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2020.04.02 21:30 UTC / マリアナ沖 視点:ネゼミア
「――っっとォ! 危ないなァ、全く……!」
ライダーの背から転げ落ちたシェリトを、ひょいと拾い上げたのはバーサーカーだった。
ルーラーが仕掛けてきたのは「歌」。
魔力による砲撃でも、物理攻撃でもない。
ライダーたちの魔力障壁は、その背にいるマスターをあらゆる攻撃から守ることができる。
けれど、あの「歌」がもたらすのはダメージではなく「状態異常の塊」だった。
音や光といった知覚への侵蝕は、障壁では防ぎきれない。
サーヴァントであれば【対魔力】などのスキルで耐えられるが……
「普通の生物」は、「普通の状態異常」でも十分に辛いものなんだ。
「ただの風邪」でも寝込んで動けなくなるものなんだ。
ましてや、ライダーにすら影響を及ぼすほどのものならば……!
バーサーカーの応急の治癒魔術により、シェリトはなんとか意識を取り戻す。
しかし、その呼吸は未だに荒い。
僕はなんとか耐えられているが……
くそ、何が「サーヴァントでないなら令呪の影響を受けないから大丈夫」だ。
「障壁も、【対魔力】も容易にすり抜けるか。これは……宝具だな!」
「貴様に言われなくとも分かるわ、阿呆が……!」
「あぁ? 愛しのマスターの危機を救われておいてその態度はないんじゃないかね?」
「【対魔力】すら持たぬ、狂戦士の分際でよくほざく……そいつは我が財宝庫に放り込んでおけ!」
「冷たいねェ……っと」
シェリトがバーサーカーの手から離れ、虚空に呑まれる。
……まあ、こいつらは心配しなくても大丈夫そうか。
そう思ったところで、「歌」はふいに止まった。
代わりに、透き通るような声が、どこまでも静かに響く。
「……
あの「歌」と同じ声。
どこまでも澄み切って、なお深く――底知れない。
「わたしの眼は、この星を全て見渡せる。おまえたちのこれまでの戦いも、全て見てきた。おまえたちが、わたしの元に向かってきていたことも。――監督役にして、裁定者のわたしを害そうとすることは、重大なルール違反だ。……それでも、引くつもりはないのか」
「当然だとも。“最強”という称号を得るなら、実際にやり遂げなければ意味がない。聖杯というチートでランキングを一位に書き換えたところで、そこに達成感はないだろう?」
バーサーカーが、こちらを見て言った。
言っていることの一部はよく分からない。けれど、意味は伝わってくる。
「――そうだ。僕は、誰よりも強くなる。そうなった時、僕は――」
きっと初めて、心の底から「安心」して眠れるんだ。
この自尊心は、ようやく満たされるんだ。
「……フン。ネゼミアよ、今だけは貴様に同調してやる。支配者とは――いや“悪”とは、常に眠れぬ夜に生きる者。暴力と流血の円環に浸り、復讐と荒涼の狭間に死す者。故に“絶対の不滅”こそ、我が必ず手にせねばならぬ宝なのだ……!」
ライダーもまた、黒炎を纏いながら宣言する。
……警告など、最初から意味がないと分かっていたのだろう。
ルーラーは、少しだけ表情を曇らせて――
「令呪を以て命ずる。ライダー・ファヴニール及びバーサーカー・サタンは――互いの陣営を、最優先の攻撃目標にせよ」
「裁決」は、下された。
事前のバーサーカーとの予想では、一番ありそうな命令は「ルーラーを攻撃するな」だった。
だが、「〇〇できない」などの禁止令や、「本人が本能的に拒否する行動」は、強い意志や【対魔力】スキルによってある程度抵抗が可能だ。
もちろん、令呪を重ね掛けされればどうにもならない。だがルーラーは、ランサー戦の終結時に令呪を一画使用している。
今の彼女に、二重命令を行う余地はない。
その上で、この「命令」は……!
「ヌウウッ……! 上手く躱せよ、バーサーカーァッ!」
ライダーがバーサーカーに向けてブレスを吐く。
バーサーカーもまた、反撃の炎をライダーに向けて撃たざるを得ない。
……そうだ。聖杯戦争の大前提は、サーヴァント「七騎による」殺し合い。
ライダーとバーサーカーは、いずれ遅かれ早かれぶつかる運命にある。
ルーラーの命令は、単にその「優先順位」を決定しただけにすぎない。そもそも本来、「ルーラーを倒す必要はない」のだから。
厳密には「ルーラーを狙うな」と言われていない状態で、「やりたくないこと」をやらされているわけじゃない以上……抵抗が難しい……!!
勿論、僕はサーヴァントではないので令呪の影響を受けない――だが。
「A――Aaaaaa、aaaaaa――!」
再び、「歌」が始まった。
澄んだ声が、神経を穿つ。
多種多様な状態異常は、僕たちの視界や反射神経、判断力にまで悪影響を及ぼす。
しかも、それだけじゃない。
ルーラーの角から、指先から、数えきれないほどの光線が放たれる。
細く、長く……回避が困難な射撃が、あのランサー以上の魔力で。
事前に、どのような令呪の命令が来ても対応できるように考えてはいた。
だが「歌」の中、ルーラーだけでなく、ライダーの攻撃を回避しながらそれを行うのは……!
「なんて――甘ったれたことを言えるかッ!!」
叫ぶように意志を叩きつけ、僕はスキル
ストックしていた【憤怒の化身】の魔力が走り、体色は一瞬で炎のような橙に変わった。
怒りは火に。火は力に。
頭痛すら焼き尽くして、体を無理やり突き動かす。
「歌」が宝具だとしても、声を出せなければ使えないはず。
戦いに備えて、僕はバーサーカーから、スキル【中国武術(八極拳)】を扱うための技をいくつか学んでいる。
その一つ――『破喘一掌』。
両掌から衝撃波を叩き込み、呼吸器系を麻痺させる大技。
海面を蹴り、光線を避けながら、僕はルーラーへと距離を詰めていく。
だが、次の瞬間ルーラーの姿が唐突に横へと移動した。
足を動かす様子はなかったのに――あり得ない動き。
同時に放たれた光線も、斜めに軌道を変えながら迫ってくる。
躱しきれず被弾し――海中に落ちたことで、その正体に気付く。
ルーラーを乗せた海流が、まるで意思を持ったように動いていたのだ。
(なァるほど、ティアマトは「母なる海」の化身――「原初の海」の宝具を使わずとも、触れている海水そのものを自在に操れると来たか!)
バーサーカーの念話が脳裏に響く。
あいつは未だにライダーとやり合っている……未だ「タイミング」は合わない。
追撃の光線を、舌を伸ばしてバーサーカーに掴まる移動で回避する。
だが、再びルーラーとの距離は開いてしまった。
……強敵だとは分かっていた。だからこそ挑む価値がある。
しかし、奴はまだ「竜」の姿に変化してすらいない。
バーサーカーの「切り札」も、まだ使えない。
思考が迷い始めたその時、僕を現実に引き戻したのは――「歌」だった。
だが、それはルーラーのものとは違った。
優しく、包み込むように心を癒す旋律。
その源は、ライダーの背からだった。
「ヌウゥッ――まさか、シェリト……何をした!?」
「財宝庫」が開き、シェリトがライダーの背に戻る。
だが、シェリトの顔色は少し前に見た時よりかなり良くなっていた。
その左前足には、金色の輪が嵌められている。
そこから流れ出る「歌」が、ルーラーの「歌」を中和していたのだ。
「それは……フレイヤの加護を宿した腕輪か!」
バーサーカーが面白いものを見た、とばかりに目を輝かせる。
フレイヤ。たしかそれは、北欧神話における愛と豊穣の女神。
「恐らく、フレイヤが戦士のために作った装備品ってところだな。持ち主はファヴニールのもたらす恐怖に打ち勝つため、加護を得ようとしたのだろうが――ま、それだけで勝てれば苦労しない。大方、その後は趣味に合わないから死蔵してたってオチじゃねえの!?」
バーサーカーが、ライダーの翼に吹き飛ばされながらも軽口を投げる。
「ライダーは嫌いだろうけど……私は好きだよ、こういうの。
シェリトがライダーの背で叫ぶ。
ライダーは宝物を貯め込むことは好きだが、外に出すのは大いに渋る性格らしい。
勝手に持ち出したシェリトに対して、怒り心頭かと思いきや――
「――その豪胆さと審美眼は褒めてやる! だが二度は無いぞ、阿呆が!」
……意外と機嫌がいいようだった。
もしかして、あの腕輪の「歌」のせいだったりするんじゃないか。
ともかく、僕やライダーにかかっていた状態異常は打ち消された。
ライダーは一気に加速し、光線を潜り抜けてルーラーの目前へと肉薄する。
そして、躊躇なくその巨大な爪でルーラーの身体を押さえつけた。
至近距離からの反撃も顧みずに。
――驚くほど、その爪には力が込められていないのが僕から見ても分かる。
「何、を……まさか」
ルーラーの目が、バーサーカーの方へと向く。
「おおっとォ! ライダーに攻撃を仕掛ける絶好のタイミングじゃあないか!」
バーサーカーが、これ見よがしに叫ぶ。
「だが“偶然にも”その近くにはルーラーがいるな! 神性特攻が刺さってしまうが……ま、仕方ないよなあ!?――諸共に燃え上がれッ!
驚きの白々しさで、バーサーカーは巨大な火球を解き放つ。
あの宝具は「神性・善属性・純白の存在」相手に真価を発揮する。
ライダー・ファヴニールは混沌・悪属性。神性も持たぬため、耐性は十分だ。
その上で、光線と宝具を受けたライダーの傷口から、毒々しい鮮血が迸る。
「やってくれたなバーサーカー。我が宝具
こちらも負けないくらい白々しかった。何だこいつら。
ルーラーはスキル【女神の神核】により呪いが効きにくい。
それでも、その動きは止めた。
仕掛けるなら――今しかない。
「令呪を以て、我がサーヴァントに命ず!」
令呪には令呪。
あいつらしい、捻くれた対抗策を。
「かつての輝きを――取り戻せッ!!」
海面を、朝日よりも眩い光が照らし出す。
その中心に立つのは、三対の黒い翼を持つ存在。
人でも、竜でも、悪魔でもない何か。
バーサーカー・サタンの、かつての姿。
その霊基は――
「
ルーラーが、【真名看破】で瞬時にその正体を見抜く。
「そうとも! 今の俺は、バーサーカーでもサタンでもありはしない!」
声は高らかに、それでいて世界の理を嘲るように響く。
「我は神への叛逆者、堕天使ルシファー。神を否定し、その光を冒涜する者。そして、もはやお前の命令に――囚われることもない!」
「ライダー・ファヴニール及びバーサーカー・サタンは互いの陣営を最優先の攻撃目標とせよ」。
ルーラーは令呪によって、確かにそう命じた。
令呪の強制力は、内容が明確であればあるほど強い。
逆に言えば、曖昧であれば強制力は弱くなる。
文言そのものが間違っていればなおさらだ。
……もちろん、アイツはああ言ってるが完璧な対策じゃない。令呪の影響は残っている。
元より、完璧な別人になったってわけじゃない。
バーサーカーのクラススキルの【狂化】は残ったままだし、霊基の改竄も一時間が限度。
そして何より、ルシファーとサタンという存在は不可分だ。
過去が失われることなど、決してないように。
だが、それでも。
夕暮れを上書きするほどの、「傲慢な」輝き。
その姿はあまりにも頼もしく、力強く僕の目に映った。
「さあ――反撃開始と行こうじゃないか!!」
◆
「明けの明星」の名を持つ天使、ルシファー。
彼は神への反逆を企て、堕天したとされる。
しかし厳密には、「堕天」の直接の原因については諸説あり、定まっていない。
だが、これが逆にアヴェンジャーのクラスの条件とされる「後世において、復讐する権利がある・復讐を望んでいるに違いないと“思われている”」性質と合致した。
ルシファーという存在の持つ「神への叛逆者というイメージ」――他者からの強烈な想念は、一時的とはいえ、令呪の後押しを受けて彼の霊基を書き換えるのに十分だったのだ。
◆
2020.04.02 22:15 UTC / マリアナ沖 視点:ルーラー
「A――Aaaaaa、aaaaaa――!」
わたしは歌う。
激浪の如く、暴風の如く。
尋常の生物であれば聴覚が破壊されるほどの魔力を込めて、謳い続ける。
もちろん、それだけでは終わらせない。
「ぬぅッ――これは……!」
「“青”の魔眼か! 重ねてきたなァ!」
上空を飛行する、ライダーとアヴェンジャーの動きを鈍らせる。
【青き星の瞳】。星の意志の代行者たる証。
視界内の存在全ての動きを束縛する魔眼。
彼らの高度が下がったのを確認し、わたしは次の一手を打つ。
「――大波よ、来たれ」
彼らを囲むように、巨大な波が四つ立ち上がる。
そして、意思と魔力を乗せた――都市を呑み込めるほどの高さとなった波を解き放つ。
……ここまでの状況になってなお、わたしは彼らを「処罰」の範囲に留めようとしていた。
歌と魔眼、そして波による拘束。
そのまま、彼らを遠く他のサーヴァントたちのいる地方へと押し流し、彼らの聖杯戦争を続行させようと考えていたのだ。
通常の聖杯戦争でも、「監督役の持つ予備令呪を奪うため」といった理由で参加者が襲撃をかけるなどの反則行為は起こり得る。
そのため、裁定者は参加者よりも強力な権限と力を持っているのだが――
まさか、それが仇となるとは思わなかった。
「だからこそ」向かってくる者がいるとは、想像もしなかった。
それでも、わたしは裁定者として――「母」として、彼らを赦そうとしていた。
キャスターがかつて語っていた通り、わたしは甘いのだろう。
感情のままに動く「獣」であることが、わたしの本質なのだろう。
「ああそうとも。そしてその甘さに付け込むのが、俺のやり方だ」
――邪悪に満ちた囁き声。
アヴェンジャーが、動いた。
令呪による霊基の偽装は、ただクラスを変えるだけのものではない。
宝具さえも、入れ替わっていた。
「さあ、もう一つの地獄を見せてやろう! 来たれ、来たれ、来たれッ! 『
――出現したのは「業火」ではなく、氷の吐息。
瞬く間に、海が凍りついていく。
押し寄せる大波すらも、見る間に氷塊と化していく。
地平線の向こうまでも、白く染まっていた。
【真名看破】が、その宝具の本質を告げる。
コキュートス――地獄の最下層、嘆きの川。
『神曲』においてルシファーが幽閉されているとされるその地は、裏切り者の魂を氷漬けにする絶対零度の牢獄。
その凍結は、相手の心に潜む「罪悪感」に比例して威力を増し、精神ごと封じ込める。
サーヴァントは、基本的に以前召喚された際の記憶を引き継ぐことはない。
だが、「今」のわたしは――かつてビーストとして召喚されたことを前提としている。
「既にどの時空にも存在している」ことを証明する、【単独顕現】の影響だろう。
魔神王の作りし、第七特異点の記憶。
愛憎と、決別。
あの時抱いた感情も、全てここに残っている。
故に、この「氷の牢獄」は覿面に作用してしまった。
……攻撃手段としての大波だけでなく、海流による移動、潜水による退避までもが封じられる。
だが、それでも止まるわけにはいかない。
【怪力】で、纏わりつきかけた氷を剥がし、氷上に跳び上がる。
――まだ、わたしの攻撃方法はある。
全方位に向け、無数の光線を解き放つ。
いくつかは氷面を穿ったが、砕くには至らず、反射して空へ跳ね上がった。
更に、立ち上がった四方の波の氷に光が乱反射する。
予測不能の軌道となった光線が、宙に向けて無差別に襲いかかった。
「……しまった、確かにそうなるな!」
「早速裏目に出てるんじゃない……ッ!?」
アヴェンジャーが被弾し、シェリトが叫ぶ。
一見こちらが有利になったようだが、油断しない。
軽くないダメージではあるが、所詮はラッキーパンチ。
どこか抜けたような態度で油断を誘い、次の瞬間には伏兵が急所を狙う。
バーサーカー/アヴェンジャーの真骨頂だ。
「――そこだ!」
左後ろを振り向き、ブレスを放射する。
氷上を猛炎が煌めき、透明化していた小竜を僅かに照らした。
だが、僅かに背中へ痛みが走る。
微かに聞こえた、空気を裂いて何かが伸びる音。
そしてこの感覚は――魔力を吸われたか。
「ナイスだ相棒。俺も――負けていられないなァ!」
宣言と共に、アヴェンジャーの手に光の槍が現れる。
……バーサーカー時に比べると、彼は耐久力を捨てて敏捷性を引き上げている。
加えて厄介なのがこの槍。実体を持たず、自在に再構成ができる。
つまりいつでも「捨てられ」、新たな軌道で「出現」させられる。
迂闊な迎撃が通じない、極めて変則的な武器だった。
わたしの肉体は強靭だが、格闘術の技量はない。
相手の攻撃は避けるか、耐えるか、あるいは光線で弾くしかない。
海流による間合いの調整ができなくなった以上、リーチのある武器への対処は難しい。
躱しきれず、右腕の外端が切り裂かれる。
傷口には「光」が残り、わたしを灼き続けた。
……アヴェンジャーの攻撃は、徹頭徹尾【神性】特攻で構成されている。
かつて彼は、絶対の神にすら叛逆した。
不滅の存在であるわたしに対しても、何らかの「対抗策」があることが予想できる。
この男の攻撃を受け続けるわけにはいかない。
だが、わたしの敏捷では全てを躱すことは困難……!
ならば、わたしが取るべきは――槍よりも速い、音速の反撃。
「A――Aaaaaa、a――!?」
――「歌」が、響かない。
声が、空気を伝わらない。
……まさか。
「気付いたか。今、コキュートスの冷気は俺たちの周囲に一点集中している」
アヴェンジャーの口角が、ゆっくりと吊り上がった。
「“歌”とは、空気の振動により成立する行為。しかし! マイナス二百十度以下の極低温においては、空気そのものが凍り始めるッ!運動エネルギーは失われ、振動は制限される。つまり――この沈黙の牢獄では、お前の“歌”は意味を成さない!」
その宣言と同時に、彼の隣で凍った海面が大きく砕けた。
――震脚。
八極拳における必殺の踏み込み。
白い大地を踏みしめ、燃えるような赤黒の身体が跳ね上がる。
両掌から放たれる、爆ぜるような衝撃波。
「――哈ッッッ!!」
胸部への、咆哮のような掌打。
その打撃は衝撃波を伴い、わたしの肺を直接殴りつけた。
呼吸器に麻痺が走り、口が開いても声が出せない。
「……ッ、あ――!」
ネゼミアが
最上位のランクを持つそれが、八極拳の一撃を想像を絶する破壊力に押し上げてしまったのだ。
――拳から直接伝わる、揺るぎのない殺意。
ただわたしを超えようという、漆黒の決意。
……わたしは、この程度で斃れはしない。
理性では理解している。
だが、それは「母」としてのわたしの心の堰を破壊するのに十分過ぎた。
このままでは、彼らを止めることは叶わない。
今のわたしでは、性能が足りない。
そう、思い込ませるほどに。
――タイムスケール、瞬時捻転。
霊基を、一気にジュラ紀のそれにまで回帰させる。
【自己封印】の解除とともに、獣の権能は解き放たれた。
「A――■■■■■■■、■■■■■――!!」
声なき叫びが、空と星を震わせた。
「……これは流石にまずいな。掴まれ相棒、飛ぶぞ!」
アヴェンジャーが冷静に言い、氷上にいたネゼミアを抱き上げて跳翔する。
敵ながら、流石の判断力だ。
そうでなければ――ここまでの甲斐なく、あっさりと敗退していただろうから。
次の瞬間。
広がった黒い泥が、広大な氷河を上から覆い尽くした。
あらゆる命の起源にして終着たる、「生命の海」。
わたしの――「ティアマト」の本質そのもの。
◆
ティアマトのスキル、【自己封印:C+++】の解除。
これによって解禁されるのは、
【自己改造:EX】
【ネガ・ジェネシス:D】
【獣の権能:C】
――以上、三種のスキルと二種の宝具。
どれも通常の英霊の範疇を遥かに超えた力だが、最も凶悪かつティアマト攻略を事実上不可能たらしめるのがスキル【ネガ・ジェネシス】である。
前提として、ティアマトには「死の概念」が存在しない。
加えて【自己改造】により竜体へと変貌した彼女は、A++ランク以下の攻撃を完全に無効化する。
そして、【ネガ・ジェネシス】――
それは、現在の進化論・地球創世の予測を悉く覆す概念結界。
正しい人類史から生まれたサーヴァントの宝具を無効化するだけでなく、そもそも結界が展開されれば、サーヴァントは内部に立ち入ることすらできず消滅する。
現在はランクの低下により、短時間かつ「自身の周囲」のみにしか展開できなくなっているが、効果の本質に変化はない。
ほとんどの攻撃を受け付けず、無限に成長する――徹底的に「人理を滅ぼす」ためのような存在。
それが、かつてのビーストⅡだった。
FGOのティアマト、ビースト霊基だと「宝具未所持」というのが二次創作者泣かせ過ぎませんか
口調もラーヴァじゃないとほぼセリフ無いとか……