Fate/Draco―蛇竜王戦線―   作:ぴーらー

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第24話:起源にして、頂点

2020.04.02 22:37 UTC / マリアナ沖 「生命の海」 視点:ライダー

 

 規格外、という言葉すら生ぬるい。

 あれが、人類悪。

 本来ならば、「冠位」の英霊七騎でようやく対応可能な存在なのだとよく分かる。

 今の彼女は、裁定者としての霊基だが……それでも理解を超えた強さを持つことに違いはない。

 ……そして。

 

 あの「悪魔」が、それを知らぬはずがないのだ。

 だが、奴らは挑もうとしている。

 我のように「宝具を奪う」ことに留めようとしているのではない。

 勝つ気でいる。

 ……本当に、あれを倒す気か。

 

 そのための「切り札」――

 奴がそう呼んだ何かが、本当にそれを可能にするというのか。

 

2020.04.02 22:38 UTC / マリアナ沖 「生命の海」 視点:シェリト

 

 ……もはや、悲鳴すら出ない。

 恐怖の限界を越えて、思考が追いつかない。

 腕輪の「歌」がなければ、私の頭は恐怖で破裂していたかもしれない。

 最初に「今と比べれば小さかった」ルーラーを見たときに感じた、ランサー以上の圧倒的な存在感の理由――

 それを、私は思い知ることになった。

 氷の上に広がる、黒く澱んだ泥。

 その中に一度姿を沈めたルーラーが、再び浮上してきたその瞬間。

 ……彼女の姿は、もはや別物だった。

 確かに、一部を見れば「二つ足」に似た面影は残っている。

 

 しかし、「全体」はあまりにも違っていた。

 その口は首元まで裂けて広がり、翼は空を貫くほどに伸び広がり、強靭な四肢は海を貫くようだった。

 そして、その体躯。

 ――私から見て、ライダーは「山のように大きな存在」だ。

 ならば、その「山」を飲み込むほどの存在は――何と表現すればいいのだろう?

 バーサーカー……もといアヴェンジャーの「凍らせた海」を押し潰し叩き割るほどの存在を、どう冷静に見ればいいのだろう?

 

「――慌てるな、シェリト嬢」

 不意に、頭上から声が降る。

「少々時間はかかったが、ようやくあの質問に答える時が来た。“なぜ我らが、ルーラーの宝具をライダーに奪われても構わないのか”……だったな?」

 ネゼミアを抱えたアヴェンジャーが、翼を広げてこちらへ降りてくる。

「答えは、極めてシンプル。我らが“切り札”は、それでも勝つことができる――本物の“鬼札”(ジョーカー)だからだ」

 

 次の瞬間、アヴェンジャーの姿が波打ち、黒い蛇――バーサーカーの姿へと戻る。

 そしてその背に座すネゼミアの手には――

 いつの間にか、眩い金の光を放つ「何か」が握られていた。

 それは、「果実」だった。

 そう見えるのだが、具体的には何なのか全く理解できない。

 私の知るどれとも違うし、形が変化し続けているようにも見える。

 ……きっとそれは、この世にあってはならない何か。そう思えてならなかった。

 

「第四の……即ち、最後の契約の時だ。我が相棒ネゼミアよ、お前は“選んだ”。神の軛を解き放ち、自由を得るための鍵を得た。己の運命を――切り拓く時が来た」

 

 小さな咀嚼音が鳴る。

 なぜか私の耳には、その音がこの上なく恐ろしく響いた。

 あのルーラーと同じか、もしくはそれ以上に。

 そして私は、理解してしまう。

 「決定的に取り返しのつかないことが、起こってしまった」のだと。

 

 

 噛み締めた瞬間、果実は跡形もなく溶けて消えた。

 舌に広がる、神経を焼く甘味。

 それは、続いて来る痛みに耐えるための麻酔だったのかもしれない。

 彼女の内側で、何かが爆ぜた。

 意識の奥底から湧き立つ、言語も論理も通さぬ思考の奔流。

 それは「感覚」を焼き尽くし、「理性」という形に鋳直していく。

 自らの「在り方」そのものを再構成する、黎明の熔鉱炉。

 ――それは、神の秩序の否定。

 創造主の権威、そのものへの背信。

 

 宝具、『禁断の果実』(ロスト・エデン)

 斯くして、現代に再びイヴは降り立った。

 

 その手に、黒鉄の死を引き連れて。

 

 

 かつて、■■■■はティアマトをこう定義した。

 ――其は人間が置き去りにした、人類史に最も拒絶された大災害。

 母から離れ、楽園を去った罪から生まれた最も古い悪。

 

 原罪のⅡ・ビーストⅡ。

 

 ならば果たして、彼女がそれと相対するのは運命だったのか。

 それとも、選択だったのか。

 かつて、知恵の実を口にしたあの女のように。

 蛇が寄り添い、言葉を囁き、目を開かせたように。

 ――「知ること」は、いつも痛みと共に訪れる。

 

 そして。

 彼女は、確かに「選んだ」。

 

2020.04.02 22:45 UTC / マリアナ沖 「生命の海」 視点:ライダー

 

 眼下の光景に、思わず我が目を疑う。

 『禁断の果実』(ロスト・エデン)

 あの「悪魔」の神話体系――奴の属するテクスチャにおける、すべての始まり。

 人類に「原罪」をもたらした「知恵の実」。

 それこそが、奴の宝具だったというのか。

 

「勿論、多くの制約付きだがね。一度しか使えないし、俺自身は使用できない。厳密には俺のものでもないしな、アレ」

 再び蛇はアヴェンジャーの姿に戻り、念話の速度で語りかける。

「今のネゼミアは、強烈な神性特攻と“際限のない強さ”を獲得している。そして、その力は時間の経過と共に増え続けていく――初め、一組の男女しかいなかった人間が子供を産み、地に満ちていったように」

「……ならば、何故その果実を最初から貴様のマスターに与えなかった? 奴は、死の危機に幾度も晒されていたはずだ」

「当然の疑問だな、ライダー。だが、ちょいと前提が違う。“知恵の実”ってのは、単なる最終フォーム変身用の強化アイテムじゃない。――あれは、“可能性を開き、選択する力”そのものなんだよ」

 ……アヴェンジャーの声色は、わずかに熱を帯びていた。

 それは、神への憎悪か、それとも信仰への冷笑か――聞き分けは難しい。

 

「キリスト教神学において、植物、動物と人間の魂は明確に区別されている。トマス・アクィナスは、それらを“植物的魂”、“感覚的魂”、“理性的魂”と呼称した。人ならざる動物には道徳的責任がなく、自由意志によって善悪を選ぶこともできない……つまり、厳密には“契約ができない”んだよ。契約ってのは、自由意志のもとにやるもんだからな」

 

「……何だと?」

 契約が、できない?

 奴の宝具、『悪魔の契約』(パクトゥム・ダエモニウム)は魂を対価にサーヴァントとすら渡り合える力をもたらすもの、と聞いていた。

 だが、それでは――ネゼミアは今、どうなっている?

 

「改めて、先の疑問に答えよう。選択する自由、といえば聞こえは良いがな。結局のところ、前提として力がなければそもそも選択肢なんて存在しないんだ。0はどうやっても1にはなれないように、0に億を掛けても0でしかないように――それを、可能性と呼ぶことはできない。だから、“仮契約”という形で短期間のうちに相棒の強化を突き進める必要があったのさ。“本契約”では時間がかかりすぎるんでな」

 アヴェンジャーは笑みを崩さない。

 だが、その性質が少しだけ変わったのを我は見逃さなかった。

 

「それだけではなかろう。――通常の生物が竜種と戦えるほどの力を短期間で授けるなど、碌でもない外法と相場が決まっている。まして、“悪魔”との契約だ。その対価など、考えるまでもなく分かる。――“魂そのもの”。違うか?」

 一瞬だけ間をおいて、アヴェンジャーは答える。

 

「――Exactly。正解だ、ライダー。俺は嘘が大嫌いだからな、ちゃーんと教えてやる。そうとも、『悪魔の契約』(パクトゥム・ダエモニウム)を結ぶたびにその魂は変質し、損耗していく。“本契約”によって、それは決定的なものとなった。動物が“理性的な魂”を得るとはそういうこと。まして、四度目の契約だ」

 

「……巫山戯るな。それを、奴は理解しているのか!?」

「当然だ。それでもあいつは、選択した。永遠の安寧を捨て、理想の輝きに手を伸ばした。……だがな。そもそも“後戻りできない覚悟”がなけりゃ、ジャイアントキリングなんて不可能だろ?」

 

 一拍置いて、蛇はさらに口角を吊り上げる。

「しかしまあ、随分と熱くなるじゃないかライダー。敵相手に肩入れするなんて、“悪竜”らしくもない。――まさか、自分の昔の姿を重ねでもしたのかね?」

 ……念話を強制的に切断する。

 本当に、どこまでも――苛立たしい「悪魔」だ。

 

 思考を戦場に集中する。

 ネゼミアは、竜体へと変貌したルーラーを相手に有効打を与え続けていた。

 外見に大きな変化はない。だが、決定的な違いが一つある。

 それは、彼女の手に握られた「武器」だった。

 黒く無骨な二丁の拳銃。見た目こそリボルバーに似ているが、そこに宿る神秘は常軌を逸していた。

 おそらく、『禁断の果実』(ロスト・エデン)を媒介として具現化した、ネゼミア自身の宝具。

 ランクを与えるならば、当然のEX(評価規格外)

 ならば、A++ランク以下の攻撃を無効化する現在のルーラーにも通用する。そもそも「評価の規格」が違う故に。

 ネゼミアは空気を蹴って跳躍し、ルーラーの周囲を駆け回り、迷いなく弾を撃ち込んでいく。

 反動も相応に凄まじいはずだが、それを拳法の動きで華麗に受け流していく。むしろ、反動を次の動きのための推進力としているようですらあった。

 

 そして、リロード。

 ……弾倉に込められたのは、実弾ではない。

 ネゼミアの魔力……いや、「生命」そのものだった。

 ティアマトは「死の概念を持たない」。

 より正確には、その存在そのものが「生命の原型」であり、「この地上に生命があること自体が、逆説的に彼女の存在証明となっている」。

 生きることそれ自体が、ティアマトの延長線上にある。死なぬのも道理だ。

 だが――あの宝具は、自身の生存を放棄することで「ティアマトの定義に対して反証を叩きつけている」。

 「知恵の実を食す」という行為により「神の秩序を否定する」だけではない。

 始まりの女が「永遠」を放棄したことで、人類が生きて死ぬようになったという事実。

 

 ……我の脳裏をよぎったのは、一節の言葉。

 そして、狂気じみた錬金術師どもの穴倉の名。

 

 サーヴァント・ファヴニールは、複数の「悪竜現象」の集合体として召喚されている。

 その断片たる「奴」の勤勉さが、一筋の閃きをもたらした。

 成程、ならば確かに勝機はある。

 ……様子見は終わりだ。

 あの小さき竜が、「ここまでやる」というのだ。

 ならば我とて、それに応えねばならぬ。

 ここで戦わずして、何が「竜種のプライド」か。

 

 「そのためには――まず、あの「泥」に対処せねばなるまい」

 ルーラーの宝具たる「生命の海」は、奴の「仔」を無尽蔵に生み出すことができる。

 加えて、その海に沈んでしまったものは「塩基契約」(アミノギアス)により侵食され奴の配下とされてしまう。そのようなものを広げさせ続けるわけにはいかん。

「た、対処って……うわあ何か出てきたぁ!?」

 シェリトが怯え叫ぶ。

 泥より這い出たのは、我が知るどの生命とも異なる「異形」の群れだった。

 肩には甲殻類めいた鉤爪が二本ずつ突き出し、顔には縦に開いた裂け目のような白い歯。そして、背には巨大な翼。

 だがそれ以上に、異様だったのは「色」だった。

 黒き泥から現れたにもかかわらず、奴らの肉体は――不気味なほど純白だった。

 そして彼らは、まるで聖騎士のように円陣を組み、ルーラーを守る盾となっていた。

「――クァハハハハハハハ!! 白のラフムとは……成程、それがルーラークラスの矜持というわけか? 面白いことをするじゃないかァ!」

 何がおかしいのか、アヴェンジャーは狂ったように笑い転げていた。

 狂気じみた笑いの合間に、奴は楽しげに続ける。

「そりゃあ可笑しいとも。あれはかつて、ビーストⅡのティアマトが“新人類”としてデザインした生命体。“旧人類”を殲滅するために生み出された黒き獣。殺戮の衝動に突き動かされる、純粋な虐殺破壊兵器。――だが、既にこの星に人類は存在しない。故にアレは無駄な殺戮衝動を取り除き、ただ“母を守る”ことを起点として作られているらしい。なんとも健気じゃないか、どこぞの“泥人形”でも彷彿とさせるかのようだ!」

 

「――だま、れ――おまえが、あの子の――何を――!!」

 

 その言葉は、まさにルーラーの逆鱗だったのだろう。

 十字の魔眼を青から赤に変え、ルーラーは咆哮する。

 それに伴い、奴の魔力が目に見えて上昇する。

 【対魔力】で軽減したが……凄まじい呪いがこちらを襲った。

 星の質量がそのまま圧し掛かってくるかのような、呪詛の波。

「絶対に視線を合わせるな。危険性はあの“歌”の比ではないぞ……!」

 背中のシェリトは頭を抱えてうずくまり、ただ肯定の意を示していた。

 ルーラーは挑発に乗り、アヴェンジャーの方を向いた。

 白のラフムたちも、ネゼミアの対処に意識を割いている。

 この機に乗らぬ手はない。

 

 ――既に宝具を四種簒奪し、我が奥義の枷は解かれた。

 繰り出すは黒炎。奴の領域を塗り潰す、征服の業火。

「――最大開放。『灼熱竜息・万地融解』(アカフィローガ・アルグリーズ)ッ!!」

 

 

 炎は原初の海を融かし、ルーラーを囲むように景色を塗り替えていく。

 現れしは、灼けただれた黄金郷。

 それは、ファヴニールの支配域の証。

 最大開放時の『灼熱竜息・万地融解』(アカフィローガ・アルグリーズ)は、対界宝具の域に達する。

 物理的・霊的汚染を受けた地点及び物質は、全て「灼熱金脈」へと変貌してゆく。

 加えて、それは「ファヴニールが所持する財宝」として定義され、さらに【黄金の呪い】によるステータス増加をもたらす。

 ……そして、ルーラーも「意図」に気がつく。

 彼が、自身を「囲む」壁を築いた意味に。

 

2020.04.02 22:57 UTC / マリアナ沖 「生命の海」 視点:ルーラー

 

 わたしのスキル【青き星の瞳】は、ルーラーとしての召喚により「この星全域を見渡す魔眼」へと強化されていた。

 聖杯戦争を監督する者――裁定者に与えられた権限として。

 

 だから、【真名看破】を発動させつつランサーとライダーたちの戦いも全て見てきた。

 ライダーが「壁を築いた」目的は、恐らく「生命の海」への妨害だけではない。

 狙いは、ランサーがやっていたのと同じように「あの宝具」の拡散を防ぐこと。

 それは「周りを巻き込まない」ためではなく、「わたしに攻撃を集中させるため」。

 仮にわたしがライダーの領域を破壊すれば、猛毒は外へと解き放たれ、世界を蝕む。

 ……「母」であるわたしには、それは決して許容できぬ選択だと見込んだ上での策だと見た。

 同時に、ネゼミアの動きにも意識を割く。

 あの娘は、喰らった相手を即座に魔力へと変換することができる。

 ……今の彼女に、さらなる糧を与えるなど論外だ。

 白の「子供たち」には単独での迎撃を厳禁とし、集団戦法を命じている。

 この陣形を崩すことは、そう簡単には――

 

「いかないと、思っているだろう?」

 ……再び脳裏に響く、「悪魔」の声。

「確かに、生まれたばかりの獣に“罪悪感”は存在しない。ましてラフムだ。――それでも、数秒動きを止められれば十分! 『嘆きの氷河に果ては無く』(グラシエイト・コキュートス)ッ!」

 アヴェンジャーの冷気が宙を走る。だが、二度も同じ技が通用するものか。

「A――Aaaaaa、aaaaaa――!」

 魔力を炎へと変え、周囲に放射する。

 広がり始めた氷を相殺し、凍り付いた「子供たち」を救出する。

「言っただろう、数秒で十分だと!――そしてお前は忘れている。お前自身のスキルの性質を。それを利用できる者がいることを!」

「なん――だ、と……!?」

 足元で連続する破壊音。

 空中を跳び回るネゼミアが、猛烈な速度で「子供たち」を殺戮し呑み込んでいた。

 

 その体色は、純白。

 心当たりは一つしかない。

 【彩写偏色】(コード・スペクトル)によるスキルのコピー。

「――【獣の権能】、か……!!」

 【自己封印】の解除により解禁された、ビーストの力。

 なんであろうと、「母体」から生まれたものに対して特攻性能を発揮するスキル。

 そして、それは「わたしから生み出された獣全てに付与される」性質を持つ。

 『禁断の果実』(ロスト・エデン)を喰らったとしても、「銃」を介さないネゼミアの物理攻撃は竜体となったわたしには届かない。それでは「魔力吸収」は行えない。

 ……わたしではなく、「子供たち」を経由してそのスキルを写し取ったのだ。

 当然、彼らに対しても【獣の権能】の効果は発動してしまう……!

 

「皮肉なものだ。かつて散々にウルクの人類を嬲り殺し続けた魔獣どもが――“捕食される”側に回るとはな。そして、これで防御の陣は崩れた! 準備はいいな、ライダー!」

「貴様に――命令されるまでもないッ!」

 ライダーの顎に咥えられていたのは、巨大な刀剣。

 柄は金で――いや、大量の黄金を炎で鋳溶かし、固めたものでできていた。

 そこから繋がるのは、青黒く毒気を帯びた、実体を持たぬ刀身。

 ランサーから奪った宝具、『蛇神咆吼・蒼毒劫火』(ニーラカンタ・ハーラーハラ)

 ……あれは、形のない毒に「剣という明確な姿を与える」ことで制御している。

 その中央には、芯材として一本の魔剣。

 果たす役割は「剣としての形を保つ」だけではなく、恐らく「父殺しの血に染まった剣である」ということ。

『黄金貪界・欲竜の宝蔵』(グニタヘイズ・アゥズガルズ)――出し惜しみはなしだ。我らしくもないが、仕方あるまい!」

「勝てば帰ってくる投資だってか! ハハッ、盛り上がってきたじゃねぇの!」

 アヴェンジャーが囃し立てるように叫び、両手と周囲に巨大な光の槍を顕現させる。

「残念ながら、俺の宝具のランクはA止まり。竜の護りは超えられない……が、何事にも例外はある。そうだろう?」

 槍が一斉に眩い光を放ち始める。

 もはや、内部から「崩壊」する寸前なほどに。

 

 ――『壊れた幻想』(ブロークン・ファンタズム)

 宝具を強制的に自壊させ爆発を起こすことで、瞬間的な破壊力を引き上げる裏技。

 

 当然ながら、代償としてその宝具は失われる。

 武装を喪失するというだけでなく、英霊のシンボルたる宝具を自ら破壊するのは、極度の精神的苦痛を伴う行為なのだ。

 ……本来ならば、そうだ。

 だが目の前のアヴェンジャーは、その痛みすらも笑って捨てる類の存在だった。

 

「どうせ“ルシファーとしての宝具”は使用期限付きだ。だったら、派手に散らしてやる方が俺らしい。

 元より――過去の栄光にいつまでも縋り続けるほど、堕落しちゃいないってなぁ!」

 その宣言と共に、アヴェンジャーとライダーの宝具が同時に炸裂する。

 

『暗夜に咲け、涜神の明星』(ブラスフェマ・アポルオン)ッ!!」

『蛇神咆吼・蒼毒劫火』(ニーラカンタ・ハーラーハラ)(あらため)――『黄欲絶嵐・咬滅竜焔』(フロッティ・エイトルスヴァルト)ォッ!!」

 

 光の大槍が、わたしの翼ごと巨体を海底にまで縫い止める。

 続けて、黄金と毒で鍛え上げられた「親殺しの大剣」が、ライダーの顎に咥えられたまま胸部へと深く突き立つ。

 ライダーは勢いを殺さず、わたしの巨躯に押し入ってくる。

 そのまま押し切り、最後には「牙」を突き立てる気か。

 ……背には、「壁」。ライダーが宝具で築いた、黄金の領域。

 「拡散の防止」ではない。「わたし自体を逃がさない」ことが、真の狙いだったのだ。

 更に追い打ちのように、縫い止めた槍の光がライダーを照らしていた。

 その光は、悪の象徴たる黒き輝き――

 『暗夜に咲け、涜神の明星』(ブラスフェマ・アポルオン)の副次効果。

 「悪」なるものを強化・回復する、堕天の祝福。

 

「……ッッ」

 フラッシュバックしたのは、幽谷より来たる強烈な「死」の感覚。

 冠位の暗殺者が振るった、極限の一刀。

 世界を焼き尽くす毒炎は、かつて味わったそれを思い出させるのに十分な威力だった。

 

「が、ア――アァ――ッ!」

 喉が焼け爛れ、視界が赤く歪む。

 全身から感じる、内側から腐り落ちていくような凄まじい嫌悪と恐怖。

 いや、実際そうなりかけているのだろう。

 

「――マジかよ。それでも折れないってのか!?」

 アヴェンジャーが、思わず驚愕の声を上げる。

 ライダーもまた、目から血を流しながらなお突撃を止めない。

 至近距離で振るわれた猛毒が、彼自身の身をも削っているのだろう。

「おのれッ――まだ、崩れぬ、か……!!」

 

 だが、次の瞬間。

 状況を見守っていたアヴェンジャーが、鋭い声で叫ぶ。

「そこまでだ、ライダー! 相棒もだ、一旦下がれッ!!」

 

 ……本当に、どこまでもよく見ている。

 ネゼミアとライダーが後方へ跳ぶ。

 

 直後。

 逆巻く「泥」が、黒い嵐のように天を衝いた。

 ――『始源の海、幼年の終わり』(タムトゥ・エンウム)

 怒涛の勢いで吹き荒れる「海」は、わたしごと蒼黒の刀身を「呑み込んで」いく。

 かの破壊神が、世界を焦がす猛毒を全て飲み干したように。

 これこそが、「裁定者」にして「母」の矜持だった。

 怒りも、痛みも、呪いも。全てを――「子供たちを守る」ために抱き込む。

 

 そして、破壊の後には創造が来たるもの。

 「生命の海」の嵐から、次々と飛翔する光の粒子。

 形を得て現れたのは、無数の「子供たち」。

 彼らの純白の装いは、まさに死地に赴く殉教者のそれだった。

 ……「罪悪感」が、わたしの心を大いに苛む。

 今のわたしなら、確かに「コキュートス」によって凍結されていたかもしれない。

 だが、もはや賽は投げられたのだ。

 ネガ・ジェネシス――最大展開。

 わたしは、裁定者として。

 母として。

 ――おまえたちを、全力で止める。

 

 創世の波濤、生命の極限を以て。












サーヴァントマテリアル⑥

クラス:バーサーカー
真名:サタン
属性:混沌・悪
筋力:B 耐久:EX 敏捷:B 魔力:A- 幸運:なし 宝具:A

 保有スキル
【狂化:EX】
悪魔たる彼の狂気とは「神が正気であること」、その正しさの証明である。
何故なら、絶対的な唯一神に対し反旗を翻すなど狂っていなければおかしいからだ。
彼がどれだけ正気であるように見えようと「彼は狂っている」と定義される。
人知無能の存在。手の届く範囲にありながら決して理解できない淵。

【原罪の明星:EX】
最上位の悪魔にして、かつて聖なるものであったことを表すスキル。彼の周囲において善悪の基準に意味はなくなり、それを参照する場合正しい効果を発揮しない。
スキルのオンオフは彼自身が自在にコントロールできる。

【悪魔:EX】
第六架空要素。人間の願いに取り憑き、その願いを歪んだ方法で成就せんとする存在。もしくは、心の弱い人間に取り付きその「弱さ」を全肯定するもの。
「無辜の怪物」スキルの一種。形容詞として使われ過ぎた「悪魔」の象徴たる彼の正しい形は、本人すら知らない。
また、有史以来悪魔は「善なる人々」や「聖なる力」、「強い心」の前に負け続けている。
しかし悪魔は滅びない。人の心に悪がある限り。そのため、(戦闘を続行できるかはともかく)桁外れの耐久力を持つ。召喚されれば最後、自死もしくは「主人公補正の塊」が相手でもなければマスターを失ったとしても倒されず、消滅しない。
「はけ口としての悪」に死なれては困るのだから。

【蛇の智慧:A+】
楽園の蛇として、人類に知恵を授けたことを表すスキル。対象の精神を分析し、その欲望を引き出すことができる。心理学への造詣の深さ。
加えて魔術・神秘・霊術に精通し、高い耐性と解析力を誇る。

また、「契約魔術」なる術を用い、他者の「欲」を媒介として(「魔術」という概念が叶えられる範疇で)おおよその事を実現できる。ただし、「彼自身の願い」を叶えることは絶対にできない。
一度使用すると再発動に時間を必要とし、それが「現実を強く歪める」願いであるほど長引いてしまう。

【悪魔の証明:EX】
常識の埒外の情報収集能力。
悪魔は、相手の罪や過去のことを何でも知っている。
物理的に本人が知るはずのないことを、何故か知っている。
不規則に発動するため、当人以外にとっては全くあてにならない。
マックスウェルの悪魔が持つ同名のスキルとは別物。

【竜種】:A
竜が悪魔だというのならば、悪魔が竜でないはずは無い。完璧な理論だ。


 宝具
・『墜罪の蛇冠(コロナ・セルペンティス・ペッカーティ)』:A
種別:対神宝具 レンジ:0~66  最大捕捉: 666人
効果:地獄の業火そのものを出現させ、攻撃する。
神性、善属性、純白の存在に対して特攻効果を持つ。【原罪の明星】により、彼の周囲では善悪の基準に意味はなくなる。即ち全員が「無垢なるもの」として扱われ、ダメージが上昇するのだ。

・『悪魔の契約(パクトゥム・ダエモニウム)』:D
種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
効果:対象と契約を行い、魂を対価に力を与える。
契約のたびにその魂は変質し、削られていく。
また、契約の達人であるサタンは他のサーヴァントやマスターが何を願い契約したのかを知ることができる。

・『禁断の果実(ロスト・エデン)』:EX
種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
効果:対象に「知恵の実」を与える。
その本質は、神の権威の否定。
果実を食した者は「知恵」を手に入れ、強烈な神性特攻効果と「際限のない強さ」を獲得する。始め一組の男女しかいなかった人間が子供を産み、地に満ちていったように…その力は時間経過により倍々ゲームで増え続けていく。
この宝具は一度しか発動できず、かつサタン当人は使用できない。

…そして、これをヒトならざる「動物」が食すことの意味を、サタンは知っている。
中世キリスト教神学では、動物と人間の持つ魂は違うとされた。
人間は「理性的魂」を持ち、それは永遠である。
一方、動物の魂は「感覚的魂」であり、一時的なものだという。
――それは、「道義的責任を負わない」こと。
自由意思によって善悪を選べないということ。
この宝具を使用することを選んだ動物は、その魂を「理性的魂」へと変質させる。
それは神の秩序への否定であり、創造主の権威そのものへの背信。
「選択する自由」を――生きる自由と、死ぬ自由を得ることになる。
それこそが、神を殺す力となる。

霊基変更:アヴェンジャー
真名偽装→ルシファー
 保有スキル
【復讐者:A】
神への叛逆者。しかし、彼が何故堕天したのかは明確ではなく、様々な説がある。
アヴェンジャーの条件とされる「後世において、復讐する権利がある・復讐を望んでいるに違いないと思われている」という他者の認識の影響を大いに受けている存在。

【忘却補正:EX】
創世の時代より現代に至るまで、彼は神と戦い続ける。その一切を忘れることなく。
クリティカル効果を強化させる。

 宝具
・『暗夜に咲け、涜神の明星(ブラスフェマ・アポルオン)』:A
種別:対神宝具 レンジ:0~66  最大捕捉: 666人
効果:ルシファー=「暁の明星」が本来持っていた天上の光を呪いとして変換し、槍の形状にして放つ宝具。
神の理そのものを拒絶し、否定し、嘲笑する一撃は神性への特攻効果を持つだけでなく、悪属性を持つ者には体力・状態異常の回復の恩寵を齎す。

・『嘆きの氷河に果ては無く(グラシエイト・コキュートス)』:A
種別:対界宝具 レンジ:0~66  最大捕捉: 666人
効果:ダンテの『神曲』によれば、地獄の最下層「コキュートス」においてルシファーは封じられているとされる。そこは裏切り者の魂が氷漬けになる場所。
その氷を顕現させ、周囲ごと相手を凍結させる。
相手の心の中の「罪悪感」に比例してその威力は上昇し、相手を心ごと封じ込める。
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