Fate/Draco―蛇竜王戦線―   作:ぴーらー

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第48話:ELEMENTS

2020.04.03 08:05 UTC / 南極 視点:ユキネ

 

「砲台、全権限奪取完了。封鍵(シール)破砕、主系統を移行。対空砲、全接続解除。龍脈同調開始。地脈導流率、上昇。砲身統合、固定。姿勢制御機、全配置完了」

 

「砲身内径、呪式清掃。穢気駆逐、瑞気招来。天盤展開。羅盤起動――偏角補正良好」

 

「コンデンサ充填率、上昇……九十、百。蓄電槽、最大容量まで充填――飽和確認」

 

 風も、雪も、雷も――全てが、凪いでいた。

 いつの間にか、頭上には一片の雲すらない。

 アーチャーが、雷雲を全て「吸収」してしまったからだ。

 

 寒さも、震えも感じない。

 ただ、圧倒されるしかなかった。

 

 地上に下ろされた私の目の前に広がっていたのは、キャスターの巨大魔力砲――だったもの。

 三門あった砲台のうち二つは取り除かれ、直結して一つになっていた。

 その全長は、少なくとも五百メートル。いや、それ以上かもしれない。

 砲身を支えるのは、見覚えのある隕鉄製の足場。

 その外周を走る青色の龍脈の中心に、射手が陣取っていた。

 

 見つめる先は、ただ一点。

 狙いをつけるのではない。

 自らの先に、獲物は現れる――そう言い放つような、無言の宣誓。

 砲身が赤く滲むように熱を帯び、続けて白く輝き、そして青白い揺らめきに覆われた時――

 

「――今だ、アーチャーァァァッ!!!」

 

 北の空に、号令が轟いた。

 それを聞き届けた、緋色に染まったあの子は。

 

 小さく一つ笑って、

 

 

「――分かっているんだよな? もう一度“あの言語”を使えば、お前は死ぬ。世界からの修正力に、その肉体はもう耐えられない」

 

 脳裏に響く、黒い蛇の声。

 視界は灰色に歪み、スローモーションのようになる。

 

「……そーね。あたしらヨウムの寿命は五十年近いらしいし、頑張ればまだ生きようはあるかもしれない」

 

「案外、まだ遅くないんじゃないか? アーチャーなら、お前の協力なしでもやり遂げるかもしれないぞ?」

 

「でも、そうはいかないわ。黒竜の鎧、次元跳躍、大聖杯の加護。そんなめちゃくちゃな困難をあたしの力で乗り越えられたなら、それは残りの三十年分の価値を優に超える。あたしの想いの証明としちゃあ、十分じゃない」

 

「……だが、肝心の聖杯を手にすることはできないんだ。お前の恋が、実ることはない」

 

「ンなこたぁ分かってんのよッ! 後悔だって、まだ話したいことだって、山ほどあるわッ!!――だとしても! これが! “あたしがなりたい自分”なのよ!!」

 

 燃えたぎる意志が、悪魔の誘惑/慈悲を振り払う。

 そうして彼女は、

 

 

 紅き翼を広げ、無限の大空へと羽ばたいた。

 令呪の鮮烈な輝きを、その身に纏って。

 

【絶対の言語において」「我は定義する】

 

【この場に在るは」「黒き亀」「白き虎」「赤き鳥】

 

【――そして」「青き竜】

 

【即ち」「四神は」「此処に」「揃っている――!!】

 

 北にセイバー。西にユキネ。南にレゼフィル。東にアーチャー。

 宣言と共に出現したのは、この四者を取り囲む巨大な円だった。

 ……それが何を意味するのかは、浅学な私だって分かる。

 

 アイスランドでの戦いでアーチャーが使った「回避不能の矢」を放つ宝具。

 あれは不完全なものだったが、今はそうじゃない。

 レゼフィルの言葉は、同じ性質を持つ私達を一時的に()()()()()()()()()()()()()()()――!!

 

 次の瞬間、アーチャーの砲台が目も眩むほどの輝きを放つ。

 

「矢床生成。矢身成形――符籙刻印。導体接続、接触抵抗ゼロを確認」

「全レール通電――磁界、均一化。臨界点突破。対閃光・対衝撃防護展開」

「非常弁閉鎖、全リミッター解除。出力、二百へ増幅……!」

 

 その言葉に私は、ようやくその異常な砲身の長さの意味を理解する。

(……あれは、「レールガン」だ)

 

 昔、テレビで見たことがある。

 二本のレールに電流を流すことで生じる電磁力で、物体を加速して放つ武器。

 レールが長いほど、電流が強いほど、その威力は増す。

 そして、ここにあるのは――五百メートル以上のレールに、五千キロに及ぶ雷雲のエネルギー。

 

「玄武、白虎、朱雀、青龍の名の下に、四隅を標定す。照準・因果固定。回避域、完全封鎖……!!」

 

 全てを注ぎ込んで、想いの結晶は放たれた。

 

「天よ、御照覧あれ。穿ち抜け――『四象一矢(スーシャン・イーシー)』ッ!!」

 

 〇

 

 乾坤一擲の矢が、心臓を貫く音を聞く。

 因果をも超えて「絶対に命中」する、必滅の鏃。

 

 「次元跳躍」など意味がない。あれは、「そういうもの」だ。

 雷は「矢の加速」にしか使われていない以上、大聖杯による「雷耐性」も機能しない。

 

 かくして、悪竜に正義の鉄槌は下された。

 目も眩むような一撃に、意識を揺さぶり起こされる。

 

 ――否。この意識は「眠って」などいなかった。

 「マスターの許可なく眠ってはならない」という、令呪による命令は未だ有効。

 隷属と支配の奥で、ただ抗い続けていた。

 どれだけ「悪」と罵られようと、超えてはならぬ一線はある。

 この召喚において我のマスターは、あの女一匹だけだ。

 

 だが、今更意識が戻ったところで勝敗は既についている。

 肉体は既に死に、「大聖杯」は我を離れ、矢と共に遥か彼方へと吹き飛んだ。

 女々しい走馬灯のように、聖杯戦争の記憶が巡る。

 思い起こされる、敵対者の顔。

 

 セイバー・タラスク。

 ランサー・ヴァースキ。

 アーチャー・青龍。

 ……キャスター・リンドヴルム。

 

 どいつもこいつも、我が嫌い――憎む性格の者ばかりだ。

 かつて「悪竜現象」を滅ぼした剣士どもと同じように。

 

 神聖? 清貧? 正義? 理想?

 くだらない。

 理解できない。

 吐き気がする。

 この世の頂点に立つ資格を持って生まれつきながら――その権利を嬉々として捨てた愚か者ども。

 

 救いを求め絶望した? 貴様が弱かっただけだろう。

 自分は自然の理に過ぎぬ? 貴様が意志薄弱なだけだろう。

 理想の平穏? あるわけがないだろう、そんなもの。

 人間の世界を消し、幻想種のための世界を作る? 無駄に競争相手を増やしてどうするのか。

 

 ……もしこの世に「神」がいたならば、そいつはしたり顔で言うだろう。

 悪竜よ、だからお前は負けたのだと。

 これが、お前の欲望の末路だと。

 

 いいだろう。

 ならば、悪竜は――悪竜らしく散ってやる。

 勝利に酔いしれろ、英雄。

 

 存分に呷るがいい。

 極上の、毒酒を――!!

 

2020.04.03 08:06 UTC / 南極 視点:セイバー

 

 アーチャーの宝具が命中した瞬間、感じたのは「勝利」の予感ではなかった。

 最も近いのは、端的に言うならば――

 

 死と、滅びだった。

 

 なぜ、この瞬間に至るまで忘れていたのだろう。

 北欧神話における、ファヴニールのある種最も有名な逸話。

 それは、「自らの死を引き金とする」ものじゃないか――!!

 

「最大、濃縮……『毒竜の血鎧』(ブロズハムル・ファヴニール)ッッ!!」

 

 あの宝具の本質は、攻撃を防ぐことじゃない。

 悪竜ファヴニールの「出血」だ。

 初戦と同じように、ライダーの傷からは大量の呪血が溢れようとしていた。

 しかし、その量と致死性は通常の比ではない。

 恐らく、宝具として昇華された毒血は「自分が死んだ時にこそ最も効力を発揮する」ようになった。

 自らを殺した英雄を、確実に道連れにするための置き土産として。

 

 本来なら、伝説において呪血を全身に浴びた「竜殺し」、ジークフリートは死んでいたはずだった。

 菩提樹の葉が背に張り付き、生き延びて「鎧」を得た彼が例外中の例外だったのだ。

 加えて、今のライダーは世界を焼き尽くす毒、『蛇神咆吼・蒼毒劫火』(ニーラカンタ・ハーラーハラ)を複合している。

 ワシらを含め、南極全土の生命を殺し尽くすことくらい容易にできてしまう……ッ!

 

(セイバー、令呪を切るなら今か!?)

(駄目だマスター、“水球”の処理が間に合わねぇ! エアリアル・ドライブだけならどうにか外に出せるが、これでは……!)

 

 下手に『水禍、深淵より来たる』(ディルヴィウム・デ・プロフンディス)を解除すれば、内部に封じ、このまま対消滅させようとしていた方の『蛇神咆吼・蒼毒劫火』(ニーラカンタ・ハーラーハラ)が外に溢れ出す。それでは元も子もない!

 

(現状、動けるのはお前しかいねえぞ……やれんのか、アーチャー!?)

(無論である。だが、余は先程の一撃の反動で目が効かぬ。そちらの指示が頼りだ)

 

 念話から、予想外の返事が来る。

 ……アイツのことだ。恐らく「対閃光・対衝撃防護」を、自分ではなく近くにいたユキネを護るのに使ったんだろう。

 いや、それより反動の話をするならだ。

 

(さっきのを聞くにお前、リミッター解除して出力二百%でレールガンぶっ放したよな!? アレを使うとしても、反動で壊れてんじゃねぇか!?)

(是である。しかし、砲塔はもう一度撃てるだけの余力を残している)

 

 アーチャーの念話は、正直信じがたい内容だった。

 遠目からは、派手にぶっ壊れているようにしか見えない。

 ……ただ。あまり考慮したくないが、低くない可能性が一つある。

 「この状況で、何故か砲塔が直っている可能性」が。

 

 だが――今は四の五の言っていられる状況じゃない。

 

(分かった、お前を信じるぜ。だったら、砲塔は相変わらずライダーを向いてる。そのまま撃てば当たる角度だ!)

(承知した。――後は任せたぞ。セイバー)

 

「おい、それはどういう……ッ!?」

 言葉の意味を問おうとした瞬間、再び空に青い電流の軌跡が走った。

 反動を受け、遂に魔力砲台は完全に崩落する。

 

 そして放たれた弾丸は――人間態のアーチャー当人だった。

 その様は、まさしく人間砲弾。

 どちらかというと、カタパルトの方が近かったかもしれない。

 次第にその姿は、竜へと変化していく。

 ――既に賽は投げられた。ためらっている暇は無ぇッ!

 

「エアリアル・ドライブッ! 奴の位置を指し示せ!」

 

 砲撃による熱と風が、乾いた空に吹き荒れる。

 それだけで、あいつにとっては十分だった。

 

「天地借法、日月同輝。竜躯展界――為鎮。是身為嶺、是身為淵。此処縫止災厄、動不可得――!!」

 

 仙術によって、アーチャーの体は拡張していく。

 単なる巨大化ではない。

 その体そのものが、一つの「世界」となっていくようだった。

 

 そしてそのまま――

 ライダーの巨躯を、完全に覆い尽くした。

 

「キサ、マ――ッ」

「悪竜よ、我が懐にて眠れ。――道連れと為るは、余のみで十分である」

 

 

「……最期まで英雄面か。本当に、どこまでも気に食わぬ男よ」

 

 血の一滴、肉一片すらも外界に落とさず、奴は全てを抱えて死んだ。

 その様を我は、消滅手前の意識の一片で見下ろしていた。

 

 本当に、どこまでも理解できない。

 サーヴァントとして召喚されていようと、命は命だ。

 それは一つしかない、「価値」あるものだ。

 

 奴はそれを、自らの願いを叶える権利と共に、容易に投げ捨てた。

 その価値を、正しく理解していながら。

 

 ――かつて名も無きホムンクルスに自らの心臓を捧げた、竜殺しの剣士と同じように。

 

(……限界か。意識を保てるのは、ここまでのようだな)

 

 無念ではある。

 だが、この「欠乏」こそが生の証。

 ならば次の我は、もっと上手くやるだろう――

 その思考を最後に、残った意識の一片も、虚無に溶けていった。

 

 

 四神・青龍という存在に、物語はない。

 

 愛憎も冒険も、生と死もありはしない。

 四象の一柱として天文に結びつき、方位を司り、数千年にわたり人の信仰を受けてきた。

 東西南北を守護する霊獣。

 天空の秩序を映す象徴。

 そして、自然の摂理そのものの守護者として。

 

 ――だが、これほど信仰を集めながら「個別の神話を持たぬ存在」は、世界にも数少ない。

 物語がないということは、自我も性格も推し量りようがない。

 それはもはや、人格がないのと同義。

 残されているのは、ただ「自然の化身」としての役割のみ。

 

 

 だが一つの情念が、「絶対の言語」によって例外を齎した。

 「サーヴァントの召喚」には、マスターによる影響が少なからず発生する。

 彼女が持つ、「理想の男性像」。

 理知的で、秩序を重んじ、個人利益よりも世界全体を優先する、公正無私の人格者。

 そんな投影を介して、「アーチャー・青龍」という在り方は誕生した。

 

 ただ、余には「聖杯にかける願い」などありはしない。

 第三魔法の成就、根源への到達など、人類を含む現行生命には手に余る。

 大地の気脈を操る宝具を持つ余ならば、霊脈に根を張る大聖杯を早期に発見し、無力化・破壊することも容易。

 それこそが、余の使命だと考えていた。

 

 ……「そもそも聖杯の影響によって、全人類が消滅している」ことを知るまでは。

 

 災害、地殻変動などによる絶滅ならともかく、この現状は「不自然」極まる。

 第三魔法による願いを完全に打ち消せるのは、それと同等の神秘のみ。

 元より、再び大規模な聖杯戦争が始まろうとしている。

 ならば不埒な願望の成就を防ぎ、剪定へと進む道を巻き戻すことこそが、己の定め。

 そう考えを改め、行動を開始したのだ。

 

 ただ――余の力をもってしても、レゼフィルの願いを完全に叶えることは極めて難しい。

 「玄霧皐月の声を消させない」。

 それを「彼が生きた証を消させない」と解釈するならば、人類の消滅を回避すれば不可能ではない。

 彼の功績が、彼を記録した書が、彼を知る者が、彼を愛した者が生き続ける限りは。

 

 だが四神という立場上、「統一言語」という危険な概念そのものを、この世に遺すことに同意するわけにはいかない。

 そして何よりも、最大の問題があった。

 

 ――レゼフィルの「起源」。

 抗うことのできない、存在の本質。

 それは、【利他】だった。

 

 彼女は確かに願いを抱き、目標を掲げている。

 だが、その途中で「自分の命を犠牲にすれば世界を救える」状況が訪れたならば……

 最終的に、彼女は自らを喜んで捧げるだろう。

 そう「正しく生きること」が、あの男への餞と信じて。

 

 ……「統一言語の模倣」という偉業/異形を成し遂げた時点で、その「起源」は間違いなく既に覚醒している。

 ならば、その本質から逃れることは叶わない。

 

 ――余の本質も同様だからこそ、断言できる。

 

 せめてその時まで、彼女を含む多くの生命を可能な限り「正しい方角へ」導く。

 それこそが、我が第二の使命だと悟った。

 

 

 かくして、一つの嵐が去った。

 灯された炎は自らを燃やし尽くし、滅びの闇を照らしきった。

 

 極地に残るのは、セイバーとキャスターの二陣営のみ。

 遺された「彼」には、大いなる試練が待つことになる。

 それは摂理であり、避けられぬ運命。

 

 ――されど、それもまた生の証。

 逃げるな。竦むな。立ち向かえ。

 誰にも譲れぬ道が、あるのならば。

 

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