Fate/Draco―蛇竜王戦線―   作:ぴーらー

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第47話:黒鋼のカタフラクト

2020.04.03 07:54 UTC / 南極 視点:アーチャー

 

 戦況は、再び動き始めた。

 確かに、ライダーの「世界を支配する」という願いは阻止された。

 しかし、大聖杯は依然として奴の内にある。

 そしてそれは、単純に強大なエネルギーとして機能し始めた。

 

「と……当然、暴走してるとはいえ、奴は原因があたしたちだって気付くわよね! あたしならすごい怒るわ……!」

「是である。――来るぞ」

 

 言葉と同時に、雷の矢と炎がぶつかり合い、相殺される。

 それは、余が大聖杯の停止直後から手元で蓄えていた雷撃と、ライダーが即座に放った炎が拮抗したという事実。

 さすがは大聖杯。随分と強化されているが――

 

「我が行いは変わらぬ。毅然として、攻め続けるのみ」

 既に、仕込みは完了している。

 烈風が奔り、散在させていた嵐雲の群れが一斉に呼び寄せられる。

 瞬く間に一つへと束ねられ、空は再び黒く染め上げられた。

 

「ちょ、こんな一瞬で……!?」

「余を誰だと思っている。事前準備に抜かりはない」

 

 それは南極突入以前から、アサシンと共にインド洋・南大西洋で発生させた複数の嵐。

 暖かい海域で水蒸気を補給し肥大化した雲は、余の干渉でエネルギーを補給し続けながら南極の寒冷、乾燥に耐えて到達し、合流したのだ。

 

 氷の大陸の上空――そこに広がるのは、もはや空ではない。

 大地を覆う、一枚の黒天蓋。

 地平線の果てまでも連なる、雷鳴を孕む夜の帳。

 直径五千キロの超巨大雷雲が、轟々と渦を巻いていた。

 

 ライダーが「怒り」という本能に身を任せている今、「次元跳躍」は発動しない。

 冷静さを取り戻すまでに数千、数万、数億の雷撃を叩き込む――!

「断罪し、殲滅せよ。――『天穿・蒼雷箭』(ティエンチュアン・ツァンレイジェン)ッ!!」

 

 号令と共に、轟音と閃光が大地を白く染め上げる。

 無数の矢はライダーだけでなく、制御を失い、無秩序に飛行するワイバーンの群れをも諸共に焼き尽くした。

 

 ――だが。

 次の瞬間、ライダーの巨体が眩い光に包まれ、途中からの雷を全て弾き返したのだ。

 

「ど、どう見てもライダーの能力じゃないわッ! まさかアレって……!」

「大聖杯の、防衛機能か……!」

 

 恐らく大聖杯は、ライダーと同化したことで、原始的ながら「反応」する自我を獲得した。

 推論に過ぎないが、かつて大聖杯の炉心となったアインツベルンのホムンクルス……その自我の残り香だったのかもしれない。

 ライダー共々、我が雷を危険視した両者はその危険性を「学習」し――「対抗するためのスキルを得る」という願いを叶えたのだとすれば。

 

「そ、そんなのアリ!? 後出しジャンケンで必ず勝てるってことじゃないの! というかそんなポンポン願いを叶えていいのッ!?」

「自らに限定的な耐性をもたらすだけならば、世界への影響は僅かだからだ。恐らく“時間制限あり、対象はアーチャーによる雷限定、ただし完全に攻撃を受け付けない”――そういった条件付けを行い、汎用性をなくすことで極限まで効果を高めている……ッ!」

 

 雷撃を盾のように集中させ、辛うじてライダーの炎を纏った突進を弾く。

 その残火がかすめた海岸の氷は、あっという間に融け消えた。

 

「ま、また来るわよアーチャー……っ!?」

 マスターが振り向き、驚愕する。

 ――ユキネが、海に向かって落下しているのが見えたのだ。

「うわあああああああーっ!?!? 嘘でしょぉぉぉぉぉ、こんなところでぇぇぇぇ――ッ!?」

 

(――固有結界が解除されている。それで外に投げ出されたのか……!)

(あそっか、あの位置ってちょうど今“海岸だったところ”じゃないの!?)

 

 このままでは、ユキネは氷の海に落ちる。

 四月の南極海。

 外気は氷点下十度前後、海水温は零度に限りなく近い。

 人間でも、数分浸かれば筋肉は硬直し、呼吸ができなくなって命を落とす。

 まして毛皮しかない普通の猫など、一分ともたない。

 体温は急激に奪われ、血流は止まり、肺は痙攣する――生存の可能性は、ほぼゼロだ。

 だが今、ライダーを相手にして彼女を救助に行く余裕は――

 

「あたしが行くッ! アーチャー、なんとか奴を抑えて!!」

「……! 了承した、今ならまだ間に合うぞ!」

 

 レゼフィルの意思を受けたのか、「映る未来」が変わった。

 すぐさま、防壁を解除する。

 余の肩を蹴って、マスターは飛び出した。

 

 その全身が、「強化」の魔術で赤い光に包まれていくが――

 旋回したライダーが、再びこちらに向けて突進を繰り出してくる。

 マスターを守りつつ、これを止める手立ては……

 

「その心意気、受け取ったぜレゼフィル! 『盾鋼の聖獣』(クストーディア・タラスコニス)ッッ!!」

 当然、ある。余は単騎(ひとり)ではない故に。

 

 守護の光は、真正面から悪竜の攻撃を抑え込み、弾き飛ばす。

 すぐさま、状況を伝達するため隣のセイバーに「思考の糸」を繋ぐ。

 

「すまねえ、ちと遅れた! 本当にとんでもねえことになってやがんな、オイ!?」

「是である。セイバー、奴は大聖杯の力により、“喰らった攻撃への耐性を持つ”よう願いを叶えることができる。仕留めるとすれば、一撃で決めるしかない」

「マジか。しかも“次元跳躍”と『毒竜の血鎧』(ブロズハムル・ファヴニール)を超えなきゃならねえんだろ……そんな攻撃に心当たりは?」

 

(当然、あるわッ! 今、あたしがユキネを助けたことで――勝利の方程式は全て揃った!)

 

 突如、甲高い声で念話が響く。

「レゼフィルか!? さっきも似たような状況だったが、それは一体どういう……!?」

(アーチャー、『竜脈開扉』(ロンマイ・カイメン)を使えばキャスターの“巨大魔力砲台”を掌握できる!?)

「……最短で五分。それだけあれば可能だ」

(OK! なら、セイバーはその時間を稼いで頂戴! ライダーを海上に誘導すれば、ランサー戦で使ってた“大波の宝具”を合わせられるんじゃない!?)

「令呪一画が必要になるがな……マスター、どうです?」

(俺も構わない! 俺だって――負けたままでいたくない! あいつに、勝ちたいんだ!)

 

 アルヴェイルも、セイバーを通じて念話を響かせる。

 その意思の在り方は、インドで初めて会った頃の――ただ振り回されているだけの存在ではなかった。

 様々な出会いと別れが、彼をここまで強くしたのか。

 ――その、「自然からの逸脱」が善か悪かは、今は問うまい。

 

(じゃあ、始めるわよ! ――ライダー&大聖杯、攻略作戦ッ!!)

 

2020.04.03 08:00 UTC / 南極 視点:セイバー

 

 ……「バベル」以前の「絶対の言語」、なあ。

 ランサーなら、それが未だ残っていたことにどうコメントするだろうか。

 思うところは大いにあるが、そんな余裕はありゃしない。

 

「エアリアル・ドライブ、形態移行! 集結せよ、“飛翔陣”(ソアリング・フォーメーション)ッ!」

 号令と同時に、十基の礼装が一斉に飛翔する。

 それらは巨剣へと吸い寄せられるように接続され、金属が噛み合う硬質な音が響く。

 紅と蒼の回路が剣身を走り抜け、咥えた刃に光が灯った。

 ――『聖鋼一閃・忠義の剣』(グラディウス・フィデス・サンクタ)が、強大な翼と推進力を得る。

 

 宝具ランクの都合上、この刃ではどうやっても奴は倒せない。

 だが、時間を稼ぎ守り切ることはできる。

 

「――『聖鋼一閃・忠義の剣』(グラディウス・フィデス・サンクタ)ッ! さあ、このワシが相手だライダーッ!!」

 

 こちらの咆哮に、ノイズ交じりの咆哮が応える。

 奴もまた、宝物庫から「剣」を抜いた。

 それは黄金の柄に、毒焔を纏う特大の剣。

 マリアナ沖で、ルーラーに大打撃を与えたという合体宝具。

 ――『黄欲絶嵐・咬滅竜焔』(フロッティ・エイトルスヴァルト)

『黄金貪界・欲竜の宝蔵』(グニタヘイズ・アゥズガルズ)と、ランサーから奪った『蛇神咆吼・蒼毒劫火』(ニーラカンタ・ハーラーハラ)が元となった、「世界を焼き尽くす毒の剣」。

 

「――“上等”(ジョートー)だ。相手にとって不足なし! “踊”(ダンス)ンぞゴラァッッ!!」

 

 マスターが令呪を切ったのだろう。

 あの時、「感覚」は掴んだ。

 ランサー戦同様、「オレ」の体が若返り――「神代回帰」していく。

 身に纏う鎧も、白から黒へ。

 

 次の瞬間、二つの剣が激突した。

 火花が閃き、衝撃が海を割る。

 続いて、「エアリアル・ドライブ」が凄まじい炎を噴き上げ加速する。

 狙うのは、刃ではなく柄。

 バーサーカーから、あれは大量の「ラインの黄金」を焼き固めたものだと聞いている。

 それを砕けば、刃を維持することはできなくなる――!

 

「ンだらァッッ!!」

 

 一際巨大な火花が散り、黄金の柄が割れゆく。

 あと一発叩き込めば――とは、都合よくいかないらしい。

 

「■■■■■■■■ァ゙ァァ゙ーッッッ!!!」

 

 怒気を吐き散らす咆哮と共に、ライダーの剣が一気に苛烈さを増した。

(とんだマッチポンプだな! 自分から出したくせに、“黄金”(コレクション)を傷つけられりゃキレ散らかすとはよォ……!)

 

 全てが致命打となり得る斬撃。

 『聖鋼一閃・忠義の剣』のカウンターで、それらを全て捌き切る。

 当然、至近距離で触れる「毒の刃」(ドス)はこちらの身を焼くが――

 

「それがどうした、ンのダボがぁッッ!!」

 

 スキルと気合いで、それを跳ね除ける。

 剣戟が雨のように飛び交う乱撃戦。

 だが、これでいい。

 

 ――挑発し、怒りを誘発させ、ライダーをひたすら引きつける。

 若い頃の「オレ」の精神状態と口調なら、その役目に一層相応しい。

 そして、二十四度目の切り結びで――

 

「――貰ったぜ、その趣味悪ィ得物(クソセンスのエモノ)ォォッ!」

 トリコロールの軌跡が瞬き、金色の破片が雨のごとく降り注ぐ。

 

(いやちょっと待て! それって、ランサーから奪った毒が制御不能になるんじゃないか!?)

 脳裏に響く、マスターからの焦燥(テンパり)の念話。

 更に言えば、考慮すべきはそれだけじゃない。

 ライダーの口元には、ずっと炎が溜められていた。

 それは、『黄欲絶嵐・咬滅竜焔』(フロッティ・エイトルスヴァルト)が破壊されることがあれば――

 

「――『灼熱竜息・万地融解』(アカフィローガァァ・アァ゙ァルグリーズ)ゥ゙ゥ゙ァ゙ァ゙ァ゙ッ!!」

 すぐさま、「本命(メインディッシュ)」をこちらに向けてブチ込むために。

 

 ……いつもなら、『盾鋼の聖獣』(クストーディア・タラスコニス)で防御する場面。

 だが、それでは『蛇神咆吼・蒼毒劫火』(ニーラカンタ・ハーラーハラ)の拡散阻止が間に合わない。

 故に、今やるべきことは。

 

「来いッ! 『水禍、深淵より来たる』(ディルヴィウム・デ・プロフンディス)ッ!!さあ――“最接近戦闘”(インファイト)の時間だゴラァ!!」

 

 炎がオレに直接「着弾」した(ブッこんだ)刹那、足元の海が爆発する。

 召喚された「神代の黒き海」は、毒も炎も、オレたちも――全てを呑み込んで、空へと巻き上げる。

 

 思い起こすのは、どこか違う時空で垣間見た英霊の記憶の断片。

 三柱の女神を組み込んだ彼女(スタァ)の宝具、「嫉妬」を冠する大海嘯。

 遥か遠き、「母」(リヴァイアサン)への郷愁の残影。

 

 空中に伸びきった大波は水球へと変わり、オレごとライダーを閉じ込め、炎をかき消した。

 それでも爪と牙で打ち合いを続けるが……その動きは、次第に緩慢(スロー)になっていく。

 『水禍、深淵より来たる』(ディルヴィウム・デ・プロフンディス)のスタン付与とスキルの封印だ。

 

 だが、「冷や水を浴びせられた」(アタマひやされた)ことで奴は冷静さを取り戻したらしい。

 再び、ライダーは「次元跳躍」を始めた。

 その体が透過し、水球の檻を抜け出していく。

 なるほど、そりゃ大正解だ。

 だが――敢えて言わせてもらう。

 

「――“待”ってたぜ、この“瞬間”(とき)をよォ!! 今だ、アーチャーァァァッ!!!」

 







ルビ芸っていざやろうと思うと難しいですね
でも必要なことだったので…
え?カタクラフト?なんですかその誤記っぽいのは。
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