Fate/Draco―蛇竜王戦線―   作:ぴーらー

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第20話:八重の水牢

2020.04.02 21:25 UTC / アイスランド・シンクヴェトリル国立公園 視点:ユキネ

 

 休戦期間は、あと少しで終わる。

 だというのに――アサシンは、何故かセイバーたちと同じ場所、かつ視界の中にいた。

 私は「櫛」としてアサシンの頭上に収まっているが、未だに彼女は移動する様子を見せない。

 そして、髪をざわつかせて今にも飛びかかる準備をしているようだった。

 セイバーとアーチャーもそれぞれマスターたちを背に乗せ、こちらに訝しむ視線を向ける。

 

「……何が狙いだ、アサシン。ワシも自分が甘い性格だと思うことはあるが、半日共に過ごした相手でも剣を鈍らせる気は無ェぞ」

「構わないわ。私も、手を抜いてほしいわけじゃないし」

 

 アサシンの宣言と共に、岩の割れ目の水が一斉に空へ吹き上がる。

 八つの巨大な水流は、大蛇の首のように鎌首を擡げた。

 思わず、私の毛が逆立つ。

 アサシンの重圧が、まるで電気でも走ったかのように頭を突き抜けた。

 ――【八重の毒魂】、「水」の力。

 私も初めて見る、その最大出力だった。

 

「ヒッ! ヒィィィィィッ!」

 巻き込まれることを恐れたのだろう。それを見たダルグレインは、「水流」をすり抜けるように走り、遠くへ逃げていった。

 ……まあ、あんなことがあればトラウマになるのは仕方ない。

 私たちはサーヴァントと違い、低体温症なんかであっさり死にかねないのだ。

 既に脱落した非戦闘員のマスターが逃げたところで、特に影響はないでしょ。

 その様を一瞥し、視線を戻したアーチャーが口を開く。

 

「一つ、貴様の行動に推測が成り立つ」

「あら、何かしら」

「――陽動、もしくは足止めだ。理由までは分からぬが、数的不利を知って敢えて正面から挑むのであればそれで説明がつく。加えて、巨大水流による大規模な攻撃は視覚情報を占有しつつ我々を逃さないため……違うか?」

 

「……本当、気持ち悪いくらいの先読み精度ね。ま、理由が分からないなら満点はあげられないけど……ヒントくらいは出しましょう」

 

 その瞬間、空に赤い花が咲く。

 休戦期間の終了を意味する号令が。

 

「大前提として、私はマスターの願いを最優先に戦う。それは当然のこと。――でも。戦友の決意に“敬意”を払うことくらい、したっていいでしょう?」

 

 ……アサシンの言葉と共に想起したのは、昨日の「彼女」との会話だった。

 バーサーカーのマスター、ネゼミア。

 彼女がこれまでどう生き、何を願ったのか。

 地下通路からの脱出後、私たちはそれを断片的に聞いていた。

 

「彼女は――これから、文字通りの“ジャイアントキリング”に挑戦する。貴方たちのような正義漢に、邪魔されるわけにはいかないのよ」

 アーチャーが言葉を返そうとした、まさにその瞬間。

 ――「歌」が、響いた。

 それは大地を……いや、この「星」そのものを揺るがすような音だったのだ。

 

2020.04.02 21:33 UTC / アイスランド・シンクヴェトリル国立公園 視点:セイバー

 

「な、何が起こってるんだ……大丈夫なのか、セイバー!?」

「どうにか、ッすね……! アサシンの奴、なんつう跳躍力してンだ……!!」

 

 大地は既に水浸し。ワシらの周囲には、巨大な波のようにせり立つ八つの「水流」。

 普通の大波ならいつかは流れて消えるものだが、アレは重力に逆らって残り続けている。視覚的には波というより滝に近い。

 そんな「波」は重なり合って、空すらも塞いでしまっていた――が、こちとら、リヴァイアサンの子たるタラスク。そう「水」の属性に負けるようなヤワな身体はしていない。

 水流なんぞ突っ切って、簡単に突破してやろうと思っていたのだが……

 

(一体、何が起こった? ワシはあの時、水流に「弾かれた」ぞ……!?)

 

 混乱する間もなく、ワシは「中央」へと蹴り戻された。

「――大した防御力ね。でも、そうやって守り続けるのが精一杯でしょうッ!」

 目の前を高速で跳び回り続ける、無数の黒い影。もちろん、その正体はアサシンだ。

 奴の真名は、日本神話における蛇神――「ヤマタノオロチ」。

 八つの谷と峯にわたる長大さを誇るとされた、かの島国における最大最強の怪物。

 そんな竜の膂力が、人間サイズの肉体に圧縮されたのである。

 

「即ち、脚力も一飛びで八つの谷を飛び越えるほどってわけか……! 冗談も大概にしてくれよ畜生!」

 

 隙を突いて移動しようにも、この常軌を逸した速度の前ではあっさりと追いつかれてしまう。「水流」すら突破できない現状、マスターを守りながらではどうにもできない。

 思わず甲羅に引っ込んで守りを固めた結果、今ワシは全方位から蹴り飛ばされ続けている。

 アーチャーの【東辰守護:A+】による防御力上昇もあってダメージは少ないが、サッカーボールじゃないんだぞテメー……!

 

(――例の「歌」は、今も遥か遠くから鳴り響いている。それが何かは分からないが……間違いなく、何か異常なことが起こってンだ)

 というか、アサシンがいきなり「足止めが目的」の戦いを仕掛けてきたことと「タイミングが噛み合いすぎている」。これで何もないって方がおかしい。

 ひとまずワシができるのは、宝具を使ってひたすら耐えることだけ。

 地の利すら得ているアサシンに対して、「攻撃を当てる方法」が思いつかん。

 だが……アーチャーなら、その間に打開策を練ってくれるはずだ。

 表情を見る限り、「嫌な予感」を覚えたのはあいつも同じ。

 

 そして、アサシンの「ジャイアントキリング」という発言。

 それを放っておけば、何かとんでもないことが起こる――そんな気がしているのだ。

 

2020.04.02 21:35 UTC / アイスランド・シンクヴェトリル国立公園 視点:レゼフィル

 

 セイバーは完全に「耐え」の構え。つまり、その間にあたしたちがどうにかしろという意思表示だ。

 確かに、敏捷性だけを見るならセイバーよりはアーチャーの方が「追いつける」可能性はあるけど――いくらなんでもアサシンが速すぎる!

 とはいえ、単に「跳躍力が凄い」というだけじゃこうはできない。

 普通跳んで行ったらそのままなのに、アサシンは「戻ってきている」。

 その秘密を、比較的攻撃を受ける回数が少ないアーチャーは冷静に分析していた。

(水流だ。奴は跳躍した後、周囲を取り囲む水流に飛び込むことで身体を弾ませ、再跳躍を果たしている)

 

 いや、説明になってないわよッ!?

 確か、水って流体だから「力を受けた時の変形」は「歪みとして蓄える」んじゃなくて「流れとして逃げる」はず――トランポリンみたいにはならない! できるのは「勢いを殺すだけ」じゃないの!?

 

(是である。液体は剪断……即ち「横にずらす力」に抵抗しにくいため、蹴りの力が反力として返りにくい。高所落下で水面が硬く感じることはあっても、それは水が圧縮しにくく短時間にどかされる抵抗が大きいだけで、「縮んで戻るバネ」の反発ではない。ならばあれは、「純粋な水」ではないと考えるのが自然である)

 

 次の瞬間、アサシンの攻撃を弾いたアーチャーは「水球」へと跳び、その表面を掴み取った。

 握られていたのは、「水」――というより、「ゲル」という表現に近い物質。

 

(やはり、この水にはアサシンの「血」が大量に含まれている。これまでの情報を総合する限り、八岐大蛇は首の数と同等の“属性”とそれを操作する権能を持つようだが、「水」と「血」は確定と見ていい。神話において『八岐大蛇の腹部は常に血が滲み爛れていた』ことが由来だ)

 

 言われてみれば、古事記にもそう書かれていた気がする。当時は「怪物のおぞましさの表現」としか思っていなかったけど……

 

(そして奴は、自身の血液を操作し……『怪我をした時、血が固まって傷を塞ぐ』ように、血液中のフィブリノゲンを凝固させ、繊維状のフィブリンを「水」へと混ぜ込んだのである)

 

 ……あたしから見ればフツーの無色透明の水だが、どうもそうらしい。

 しかし、よく見れば微かに白っぽい気もする。これが凝固したフィブリン――いわゆる「血餅」ということか。

 

(血液の赤色は、赤血球が由来だ。アサシンがスキルで血を「操れる」ならば、意図的に赤血球を除外し、血漿やタンパク質を中心とした構成とすることは容易。加えてフィブリンの「繊維」も、その太さはナノ~サブミクロン級。目視は困難である)

 

 ここの「ギャオ」の水にアルヴェイルが潜った時、「生物が全然いない」と言っていたことを思い出す。

 あまりにも澄みすぎて目立つ生物がほとんどいない水だとすれば、アサシンが「手を加える」ことは容易だってことなのかしら!?

 

(その可能性は高い。更に言えば、奴の「血」は「呪い」の触媒だ。今、あの水流は一種の「呪物」と化している。呪縛とは即ち「事象の固定」。性質、形状が変わらぬように縛ることで、あの水流は「柔らかく弾き、壊れない」性質を維持しているのである)

 

 アーチャーの視界を一瞬「共有」し、アサシンの動きを垣間見る。

 セイバーを蹴り、そのまま「水流」にダイブし――水を蹴って反転、再跳躍。

 山を軽々と跳び越えるような脚力をぶち込まれたはずなのに、「水流」は大きく歪んだ後にその形を取り戻した。頑丈どころの話じゃない。――ってことは。

 

(是である。古来より、呪物とは「単純な破壊行為への耐性」や「復元性」を備えているものだ。日本における卑近な例であれば、「捨てた人形がどうやっても返ってくる」怪談のように。――即ちあの「水流」は、通常の物理攻撃では「破壊不可能」となっている……!)

 

 ――呪いに、祟り。

 オカルト的には「解呪」したり「祓う」ことで無効にする……なんてイメージだけど、

 

(当然、易々とはいかぬ。日本神話における八岐大蛇は、「荒ぶる神」の代表と言える存在――言わば、かの国における呪いの“最大手”の一つである。正面から挑めば、余の力を以てしても大幅な時間経過は避けられない)

 

 ……できない、とは言わないあたり流石よね。

 でも、「凄い時間がかかる」なら現状「不可能」と同じようなものだ。

 「破壊不能の水流」による完全封鎖、アサシンによる追撃の両方を超えなければならないのに!

 

「あーもう、じゃあこの状況をどう突破しろってのよ!?」

 そんなあたしの疑問に、青き竜は平然と答えた。

 

(正面からは困難、というだけだ。時間こそかかるが――突破への策は、既に組み上がっている)










そもそも「呪い」とは何ぞや、という話ですが。

いわゆる『呪術廻戦』的な「人間の負の感情から生じるエネルギー」としての呪いと、神道・日本神話的な災厄観における「呪い」は、結構別ものなのではないかと思っています。
神道的な文脈で「呪い」に近いものを考えるなら、中心になってくるのは「穢れ」「罪穢」「祟り」「荒ぶる神」「祓い」「禊」「鎮め」といった言葉です。

國學院大學の神道事典によれば、穢れは清浄の反対であり、神道における忌避状態である。また、罪が人間行為の結果とされる一方、穢れは自然発生的現象の結果とも見られ、それが個人に付着すると社会にも災厄をもたらすと考えられた……とのこと。
さらに日本の宗教文化においては、そこに陰陽道・仏教・民間信仰なども絡み合い、「神仏や悪霊などに祈願して相手に災いが及ぶようにすること」としての「呪詛」や、「神や精霊などの超自然的力、神秘的な力に働きかけ、願望をかなえようとする行為」としての「呪術」が語られるようになります。

なので、アサシン・八岐大蛇の振るう「呪い」とは、呪術廻戦的な「負の感情のエネルギー」というよりは、むしろ「穢れ」と「祟り」を根本とした、荒ぶる神威の奔流……みたいな感じです。
もちろん、そこから派生して「いわゆる呪術」を行使することも可能です。
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