Fate/Draco―蛇竜王戦線―   作:ぴーらー

32 / 37
第32話:船頭多くして船は天へ登る

2020.04.03 00:03 UTC / アイスランド・シンクヴェトリル国立公園 視点:ユキネ

 

「一時停戦、ということで構わないな?」

「……そうね」

 

 アサシンとアーチャーは、全く同時に武器を収めた。

 理由はもちろん、死んだはずのキャスターからの「宣戦布告」。

 

 アサシンは、遠くから「歌」が聞こえ始めてからアーチャーとずっと戦い続けていた。

 その意図を、私は念話によって教えてもらっていた。

 ……バーサーカーのマスター、ネゼミアはルーラー・ティアマトに挑戦した。

 ルーラーとは、聖杯戦争において願いを叶えることを目的としておらず「聖杯戦争が滞りなく進む」ために召喚された者。つまり、彼女に挑むこと自体がルール違反ではある。

 そして何より、裁定者としての役目を果たすため、ティアマトはあのランサーよりも強い力を持っているらしい。

 しかしネゼミアは「誰よりも強くなる」という願いの成就のため、サーヴァントでないにもかかわらず、バーサーカーと共にティアマトに挑むことを選んだ。

 その精神性が、アサシンの琴線に触れたのだろう。

 

 アサシンの持つ本来の願いとは、「見捨てられた者、全ての救済」だ。

 その根幹は、きっとあの「夢」で見た彼女の記憶にある。

 圧倒的な力によって虐殺され、抑えつけられ、貶められた「まつろわぬ者」たち。

 大自然の化身たる八岐大蛇も、本質的には「圧倒的強者」の側ではある。

 だがその視線は、共に生きようとした「弱者」に寄り添おうとしている。

 

 ――私の元にアサシンが現れた理由も、その根幹は同じだ。

 親とはぐれ、人間に拾われ、愛玩の対象となり、生殖の機能を失い――そして、主の愛を理不尽に失った。

 生命として、なんのために在ればいいのかすら分からなくなった私の前に、アサシンは現れた。

 「見捨てられた者」の救済のために。

 

 バーサーカーほど滅茶苦茶ではないが、アサシンの情報収集能力は高い。

 「幻」だけでなく、「血」と「呪」の力を経由することで、対象の過去や信念についてまで探ることができる。

 それを用いて、他陣営の背景は丹念に精査している。

 だからこそライダーやランサーを相手に、色々とあったとはいえ、背中を預けて戦った「戦友」でもあるネゼミアの意志を尊重しようと、アサシンは決断した。

 その邪魔をさせないため、セイバーとアーチャーを全力をもって抑え込んだ。

 最終的にアーチャーの『四象一矢』(スーシャン・イーシー)という宝具まで使わせることになり、それだけはどうやっても「回避」できない攻撃だったため、防御に集中せざるを得ずセイバーを逃してしまった。

 それでもアサシンは「首」を三つ犠牲にして耐えきり、アーチャーだけでもこの場に縛り続けていた。

 

「……それが、まさかこんなことになるとはね。嫌になるわ、全く」

 

 深いため息を吐き、アサシンは自嘲した。

 アサシンと、恐らくアーチャーはあの映像を見て状況を瞬時に理解したらしいが、私はそうもいかない。向こうのレゼフィルも、同じく困惑しているようだった。

 

「……アサシン、何が起こってるの?」

 私の発した疑問を受け、アサシンは「幻」の力で先ほどの映像を再現し始めた。

 再び水面に映る、キャスターの姿。

 一対の前足のみを持つ、蛇にも似た緑の竜。

 いや、厳密には一対ではない。

 その少し後ろに、黒い右足が――三本目の前足が存在しているのだ。

 

「あの腕は、ルーラー・ティアマトの宝具……彼女の本質そのもの。それを、キャスターは奪い取ったらしいわ。“腕”の形をしているのは、本来形のないものを使役しやすくするためでしょうね」

「是である。かの映像の背景に、一瞬満身創痍のライダーの姿が見えていた。仮定ではあるが、ライダーがルーラーの宝具奪取に成功した後、ライダーのマスターから契約ごと宝具を更に奪い取ったのだろう」

 

 アーチャーは「仮定」と言っていたが、その言葉に淀みはなかった。恐らく確信を持って言っているのだろう。

 短い付き合いではあるが、彼は基本的に「予想」だけで言葉を発しない、と知っている。その言葉は、常に断定の形だ。

 

「アサシン。ネゼミアとバーサーカーによるティアマトへの挑戦を、貴様が応援するのは百歩譲ってよいとする。だが、他者の……それこそライダーの介入については考えなかったのか?」

「……確かに、想定が甘かったのは認めるわ。でも、最初に仕掛けた時点で、ネゼミア単独じゃ勝率なんてゼロよ。それでは、ライダーが一番おいしいところだけを貰うことはできない。勝算があるとすれば、『ライダーが打算以上の理由で、本気でネゼミアと協力する』ルートしかない。……“悪竜現象”がそこまで感情的になるなんて、読めるわけないでしょう」

 

 アサシンは息を深く吐き、爪先で地面を叩く。

 軽い動作なのだが、それだけで地面に大きなヒビが広がっていく。よほど苛ついているようだ。

 それに、もしかしたら……あの様子だと、何があったのかは分からないけど「ネゼミアは死んだ」のかもしれない。そのことも、苛つきに拍車をかけているのかも。

 その様子を見かねたのか、アーチャーの肩にいるレゼフィルが声をかけてきた。

 

「過去のことは一旦いいじゃないの! それより大事なのはキャスターの方でしょ!? アイツ、とんでもないことをやろうとしているんじゃないのッ!?」

 

 彼女の言う通りだ。キャスターの「宣戦布告」の意味はさっぱり理解できなかったが――少なくとも、願いを叶えるために必要な「聖杯」が既に確保されているというのは大問題だ。

 

「そうだよ、このままじゃどうやっても私たちの願いは叶えられない。なんとかして、キャスターから聖杯を取り戻さないと……!」

 アサシンは小さく頷いたが、その顔は未だに険しかった。

 

「勿論、そのつもり。でもね……」

「言うは易し、行うは難し。その典型であるな」

 

 アーチャーが、重々しく口を開いた。

「奴らの儀式の場は南極。一切の遮蔽が存在しない氷の大地は、攻め手にとって極めて不利な地形と言える」

 いきなりアーチャーは、敵の居場所を言い当ててしまった。

「な、なんでそんな簡単に分かったの?」

 思わず口を突いて出た私の質問に、アーチャーは顔色一つ変えずに答える。

 

「映像に映っていた手掛かりは二つある」

 アーチャーは指を一本立てる。

「一つ目は、奴の展開した儀式そのもの。あれは直径で100kmにも及ぶ魔方陣だ。これだけの規模になると、地形の凹凸や植生、建造物の干渉を避ける必要がある。そんな“平坦で遮るものの少ない土地”は、地球上にそう多くは存在しない」

 

 続けて、二本目の指。

「二つ目は、映像の地形と空である。植物ひとつない白い大地に、鮮明な星空。南極の内陸部は、大気が乾燥し、光の屈折も少ない。湿度は限りなくゼロに近く、星の観測には最適な場所だ。だからこそ天文台が設置されている。

これらの条件が全て揃う地は、地球上に南極しか存在しない」

 

 アーチャーは、淡々とそう言い切った。

 

「……さすがは“天の使い”。星については随分と詳しいのね」

 アサシンが、少し忌々しげに言う。

「それにしても――南極と、天文台ね。それと、魔術師。どこかで、その関わりを聞いたことがある気がするのだけど……」

 誰にも聞こえないほど小さな声で、アサシンは呟いた。何か引っ掛かったのかもしれないが、私には分からないことである。

 

「――知りたいか? 俺なら、その疑問に答えられるぜ」

 突如、この場にいないはずの声が響く。

 空が切り裂かれたように開き、複数の人影が大地に降り立った。

 先ほどの声の主、バーサーカー。

 セイバーとアルヴェイル。そして……

 

「そういうこと。彼女がルーラーね」

 巨大な角を生やした、海のような色の髪をした女性。

 噂に聞くルーラー・ティアマトが、彼らとともにいた。

 てっきり会話の流れからして死んでいるのかと思っていたが、生存していたらしい。

 それでも、彼女は私から見ても分かるほど衰弱しているようだった。

 

(……戦闘においては、そうなんだろうけど)

 その気迫までが、完全になくなったわけじゃないらしい。アサシンとルーラーの視線がぶつかり合い――比喩じゃなく、本当に火花が生じたのが見えた。

 

「だーもう、止めろお前ら! これから協力しようってのに! ルーラーまでどうしたンすか!?」

「す、済まない。喧嘩を売られた気がしてつい……」

 

 セイバーに制止され、ルーラーはその脚の影に引っ込む。

 

「貴様も何だ、アサシン。神話上の因縁・接点など貴様らにはあるまい。まして、この戦においても同様であろう」

「チッ正論がうるさいわね以後気を付けますわよ」

 

 ……アーチャーとアサシンは相変わらずだった。レゼフィルと目が合い、共に「何かゴメン」という空気が流れる。

 

「はいはい、皆々様ご注目! この諍いをもっと見ていたいがそんな時間はないんでね! 矛を収めて呉越同舟、船頭多くして船山に登ろうじゃないか!」

「最後のは違うでしょッ!?」

 

 レゼフィルに突っ込まれつつ、バーサーカーは「門」を閉じ、大仰な仕草で手を叩く。

 その瞬間地面がぐにゃりと歪み、私たちの立つ場所が丸ごと別の空間に切り替わった。

 

「お、おお……!? 何だ、この変な地面?」

「ククク……それはタイルカーペットと言うんだぜ、アルヴェイル。耐久力の高い特殊なナイロン製だ、竜が踏んでも大丈夫」

「はえー、よく分からないが凄いんだな……」

 

 そこは広く、白い壁で覆われた、机と椅子が整然と並ぶ場所。

 何かの「施設」の一室のようで、私にはなじみのない場所だ。

 

「何だこりゃ、いわゆる会議室ってやつか?」

「どうやら完全防音仕様のようね。無駄な手間を……」

 

 セイバーとアサシンが、困惑しながらも分析する。

 確かに、キャスターにバレたり邪魔されたりしないようにするのは必要かもしれないけど。

 

「この部屋は、俺の力でルーラーの権限を応用したもの。――即ち“中立安全圏”、別名観戦用チャンネル。俺とルーラー両名の許可なしでは進入できず、戦闘もできない」

 先導するバーサーカーの手には、いつの間にか黒いペンが握られていた。

「加えて、内からも外からも干渉できない隔絶された空間だ。本来ならちゃんと“中立”な目的で扱われるべきなんだろうが、キャスター及びライダーの行為は明確にルール違反。ならば正義は我らにありだ」

「ど、どの口が言ってんのかしらコイツ……!」

「当然、この口だとも。んん?」

 バーサーカーは、どこ吹く風という顔でペンを指先でくるくると回している。

 その手つきが、妙に板についているのが腹立たしい。

 

「……随分と便利なこった。だが、何故ルーラーにそんな権限があるんだ?」

「いい質問だ、セイバー。実は聖杯戦争に敗退したマスターは、復帰の放棄を条件に中立の監督役の保護を受ける権利がある。この部屋はその権利を形にしたものだ。ルーラーから説明はなかったがな。……割とこれ、大事なルールだと思うんだがね?」

 

 ……全員の視線を受け、ルーラーが所在なさげに顔を逸らす。

 

「……し、仕方ないだろう。わたしだけでは、そこまでできる余裕はなかった……」

「ですってよ。ビースト霊基じゃないし仕方ないってことで、この話はおしまいだ」

 

 バーサーカーが指を鳴らすと、机の上に四角い物体が五つ出現する。小さく薄い、「テレビ」にも似た画面がついている。

 確か、「タブレット端末」と言うのだったか。

 

「んじゃ、情報共有に作戦会議と行こうぜ。予想はできてるだろうが――真面目に“人類の危機”が迫ってるんでな。詳しくはお手元の資料をご覧あれ」

「ワシはもう“真面目”がよく分かんねぇよ……」

 

 セイバーが呆れたようにそう言った。

 彼は「会議室」の椅子には座れないため、アルヴェイルを椅子に座らせ、背後から覗き込むようにしている。そして、自分の代わりにタブレットを動かすよう説明しているようだった。

 アサシンもため息を一つ残し、席に着き端末を手に取る。動作を確認し、資料を読む様を頭上から眺めていると。

 

「わああああああ何だこれ!? 何か動くぞ!? 急に音が鳴ったんだけど!?」

「マスター、勝手に変なところ押さないでくだせえ! 今その動画サイトは関係ないので戻ってくだ……違います! こう、翼を横に振るような感じで……!」

「大丈夫です、ここは母に任せなさい! 電子機器だって完璧に使えまあああああああああ!?」

「おわぁぁぁぁぁぁタブレットがあああああああ!?」

 

 急に立ち上がったルーラーが駆け出そうとしたかと思うと、湾曲した巨大角が椅子にぶつかって盛大に転ぶ。そして、その手に抱えていた端末が上に向けて放り出された。

 

「貴女はッ……自分の角の大きさくらい考慮して動きなさいな!?」

「クァハハハハ、開始一分でもうこれか! 先が思いやられて堪らねえなオイ!」

 

 アサシンが髪を伸ばしてタブレットをキャッチし、バーサーカーは肩をすくめた。

 ……ふと横を見ると、アーチャー陣営は座ったまま不動の姿勢。この優等生どもめ……

 そうして、騒がしくも奇妙な「最後の会議」が始まったのだった。

 

 

 ひとまず行われたのは、現状についての情報共有だった。

 その情報の中には、バーサーカー・サタンの真名が「アラヤの抑止力」の化身だったということも含まれる。

 説明を聞き、今起こっているのが聖杯戦争どころじゃないとんでもない事態なのだ、ということを理解すると同時に――

「まさに、世も末ってヤツね。人選ミスにもほどがあるわ。というか、何をどう“抑止力としての仕事”をしたらこうなるのかしら」

 アサシンが、氷よりも冷たい視線をバーサーカーに向ける。

 確かにそうだ。彼がちゃんとしていれば「そもそもキャスターの大儀式が完成しない」ようにできたのではないだろうか。

 大問題を、最小限に抑えることはできたのではないだろうか。

 けれど、バーサーカーは悪びれもせず言い放つ。

 

「俺にも分からないことだってあるさ。ただ俺は、分からないなりにできる限り状況がギリギリまで悪化するように仕向けただけだ。そうなってこそ、“世界を救うヒーロー”の運命力は相対的に限界まで跳ね上がる。ホラ、聖書でも俺の役割って“信仰を試す試練を課す者”だろう?」

 

 ……ひねくれているにもほどがある。この場にいるほぼ全員がアサシンと同じような表情をする中――例外がいた。

 

「是である」

 アーチャーが、静かに肯定の言葉を重ねた。

「淘汰なき安寧と停滞の中からは、進化も革新も生まれぬ。緩やかに死ぬだけだ。少なくとも、その点においては余も認める」

 

 キャスターの言っていた、「編纂事象」と「剪定事象」。

 良い方向にも悪い方向にも、「止まった」世界には先がないという話。

 それゆえに、「抑止力」が表からではなく裏から、世界をかき乱すのは合理的というわけだ。

 そして、歴史を動かしてきたのは常に「巨大な意志」――いわゆる「英雄」と呼ばれる者たち。

 聖杯戦争が始まる前から、キャスターとダルグレインはその枠に片足を突っ込んでいたのだと、アーチャーは見ているのかもしれない。

 ならば、ただの観測者や脇役では彼らを止められない。世界を変える力に抗うには、それを上回る意志と力が必要なのだと――

 

(……って、話が抽象的すぎてよく分からない!)

 

 私だけでなくアルヴェイルも目を回し、その頭から煙が上がっているのが目に見えるかのようだった。

 

「それで? 聡明なアーチャー様は、南極に攻め込むための革新的な意見を何かお持ちかしら?」

 アサシンが足を机に上げながら、挑発気味に言う。態度が悪い。

 だが、アーチャーは顔色も変えず淡々と返した。

「無論である。端的に言えば、我が力を用いて、南極に複数の巨大隕石を降らせる。それを移動手段、かつ盾として突入する案がある」

 

 ……いや、なんて?

 今、キャスターの儀式とは関係なく世界の危機になりそうな言葉が聞こえたような。

 

「なァるほど。四神たる青竜は東方の宙を司る。ならば、自ら星の運行を乱して隕石を招くこともできるって寸法か」

「是である。天の摂理を曲げる行いゆえ、みだりに振るえる力ではないがな」

 

 バーサーカーは自然に頷き、アーチャーも説明を続ける。どうやら冗談ではなく、本気でやる気らしい。

 アサシンは呆れたように、それでも少し感心した様子でアーチャーを見る。

 

「……お利口さんの優等生かと思ったら、随分とロックね。いいの? それで」

「全て直撃すれば儀式そのものを破壊できる以上、キャスターは迎撃せざるを得なくなる。これは敵の力を測り、削ぐ一手でもある」

「で、ワシらは成層圏あたりに転移して、隕石に便乗して突入する――ってか。……ええと、マスター。こんな感じです」

 

 セイバーが器用に爪先でタブレットを操作し、図形を描いてアルヴェイルにも分かるように示す。思ったより頑丈なのね、あの画面。

 しばらく考えた後、アルヴェイルが口を開いた。

 

「ええと、つまり巨大な石が落ちてくるってことだよな? それって……地上にいる生き物は大丈夫なのか?」

 それは、確かにそうだ。彼と同じペンギンたちが、隕石の被害を受けるかもしれない。それが心配なのだろう。

 

「無論、その危険性はある」

 アーチャーはバーサーカーからペンを受け取り、「ホワイトボード」に図を描きながら説明を続けた。

「だが、それ以前にキャスターの展開した大規模儀式の内部には、通常の生命体は存在できない可能性が高い。魔方陣の描画を妨げる以上、陣の展開前に“獣払い”がなされていると見るべきである。したがって、儀式陣に狙いを絞れば生態系への被害は最小限に抑えられる」

 その説明の直後、アサシンが私に念話を送ってきた。

 

(……それ自体は間違ってないだろうけど、一つ言わなかったことがあるわね)

(え、何を?)

(必要最低限の“獣払い”はするかもしれない。でも、キャスターが“目的のために犠牲はつきもの”と考えるような奴なら――わざわざそれ以上、動物を退避させると思う?)

 

 ……それって、つまり。

 

(まあ、わざわざアーチャーが言わなかったってことは意図があるんでしょう。実際、アルヴェイルは精神的にかなり疲弊しているみたい。マリアナ沖で何があったのか知らないけど、少しでも負担を抑えようとしたのかもね)

 

 いわゆる、嘘も方便ということだろうか。真相を知ったところで、傷つくだけで、何もプラスにはならないもんね……

 

 

 いろいろ話し合った末、作戦会議はいったん終了した。

 現状キャスター側の能力に不明なところが多いので、状況次第で柔軟な対応をしていこう……って感じに、いったんまとまったのだ。

 

 とはいえ、キャスターの宝具はすでに二種類判明している。

 一つ目は、『蛇竜展翅・虚滅之翼』(スヴァルティル・ヴェンギル・リンノルムス)。ランクは推定B程度。ライダーが奪って何回か使った、相手のスキルや宝具による防御を無効にして攻撃できる、厄介な宝具。

 ライダーとセイバーの初戦では、セイバー自慢の防御宝具『盾鋼の聖獣』(クストーディア・タラスコニス)を簡単に割られてしまったらしい。

 

 二つ目は、『始原虚識・零文之書』(ゼロ・アーカイブ)。ランクは不明。

 ルーラーによれば、ライダーとシェリトがこれを食らったという。

 彼女の見立てでは、『蛇竜展翅・虚滅之翼』(スヴァルティル・ヴェンギル・リンノルムス)のように「魔術的な防御を破壊する」だけでなく、魔術そのものを無効化する力があるのでは……ということだった。

 そのため、キャスターとの戦いはアサシンが志願した。

 

「私の速度なら、そもそも“当たらない”ようにして立ち回れる。それに――この状況を作った責任の一端は私にある。それを果たさなければ、私の沽券に関わるわ」

 

 再び、アサシンとルーラーの視線が交差する。両者とも思うところはあるようだったが、特に何も言わず視線は逸れた。

 

「ならば、奴の配下となったライダーには余が挑もう。奴の速度に追いつくには、我が雷撃が最適である」

 

 アーチャーがそう言い、作戦内容をタブレットにまとめ終えた。

 その画面には、隕石を降らせるための儀式手順までが、精緻に記載されている。

 ……「天の使い」であるという彼がタブレットを高速で操作する光景は、非常に何とも言えないものであった。雷属性だから電化製品にも強いのかな? などと、益体もないことを考えたりして。

 

「で、ワシは不測の事態に備えてどう立ち回れるようにもしておく、と。……ルーラーの宝具を奪ってるなら、あの“泥”から部下を量産してくる可能性は高いだろうなあ」

 

 セイバーはタブレットを操作しながら、戦術図をアルヴェイルにも分かるよう非常に簡単な図解で再構成していく。

 ちなみに、戦力外のルーラーと、彼女の護衛のバーサーカーはここで待機だ。

 

「それで、決戦に向けて各々が準備するって話だけど……その、アサシンってアーチャーとの戦いで結構消耗してるんじゃないの!? 大丈夫なの、これ!?」

 レゼフィルが、タブレットを翼で指しながら言う。

 アサシンは「戦いへの準備」に向け、私を降ろし、すでにバーサーカーが開く「門」の前で待機している。

 

「“試練”が私の知識通りなら、捕食と補給の機会は少なくないはず。アーチャーの分霊も手伝ってくれるし、まあなんとかするわ」

「な、なんとかって……」

 

 レゼフィルの困惑も無視し、アサシンは私に向けて軽く手を振ると、「門」を潜っていってしまった。

 アーチャーの分霊――彼の力を分割した分身も、それに続く。

 

「ワシとアルヴェイルはそっちの部屋で“訓練”だな。すまんが頼むぞ、バーサーカー」

「構わないとも。せっかくの“願い”だ。きっちりと叶えてやるさ」

 

 バーサーカーとセイバー、アルヴェイルは隣の部屋に移る。

 

「味方のはずのあたしたちにも秘密って、何するつもりなのかしらね! 水臭いわ全く!」

「確かにアルヴェイルはかなり生臭いけど……」

「そういう意味じゃないわよ!!」

 

 思わず口を滑らせたところに、レゼフィルはきっちりと突っ込んできた。

「あーもう、余計なこと言ってる暇はないのよ! このままじゃ日が暮れるわッ」

「だったら無視すればいいのに……」

 ぼやきつつ、アーチャーの儀式の陣の作成を手伝う。

 普通なら、魔術なんて使えない私たちに何ができるのかという話だが――

 

「えいっ」

 前足を勢いよく、墨の入った入れ物に浸す。白い毛が、じんわりと黒く染まっていく。

 そのまま、大きな白い紙の上を歩き回る。

 隣では、レゼフィルが筆をくちばしに咥え、器用に線を描いている。紙の上を跳び回りながら、「絵」が軽やかに仕上がっていく。

 

 私たちがやっているのは、「儀式の供物」の作成だ。

 「春」を司るアーチャーの儀式を完成させるには、季節の到来を呼び込むために「春のイメージ」を具体的に作り上げる必要がある。

 つまり「春の気配」を呼び込むための「春らしい絵」を、生者である私たちが思うままに描くというわけだ。こればっかりは、サーヴァントにはできないことであるらしい。

 

「決戦の地、南極は季節の異なる南半球に位置する。あちらは現在“秋”だ。ならば、かの地に“春の星”の力を及ぼすための触媒が必要である」

 

 アーチャーは、そう言った。

 巧拙は問われない。私たちが、春に想いを込めて描くこと――それが大事なのだという。

 

 ……さて、春とは何だろう。

 かつての私の飼い主である人間は、「桜」とか何とかいう花を好んでいたらしく、春の訪れにちなんだ色や模様の服を、私に着せようとしたことがあった。

 

 この毛皮がある以上、服なんて私には必要ない。

 むしろ毛繕いの邪魔になるし、ストレスになるほどだった。

 それより自分の新しい服を買えばいいのにと思っていたが、その思いはついぞ届くことはなかった。

 

(でも……その「私に物を与える」という行為こそが、人間なりの愛の表し方だったのだろう)

 

 だから、こうやって私の記憶にも残っている。

 そして、私の描くものもすでに決まっていた。












基本的にここにいる誰がタブレットを弄っていても一定の面白さがある気がする
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。