那に擦り寄ったってのも、本当の話でさァ」
ダルグレインはどこか飄々と、けれども目の奥には確かな色を宿しながら続ける。
「でもね――復讐心なんてのは、結局あっし一人の我儘に過ぎやせん。それを優先したせいで、アーチャーの旦那たちがランサーに敗けでもすれば……あっしァもう、お天道様に顔向けできませんよ」
少し俯いた彼の笑みには、一種の覚悟が滲んでいたように見えた。
「だから、今回は“あっしの都合”を後回しにして勝算を考えた――ただ、それだけのことでさァ。へへ……」
◆
2020.04.01 19:30 UTC / ランサー領・上層階 / 視点:ユキネ
かくして、対ランサー陣営の総力戦が始まった。
まずアーチャーの宝具が国の門を破ると同時に、地上階の魔力の流れに干渉。
それによってランサーによる地形の操作を妨害し、ライダーとアーチャーがセイバーに合流。
アサシンは地下階に突入し、ナーガをひたすら「魂食い」しつつ戦力を減らす。
バーサーカーとネゼミアはランサーのマスターがいる地点への「門」を開き、その暗殺を試みる。ただ、ここに関しては成功率が低いのでランサーの戦力を少しでも削ることを主な目的とし、失敗したらある程度で見切りをつけてアサシンに合流する手筈になっている。
余談だが、ライダーの泥酔状態はバーサーカーの魔術が解決した。他人に頼らざるを得なかったライダーと、宝具を奪われ損のアサシンは不満気だったが……
とにかく、最終的に全員でランサーを袋叩きにするのが目標となる。
……だが、分かれて単独行動になった際、アサシンは浮かない顔をしているように見えた。
「大丈夫なの、アサシン? ひょっとして……ナーガも一応“蛇”だし、共食いになるから……?」
私の質問に、アサシンはクールに微笑んで答えた。
「確かに、そういうことになるかもしれないわね。それに蛇とは無意味な殺しも、無益な戦いも好まないもの。――でも」
アサシンは凄まじい速度ですれ違いざまに、ナーガたちの首を断つ。
「だからこそ、私は“理性”を以て剣を執る。その時、相手が何かは関係ないわ」
刻まれたナーガにアサシンの黒髪が纏わりつき、一瞬でその血肉を吸い尽くす。
まるで、アサシンの髪の毛そのものが蛇であるかのようだった。
「……マスター、それは別の英霊よ。ギリシャの蛇で超有名人。
それより、私が気になっているのはバーサーカーについて。あいつは何の迷いもなく“ランサーのマスターがいる空間への門を開く”なんて言っていたけど……現状、ほとんどの陣営でマスターはサーヴァントと行動を共にしていて、しかもダルグレインとの会議でもランサーのマスターについては省略されていたのよ」
「……バーサーカーは、何かしらの情報を隠してたってこと?」
「可能性は高いわ。……それが何なのか、考える余裕は無さそうだけど」
アサシンの言葉に顔を上げると――いつの間にか、今いる通路に繋がる全方向からナーガ兵たちが来て私たちを包囲していたのだ。
明らかにアサシンは「包囲されないように動いていた」はずなのに、いつの間にか囲まれていた。ということは……
「国の内部を自在に知覚できるとは聞いていたけど……構造の操作までできるとはね。……まあいいわ。それじゃ、遠慮なく頂かせてもらうから」
Q:ナーガ兵ってどれくらい強いの?
A:全員最低でも【神性:D】持ち