Fate/Draco―蛇竜王戦線―   作:ぴーらー

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第28話:The Collective Shadow

2020.04.03 00:02 UTC / マリアナ沖 視点:アルヴェイル

 

 とにかく、大変なことになったらしい。

 驚きが多すぎて理解が追いつかないが、それでも俺にも分かることが一つ。

 ……ダルグレインとキャスターは、「敗退していなかった」。

 あいつらは、最初からずっと――嘘をついていたのだ。

 でも、なぜそんなことを?

 

「そうした方が、遥かに楽だからさ」

 まるで俺の疑問を読んだかのように、バーサーカーが口を開いた。

「キャスターはライダーを上手く動かし、ほとんど自らの手を汚さずルーラーを陥落させた。しかも、その不死の宝具を簒奪するまでに至った」

「でも、ランサーとの戦いでは情報集めを頑張ってたって聞いたぞ?」

「――奴にとって、ヴァースキの召喚は想定外だったはずだ。ティアマト以外で、他陣営全員で当たらなければならないほどの敵が出るとは思わなかったろうさ。もしかしたら、キャスターの野望に対して“抑止力”が動いた結果がランサーの召喚だったりしてな。ま、無事台無しになったわけだが!」

 

 何が楽しいのか、バーサーカーはけらけらと笑う。

 ――その笑いを、後ろから冷たい声が咎めた。

 

「……他ならぬ、最大の原因が何を言う。おまえの立場で、どうしてそのようなことを……?」

 声の主は、どうにか起き上がったティアマトだった。

 

「オイ、立場って……どういう意味だ?」

 俺の疑問を、先にセイバーが口にする。

「ルーラー、あんたも知ってるんだろう? バーサーカーの真名は“サタン”。ワシらにとって最大の敵たる、“悪魔”の(ヘッド)じゃねぇのか?」

 セイバーの声は、明らかに敵意を隠していなかった。

 

「そいつ、そんなに悪い奴なのか?」

「そりゃ当然っスよ、マスター。サタンっつったら“神の敵対者”で、人間を誘惑して堕落させる、悪そのもの……え? 何スか?」

 セイバーの話を、ティアマトが手で制す。

「それだけじゃない。バーサーカーの真名は、もう一つある。マスター死亡による弱体化で、ようやくその偽装が剥がれた」

「……まさか、ルシファーだとか言わないっスよね?」

「当然、違う」

 

 ティアマトは深く息を吐き、淡々と続けた。

 

「そもそも、“悪魔”が常識的なカタチを取っていること自体がおかしかった。彼の行動はエキセントリックだが、それでもまだ“真性悪魔”に比べれば理解可能な範囲内。――それは、もう一つ別の存在が混ざっていたからだ」

 

 痛みに耐えるかのように目を細めながら、ティアマトはその「もう一つの名」を告げる。

 

「――“アラヤの抑止力”。その化身だ」

 

 

 アラヤの抑止力。

 いわゆる阿頼耶識。

 霊長の抑止力、世界の抑止力とも言われるモノ。

 集合無意識によって作られた、世界の安全装置たるカウンターガーディアン。

 即ち――人類の持つ破滅回避の祈り。

 「現在の世界を延長させる」ことを目的とした、カタチを伴わぬ安全装置。

 

 だが、それはごくまれに強硬手段を取る。

 ある並行世界では、「ガイア」と呼ばれるもう一つの抑止力が「星そのものが塗り替えられようとする事象」に対して、自身のアバターを送り込んだという。

 

 そして今、この世界でも。

 ……「人類の消滅」と、それを前提とした聖杯戦争。

 さらにはそれを固定し、「竜の世界」に書き換えようとする存在の出現。

 アラヤの抑止力が、それを容認するはずがなかった。

 

 

「いや、だからってそれは無いでしょうよォ!?」

 

 セイバーが天を仰ぎながら全身で嘆く。

 ……わからないなりに、俺もそう思う。

「善悪」という考え方への理解は、正直まだ自信がない。

 だが、悪魔というのは文字通り「悪」を名乗っているのだ。なんて分かりやすい。

 それが「人類の滅びを止めるためにやってきた」――と言われても、大変困る。

 

「いやァ、そうは言うが“悪”だって捨てたもんじゃないぜ?」

 バーサーカー――サタンは、芝居じみた口調で肩をすくめて言う。

「“善”は時として、献身や犠牲、諦観と結びつきやすい。それこそ、そこにいるセイバーは“献身”と“守護”の具現だろうよ。だが、“どんな手段を選んででも生き残る”――人間社会では悪とされやすい、みっともない足掻き。生への執着。理想すら踏み越えて、生存へと藻掻き続ける執念。

それを“悪”と呼ぶなら、その擬人化こそが俺だ。残念だったなァ!」

 

 ……な、成程。

 バーサーカーが、ランサーの分霊を相手にしてずっと耐えられたという理由が少し分かった気がする。

 

「ついでに言えば、俺ほど“アラヤの化身”として相応しい奴もいないと思うが――ま、セイバーは宗教の教義とか神学の方は詳しそうだが、心理学の方にはあんまりポイント振ってなさそうだしな。知らなくても責めやしないさ」

「あ゙??」

 

 鋭い視線を軽く受け流し、バーサーカーは指先を鳴らす。

 

「スイスの精神科医・心理学者のカール・グスタフ・ユング曰く――人間の心には、“個人的無意識”と“集合的無意識”の二つがある。

前者は個人の経験や記憶の中で忘れられたり、抑圧されたりしたもの。

後者は、ヒトという種が、太古から共有してきた遺伝的・普遍的な心の層――即ち、原型(アーキタイプ)だ。おや、何だかどこかで聞いたような話だな?」

 彼は人差し指を立て、芝居がかった調子のまま続けた。

 

「その原型の一つに、“シャドウ”と呼ばれるものがある。

人が自分の中で見ないようにしている“醜さ、怒り、嫉妬、支配欲、破壊衝動”の集合体。

誰にだって存在する、心に差す光の影――それは、当然人類全体にも存在する。

それこそが、“集合的シャド(collective shadow)ウ”。

人類が共通して持つ“見たくない側面”、社会的・宗教的に排除された闇の象徴。

ユングは、キリスト教における“三位一体”は不完全だと考え、神が完全であるためには“父・子・聖霊”だけでなく“否定的側面”も含まれるべきだと考えていた。

この第四の要素こそが“集合的シャドウ”であり――ユングは、それを“悪魔(Satan)”と定義したのさ」

 

 ――まさにその名を冠する英霊は、朗らかに宣告した。

 

「う、嘘だろ……そんなことが許されていいのか……!?」

「俺に言うな、俺に。文句ならユングかアラヤに言いな」

 

 何やらセイバーは頭を抱えていたが、俺は何のことだかさっぱり分からない。

 それに気がついたのか、バーサーカーはこちらを向いて続ける。

 

「アルヴェイル。お前にも“悪の強さ”について分かりやすく説明してやろう。そうだな……お前たち、コウテイペンギンの繁殖期の過酷さで例えてみようか」

 語りながら、彼の声色は更に熱を帯びていくようだった。

 

「慢性的に不足する食料、ブリザード一つで命が飛ぶ極限の環境。なかでもオスは、卵とヒナを寒さから守るために動けない。その間はメスが交代で狩りに出てくれる。……もし、その間にメスが海でアザラシやシャチに襲われ、死んでしまったとしたら?」

「……!」

「帰ってこないメス。狩りにも出られず空腹に耐えるオス。生まれたばかりのヒナは親なしでは絶対に生きられない。しかもお前たちは、“自分の子以外は守らない”って習性まで持っている。まあ、皆余裕がないからだがな。嗚呼、何という悲劇だろうか!」

 

 バーサーカーは腕を振り回して、大げさな手振りをしながら――

 

「さて、ここで問題だ。

――この状況でオスがヒナを見捨て、海に出ることは果たして“悪”だろうか?」

 

 急に動きを止め、こちらに問いかけてきた。

 燃えるような目が、真っすぐこちらを射抜いてくる。

 

「……オイ。マスターは、ランサーの学校なら初等部……人間で言うなら五、六歳がいいところだぞ」

 静かに怒りを滲ませながら、セイバーが割って入る。

「そんな難しい問いを、うちのマスターに向けるんじゃねえよ!?」

 

 だが、バーサーカーは肩をすくめて返す。

「ま、確かに。人間基準で言えば、これはとんでもなく残酷な話だ。倫理や哲学について語るには、ちょいと早すぎる。……“人間の子供”ならな」

 ふと、話のトーンが変わった。

 バーサーカーの声は淡々としていたが、その言葉は妙に鮮明に響いた。

 

「少し話は逸れるが、心理学や動物行動学において“ベビースキーマ”と呼ばれる概念がある。

いわゆる、“赤ん坊のような特徴”を可愛いと感じる傾向だ。大きな頭に丸い体つき、小さな嘴によたよたと歩く動き。……それを兼ね備えたペンギンが、“幼く見える”ことは分からんでもない」

 

 一呼吸置いて――彼は鋭く言い放った。

「だが生物としては、アルヴェイルは間違いなく成熟した“大人”だ。

繁殖能力を備えた彼にとって、この問題は充分当事者たり得る。成熟したコウテイペンギンにとって、“自分の命”と“ヒナの命”、どちらを優先するかなんてのは――そう珍しい選択じゃない。いつだって、現実に起こり得る話だろう?」

「――ッ……!」

 

 セイバーが思わず一歩踏み出した。

 怒りと、後悔と――焦り。

 いくつもの感情が、彼の顔に渦巻いていた。

 

「お前ッ、それをよりによってマスターの前で言うのか!? あの爆発で、マスターは家族と仲間の全てを――」

 

 ……しまった、という顔でセイバーの動きが止まった。

 バーサーカーは、口元に皮肉な笑みを浮かべる。

 

「ああ、まだ言うつもりはなかったのか、それ。せっかくだから、このまま“善悪”の話を続けるか? ――いや、やめておこう。さっきの質問については、未来の課題にでもしておくがいいさ」

 

 その口調に、芝居の色が戻っていく。

 けれどその目の奥だけは、鋭く静かだった。

 

「だが忠告しておくぜ、セイバー。恐らく、次が最終決戦だ。生きて帰れる保証なんて、どこにもない戦いになるだろう。それでもなお、“何を伝えるべきか”を迷うってんなら――止めはしない。お前の判断だ。お前の選択だ」

 

 ただ、とバーサーカーが付け加えた。

 

「キャスターの宝具にして大儀式、『終環記章・竜蛇胎蔵界(ドラゴン・リベレイション)』の完成にはまだまだ時間がかかる。アレは、まさに“世界を産み直す”再誕の儀。だからこそ、それを起動するには“世界をもう一個作れる”ほどのリソースが必要だったってわけだな。結果、その素材提供元に選ばれたのが――」

「……わたしだった、という訳か」

 

 ティアマトが口を挟む。静かな声だったが、その響きには決意が宿っていた。

「わたしの眼から見ても、あの儀式の完了がまだ遠いことに間違いはない。だから、キャスターは“時間の経過”か“勝利”……即ち、聖杯の完全起動によって儀式は完成すると言ったんだ。……様々な面で、準備を済ませておく余裕はあるはず」

 

 そう言って、彼女はゆっくりとこちらを見つめた。

 

「ルーラーとして宣言する。キャスターの行為は、明確なルール違反に該当する。少なくとも、大聖杯の占有と令呪の奪取を、このまま認めるわけにはいかない。……手を出しなさい、アルヴェイル」

 

 言われるがまま、俺は翼を差し出した。

 バチン、と軽い刺激が走り――令呪の残りが、一画から二画に戻っていた。

 

「わたしの持つ、各陣営用の令呪だ。奪われたのは、ランサー・キャスター用の計三画だけ。残りを、わたしはおまえたちに受け渡すことができる。アーチャーとアサシンのマスターにも、同じことをする予定だ。

……もはや、わたしは裁定者としての仕事をやり遂げるのは難しい。あとは、おまえたちに託す」

「ル、ルーラー……」

「それからバーサーカーはわたしの護衛をやりなさい。どうせ脱落してるんだから。嫌とは言わさないぞ」

「ルーラー!?!?」

 

 仰せの通りに、とバーサーカーは一礼してあっさり受諾した。

 た、確かにルーラーが無防備なままでは、またキャスターが何かするかもしれないけど。

 ……いや待てよ?

 

「あれ? そもそも何でバーサーカーは無事なんだ? マスターのネゼミアが死んだら、バーサーカーも消えるんじゃ?」

 

 セイバーからは、サーヴァントがいくら強くてもマスターが死んだらそこでおしまいだと聞いていた。そのルールはどうしたのだろう?

 バーサーカーはいい質問だ、と何故か嬉しそうに答えた。

「それは勿論、俺が悪魔だからだ。――睨むなよセイバー。マジなんだって。

人の心に悪がある限り、悪魔が滅びることはない。そもそも俺の本質は“人間の信仰を証明するための障害物”だ。かの“救世主”に何度も何度も突っかかったようにな。

サーヴァントとして召喚された俺を倒すことができるのは、“運命力補正の極まった主人公”だけ。逆に言えば、条件さえ満たせていれば普通のペンギンだろうが猫だろうがヨウムだろうがオオカミだろうが、倒すのは簡単だ。

セイバーは知ってるだろう? “善なる人々”や“強き心”に、悪魔が負け続けてきたことをさ」

 

 セイバーが「間違ってはいないんだけどさあ……」と複雑な表情をしている間、バーサーカーは再びこちらに視線を向ける。

 

「それから、令呪を使ってまで俺のリクエストに応えてくれたアルヴェイル。お前には追加で特典をくれてやろう」

「え?」

「加えて、先程俺の宝具でちょいとお前の“願い”を覗かせて貰った。これは、その礼でもある」

 

 バーサーカーはにやりと笑う。

 その笑みに、悪意のような、あるいは哀れみのような――得体の知れない何かが混ざっていた。

 

「実に俺好みの願いだ。相棒……もとい、ネゼミアやライダー達のも悪くなかったが、お前のそれは素晴らしい。どこまでも純粋で――」

 

 ――皮肉なほどに、どこまでも愚かだ。

 

 バーサーカーは、そう言い切った。

 そして、その瞬間。

 ……我慢の限界だったのだろう。セイバーの剣が、怒りのままに閃く。

 空を裂いて迸る斬撃。

 だが、真横に真っ二つになったバーサーカーの身体は、すぐに再生を始めた。

 

「言っただろう、セイバー。俺を倒せる者の条件を。残念だが今のお前では俺を滅ぼすには足りない。いい線いってはいるが不十分だ。それより、話を戻すとだな……」

 

 バーサーカーは言った。

 彼の「契約魔術」は、対象の「欲」を媒介として魔術的に可能なことなら大体のことは叶えられると。

 ランサーの国でパラニールがいる空間にいきなり現れたりしたのは、そういうことだったようだ。

 そしてバーサーカーは俺のことを気に入ったので、戦いに備えて願いを叶えてくれるのだという。

 

「ただし、再発動には“どれだけ現実を歪めたか”次第で時間がかかる。が、今回は別の“縛り”を設けることでこの問題を解決した。

――三つだ。叶えられる三つだけに絞ることで、時間の問題はないものとする」

「……そんだけの縛りで解決できるものなのか?」

 セイバーが訝しむ。

「ああ、これには種も仕掛けもしっかり存在する。――敬虔な教徒たるセイバー、タラスクが“悪魔”の助けを得るという極上の背徳。それが俺の力となっているんだよ」

 

 ……セイバーは無言で剣を振り回し続ける。

 バーサーカーは微塵切りにされつつも、嗤いながら何事もなかったかのように再生していく。

 こいつをボロボロにしてみせたランサーは凄かったんだなあ、と改めて思うのだった。

 

 ……さて、三つの願いとのことだが。

 それなら、そのうち一つは決まっている。

 

「――俺は、俺の記憶としっかり向き合いたい。そしてセイバーにも、それを知ってもらいたい」

 

 俺は、自分自身の記憶の一部を失っている。

 元々、俺の記憶力はそれほど確かなものじゃないと自覚している。

 だけどこれはきっと、俺が意図的に「閉じて」いた記憶だ。

 耐えきれないほどの何かがあった。

 だから、忘れた。

 そうやって、自分を守ってきたんだ。

 でも、今は――それじゃいけない。

 あの記憶と向き合わなければ、きっと勝てない。

 なぜだか、確信があった。

 それが、俺にとっての「鍵」になると。

 

「宜しい。ならば始めるとしようか」

 バーサーカーが伸ばした手は、俺の頭に静かに触れた。

 

「――その傷を切開する。その嘆きを再生する。さあ――回顧の時だ、アルヴェイル」













アドベンチャーワールドのエンペラーペンギンの赤ちゃん成長記録動画
超絶かわいいのでおすすめです

これだけははっきり言っておきますが
エンペラーペンギン(コウテイペンギン)はデフォルメもキャラクター化もしない素が一番かわいいんだよ分かるか?????
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