Fate/Draco―蛇竜王戦線―   作:ぴーらー

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第38話:極点の流星群

2020.04.03 07:21 UTC / 南極上空 視点:レゼフィル

 

「海岸から陸地まで、見渡す限りの対空砲台がこっちを向いてやがるぞ! 本当に撃ち返さなくていいんだな!?」

「是である。今はまだ、その時ではない!」

 

 氷の大地に刻まれた巨大魔法陣、その数百キロ上空を降下する隕石の上。

 風の防壁で覆われた灼熱の中で、セイバーとアーチャーの声が飛ぶ。

 ランサーの国での作戦会議の時と同じように、アーチャーが展開した「風」の中には炎も届かないし、声も漏れない。

 その上、アサシンが持つ「風」の力も合わさることで「風の膜」はレンズのように光を屈折させ、外から中身は見えなくなっている。

 だとしても、あたしをはじめとしたマスター三匹はまともに喋る余裕などなかったのだけど。

 

 ――そんな「風」を裂いて、魔力の砲弾がわずか上を掠める。

 爆裂寸前だった砲弾は、追加の風障壁によって強引に弾かれ、はるか彼方へ逸れていく。

「……っ!」

 最も近くにいたユキネが悲鳴を上げ、目を閉じかけるが、その逆立った毛をアサシンの白い手が撫でつけていく。

「大丈夫。貴女は私が絶対に守るから――今は、目の前に集中し続けて」

 どうにか気を落ち着かせ、頷くユキネ。

 ――その頭部には、一本の長い黒髪が突き立っていた。

 勿論、その髪の主はアサシン。

 そして、その黒髪はユキネだけでなくあたしとアルヴェイルの頭部にも刺さっていた。

 

 ただ、不思議なことに痛みはない。物理的に刺さっているわけではないらしい。

 これによって、アサシンを中継地点とし、髪がLANケーブルのような役目を果たし――マスターとサーヴァントの繋がりもあって、アサシン陣営・セイバー陣営・アーチャー陣営は「全ての視界情報を共有」した状態になっている。

 

 その目的は、「キャスターおよびライダーの迅速な発見」。

 どれだけ姿を隠していても、この隕石を破壊するほどの大魔術を行使するならば、必ず相応の反応がある。

 この隕石の落下中に、上空からそれを見つけてやろうというのだ。

 

 それにしても――この隕石作戦は、ある意味「失敗することが前提」なのだから不思議なものね。

 キャスターの「儀式の陣」は南極という土地と強く結びついており、キャスターを倒す以外で破壊するには、南極そのものを破壊しなければならない。

 逆に言えば、『天墜星辰・蒼竜降耀』(ツァンロン・チャンヤオ)が直撃すれば、それが「できてしまう」。

 

 もちろん、キャスター側としてもそれを許すはずがない。

 だからこそ、撃墜は「前提」。

 この隕石は「途中で止められる」ことを前提にした一手なのだ。

 

 でも、もし万が一、撃墜に失敗すればどうなるか。

 隕石による、南極の破壊。

 それは間違いなく、あたし達にとっても「敗北」だ。

 百メートル級の隕石が直撃した時の衝撃波と熱――それは、コウテイペンギンをはじめとした、極地に生きる生命を容易に滅ぼし尽くす。

 広大な氷原や氷床は蒸発・崩壊し、その大量の氷水は海に流れ込み、周囲の海域は急激に冷却される。

 結果、プランクトンも、魚も、食物連鎖の全てが崩れ、生態系は壊滅的な打撃を受けることになる。

 それは、途方もないほどの「愚行」だ。

 

 だから、アルヴェイルはこの作戦に反対すると思っていた。

 アーチャーも、アルヴェイルやセイバーが嫌だと言うなら別の作戦を考えるつもりだったらしい。

 アルヴェイルの「知識不足」に付け込むような形になってはならない、と。

 

 でも、会議室でアルヴェイルは言った。

「アーチャーが言うのなら、俺は大丈夫だって信じる。それと同じくらい――俺は、ダルグレインとキャスターのことも信じる。上手く言えないけど……あいつらにも、大切にしているものがある。そのために、ちゃんと止めに来るし、その力があるはずだって感じたんだ」

 

 ……男子三日会わざれば刮目して見よ、なんて言うけれど。

 この数時間の間に、一体何があったのかと思うほどだった。

 確かに、ランサーの「国」でのダルグレインの言動や、キャスターの「宣戦布告」、ルーラーが見たという情報を総合すると、思い当たることはある。

 バーサーカーから「過去のことを思い出した」という話を少し聞いているけど、それが良い方向に行くことを期待したい。

 「忘れた過去を思い出す」のが、必ずしも良いことだとは限らないのだから。

 

 一瞬そんなことを考えながら戦場を注視していると、突如心臓がざわめくのを感じた。

 それは全員同じだったようで、それぞれの表情が引き締まったのが見えた。

 聞こえたのは、無数としか言いようがない――強靭で重厚な羽音。

 

 「共有」された視界に映っていたのは、空を埋め尽くさんとする数の、ワイバーンの群れだった。

 それらは魔法陣から滲み出るように生み出され、即座に羽ばたいて空へ舞い上がる。

 (キャスターがライダーを経由してルーラーから奪い取った「原初の泥」、『始源の海、幼年の終わり』(タムトゥ・エンウム)……!)

 命の原型にして、混沌と神秘の母胎。

 その力の顕れを、生命としての本能が畏れたのだ。

 

 それより、ワイバーン、というか竜だって爬虫類なんだから卵→ヒナ→成体ってなるはずじゃないの!?

 いきなり成体で生まれて即座に飛び立つなんてどうなってるのよ!?

(否である。上位の竜種とはそういうものだ。繁殖を必要とせず、周囲にワイバーンを「生み出す」ことで個体数を増やす――そのワイバーンが成長して新たな竜になるが、最下級の竜種であるワイバーンで十分ならば「育つ」時間は節約できる)

(あーそう、解説ありがとう! 分かったからアーチャーは宝具に集中してちょーだい!!)

 

 ワイバーンたちは、いずれもこの隕石に向かって一直線に飛翔してくる。

 いくら彼らが最下級の竜種という肩書きだとしても、通常の生物では勝負にならないほどの強さを持つ幻想種であることに変わりはない。

 何より、彼らには翼がある。

 空中での戦闘能力において、落下中の隕石に対して群れで襲いかかるという手段――

 数の暴力によって、削り、叩き、軌道を逸らし、最終的に破壊しようというのだろう。

 

 事実、既に何百体ものワイバーンが、翼から衝撃波を放ち、あるいは魔力をまとって突撃してきている。

 ワイバーンたちはあたし達が三つのうちどの隕石にいるか「見えない」ようだけど、「左側」の隕石を集中して狙っているようだった。

 突撃の結果ワイバーンが死のうとも、構わず次の個体が突っ込んでくる。

 「命でありながら、命のように見えないし、命として運用されていない」――その様は、更にあたしに恐怖に似た感情を覚えさせた。

 

 だが、その恐怖を打ち払うのは――

「……ここまでは想定通り。そうでしょ? アーチャー」

「是である。作戦をフェーズ2に移行する」

「応よ! 準備は万端だ!」

 ――いつだって、英雄達の声だった。

 

「行くぞ! 『盾鋼の聖獣』(クストーディア・タラスコニス)ッ!!」

 セイバーの「盾」が光り輝くと同時に、アーチャーが瞬時に術式を起動する。

 

 その瞬間――左の隕石が、ワイバーンもろとも爆ぜ飛んだ。

 『始源の海、幼年の終わり』(タムトゥ・エンウム)により召喚されたワイバーンの群れが、左の隕石に殺到したことで、地上の対空砲台は味方誤射を避けるために一時的に射撃を停止していた。

 いくら使い捨てのワイバーンとはいえ、味方撃墜では意味がない。

 このタイミングを見計らい、アーチャーは自ら左の隕石を破砕。

 爆発の衝撃で周囲のワイバーンを吹き飛ばし、飛散した隕鉄の破片を全てコントロールし――

 迎撃を停止していた対空砲台群へ、正確無比に撃ち込んだのだ。

 

 神話を紐解けば投石器で巨人を打ち倒した羊飼いの英雄がいるように、アーチャーほどの英霊にかかれば石片ですら強大な兵器となる。それが神秘を纏っているなら尚更だ。

 加えて、直前まで対空砲への攻撃を待ったのはこのため。

 できるだけ敵の迎撃が働かないタイミングを狙う、徹底した効率重視の戦略だった。

 

(で、爆発の至近距離にいる俺たちの被害はセイバーが防ぐ、と……大丈夫だったか!?)

(とーぜんです、マスター。普段から姐さんに爆発させられてる身だ、なんてこたねぇですぜ)

 アルヴェイルとセイバーの念話が、爆発音に重なる。

 

 ……爆発、爆発ってアンタね。

(何この、何……?)

 ユキネの困惑が、「共有」によって伝わる。

 

 セイバーとアルヴェイルの「共有」によって見えたイメージ。

 それは、宝具としてのタラスクの持ち主――「聖女マルタ」が、タラスクによって押し潰された敵をタラスクごと殴りまくり、最終的に爆発させる攻撃の光景。そのフラッシュバックだった。

 

「視界で共有されるレベルのトラウマって、どう考えてもPTSDの類いじゃないの。何を見せられているの」

「うるせえええええ! 今はシリアスシーンだろ、目の前の状況に集中しろ!!」

(だ、誰のせいだと……)

 

 念話の速度でアサシンとユキネがセイバーに生温かい視線を向けつつも、状況は容赦なく動き続ける。

 あたしたちが潜伏しているのは、三つの隕石のうち中央の隕石の上部。

 しかし「左」には居ないと判明した以上、当然ながらワイバーンたちの狙いは残り二つに絞られる。

 

 そしてこのタイミングで地上から、二つの巨大な反応が観測された。

 一つは、魔法陣の中心に出現したひときわ巨大な魔力砲。

 おそらく、儀式の陣に蓄積された魔力を直結させているのだろう。

 遠目にも分かるほどのエネルギー密度を放っていた。

 二つ目は――凄まじい速度で、こちらへと向かってきていた。

 「遅すぎる」とばかりに、進行方向のワイバーンを全て蹴散らしながら。

 

「……来たか、『悪竜現象』」

 アーチャーの呟きと同時に、衝撃波が風と炎を吹き飛ばす。

 突進の勢いで右の隕石を半壊させた竜は、自らの傷も厭わずに咆哮した。

 ……何故かあたしには、その声が「無機質な音」に聞こえた。

 その疑問は、即座に氷解することになる。

 

「――よう。久しぶりだな、テメェら」

 ライダーの背には、「操縦士」がいた。

 灰色の狼、ダルグレインが。

 

2020.04.03 07:2■ UTC / 「会議室」 視点:ルーラー

 

「ほーう、『偽臣の書』か。なかなか珍しいものを見せてくれるじゃないか」

 会議室に設置されたモニターを見ながら、バーサーカーが言う。

 その手には赤ワインのグラス。無駄に優雅な雰囲気を醸し出していた。

 彼の視線は、ダルグレインの背に結わえられた冊子に向けられている。

 

「キャスターが【道具作成】スキルで製作したアイテムか……? 一体どんな効果なんだ」

「簡単に言えば、サーヴァントの代理マスターになるために使う『令呪の代替品』だ。

どこぞの聖杯戦争で、聖杯に選ばれたマスターに戦う意志がないという事態が勃発。その際、やる気のあった家族にマスター権限を譲った時に使われた手段でね……しかし代理人には魔術の才能がなかった。そんな代理マスターでも命令できるように、令呪一画を消費してまで用意されたのが『偽臣の書』だ」

 

 バーサーカーの説明に、わたしは少し訝しんだ。

「……だが、ダルグレインの魔術回路は、質も量も優れていたはず。マスターの資格は十分ある。なのに、どうしてそんなアイテムを……あ、そうか」

「気付いたか、ルーラー。ライダーと現在契約しているのはキャスターだ。シェリトから令呪と契約を奪い、令呪による命令に加えて『始源の海、幼年の終わり』(タムトゥ・エンウム)に浸け込むことで、『塩基契約』(アミノギアス)による眷属化を完遂している」

 バーサーカーは一息置き、グラスを指で弄ぶ。

 

「それでも、上位の竜種たるファヴニールを完全に隷属させるには時間がなかったんだろう。あの感じだと、完全に意思を封印した上で外部から操作することで運用しているらしい」

「……いくらキャスターでも、サーヴァントとの戦闘と同時にそこまでする余裕はない。そして、ダルグレインも二騎との同時契約はできない」

「正解だ。ついでに言えば……ダルグレインの戦闘力は高いが、それは通常の動物基準での話。この聖杯戦争で魔術でのサポートができるマスターはいないし、基本的に令呪を切るときしかやることがないからな。ならば、ライダーの操縦士としての役割を持つのは自然だろうよ」

 ……他ならぬ自分のマスターがサーヴァントと戦っていたのを棚に上げて、バーサーカーは言い切る。

 

「加えて、あの『偽臣の書』はキャスターのアレンジがかなり効いている。所持者が間近にいる必要がある代わりに、強制力と安定性が大幅に増している。だが、そんなデメリットはこれまでの戦いに鑑みればないも同然だ。結局のところ、魔力障壁に囲まれたサーヴァントの背が一番安全なんだからな。全く、理にかなっているねェ」

 ワインを傾けながら、バーサーカーは微笑んだ。

 

 それより、わたしにはもう一つ懸念点があった。

 「生命の海」に沈んだ者には、もう一つ効果が及ぶ。

 自己改造、生態変化、生態融合、個体増殖――そういったスキルが、ランダムに一つ付与されるのだ。

 実際、かつてのビーストⅡが変質させた英霊は【個体増殖】スキルを得て、無限に増殖する上に「ダメージを受けても、傷ついた体を捨てて増殖した別の体に移る」戦法まで確立してみせた。

 

「で、果たしてライダーに付与された新スキルとは何なのかだが……ほう、これは『SSR』(大当たり)じゃないか?」

 バーサーカーの笑みが、より一層深くなる。

 ――モニターに映るライダーの姿は、半透明になっていた。

 アーチャーの操作する隕鉄の礫が、高速飛行するライダーの体をすり抜ける。

 避けたのではない。そもそも命中しなかったのだ。

 ライダーと、その背に乗るダルグレインは――アーチャーの攻撃とは、「同じ位相に存在していなかった」。

 

「次元跳躍、だと……!?」

 その様子を見て、バーサーカーは何かを思い出したようだった。

 

「ああ、どこかで見たことがあると思ったが『この世ならざる幻馬』(ヒポグリフ)の能力か! 細部は違うだろうが……クァハハハハ! よりにもよってお前がそれを引くかよ、ファヴニールッ! 運命は果たしてお前の敵か味方なのか! 一体どちらと言うべきなのだろうなァ!?」

 

 謎にヒートアップしているバーサーカーはともかく、ライダーが得たスキルは相当厄介だ。

 スキルの使用中、ライダーは物理的干渉を受け付けない。

 「存在する次元が違う」以上、どれだけ強力だろうと攻撃は届かない。

 逆に言えば、スキル発動中はライダー側も攻撃ができない。適宜、スキルの解除が必要となる……とはいえ、普通そんなスキルを常時発動することは困難なはずだ。

 

「普通ならな。実際、ヒポグリフも『次元跳躍』能力は魔力消費が激しく、ここぞという時にしか使えない――が、ライダーには特大の【竜の炉心】がある。それも、複数の宝具を無造作に連発できるほどの。なんてこった! 万事解決じゃないかァ!!」

「……ただでさえライダーには『毒竜の血鎧』(ブロズハムル・ファヴニール)がある。そんな相手を倒せるのか……!?」

 

 どうにもできない、そんなもどかしさに歯噛みする。

 ……ビーストという、それこそ本来どうにもならないような災厄だった存在がこんなことを言うのは、あまりにも滑稽だったかもしれない。

 だが実際、わたしはアーチャー・アサシン・セイバーの持つ宝具を全て確認済みなのだ。

 この状況を逆転するのは、かなり難しいと言わざるを得ない。

 

 ……だが悪魔は、それでも笑みを崩さない。

「焦るなよ、ルーラー。ゲームは始まったばかりなんだ。――それに案外、まだ切られていないカードは残っているんだぜ?」

 










なんというかこう、ディスペクターっぽいな
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