Fate/Draco―蛇竜王戦線―   作:ぴーらー

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第42話:怨嗟の慟哭

2020.04.03 07:50 UTC / 固有結界内 視点:ユキネ

 

 (作戦成功。ここまではよし、だっ!)

 

 頭上からアサシンを「操作」しながら、私は会議室での会話を思い出す。

 あれは、アサシンとアーチャーの分霊の帰りを待っている時だった。

 

 

「事実上の未来視をしてくるキャスターだが、実は対策法はある。まず、厳密には奴のやっていることは未来視じゃないってことだ」

「あら、そうなのッ!?」

「待って待って、その“未来視”? を分かってる前提で話を進めないで」

 

 バーサーカーとレゼフィルを一旦止める。

 というか、レゼフィルはなんでそれについて知ってるんだ。

「アーチャーが似たようなスキルを持っているからよ。【千里眼】ってスキルの亜種なんだけど、これは簡単に言えば凄い視力の良さね。凄いので空間すらも飛び越えて、近い未来まで見えちゃうって感じ」

「言ってしまえば、これらにはほぼ“理屈が無い”。一方、キャスターの“未来視”っぽい予知にはそれなりに理屈がある。まず奴は、行動を予測する相手を選択し、並行世界におけるデータを参照して一番近い未来を演算しているんだが……ここで、とある“未来視の魔眼”を持つ人間の能力と比較してみようじゃないか」

 

 バーサーカーが、ホワイトボードに若そうな日本人女性の写真を貼り付ける。

 右端には「1998」という数字が書かれていた。

 隣のレゼフィルがその服装を見て少し神妙な顔をしていた気がしたが、バーサーカーが話し始めたので忘れてしまった。

「彼女の能力は、周囲の状況を常人以上の精度で判断し、無意識に未来を予測演算するというもの。ポイントは、所詮彼女は普通の人間だということだ。常人の認識できる範囲には限界がある以上、見える未来も100%確実なものではない」

「……キャスターのやっていることと、少し似てるね」

「その通り。だが最初に言ったように、この二つは同じではない。答えを言うと――キャスターは目の前にいる“対象”だけを見ていて、“周囲”を見ていない」

 

「「……!!」」

 レゼフィルと全く同時に、顔を見合わせる。

「つまり……あいつは同時に二人以上“動きの予測”ができないし、周りも参照してないってこと!?」

「はーん、理解したわ! だからアイツ、最初は死んだふりして姿を隠してたのね! そりゃ、敵が減ってからの方がやりやすいに決まってるわッ!」

 

 私たちが騒ぐのを見て、バーサーカーはにこりと笑いながら拍手する。不気味だ。

「大正解だ、お嬢さん方。さて、戦いとなればキャスターは当然サーヴァントを集中して“視る”だろう。基本、マスターに戦闘能力は無いからな。そこで今回、俺がユキネ嬢の持つ“櫛”に新機能を付与(エンチャント)しておいた!」

「い、いつの間に……!?」

「“春の触媒”を描く時、汚れないように外してただろう?」

「ああ、そういえばそうだったね……前から思ってたけど、バーサーカーって結構親切だよね。“悪魔”って言葉のイメージからすると結構意外」

「いやいや、“悪”と“単に愚かであること”や“卑劣・下衆”であることはイコールじゃないさ。ただの馬鹿は、真の悪になんぞなれやしない。“悪”とは、どこまでも合理的に利己を追求する者だよ。理性のブレーキが無いことは認めるがな」

「そ、そうなの……」

 

 それはともかく、バーサーカーは「新機能」について説明を始めた。

 簡単に言えば、私は【騎乗(八岐大蛇):A++】のスキルを得る。

 櫛としてアサシンの髪に刺され一体化している時、任意のタイミングで私は「アサシンを操作」できるのだ。

「ランサー戦で、シェリトがライダーにやったアレのブラッシュアップだ。スキルを発動すれば、ユキネがアサシンを“操縦”できるようになる。――つまり、そこにアサシンの意思が介在しない以上、キャスターの“予測”を騙すことができる。当人じゃ絶対にあり得ない行動パターンが出てくるわけだからな!」

 

 おお……と感心していると、隣からレゼフィルが口を挟んだ。

「でも、自分の身体でもないのに上手く動かせるものなの!? ただでさえ身体の構造が全く違うんだし! それに、アサシンの高速機動の再現はさすがにきついんじゃない……!?」

 確かに、レゼフィルの言うことは正しい。シェリトがやったのは、「ライダーを限界を超えて全力で飛行させる」こと。言ってしまえば、割と単純なことだ。

 それに対し、アサシンは二足歩行で複雑な行動をしなければならない。

「ククク、当然の疑問だな。だが可能なのさ、ユキネの“夢歩き”技能があれば!」

「……何よそれ?」

 レゼフィルが疑問に首を傾げる。

 そういえば、アサシン以外に私の特技について説明したことはなかった。

 ……じゃあなぜバーサーカーは知ってるんだ!?

「それは当然俺が(中略)。そして夢歩きというのは、言わば“明晰夢の中で体を支障なく動かせる”技能だからだ」

 

 バーサーカーが言うには、本来「夢を見ているとき」は全身が緩んでいるため、体をうまく動かせないらしい。夢と同じように体が動いたら大変だからだ。

 なので、夢の中でも思ったように動くことができない。

 だがその制約を受けない私は、他者の身体でも実体に縛られず操作できる……とのこと。

 よく分からないがそういうことらしい。

 

「ただし、この機能にはデメリットもある。一体化して操縦する以上、アサシンとユキネ嬢は感覚を共有する。たとえば操作中、アサシンがダメージを受ければ――お前は傷こそ負わないが、同じ“痛みの感覚”は来る。十分に気をつけていけよ?」

 

 

 かくして私たちは、キャスターの目を欺いた。

 この「櫛」の追加効果のことは、アサシンには教えていない。それを「知っていること」が「予測」の材料になるかもしれないからだ。

 しかし、「裏をかく策がある」とだけは伝えていた。

 

 アサシンは、それだけで信じてくれた。

 その信頼と、愛に。

 私は、全力で応える――!!

 

「「おおおおおオオオオオッ!!」」

 私とアサシンは、同時に吠えた。

 「風」で空気を固めて足場を作り、更に跳躍。

 キャスターに追いつき、

 

「「おぉらぁッ!!」」

「ごぁ…っ!?」

 

 更に上に向けて、高く蹴り飛ばす。

 再度足場を作り、キャスターに追いすがる。

 もはや、地上は霞むほど遥か遠くになっていた。

 

「――覚悟しろ。お前の目に、この景色を焼き付けさせてやる。お前が否定すると言った、この世界を!」

「……ッ!」

 

 伸ばした髪でキャスターを掴み、組みつき、羽交い絞めにする。

 更にその翼に噛みつき、体内の腐食毒を放出。

 これで、飛行能力を奪った。

 

 ――思い出すのは、かつてマンションで人間と過ごしていたときの記憶。

 彼女と一緒に見た、彼女が好きだった、「忍者」が出てくるアニメーション。

 どれだけ日々が辛くとも、彼女は確かに笑えていた。

 

 きっとそれは、私も同じ。

 生命として大切なものを失っていようと、私はあの場所で、ちゃんと生きていた。

 確かに、「愛」を受けていた。

 あの瞬間を、なかったことにさせはしない。

 

「消えてなくなるのは――お前の方だ!!」

 

 足先から「炎」を放出し、推進する。

 轟音を伴い、回転をかけながら――地上への落下を、開始した!

 雲を貫き、キャスターが発動しようとしていた魔方陣を突き破り、圧倒的速度で大地に迫る。

 

 そのまま、全ての威力をキャスターに押し付け――頭部から、叩きつける!

 必殺奥義――「飯綱落とし」!!

 

「グァ……アアア……ッ!!」

 まさしく流星が落下したように、大地にクレーターが刻まれる。

 衝撃波が走り、周囲にいた竜牙兵が吹き飛ばされる。

 キャスターは強烈な脳震盪を受けただけでなく、落下地点に設置されていた「血の骨」が背中から突き刺さっていた。

 次の攻撃を回避・防御する余裕は、ない!

 

「行くよ、アサシン!」

 キャスターを叩きつけた反動で跳ね、更にもう一度奴に向けて跳びかかる。

 

「「宝具――」」

「……!?」

「「『八首八意・斬贄連環』(やくびやつい・ざんしれんかん)!!」」

 

 内側から、霊核がひび割れる音を聞く。

 アサシンが最初に言った通り、確かにこの空間で固有名詞は封印される。

 だが厳密には、「絶対的な禁止」ではない。致命傷を負うだけだ。

 もちろん、キャスターのように宝具を使おうとして激痛を感じた時点で、肉体は宝具の使用をためらい、踏みとどまる。

 そうでなくとも、そんな傷を受ければそのまま敗北につながるだろう。

 

 だが――シェリトとライダーが証明したように、【騎乗】スキルなら乗り手の意思で「肉体の限界を超えられる」。

(そしてそれを、【戦闘続行】スキルで耐え抜く……!!)

 そう。複数の命を持つアサシンなら、この程度で死にはしない。

 「感覚の共有」で体が割れるような激痛を感じても、意識は絶対に手放さない。

 一瞬の痛みなど、あの二年間の孤独の痛みに比べれば……!!

 

「「ぬうゥアアアアアアアアアアアアッ!!!」」

 

 毒・幻・風・呪・影・火・血・水。

 八つに分かれた髪の毛が、それぞれの力を纏いキャスターに喰らい付く。

 八つの力による攻撃が全て的確に命中した時、複雑に混ざり合った呪詛は一つとなり、相手を絶命させる。

 たとえどれだけの魔力があろうと関係ない。令呪による回復も意味がない。

 

 ライダーを介してルーラーから奪った『始源の海、幼年の終わり』(タムトゥ・エンウム)も、ライダーのように「宝具の効果で奪った」わけじゃない。

 即ち――キャスターは、死の概念をなくせてはいない!

 

 そして、確実に八度命中した感覚があった。

 ――はず、なのに。

 

「なぜ髪の先から、まだ脈動を感じる!? なぜ、まだ生きていられるんだ!?」

 

「……ヘヘ。そりゃあ、当然だぜ。八つ全部が、キャスターに命中したわけじゃねえからなあ」

 

 私の疑問に答えたのは、ここで聞こえるはずのない声だった。

 その声の主は、この空間の外にいるはずだった。

 その声は――キャスターと同じ位置から、聞こえてきた。

 

「オレが、半分をこの身で受けてやったからなぁ……!!」

 

 灰色の毛を赤黒い血に染めて。

 ダルグレインは、そう言い放った。

 

 ――アサシンの知覚を介し、ようやく気付く。

 もはや塞がりつつある、空間に開いた小さな綻びに。

 恐らく、ダルグレインは外でライダーに『蛇竜展翅・虚滅之翼』(スヴァルティル・ヴェンギル・リンノルムス)を使わせ、固有結界に僅かな穴を穿ったのだ。

 そしてライダーから飛び降り――こちらの宝具に合わせ、割って入った。

 

(こいつ、宝具による攻撃をまともに受けたのに……なぜ生きていられるの!?)

 

 ――つい私は、疑問に思ってしまった。

 アサシンは「血」を介し、相手の記憶を読み取ることができる。

 その力が、勝手に発動してしまったのだ。

 

 そして、私は知ってしまった。

 彼が「死なない」理由を。

 

 体に仕込まれた再生魔術、魔術師の使い魔として造られたクローンの技術。

 百の同胞が死に、自分だけが生き残った過去。

 逃げ延びた先で抱えた、絶望と憎悪。

 

 私は理解してしまった。

 ダルグレインの生まれと、凄惨すぎる過去を。

 彼がどれだけの怒りを抱き、この戦いに挑んだのかを。

 

「キャスターを通じて、オレは聞いてたぜェ……アサシンよォ……」

 ダルグレインは血に濡れた牙を剥き出し、低く唸る。

 

「見捨てられた者全てを救う? ハッ、立派過ぎて涙が出てくらあ!

――だったらオレも同じだろうがよ。強者に見捨てられた弱者! 人間のエゴに弄ばれ、命を喰いつぶされ続けた獣!」

 

 ……灰色の瞳が、鋭く私たちを射抜いた。

「だったら、オレも救ってくれてもいいだろうがよ。オレと、あのカメレオンやネコとで――何が違った!? 答えてみろよ……蛇神様ァッ!!」

 








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