Fate/Draco―蛇竜王戦線―   作:ぴーらー

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第37話:春嵐

2020.04.03 07:00 UTC / 会議室 視点:アルヴェイル

 

「それで、試練が終わったら上層に戻る仕組みになっていたのだけど……外に出るのかと思ったら、本殿の最奥に戻されたの」

「……それって確か、最初の“呪の間”じゃなかったっけ?」

「正解よ、マスター。剣を見ることによる呪いは、あの場所に持続している。“鍵の剣”が構成要素に含まれている“草薙”をあそこで見れば、死の呪詛は今度こそ発動しかねない……全く、とんだデストラップね」

「クァハハハハハハハ!! もしやスサノオは、最初からお前たちを生かして返す気は無かったのではないか?」

「そこまで含めての試練だったんじゃねぇの? 最後の残心が雑じゃ勝てるものも勝てねぇぜ……みてぇな」

「だとしてもひっどい話ねー! あーでも、“鍵剣”って本来ならどうなる予定だったのかしら? まさかアサシンのやり方が正式なはずはないでしょ」

「“鍵の剣”は、真なる草薙と打ち合っても壊れぬだけの耐久性を持つ。スサノオと戦うための武器として使い、試練を終えた後は真の草薙と交換する“引換券”としての役目を持つと考えるのが道理である」

「……それなら、アサシンは余計な罠を一つ自分から増やしたというだけか。それに、母は“本来持ち帰ってはならないもの”を持ち帰ったのは良くないと思います。次の人が困るでしょう」

「次、って貴女ね……」

 

 俺は毛づくろいをしながら、不思議な剣を携えて戻ってきたアサシンたちの話を、やや上の空で聞いていた。

 全員の準備が完了すれば、いよいよ最後の戦いが始まる。

 ……そうなれば、本来「敵同士」であるはずの、この不思議な団欒も終わる。

 俺は「学校」や「停戦」の期間のような、戦いの最中にある平和な時間が好きだった。

 その中では、間違いなく自分は孤独ではないと実感できた。

 

 ふと、思いがよぎる。

 

 ――「ダルグレインは、どうだったのだろう」。

 

 あれは厳密にはキャスターだったのかもしれないが……正体を明かすまで、俺からすれば彼は「仲間」だった。

 そういう相手として、行動を共にしていた。

 

 その間、彼は「学校」での学習の時間や停戦中の雑談を、どう思って聞いていたのだろう。

 くだらない。気に食わない。あるいは何も、心に響かなかったのかもしれない。

 戦いが始まり、再び南極に赴いたなら、それを確認することはできるかもしれない。

 

 セイバーにこの考えを伝えると、彼は悩ましい顔で言った。

「……聞いたとして、ほぼ間違いなくマスターにとって得にはなりませんぜ。むしろ、心理的に付け入る隙を与えるだけかもしれやせん。そもそも、そんな余裕がない可能性が一番高いでしょうし……まあ、“もしかしたら”という未練をずっと抱えるよりは、真実に傷つく方が良いのかもしれない。判断は、マスターにお任せします」

 

 アサシンの回復が終わり、全ての準備は整った。

 アーチャーも、「隕石」の準備を終えている。

 バーサーカーとルーラーの見送りを背に、俺たちは会議室を後にした。

 会議室を出ると、すぐ目の前にはアーチャーの「本体」と「儀式場」があった。

 レゼフィルと一緒にいた「分霊」は消え、その魔力が本体に統合されていく。

 

 まず目に入ったのは、石でできた四つの柱に囲まれた、大理石の巨大な陣盤。

 そこには複雑な魔方陣が、まるで星の運行図のように緻密に刻まれていた。

 石柱の上には、レゼフィルとユキネが用意した「春の供物」が整然と並べられている。

 儀式場の周囲では、地脈が青白く瞬き、膨大な魔力を絶え間なく送り込んでいた。

 ……すべてセイバーの事前説明の反芻なので、正直何が何だか分からないが……とにかく凄いということは伝わってくる。

 

「では、始めるぞ。各員、配置につけ」

 アーチャーは短く言い放ち、右手を高く掲げる。

 まるでその手は、空そのものを掴んでいるかのようだった。

 

「――蒼龍七宿、星路成陣。角亢氐房、雷気相応。心尾箕宿、天光開門。地脈上騰、龍脈通天」

 

 太陽が昇り、明るくなり始めた空が急激に暗くなっていく。

 そして夜空に、七つの輝きが鮮やかに瞬いた。

 

「――地気上騰、天律裂帛。天命反転、星辰墜落」

 

 アーチャーが発動させようとしているのは、『天穿・蒼雷箭』(ティエンチュアン・ツァンレイジェン)『竜脈開扉』(ロンマイ・カイメン)の力を融合させた宝具。

 詠唱が進むごとに、天上の星がより強く燃え上がっていく。

 

「――天地相交、陰陽逆転。星辰断片、此処降臨」

 

 中でも「心宿」――蠍座の「アンタレス」とも言うらしい赤い星が、炎よりも激しく揺らめき、一際大きな存在感を放っていた。

 まさしく、今にも落ちてきそうな程に……!

 

「顕現せよ、春の嵐。『天墜星辰・蒼竜降耀』(ツァンロン・チャンヤオ)……!!」

 

2020.04.03 07:20 UTC / 南極 視点:ダルグレイン

 

「何だよ、この悪寒は……!?」

 魔力回復のため休息を取っていたオレは、異様な気配に突き動かされるように目を覚ました。

 

 かつてキャスターに偽装していたオレの肉体は、ライダーの攻撃で一度死亡している。

 それは敗北と死を装い、機が熟すのを待つためだった。

 ランサーから密かに掠め取った「アムリタ」のレプリカによって復活は果たしたが、魔力の枯渇までは補えなかった。

 定期的に回復を図りつつ、どんな手段で奴らが来ようとも応じられるよう、キャスターと共に備えを重ねていた。

 心構えだって、十分だったはずだ。

 だが今、オレの本能は恐怖に震えていた。

 

 言語化はできない。

 それは恐らく、遺伝子の遥か奥に刻まれた「絶滅と死の感覚」だった。

 

「すまねえキャスター、今起きたところだ! 状況は一体どうなって……ッ!?」

 念話を送りながら工房から顔を出したオレは、絶句せざるを得なかった。

 ――空から、巨大な火の塊が怒涛のように迫ってきていたからだ。

 

「……マスター・ダルグレイン。状況を簡潔に通達する」

 キャスターの念話が届く。

 同時に彼の魔術により、オレたちの思考速度は大幅に加速。

 外の時間においては一瞬の作戦会議が始まった。

 

「第一。現在、上空から隕石が三つ降下中。直径百メートル、質量はそれぞれ四百二十万トンに達する。加えて、それらはただの隕鉄にあらず――天律の断片、極大の神秘を宿した宝具だ。ランク評価はA++以上。この地に堕ちれば、大地ごと全てを叩き割り、結界・儀式・構築魔術の全てが破綻し、儀式陣は灰燼に帰す」

 

「……マジかよ、オイ」

 オレが絶句するのに構わず、キャスターは解説を続ける。

 

「比較に足る事例として、ビーストⅣ:Lの欠片たる英霊は“ツングースカ大爆発”の隕石を模したCランク宝具を持つという。されど直径は五十メートル、質量は約十万トン。構成要素が前者は鉄、後者は岩が中心という違いはあるが、この差は月と(すっぽん)のごとく大きい」

 

「第二。落下速度は秒速十~十五キロ。迎撃及び空気抵抗による減衰を考慮しても、防衛に与えられし猶予は最大百秒。仕損じれば――瞬く間に、二年の積み重ねが焼き尽くされる」

 

「第三。“通常の”百メートル級の隕石を破砕するには、最低でも十メガトンの火力が必要となる。

その上で、蒼竜の神矢たる宝具が纏う神秘を超えるには――宝具に匹敵する攻撃を三発分、ほぼ同時に要する」

 

 時間が無いのは事実だが、怒涛のように情報が告げられていく。

 「大爆発」とやらの参考映像も見せてもらったが……なるほど、これは死ぬ。逆に冷静になってくる程だ。

 

 キャスターはこの南極に複数の工房を展開し、守りを固めていた。

 転移魔術を無効化する結界に、偏執的なまでの数の対空砲。

 聖杯戦争開始前の二年間で構築し、縮小保存していたそれらを、南極全域に張り巡らせていた。

 敵がどこから来ても先手を打てる筈の陣形。

 だが、それでも足りない――この直感は気のせいではないだろう。

 

「然り。情報を出し惜しむ余裕は無し。敵方としても、おそらく一度きりの奥の手。故にこそ出力は過剰であり、規模は非常識に達する。……そして第四。この攻撃に乗じ、敵勢力が攻め込んでくることは確実だ」

 

 四つ目にして、ようやくオレにも思い至っていた内容が口にされた。

「だろうな。奴らがあの隕石と一緒に落下して乗り込んでくる、とかどうだよ。ありそうじゃないか?」

「大いにあり得る。その可能性故に、隕石撃墜において半端な攻撃は許されない。例を挙げれば――地上から魔力砲撃を行ったとして、隕石に乗り込んだ英霊が“隕石の軌道をずらす”などの回避行動をとる、隕石上から更に攻撃を仕掛けてくる……等も考慮せねばならない」

「……一応確認だ。あの隕石も一応魔術によるものだろうが、『始原虚識・零文之書』(ゼロ・アーカイブ)で打ち消せないのか?」

「事実上無意味、と見る。隕石召喚は魔術に由来する現象だが、落下を開始した流星はこの宇宙に実在する物質。加えて、隕石の落下も重力による自然現象。単体での攻撃能力を持たない『始原虚識・零文之書』(ゼロ・アーカイブ)では、“加速する星”を止める術とはなり得ない」

「クソッ、本気で厄介だな……!」

 

「――されど、敢えて言うべきだろう。“この程度の局面”は切り抜けねば、世界を変えることなど出来はしないと。我々は未だ、真の戦いの序章にすら立っていないのだから」

 

 

 作戦会議が終わり、オレは素早く工房へと戻る。

 いつ戦闘が始まってもいいように、準備は既に整えてある。

 数秒で支度を終え、キャスターの合図を待つ。

 だがその短い待機の間、ふと脳裏をよぎったのは――これから殺し合う「敵」との、かつての会話だった。

 あれは確か、アイスランドでの停戦期間中だったか。

 

「それでダルグレインは、どういう経緯で聖杯戦争に参加することになったんだ?」

 アルヴェイルが、何の警戒心も持たずオレに向けて話を振る。

 奴らはその時、マスターとなった七匹はどのような基準・条件でマスターに選ばれたのかを考察していた。

 少なくとも「空に赤と青の流星を見た」「何らかの強い願いを持っていた」ことは共通しているようだったが、それ以上の何かがあるのか――そう考えたのだ。

 本来の聖杯戦争ならマスターの条件として「魔術師の才能」が必須だが、それが関係ないとなれば気になるのは自然だろう。

 

 まあ、実のところそんなものはないのだが。

 キャスターに言わせれば、オレ以外のマスターはほぼ全員が聖杯戦争を成立させるための数合わせ。

 強いて言えばファヴニール召喚のためにも「強い欲を持つマスター」が最低限必要、としただけだ。

 

 だが、「無いこと」の証明というのはどんな知恵者だろうと簡単ではない。

 キャスターがかなり情報を絞っていることもあり、奴らはあまり意味のない考察を進めていた。

 アルヴェイル、ユキネ、レゼフィルが自らの経緯をそれぞれ簡潔に話し、最後にオレの番が来た。

 当然、素直に話すつもりは無い。

「アルヴェイルさんとセイバーの旦那にはもう話したのですが、実はあっしは昔魔術師に飼われていまして……」

 以前と同じように、オレのふりをしたキャスターが饒舌に、真実と嘘を織り交ぜて語り始める。

 懐古趣味の魔術師に犬ぞり用として飼われ、人類消滅後に檻の中に放置され、飢えた末に脱出。

 その後キャスターに拾われ、知識を授けられて今に至る――と。

 

 キャスターはオレの魂を殻として被っているため、姿も性格も口調も完全にオレそのものとなっている。

 本来「名もなき原初の竜」であるという出自のため、現界には別の竜の名前と姿を借りる必要があるという面倒な性質をしているだけあって、そういうのはお手の物だ。

 少なくともアルヴェイルは、この話を何も疑っていないようだった。

 

 ただ闇雲に信じ、疑うことを知らない幼稚な奴。

 まあ、所詮は短期間の教育を受けた程度の愚鈍な鳥類。

 

 ――戦場となった南極で、怒涛の爆発が繰り返されながらも逃げることもできず、そのまま数千の群れが全滅する程度の奴らの同類だ。

 

 キャスターは、オレの記憶を確認している。

 南極での他の「オレ」の爆発に、コウテイペンギンの群れが巻き込まれた光景を。

 アルヴェイルとインドで遭遇した時、ひっそりとキャスターは念話で言った。

 

 ――「負い目は無いか」と。

 

 殺戮に巻き込まれてしまった無辜の命の似姿に、その牙が躊躇を覚えることは無いかと。

 

 「無い」。

 オレは、そう即答した。

 ……即答したはず、だ。

 











サーヴァントマテリアル⑧
クラス:ルーラー
真名:ティアマト
属性:混沌・中庸
筋力:A+ 耐久:EX 敏捷:C 魔力:A++ 幸運:EX 宝具:EX


 保有スキル
【対魔力:A+】
ルーラーとして召喚されたことで、魔術への強固な耐性を持つ。

【神明裁決:B】
ルーラーとしての最高特権。聖杯戦争に参加した全サーヴァントに対し、二回令呪を行使できる。

【真名看破:C】
直接遭遇した全てのサーヴァントの真名及びステータス情報が自動的に明かされる。ただし、隠蔽能力を持つサーヴァントに対しては幸運判定が必要となる。
えっ、幸運ランクEX(規格外)…???

【怪力:A++】
魔物としての能力。自身の筋力を向上させる。ほぼ最上級のもの。黒泥を体とし、竜体として現れたティアマトの筋力は巨人のそれである。

【女神の神核:EX】
生まれながらに完成した女神である事を現すスキル。同時に「神性」を含む複合スキルでもある。精神と肉体の絶対性を維持する効果を有する。

【自己封印:C+++】
通常時はビーストⅡとしての能力を封印している。だが、緊急と判断されたときに強い感情をキーとして発動。スキル【ネガ・ジェネシス】【獣の権能】と宝具『始源の海、幼年の終わり』の使用を解禁する。

【単独顕現:B】
かつて獣だったことを表すスキル。世界の修正力や人理の消滅の影響も受けず、時間旅行を用いたタイムパラドクス等の攻撃を無効にし、あらゆる即死系攻撃をキャンセルする。

【獣の権能:C】
英霊、神霊、なんであろうと「母体」から生まれたものに対して特効性能を発揮する。ティアマトのみならず、彼女から生まれた魔獣全てに付与されるスキル。

【ネガ・ジェネシス:D】
現在の進化論、地球創世の予測を悉く覆す概念結界。「旧来の生命を否定し、新たな命を生み出そうとする空間」であり、サーヴァントは入った瞬間に消滅してしまうため「生者」でない限り入ることは叶わない。
ビーストとしてのスキルであり、普段は封印されている。緊急時には使用が解禁されるが、それでも範囲は自身を覆うだけに留まる。

【自己改造:EX】
黒い生命の海を用いて自分の霊基を作り替える。通常の霊基状態(ファム・ファタール)から、全長60メートルを超す竜体に成長する。竜体になったティアマトはA++以下の攻撃を無効化する。

【青き星の瞳:B】
「星の意志の代行者、あるいは星そのものの化身」という証。一種の魔眼。
視界内の存在全てを対象とし、クリティカルとあらゆる回復行為を封印する。
ルーラーとして召喚されたことで「戦争の監視者」として「遠くの光景を見る」事も可能になった。この星はお母さんに監視されています。
因みにこの「監視」でも真名看破スキルは発動する。

【赤き星の瞳:B】
敵意、攻撃に寄った星の魔眼。
自身の攻撃力、魔力属性を変化させ、視界に入る対象全てに強い呪いを付与する。


 宝具
『毅き仔よ、創世の理に抗え(ナンム・ドゥルアンキ)』:EX
種別:対界宝具 レンジ:0~99 最大補足:100人
効果:自己改造スキルによって通常状態から60m以上の巨大な体躯を持つ「竜体」に成長し、規格外の純粋な魔力による砲撃を行う。
更にこの攻撃は、命中した相手に対して「スキルや宝具などによる強化を無効化する」バッドステータスを付与する。既に受けている強化をキャンセルはしないが、宝具の「魔力による砲撃」は持続する多段攻撃のため相手は「受けている途中で防御が切れたので張り直す」ことが事実上不可能になる。また、敢えて攻撃を受けティアマトの魔力を逆利用して自己の強化を行う…と言った芸当も封じられる。

『始源の海、幼年の終わり(タムトゥ・エンウム)』:EX
種別:対生命宝具 レンジ:0~40 最大補足:100人
効果:Tamtu Enūma。
ティアマトの本質。あらゆる命の起源であり終着でもある「生命の海」を展開する。
ティアマトの「仔」を無尽蔵に生み出す黒い泥「ケイオスタイド」は「塩基契約(アミノギアス)」により触れた生命体を浸食し、細胞クラスでの意思束縛が結ばれ、強制的に自身の眷属としてしまう。
そして、生命の源そのものの存在であるティアマトは「死」の概念を持たない。
彼女はこの聖杯戦争において、絶対にして不滅の審判者として召喚されている。
…そもそも願いを叶えることを放棄している彼女を、参加者が狙う必要性は一切ないのだが。

『奏で謳うは厄災の調べ(リトニー・ド・ファムファタル)』:C
種別:対人宝具 レンジ:10~99 最大捕捉:レンジ内全て
効果:少女体、通称「ファム・ファタール」状態でのみ使用可能。
様々なバッドステータスを齎す「歌」。
内訳としては攻撃力ダウン、防御力ダウン、回復の阻害、クリティカル率ダウン、宝具の威力低下もしくは使用禁止、スキルの無効化、スタン付与…など。
ティアマトはこれを状況に応じて使い分けることができる。
この宝具の本質は裁定者に攻撃する者への「警告」である。それでも相手が止まらなかった場合は更なる措置を行う。
また、「歌」である性質上聴覚を持つ者であれば敵味方関係なく効果を受けてしまうのが難点。
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