Fate/Draco―蛇竜王戦線―   作:ぴーらー

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第13話:楽園に蛇は嗤う

2020.04.01 19:30 UTC / ランサー領・中枢部 / 視点:パラニール

 

「……成程、宝具によってマスターにサーヴァント並みの力を付与したか」

「御名答。理解が早いな、流石は“教える側”で――」

 

 バーサーカーの言葉を遮り、ランサーの槍が振るわれる。

 その一撃は、「国民」たち……奥にいる動物たちを狙ったバーサーカーのマスターの爪を、寸前で抑え込んでいた。

 会話中の隙を狙っていたのだ。

 

 続いてバーサーカーも炎を纏い、ランサーに追撃する。

 両者とも、執拗に狙いを背後に定めているのは明らかだった。特にマスターの側は舌による射程の長い攻撃を得意としているようで、ランサーが身を挺して庇わなければ危ない場面もあった。

 恐らく、先程ナーガたちがいきなり消えたのはそのためだろう。

 

 ……ランサーの四つの腕と槍があれば、バーサーカーとマスターの攻撃に対応すること自体はできる。

 だが、背後にいる「国民たち」を庇いながら戦い続けることは、いくらランサーと言えど……!

 

「ガハッ、ゴホ……ッ!」

 喀血し、痛みに膝をつく。先の攻撃は、まるで命そのものを吸い取ったかのようだった。

 

「パラニール殿!」

「お怪我に障ります、どうか動かぬよう!」

 

 残ったナーガたちが懸命に私を守護しながら治療を続けてくれている。しかし、この状況は……!

 

「……狼狽えるな。確かに奴らは“門”を開き、直接この場に忍び込んできた。だが、我が宝具の中においてそれを長く維持することはできぬ……」

「それはどうだろうな? 俺はこういうワープゲートを開くことを専門としている可能性だって……」

「……いや、有り得んな」

 

 否定と共に、ランサーの槍がバーサーカーたちを弾き飛ばす。

 分霊の体は削られ消耗していたが、背後の国民たちには傷一つなかった。

 

「……術の精度から、転移及び時空間の魔術を専門としていないことは見て取れる。“門”を維持できるのは、最大で十分間が限度と見た。時間を過ぎれば、吾の“本体”に割く戦力が一陣営分減ることとなる……有利なのはこちらだ」

「ククク……随分と冷静じゃないか。ならば俺も攻め方を変えるとしようか!」

 

 再びバーサーカーのマスターが姿を消す。

 殺気すらも消すことができるのか、全く存在を感じ取れない……!

 

「させん」

 ランサーはその槍から激しい閃光を生じさせた。

 光が部屋を埋め尽くし、バーサーカーのマスターの擬態を剥ぐ。

 更に、光を受けた小さな竜は身じろぎ、動きを封じられたようであった。

 

 ランサーの意志が念話で伝わってくる。

(奴はカメレオンという種の動物だ。あれの眼は左右別に動き、360度周囲を見渡すことさえできる……だが、こういった強烈な光の放射はより影響を受けることになる。

加えて、あの擬態は「透明になる」のではない。厳密に言えば「周囲の色に体色を同化させている」もの。複数の色の光で部屋を強く照らし続ければ、その擬態は剥がせる……!)

 

「クァハハハハハハ、やるじゃないかランサー! だが俺にそれは効かないな。――俺もお前も! 蛇であるが故にッ!」

 閃光を生じさせた隙を突き、ランサーに対して黒い蛇が飛びかかる。

 なんと、バーサーカーは眼を閉じながら攻撃を仕掛け続けていた。

 

 ランサーは冷静にその攻撃を捌き続ける。

(……ピット器官か。蛇は暗闇の中でも、熱を“見る”ことができる機能を持つ。確かに、奴が吾の予想通りのサーヴァントであるならばそれは可能だ……)

 

 バーサーカーもまた、攻撃と共に語り続ける。

「教育により野生動物に知恵を与える。それにより平穏を齎す。そのために自らの権能を最大限活かし、短期間でこのような国を作り上げるとはな。

……実に、実に実に実に結構なことだ。そして滑稽なことだ!」

 

 何がおかしいのか、彼は笑いをこらえきれずにいた。

「――知恵とは、痛みの始まりだ。“罪”という名の棘を、心に芽吹かせることだ。生きるために肉を喰らう者に、『それは悪だ』と教えることだ。ランサーよ、お前ほどの者が……それを知らぬはずはないだろう?」

 

 ……バーサーカーの言葉は、毒の刃のように私の耳に浸み込んだ。

 「攻め方を変える」とは、言葉による攻撃のことであったのだ。

 彼は、歌うように言葉を紡ぎ続ける。

 

「無知こそが“楽園”であったのに、お前はそこから彼らを追い出したのだ。肉食も、死も、争いも! 本来ならば罪という概念すらなかった!

ああそうだとも、蛇の神よ!――お前が! この楽園に! “原罪”を齎したのだ!!」

 

 ……バーサーカーはランサーの攻撃に押し負けている。

 だというのに。彼は楽しそうに、愉しそうに嗤い続けていた。

 

「時間だ、バーサーカー……! 僕はもう戻るぞ……!」

 いつの間に復帰していたのか、そう言うとバーサーカーのマスターは素早く「門」へと逃げて行った。

 その「門」はどんどん縮小していたが、その大きさではナーガたちは通れそうにないため追撃もできないようだった。

 

 それを敢えて追うことはせず、ランサーは攻撃と共に言葉を返す。

「……バーサーカー。汝の言葉は詭弁に過ぎぬ。元よりこの現世――命ある者の営みとは“苦”そのもの。楽園とは、存在せぬが故に楽園なのだ。

知恵を得た故に罪が齎された?笑わせるな。それは、目を逸らしていただけだ。

感じても、理解されぬ痛み。訴えられぬ苦しみ。それこそが、真に孤独な痛みなのだ」

 

 襲い来る言葉を一蹴し、ランサーは毅然として言い切った。

 

「そして何より……汝こそが、原初の女を誑かした張本人であろう。――悪魔よ」

 

 ……原初の女を誑かした蛇。悪魔。

 それに該当する存在を、私は一つしか知らない。

 

 そもそも、それが聖杯戦争において召喚されるなど常識的には考えられない。

 だが、これが「竜種のみが召喚される聖杯戦争」だというのならば――

 ある意味、最も相応しい存在なのかもしれない。

 

 キリスト教において、蛇や竜は悪魔の象徴とされるという。

 反英雄。

 人々に憎悪されること、その悪行が結果として人々を救うこと、悪を以って善を明確にするモノ。その極地。

 

 原罪の蛇。堕落せし明星――「サタン」。

 

「再び御名答。そして俺は、悪魔故にとことん捻くれ者でな」

 

 彼はランサーの言葉を静かに肯定し――

 「門」が、完全に閉じた。

 それでもなお、バーサーカーは「こちら側」に残っていた。

 

「相棒には悪いが、どうも俺はお前ともっと遊びたくなったらしい。

いずれにせよ、その分霊がここに残らなければ、お前のマスターは死ぬ。俺が殺す。お前の大切な国民諸共。

それなら、俺が頑張るほど向こうが有利になることには変わりないんじゃないかというのが俺の結論だ。――何より、俺はセイバーたちの力を信じている。まあ、会ったことも無いんだがな!」

 

 そう言うと、バーサーカーは人間体に変化し掌から巨大な火の玉を出現させた。

 それは、セイバーやライダーのブレスとも違う――まさしく「地獄の業火」そのものであった。

 

「悪魔として、懇切丁寧に教えてやるとしよう。我が宝具、『墜罪の蛇冠』(コロナ・セルペンティス・ペッカーティ)は善なるもの、神に連なるもの、そして“純白にして無垢なるもの”に対して効果覿面に発揮する。

――聡明なお前なら、この意味が善くわかるよな?」

 

 その言葉と共に、炎は放たれた。

 

2020.04.01 19:50 UTC / ランサー領・地下階 / 視点:ネゼミア

 

「馬鹿じゃないのアイツ。

……ああ、やっぱりバーサーカーのバは馬鹿のバだったのね。それなら納得だわ」

 

 アサシンの罵倒が止まらない。僕も全くもって同意だった。

 バーサーカーの「あちらに残る」という言葉を最後に念話が切れてしまったため、僕はどうにかアサシンとの合流を目指していた。

 そしてその30秒後にこうなったのである。

 

 ……まだ少し、目がチカチカする。

 ランサーのマスター暗殺に失敗した僕たちは、「門」が消える前に奴の領域から戻る必要があった。

 確かにマスター殺しさえ達成できれば、本体に挑むよりも遥かに楽ではある。

 しかし、そもそもあの場所はランサーの「体内」にあるのだ。

 この「国」の中において最もランサーが有利であり、宝具による恩恵も最大限に得られる領域。

 それは、よりにもよってバーサーカー本人がそう分析していたにも関わらず……である。

 

 実際、あの「白いナーガ」は分霊であるにもかかわらず、僕とバーサーカーの二人がかりでも全く歯が立たなかった。

 それでもバーサーカーは、ひとりあの中に残ったのだ。

 しかも念話すら通じない。

 いざとなれば令呪による強制召喚は可能だろうが……問題はそのタイミングが分からないことだ。

 

「念話は出来なくとも、強い意思を伝える……くらいは多分できると思うわ。……できると信じるしかないわね。あの馬鹿が」

 

 アサシンは流れるようにナーガ達を刻みながらもそう毒づく。

 魂食いは順調なようで、作戦会議時よりも魔力に満ち溢れているようだった。

 恐らく、死んだ“首”も回復したのだろう。

 僕も負けじと、捕食を繰り返した。

 

 さて、実際アサシンの言う通りだが……

 かつて、ライダーとの戦いで僕とバーサーカーは「湖から繋がる門に逃げ込んだ上で閉じる」という奇策でブレスを回避した。

 当時の僕があのブレスを耐えられないのは確実だが、一緒に逃げたバーサーカーも同じだとしたら……

 あのランサー相手に粘り続けるというのは、相当難しいはずだ。

 

 ……それでも、あいつなら何とかするかもしれない。

 楽観視など今まで一度たりともしたことのない僕だが、そう思ってしまうのは……気の迷いか。それともアイツなりに言うなら「信じている」からなのだろうか。

 

 そう考えながらしばらく進んでいると、アサシンがふいに足を止めた。

 続いて、僕も異常に気が付く。

 いつの間にか、先ほどまで数えきれないほどいたナーガ達がどこにもいない。

 通路の奥にも、周囲にも――360度見渡しても、どこにもナーガ達の気配すらない。

 

「……どういうことだ。恐れをなして逃げたって可能性、あると思うか?」

「考えにくいわね。相手が蛇だし、定番で言うなら毒の濁流で水攻め……ってところだけど。

前提としてそんな状況に追い込まれるような不細工な真似はしないし、そもそも私に毒も水も効かないわ。貴女は知らないけど」

「……出来るだけ自分でなんとかするつもりだ。でも、これは何なんだ……?」

 

 言いながら、妙な違和感がじわじわと体を這い上がってくる。

 地上階で何か起こったのか? ……などと考えていると、アサシンの頭上にいたユキネがピクリと耳を震わせて言った。

 

「……アサシン。何か、上から――物凄く嫌な予感がする」

 

 その言葉と共に、世界が軋むような感覚が走る。

 数秒後に死が迫っていると理解したときにだけ感じる、あの生理的な拒否反応――かつて「神社」で、アサシンに殺されそうになった時と同等か、それ以上の。

 

 これは、第六感だ。

 そして直感した。

 まさか、バーサーカーが「あの空間」に残った理由は――

 

 視界が揺れ、回転する。

 アサシンが僕を持ち上げ、全力疾走を開始したのだ。

 

「上の三騎には悪いけど、全力で外まで逃げるわよ。認めたくないけど……あの馬鹿が正解だったかもしれないわ。

水や毒なら効かないとは言ったけど――“原初の海”の類いは、流石に私の耐性に含まれてない」

 

 ――遠くから水音が聞こえてくる。

 原初の海。

 ここに来る前、バーサーカーが言っていたヴァースキに関する逸話、「乳海攪拌」。

 ランサーがその宝具を持っているとすれば……

 

 その「乳海」もまた、ここに再現されるということなのか!?

 










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