◆
2020.04.03 07:58 UTC / 南極上空 視点:ユキネ
悲しむ暇などなかった。
まだ、戦いは続いている。
……ただ、差し迫った切実な問題が一つ。どうやら、私は固有結界を「少し遠い位置」で解除してしまったらしい。
(……うっそでしょ)
――私の眼前には。
迫りくる、極寒の氷海があった。
「嘘でしょぉぉぉぉぉ、こんなところでぇぇぇぇ――ぐえッ!?」
……海面まで、ひげ一本の距離。そこで、私の落下は急に止まった。
背中に食い込む、小さな爪。
聞こえたのは、必死に羽ばたく翼の音。
「ホントあっぶないわねえ、アンタは! あたしが間に合ったことに感謝しなさいよッ!!」
何より、必要以上にやかましい声。
「……レゼフィル、どうして」
「あんなドでかい魔力反応があれば気付くわよッ! うちのアーチャーの未来視に感謝なさい!!」
いや、それは確かにそうなのかもしれないが……
それより大事なのは、私より小さいはずのレゼフィルが、私を掴んで飛べていることだった。
思い返せば、彼女はランサー戦でアルヴェイルを掴んで飛んだりもしていた。やっぱり明らかにおかしい。
「……何者なの、貴女って」
彼女の体は、薄い赤色の光で覆われていた。
その感じは、アサシンが術を使う時や――私が「固有結界」を発動させたときの感覚に似ていた。
「……そーね。いい加減隠せる状況でもないし、言っちゃいましょ。あたし、実は魔術師だったのよ。低級もいいところだけどね」
◆
2020.04.03 07:35 UTC / 南極・エレバス山上空
――時間は、ダルグレインが固有結界に突入する約十五分前に遡る。
セイバーとアーチャーは、破壊された隕石から飛び降りた。
そして空間跳躍スキルを付与されたライダー、そして無数のワイバーンたちと激戦を繰り広げていた。
固有結界が保つのは最大で三十分。アサシンとキャスターの戦いに決着がつくまで耐え抜くのが、彼らのミッションだったが――
(数が……とにかく、数が多いっ……!)
アルヴェイルは、セイバーの背の上で苦悩する。
ワイバーン単独ならば、サーヴァントにとって脅威ではない。しかし、一矢報いて痛打を与えられる力はある。腐っても彼らは幻想種だからだ。
それが、空を覆い尽くすほどに押し寄せているのだ。
少しずつ数を減らしてもきりがない。後から、いくらでも追加されていく。アーチャーの雷のような、範囲攻撃の大技ならば効果的かもしれないが――
「■■■■■■■-ッ!!」
「ぬうッ……!」
「だーもう、またなの!?」
タイミングを見計らうかのように、ライダーが邪魔に入る。
「あの透けるやつ、想像以上に厄介だな……! セイバー、あれって単に相手の攻撃をかわすだけじゃないのか!?」
「本来なら連発したり、発動させ続けたりできるスキルじゃねえはずですがね……! ライダーの膨大な魔力と相性が良すぎるッ!」
ライダーの体は半透明に揺らぎ、次元を跨ぐように空を駆ける。口に炎を溜めながら高速でアーチャーに向けて接近し――
そのまま何もせず、すり抜けていったのだ。
「――ハァッ!」
アーチャーが振り向き、後方に向けて雷の矢を叩き込む。
同時に、実体化したライダーはブレスを放出していた。
雷撃は、ライダーの炎を相殺したが――
「ぎいいいいい! 何よそのフェイントッ!?」
レゼフィルが悔しそうに唸る。
炎は見た目に反して大した威力ではなく、雷はあっという間に炎を喰らい尽くす。
最小限の攻撃動作しかしなかったライダーは、それをあざ笑うように透けていき、高速飛行を再開する。
そして、その隙を縫うように――群れを成したワイバーンたちが、怒涛の勢いでアーチャーめがけ殺到した。
(セイバー、あのワイバーンたち、色が違うぞ!?)
(白いワイバーン……しかも緑より魔力量がダンチじゃねえですか。突然変異か!?)
緑色の通常個体に加えて、赤や黒色の個体が戦いの中で出現し始めていた。
大気中の大量のマナを吸収して、変成を始めたのだ。
攻撃性が高い赤い「ワイバーンドレッド」、全体的に能力が上昇した黒い「ワイバーンエビル」――そして。
「ギャオオオオオーッ!!!」
「うっそでしょ、アーチャーの雷を弾いた……!?」
白い「ワイバーンオリジン」の特性は、強固な防御能力。
アーチャーが自分の周囲全てに放った雷を、ワイバーンの編隊は容易に受け流したのだ。
だがその瞬間を見ていたアルヴェイルは、ふと閃いた。
(……ピンと来たぞ。あれ、俺の“三回無敵”と似てないか!?)
(攻撃の威力を問わず、必ず一度は身を護る概念防御って訳っすか……! 下位でも竜種だ、面倒な能力を! ……いや、待てよ?)
白のワイバーンたちが、特攻めいた速度でアーチャーに迫る。
その様を見て、レゼフィルは改めてそのおぞましさを思い知った。
(どれほど“成長”しようと、鉄砲玉としての役割は変わらない。代わりはいくらでもいるのだから……ってこと!? あいつら、本当に命を何だと……!)
「アーチャー! 悪いが手荒に行くぞ、ちゃんと防げよ!?」
――レゼフィルの雑念は、ワイバーンごと吹き飛ばされた。
セイバーの副砲、「エアリアル・ドライブ」がワイバーンたちを更に囲うように展開されていたのだ。
「奴らの絶対防御が保つのは一度だけだ! 連続でブチかましてやりゃあ落ちるッ!」
「……そのようであるな。次は巻き込まれぬよう注意しよう」
「それはすまない! セイバーの代わりに俺が謝る!」
「あーもう、見失った! ライダーどこ行ったのよ!?」
ワイバーンたちは焼き尽くされ、地に伏せる。
黒煙が次第に晴れていくが――
視界のどこを探しても、ライダーの姿はなかった。
その間にも、無数のワイバーンたちは四方八方から攻め立てる。
「クソッ、狙いはそれか! ただでさえ埒が明かねえってのに……アイツ、どこに消えやがった!?」
「推定だが、最も可能性が高いのは海中である。あの能力ならば、氷床を通り抜けて潜伏することも可能。氷の厚さは数百メートルにも及ぶ……気配を消されれば、余の感覚でも見通せぬ」
「逆に言えば、攻撃するつもりなら分かるってことだよな?」
「是である。いかにライダーと言えど、海水と氷床を突き抜けて、威力を保った炎を届かせることはできぬ。必ず浮上を試みねばならん」
「……アーチャー、ワシなら海に潜って戦えるがどうする? 待つよりこちらから攻めるというのは?」
セイバーの提案に、アーチャーは数秒深く思案する。
「……否である。敵の目的が戦力の分断だとすれば危険だ。ライダーは海中に限らず、南極の大地の内部にすら透過・侵入できる。そのまま奴が地上へと戻ったなら、セイバーが海中から戻るまでに、余一騎でライダーおよびワイバーン共の攻撃全てを凌がねばならぬ」
「まあ、そうだよなあ……」
無論、アーチャーは単騎でも十分強い。
だがやはり問題は、ライダーには
一つでも宝具を奪われれば、状況は一気に劣勢へ傾きかねない。
サーヴァント二騎で守りを固めて、迂闊なことをしない。
最善手とは言い切れないが、そうするしかないのが現状だった。
「だからって、手をこまねいている訳にもいかないし……アルヴェイル、もしかしてあんたまた何か閃いた?」
レゼフィルの問いかけに、セイバーの背からアルヴェイルは小さく頷く。
「……要は、海の様子が見れればいいわけだろ。今の状況なら、もしかしたらいけるかもしれない」
◆
2020.04.03 07:40 UTC / 南極・エレバス山付近 視点:ダルグレイン
ったく……「海中を飛行する」というのは、どうにも形容しがたい状況だ。
安全だとは分かっていても、どうにも心がざわめいてしまう。
更に、透過して姿を隠しているせいで、当然ながら視界は真っ暗。
地上の様子は、繋いだワイバーンたちの視覚を通して確認できているが……
その「目」も、定期的に撃墜されるせいで、次々と「乗り換え」ざるを得ない。
だがまあ、セイバーとアーチャーがその場に留まっているということさえ分かれば十分。
キャスターが戻ってくるまでに、奴らを可能な限り消耗させる。あわよくば倒す。
……アサシンもキャスターも「お互いを倒すつもり」なのだろうが、固有結界はいずれ世界の修正力を受けて解除される。決着がつかず戻ってくる可能性はゼロじゃない。
本来なら、自分のサーヴァントの勝利を信じるのが正しいマスターの姿勢かもしれない。
だがあいにく、オレはリアリストだ。
キャスターが不覚を取るかもしれない以上、のんびり待っている余裕なんざねえ。
「準備は……できてるな。目に物見せてやろうぜぇ、ライダー……!」
ま、聞こえちゃいないンだろうがな。
◆
2020.04.03 07:4■ UTC / 「会議室」 視点:ルーラー
「む、南極側に動きがあったぞ……!」
「来たか! 固有結界側は五分五分ってところだが、そちらはどうだ、ルーラー?」
「海に潜伏していたライダーが、ワイバーンと編隊を組んで飛び出してきた! 何が狙いなんだ!?」
「……あの、果たしてこれはどういう状況なのでしょうか?」
「……んんっ!?」
声に振り向くと、そこにいたのは戸惑った表情の巨体。
ランサーの元マスター、インド象のパラニールだった。
彼は敗退した後、仲間たちと森に去ったはずでは。
驚くわたしに、バーサーカーは画面を一時停止してから事もなげに答える。
「そりゃお前、最終決戦だぞ? 今の世界が大きく変わるかどうかの瀬戸際なんだ。見届ける権利はあるし、権利を行使できないのはもったいないだろう?」
「……なるほど、突然地面に穴が空いたと思ったらここにいたのはそういう理由だったんですね。しかし、ここは何なのですか。残された者たちは大丈夫なのですか」
パラニールの質問に、バーサーカーは「画面」を一時停止し、いつもの笑みと共に話し始めた。
「当然の疑問だ。無論、答えてやろう。かくかくしかじかという経緯があり、聖杯戦争に敗退したマスターを守るためにこの中立空間がある。この空間には、ランサーの国のように時間の流れをずらす機能があると言えば伝わりやすいか。別室だが、他の動物たちも一時的に隔離している。この辺はサービスだ。寛大なルーラーの大いなる慈悲に感謝したまえよ?」
あいつ勝手に何を言っているんだ。
あとランサー敗退から現在までとアルヴェイルの過去をかくかくしかじかで全て済ますな。
「そして。――ランサーから、“最後まで責任を持て”と言われたはずだ。お前に説かれた言葉も含め、あの国で得た教えの全てを糧としてあいつは戦っている。ダルグレインも、レゼフィルも同様にな。であれば、見届ける権利と同時に義務もある。そう思わないか?」
……急に話が真面目になった。
「……分かりました。不義理を働くところだったのを助けてもらったことについては感謝します。アルヴェイルさん達の戦いが気になっていたのは事実ですし、私も見届けさせてもらいましょう」
パラニールが、バーサーカーの作り出した特注の座席に座ったのを確認し、「一時停止」を解除。南極の映像を再開した。
その瞬間――氷の海が、爆発した。
海面を割り、激しく水飛沫を巻き上げながら黒い群れが飛び立ったのだ。
「やはりライダーは海に潜んでいたのか……いや待て、なんだなんだ!?」
驚愕の理由は、単純だった。
海から飛び出したのが、黒いワイバーンの群れと……五体のライダーだったからだ。
彼らは一糸乱れず、一丸となってセイバーたちへと向かう。
「ご、五体とは……いえ、さすがに本体以外は幻影か分身でしょうか?」
「むう、映像でなければ【真名看破】できるのだが……そもそも、ライダーにそんな能力はなかったはず。となれば……」
「
五体のライダーの姿は揺らぎ、半透明。
元から「次元跳躍」のせいでそうなっているのだから、ここからでは全て同じに見える。
だが、どれも本物と同じような迫力があった。
一方、アーチャーとセイバーは地上から動かず、一丸となって敵を待ち構える。
『――エアリアル・ドライブッ!!』
セイバーの号令と共に、その背から砲撃が炸裂する。
同時に振り回された巨大な剣も命中し、数体のワイバーンと二体のライダーが撃墜された。
それらは地に落ちると共に、次第に大きさが変化。黒いワイバーンの死体へと変わっていく。
「なーるほど、確かにそれなら“実体を持つ分身”ができるわけだ。しかし今の攻撃は……ふむ」
バーサーカーが何かに気付いた顔をしつつ画面をじっと見る。
残りの三体とワイバーン達はセイバーをすり抜けて旋回し、再び突撃をかける。
「何故ライダーたちはこのような単調な攻撃を……? アーチャーの範囲攻撃なら、問題なく殲滅できそうですが」
パラニールが疑問を呟くと、バーサーカーが口を開いた。
「奴の目はある程度“先読み”ができるからな。下手に攻撃できないのさ」
バーサーカーが画面を操作すると、カメラに映ったのはキャスターが操作していた「魔力砲」だった。
遠距離狙撃の準備はいつでもできている、と言わんばかりの迫力。
恐らく、氷の下に潜伏中にチャージが完了したのだ。
キャスターが不在でも、ダルグレインがあれを動かすことができるのだろう。
「加えて、ライダーはいつでも“次元跳躍”でタイミングをずらすことができる。アーチャーの攻撃直後、隙ができた時を見計らい狙撃する……というのを避けねばならない」
「砲撃に気付いているなら、むしろ同じ場所にまとまらない方がいいのでは?」
「セイバーの
「アーチャーの敏捷性を捨ててまでやる策かは分からんが……おっと、ワイバーンどもの魔力が急上昇しているな。どうやら突撃して自爆するつもりらしい!」
「ワ、ワイバーンにそんなことができるんですか!?」
「普通ならできん。だがキャスターの能力を考えれば、“そうできるように改造した”、“そうできるようにデザインした”のが自然だろうよ!」
バーサーカーが、わざとらしくこちらを見ながら言う。
……実際、わたしも似たようなことはできるが。
ともかく、全身から光を放ち、自爆寸前のワイバーン達が迫る。
それに対し――まず、セイバーが動いた。
『行くぜ!
剣を咥え、その場でセイバーはジェット噴射。
大回転斬りを繰り出し、ワイバーンたちを膾斬りにしてしまった。
同時にアーチャーは人間体に変化し、しゃがんで斬撃を躱す。
だが、ダルグレインは「セイバーが攻撃をした」、つまり防御の姿勢を崩したことを好機と見たらしい。
台地の中央で、巨大な魔力が膨らみ始めた。
「魔力砲が来ます……! 一体これをどう避け……ッ!?」
「――ほう、そう来るか! やるなアーチャー!」
パラニールが驚愕し、バーサーカーが感心する。
――魔力砲が、突如傾いたのだ。
まるで、砲台の設置された地面そのものが「ずれた」ように。
「……そうか、アーチャーの
大地のエネルギーは、当然この氷の大地にも走っている。
アーチャーは時間をかけ、遠くにある魔力砲の真下に干渉していたのだ。
魔力砲そのものに手を加えることは難しくても、その土台は誰のものでもない。
アーチャーがしゃがみ、手を地面に当てていたのもセイバーとの連携の一環だったのだ。
『――うおらぁッ!!』
セイバーの斬撃が、「五体目のライダー」を切り裂く。
それらは全て、ワイバーンの死体へと変わった。
……つまり。
「本物は、最初から居なかったということですか!?」
刹那、生き残ったワイバーンの一体がセイバーに向けて凄まじい速度で空を駆ける。
その姿は、半透明になっており――
「……まずいな! ダルグレインの狙いは、セイバーの魔力障壁内への侵入か!」
ライダーの体躯が、障壁内で実体化しても問題ないほどに小さくなる。
その背のダルグレインの頭部には、汚れた外套が掛けられていた。
……多少伝承にズレはあるが、その外套には心当たりがある。
ファヴニールを討伐した、ジークフリートの所持していた外套。
小人アルベリッヒを倒し得たという宝具――「タルンカッペ」。
「……に、よく似た力を持つアーティファクトがライダーの宝物庫にあったんだろうな。能力は透明化と変身。恐らく、その力を他者に付与するアーティファクトを併用してワイバーンを化けさせ、なおかつ透けさせたってところか……!」
姿は小さくとも、ライダーの牙はマスター達にとって致死の攻撃となる。
それが、無防備なアルヴェイルのもとへ迫り――
――歯の噛み合う音と共に、すり抜けた。
『なん……だとッ……!?』
ダルグレインは、空中にかき消えるアルヴェイルの姿を呆然と振り返る。
……わたしもしっかりと騙された。
それは、アーチャーの術で作り出した幻だったのだ。
そして、その隙を逃すアーチャーではない。
既に宝具は、放たれていた。
『悪いが、今度はお前に耐えてもらうぞセイバー。――『天穿・蒼雷箭(ティエンチュアン・ツァンレイジェン)』!!』
……「次元跳躍」の弱点は、攻撃するためには実体化しなければならないということ。
ならば、確実に「攻撃をさせるタイミング」を作るとしたら。
「マスター殺しを為せるかもしれない状況、か。いやいや、俺も気付かなかったぜ。……セイバーに、“マスターを単独行動させる作戦”を採るほどの度胸があるとはなぁ」
バーサーカーが、画面を操作する。
映ったのは、数分前の海中だった。
……この画面の映像は、セイバー、アサシン、アーチャー陣営の人物がいる場所しか表示できない。ということは、だ。
(セイバー、今ライダーがワイバーンに変身したのが見えた! ライダーがたくさん見えるが、あれは全部ワイバーンが元になった偽物だ! 気を付けてくれ!)
背中に小型の「エアリアル・ドライブ」を二つ装着し、潜水しながら念話を飛ばすアルヴェイルがいた。
セイバー本人に、そういう技術があるとは考えにくい以上……
「……バーサーカーが決戦前にやっていた“訓練”って、これのことか」
「その通り。三つの願いのうち一つを使い、アルヴェイル用の礼装として調整したのさ。さすがに生身だけじゃ限界があるだろう?」
バーサーカー曰く、小型エアリアル・ドライブの機能は三つ。
一つ目は通常通り砲撃をする機能だが、反動が大きい上アルヴェイル自身の魔力を大きく消費するなど制限が多い。
二つ目は、ジェット噴射による高速移動手段。
三つ目は、身体能力強化と防護。体全体に薄い保護膜を貼ることで、高速移動の際に体を守ることができる。
「ただ、潜水能力については自前だぜ。俺も知って驚いたが、コウテイペンギンってのは水深約五百メートルまで、最大二十分近く潜れるらしい。これは現存の鳥類で間違いなく最長だ。
体色による“カウンターシェーディング”も概念的に強化されている以上、無理矢理海に潜っているワイバーンの目には気付かれない……!」
アルヴェイルの横を、全く気付くことなくワイバーンたちが進んでいく。
いくら竜種とはいえ、深海に飛竜が適応するのは容易ではない。
まして、光が全く届かない深海だ。
コウテイペンギンのように、低光量環境に強い眼や強力な感覚を持つわけでもない。
「普段のダルグレインなら、持ち前の嗅覚で気付けたのかもしれません。しかし物理的影響を受けなくなる“次元跳躍”中では視界にしか頼れない以上、不可能……ライダーの思考も封じて操作している今、こんな落とし穴があるとは……!」
パラニールの感嘆と共に、映像が早送りされ現在の状況が映される。
ライダーの姿は再び透けていき、セイバーから離れる。
一点を狙い撃ち、降り注いだ大量の雷は
しかし、その背のダルグレインはほぼ無傷。
一体何故……と思っていると、彼の首元にかけられた護符が、身代わりのように砕け散った。
「そういえば、確かダルグレインはセイバーとライダーの戦いにアーチャーが介入していたのを見ていたのだったか……!」
アーチャーの雷はA+ランクの宝具。
当時も確かにライダーへ有効打となり――撤退を余儀なくさせる理由となった。
その時、ダルグレインはキャスターが敗退したと偽って、アーチャーに同行していたのだ。
「ならばライダーを運用するにあたって、雷対策は当然ってことだな。あの護符、恐らく“ヨルムンガンドの鱗”が元になっている。ライダーの宝物庫にあったものを素材に、キャスターが【道具作成】したらしい」
……世界蛇、ヨルムンガンド。
ファヴニールと同じ北欧テクスチャに属する、最大最強の竜種。
戦神にして雷神のトールと三度戦い、ラグナロクにおいて相討つ運命にあるもの。
即ち、「ヨルムンガンドはトールの雷撃に耐えたことがある」。
その逸話を由来とする鱗が、護符に強固な雷耐性を与えていたのだ。
「ライダーとダルグレインは、再び距離を取りましたね……そういえば、ユキネさん達の方はどうなっているのですか?」
「そういえばそうだな。ここからは同時進行で確認を――おおっと、これは。だいぶ追い詰められてないか、キャスター?」
「固有結界」側の画面が映る。
見えたのは――ユキネが操作するアサシンの攻撃への対処を誤り、空高く突き飛ばされるキャスター。
続けて、アサシンは強烈な落下技に移行する――その時。
「南極側、ライダーが急に方向を転換して加速し始めました!」
パラニールの声に、思わずそちらを見る。
……ダルグレインが、肉体への損傷も顧みない急激な加速をさせていた。
目指す先は、固有結界が発生した地点。
――そして。
『やれ、ライダー!』
命令と共に、実体化した翼が変形する。
――宝具、
魔術を無効化する、緑の斬撃。
切り裂かれた空間に、僅かな綻びが生まれた。
その隙間にダルグレインは、躊躇なく飛び込んだ。
『ぬうッ……間に合わぬか!』
アーチャーがすかさず雷を落としたが、ライダーがそれを受け止める。
この距離では「雲から落とす」上方向からの雷撃でしか届かない、という欠点を突かれたのだ。
◇
そして、ダルグレインはキャスターに八度命中するはずだった宝具を半分庇った。
確かに、それはアサシンの即死攻撃を破り、詰みへと追いやる重要な一手だったと言える。
……だが、彼は一つミスを犯した。
彼自身は、驚異的な再生能力で復活することができる。
キャスターの、膨大な魔力の恩恵を受けているからだ。
しかし、その背の「本」は別だった。
アサシンの「炎」は、容易にそれを焼き尽くした。
ライダーを縛り操る、「偽臣の書」を。
「ファヴニールの宝物庫なんでもあり過ぎるだろ」と思う人もいるかもしれません
でも「ドラゴン退治には自分の一番の武装を持っていく」のが普通じゃないですか?
それがそっくりそのままファヴニールのものになるのが各「悪竜現象」ごとに行われればこうもなろう!