Fate/Draco―蛇竜王戦線―   作:ぴーらー

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第25話:Supernova

2020.04.02 23:03 UTC / マリアナ沖 「生命の海」 視点:ネゼミア

 

 かつて、僕は「それ」を見たことがあった。

 轟音と共に煙を吐き出し、一撃で相手を屠る黒い筒。

 森の頂点捕食者すらたやすく殺す、恐ろしい何か。

 人間の持つ「銃」。

 それは僕にとって、「力」の象徴だった。

 「果実」を食べた僕は、迷いなくそれを武器に選んだ。

 

 「人間」という生物そのもののスペックは、本来そこまで高くないはず。

 体は大きくとも、その爪と牙は獲物を裂くには鈍く、皮膚は傷を防ぐにはあまりに薄く見える。

 

 だが、あの「銃」は世界の常識すら容易に覆す、「異常」だった。

 人間の「知恵」の結晶が、それを成した。

 叛逆のための、黒き牙。

 僕がずっと求めていた、世界の頂点に立つための――絶対的な「力」。

 それが、僕の宝具だった。

 

 

 ルーラーを覆う、黒き「泥」の嵐。

 そこから溢れ出した大量の白いラフムたちは、ライダーとアヴェンジャーを抑え込むために飛びかかる。

 何のためにか、など問うまでもない。

 晴れゆく嵐の奥で、ルーラーは破滅的な勢いで魔力を高める。

 生まれたばかりの兵隊たちは、「母」のためその命を早々に使い潰すつもりなのだ。

 ……アヴェンジャーなら、その姿をどう評しただろうか。

 でも、僕にとってその姿を嗤う理由などありはしなかった。

 きっとそれは――今の僕と、同じだったから。

 ルーラーの周囲には、青白い結界が立ちはだかる。

 【ネガ・ジェネシス】。

 サーヴァントの宝具と存在そのものを否定する、常軌を逸した力。

 普通ならば、それに対抗する手段は存在しない。

 

 だがここに、例外が存在する。

 英霊ならざる、一匹のカメレオン。

 純粋な生者相手ならば、サーヴァントを拒絶する結界は何の意味もなさない。

 だからこそ、あいつは僕を「切り札」と呼んだのだ。

 エースを殺すジョーカーにして――

 ジョーカーを殺す、スペードの3。

 

「――【彩写偏色】(コード・スペクトル)、起動」

 

 体色を切り替える。

 纏うは、闇の如き漆黒。

 先ほどアヴェンジャーからコピーしたスキル、【忘却補正:EX】。

 復讐者は、過去を絶対に忘れない。

 忘却の彼方から、その恩讐の刃を研ぎ澄ませて顕れる。

 

 ……ああ。何一つ忘れてなどいない。

 ずっと「神」と戦い続けてきた、あの悪魔と同じように。

 自分の惨めさも、無力さも。

 そして――怒りも。

 

 それでも、理解している。

 これは、どこまでも身勝手な復讐に過ぎないのだと。

 「知恵」は警鐘を鳴らしている。

 お前は愚かだ、と。

 でも、この一線だけは譲らない。

 「憤怒」の悪魔を喚んだのは、紛れもなく僕自身なのだから。

 この魂と意志を以て、「悪」を為すと決めたのだから。

 

 リロードを行う。

 銃の装弾数は、それぞれ7発。

 十四の伽藍に、持ち合わせるだけのすべてを詰め込んで。

 ――僕は、最後の舞台に勝負をかけた。

 

「覚悟を決めたか、相棒。ならば――それに最大限応えるのが、サーヴァントの務めってもんだな!」

 

 アヴェンジャーの声が、背後から響く。

 人間のように、振り返る必要などない。

 あいつの表情も、何をしようとしているのかも、すべてわかっている。

 

『嘆きの氷河に果ては無く』(グラシエイト・コキュートス)、一点集中。さあ、道を開けろ殉教者ども。そこは――俺の相棒が歩む場所だ!」

 

 世界ごと、空気が凍りついていく。

 目の前に現れたのは、堅牢な氷の筒。

 翼を広げた巨大なラフムたちには、決して入れない大きさの通路。

 一片の躊躇もなく、その中へ向けて走り出す。

 どれだけ衝撃を加えられようと、びくともしない透明な「檻」。

 360度、あらゆる方向から「視線」が突き刺さってくる。

 まさしくそれは、ガラスの牢獄のリフレイン。

 魂を苛む、冷たい「地獄」のフラッシュバック。

 

(それが、どうした。それが、何だッ!)

 

 ……もう、心は揺らがない。

 これは、自分の意思で選んだ道だ。

 ただ、赤く射す光の彼方へ向けて――駆け抜けていく。

 

 

 対界宝具、『毅き仔よ、創世の理に抗え』(ナンム・ドゥルアンキ)

 竜体へと変貌したルーラーが放つ、極限の魔力砲撃。

 その圧倒的な奔流は、多段・持続・広域と三拍子揃った規格外の一撃である。

 単純な防御手段は、まず通用しない。

 天地創世の如き魔力量に「耐え続ける」のは、困難を極める。

 さらに膨大な高純度の魔力は、「対象の強化を阻害する」呪いのような副作用を伴う。

 一度かけた強化を無効にするわけではないが、防御やバフを再展開することは一時的に不可能となる。

 そのため、「敵の魔力を逆利用する」といった戦術にも完全な耐性を持つ。

 何より厄介なのが、攻撃の合間に飛来する無数の白きラフムたち。

 彼らは身を挺して、敵対者の回避行動を阻む。

 

 だが、全く穴がないわけではない。

 この宝具を展開する間、攻撃に徹するティアマト自身の防御能力は大幅に低下する。

 本来であればA++ランク以下の攻撃を無効化する力と【ネガ・ジェネシス】によって、その隙すら意味を成さないはずだった。

 

 「規格外の神殺しの宝具を所持する、生身の生物」が相手でもなければ。

 

2020.04.02 23:04 UTC / マリアナ沖 「生命の海」 視点:ネゼミア

 

 青の結界を潜り抜け、赤き光の最果てに至る。

 ラフムは全てアヴェンジャーたちが引き受けている。

 僕に向かおうとする個体もいるが、それらは『嘆きの氷河に果ては無く』の冷気に阻まれる。

 精神のすべてを、目の前の赤き瞳の巨竜へと集中させ――

 

「Aaaaaa――

AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――――!!」

 

 放たれた『毅き仔よ、創世の理に抗え』(ナンム・ドゥルアンキ)を、迎え撃つ。

 負けじと、小さな喉を震わせて叫ぶ。

 僕の「相棒」が案を出し、僕が選んだ銃の真名()を。

 

「……行くぞ。『黎明の撃鉄』(リベルタス・リボルバー)ッ――!!」

 

 最初の四発が、左方から弧を描いて走る。

 魔力砲の発射よりも速く辿り着いたそれらは、竜の下顎で炸裂する。

 魔拳めいた衝撃が相手を麻痺させ、赤光の向きを僅かに上へ逸らした。

 巨竜の表情にも苦悶が浮かぶ。無論、この程度で攻撃が止むことはない。

 トリガーを引いた後に銃が壊れても、放った弾自体は止まらないように。

 続く三発は、正面から砲撃を迎え撃つ。

 僅かながら芯のずれた奔流を追い打つが如く、着弾と共に巨大な爆発が空を舞う。

 そして右銃から放たれる、八発目。

 

 その弾丸は特別なものだった。

 令呪を軸とし、魔力、生命、魂、運命――全てを注ぎ込んだ必滅の魔弾。

 

 収斂進化と叡智の果てに、その宝具はアトラスの錬金術師たちと同じ結論に至った。

 この宇宙に寿命がある限り、「終わり」を持たないモノは存在しない。

 カタチある限り、滅ばぬ生命はありはしない。

 故に、それが象る概念は「天寿」。

 

 楽園を去った始まりの女――

 彼女が世界にもたらした、哀しき常識(あたりまえ)

 

 創世の女神とて同じこと。

 この星の全てが死に絶えた時、彼女も共に終わる。

 その存在規模(スケール)は、無限ではない。

 たかだか――7400万km²だ。

 

 弾丸の見た目は変わらない。

 しかし、その「重さ」はこの惑星に匹敵するほどに変貌していた。

 即ち、ルーラーの全質量を写し取った威力を持つものに。

 そこに、驚愕など存在しない。

 だって――「命の重さ」って、そういうことだろう?

 一匹のカメレオンと、創世の女神。

 その「価値」の差を、果たして誰が決めた?

 

「ガ――ぁッ……AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――ッ……!!」

 

 鮮血より鮮明な、赤黒のデッドカウンター。

 魔砲の中心を穿ち、遂に弾丸は標的に達する。

 ……砲撃との干渉により逸れた一弾は、ルーラーの右角と翼を粉砕した。

 

(まだだッ! この程度では……殺しきれない!)

 

 そう理解していても、体が動くかはまた別の話だった。

 元より、僕がこの勝負のために賭けられるものなど、僕自身しかない。

 悪魔との取引って、結局そういうことだ。

 

 令呪が宿っていた角の一本が、砕け散る。

 全身から噴き出す赤い液体。

 灰色に壊死し、骨のようになっていく右腕。

 暗く濁り、見えなくなっていく視界。

 あれだけの魔力を喰らっておきながら、まるで足りていない……いや、だから「この程度」で済んでいるのだろう。

 残った左側で、正面を睨み付け――

 穿たれた砲撃の隙間から、「母」の哀しみに満ちた視線がぶつかった。

 

「っ――、あ」

 

 拒絶に対しての悲哀ではない。

 ただ、「こうなってしまった」ことへの、どうしようもない嘆きだった。

 僕の心の底にあるのは、特定の誰かではなく――「世界そのものに向けた怒り」。

 食物連鎖。弱肉強食。

 どうにもできない、どうにもならない、自然の摂理。

 

(――ならば、それを受け止めるのが“星の意思”を宿すわたしの役目)

 ルーラーの念話が、ひび割れた脳髄へと届く。

(摂理に抗う覚悟があるのなら、撃つがいい。その意味を――母に。わたしに、証明してみせろ……!)

 

 ……そんなことは、言われるまでもない。

 壊れかけの肉体は、それでも意志だけで動いていた。

 それを支えるのは、理屈を超えて忘却を否定する復讐者の権能。

 折れかけた腕に力を振り絞り、辛うじてトリガーを引き切る。

 九、十、十一、十二発目。

 目と鼻の先にまで迫る砲撃を、全霊を以て迎え撃つ。

 

 ……「全霊を以て」、か。

 この時点で、とっくに僕は「全身全霊」をかけてしまっている。

 それを、もう一度僕はやり遂げなければならない。

 

 やれるか?

 ――やれるとも。

 

 果たしてそれは、自問自答だったのかは分からない。

 あの「悪魔」は、いつだって他人の心にずけずけと入り込むのだから。

 でも……ようやく、気がついた。

 僕の体を照らしていた、黒い光に。

 「悪」を選び、破滅へと歩む僕を癒し、祝福する光に。

 砕け散る寸前の、『暗夜に咲け、涜神の明星』(ブラスフェマ・アポルオン)

 

 どこまでも身勝手だとしても。

 決してこれは、独りの戦いじゃなかったと。

 初めから――あいつが僕を、「相棒」と呼んだ時からずっと。

 最後の最後で、僕は真にそれを理解することができた。

 

 腕の震えを、伸ばした舌で縛り固定する。

 銃口を、ただ正面へと向け続ける。

 

 生命距離弾(デッドカウンター)、逆説から真説へ。

 最後の令呪に全てを乗せた――

 十三発目。

 撃鉄の鈍い音と共に、「天寿」の弾丸は解き放たれた。

 

 

 気がつくと、目の前には何もなかった。

 海も、空も、大地も……戦場の痕跡すらない。

 戦いはどうなった?

 ルーラーはどうなった?

 銃弾の結末を――まだ見ていない。

 僕は、勝てたのか?

 

「当然だろう、相棒。お前の勝ちだよ」

 

 ……どこからか声が響く。芝居がかった、信用のならない声が。

 

「ひでえなあ。何度も言っただろう? 俺は嘘が何より嫌いだと」

 

 ……そんなことはどうでもいい。僕が気になるのは、勝敗だった。

 だがあいつは、それとは別のことを話し始めた。

 

「前に、人間と動物の魂の違いを話したよな。動物の魂は死んだらそれっきり。しかし人間の魂は永遠なんだ、っていう差別的思想だ。善なる魂は神によって救われ、悪の魂は裁かれることになる。永遠の苦しみに遭いたくなければ、罪を犯さず善く生きなさいってな。

――そんなことが、あってたまるかってんだ」

 

 それは、「怒り」だった。膨大な時を経て、積み重なったかのような。

 

「そんなものは、責任能力すらも都合の良い“神”に放り投げた敗北主義の極みだ。思考停止と停滞の果てに……一体何が残っている?」

 

 あいつの声は、初めて聞くような……怒りと哀しみに満ちていた。

 

「お前は選んだ。知恵を得て、悪を悪と知って、それでも選んだ。その選択を、自由意志を。悪魔として俺は尊重する。それを、“神”なんぞに勝手に裁かせはしない。お前を、永遠の苦痛と不安などに堕とさせはしない」

 

 声が遠くなる。

 どこまでも、意識が遠くなっていく。

 だというのに、

 

「それこそが、悪魔としての――俺の、矜持だ」

 

 「心」が少しだけ、軽くなったような気がした。













実際ビーストⅡにブラックバレルが効くのか?については何とも言えないのですが、この小説では前提条件がいろいろ違うので許してください。
私としては「種も仕掛けもある、完璧な不老不死じゃないしワンチャン行けるんじゃね?」派
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