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2020.04.03 08:07 UTC / 南極 視点:アルヴェイル
鈍い「割れるような音」が、遠い空に響く。
俺はどうにか海岸に上陸し、呆然とその光景を眺めていた。
アーチャーは……ライダーの最期の一撃を食い止めた。
一歩たりとも退かず、ただその場に留まり続けて。
力尽きてもなお、「自分が地面に堕ちることを許さない」くらいに。
最後に、こちらに一度だけ視線を向けて。
何も言わず――血に塗れたまま、静かにその身体は消えていった。
「そ、そうだ! レゼフィルは!? レゼフィルはどうなったんだ!?」
急ぎ、周囲を見渡す。
すると、セイバーがいる海と反対側の空に、赤い影が見えた。
地面に向けて力なく落ちていく、レゼフィルの姿が。
「大変だ、このままじゃ……!」
高いところから落ちることは、大怪我や死に繋がる。
あの「学校」の授業で学んだことだ。
セイバーやアーチャーは統一言語? の反動がどうこうと言っていたが、きっとレゼフィルはまだ生きている。
でもこのままでは、本当に死んでしまうかもしれない……!
「急げ、エアリアル・ドライブ! まだだ、まだ間に合うはずだ……!」
セイバーから借り受けた礼装を起動させ、氷上を急ぐ。
いつもの海なら「あと十泳ぎ」くらいの距離感。
(でも、今の速度ならッ、きっと――!)
必死になって、俺は空を見ながら進む。
だから、気付けなかった。
氷上を駆ける、もう一つの音に。
あと、「一泳ぎ」。
このままいけば、どうにか受け止められそうという時――
突如、落下するレゼフィルの頭部が「消えた」。
「……え」
いや、違う。消えたのではない。
俺は、相応しい言葉を知っている。
――噛み砕かれた。
少し遅れて、骨を砕く乾いた響きが耳を震わせる。
白い雪の上が、まばらな赤で染まっていく。
「チッ、タルンカッペ擬きが保つのはここまでか……まあいい。“絶対の言語”の始末を確実にできたとなりゃあ、それで十分だろう」
「透明化」が解除され――ダルグレインが姿を現す。
その牙の隙間からは、赤と灰の羽が零れ落ちていた。
「……レゼ、フィル?」
返す声はない。
あの甲高い、頼もしい声が応えることはない。
(もういない、ということ。戻ってこない。会えない。話せない。それが、“死”ってことなのよ)
急に思い出したのは、いつかの会話。
サーヴァントの消滅や、「よく知らない敵の死」とはまるで違うカタチ。
何よりも、明確に突き付けられる――「友の死」。
ああ、そうか。
だからレゼフィルも、パラニールも、ユキネも――
あんなに「悲しい顔」をしていたんだ。
「大切な者の命を、一方的に奪われた」。
その悲しみを、知っていたから。
(だが、それは俺たちも同じだろう。俺たちが食べる魚だって、オキアミだって――命は命だ。そうしなければ、生きていけないんだ)
心の中で、もう一羽の俺が言う。
「食う・食われる」が俺たちの世界。
ならばダルグレインがやったことは、それと同じだけなのかもしれない。
(だと、しても)
俺の中には、「悲しみ」と別の感情が吹き上がりつつあった。
初めて味わう、熱を帯びた■■。
きっと、これは。
「……そうだ、それが“怒り”だ。“復讐心”だ! ハッ――ようやく知ったかよ、アルヴェイルッ!!」
「ダル、グレインッ――!!」
全身の毛が逆立ち、頭の中が弾けるような感覚。
エアリアル・ドライブが、呼応して烈しくジェットを噴き上げた。
この胸の内に燃え盛る、真っ黒な炎のように。
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2020.04.03 08:08 UTC / 南極 視点:ダルグレイン
アーチャーの「矢」発動前に、南極の空に響いた「声」。
回復するため隠れたキャスターは、間違いなくそれに対して最大の警戒を示していた。
だが、同時に――「発動と共に、レゼフィルは避けようのない死を迎える」とも。
それでも、「言ったことが現実になる言葉」なんてものがあってはならない。
レゼフィルが肉体を復活させる術を仕込んでいないとも限らない。
まさに、「魔術師によって肉体を改造された」オレと同じように。
故にこそ、オレはオレが最も信頼できる方法で奴の死体を破壊した。
――当然、そうすれば。
「ダルグレイン、お前ェええええええええッッ――!!」
当然、激昂するだろうさ。
アルヴェイル。単純なお前なら確実になぁ――!!
(さあ、馬鹿みてぇに突っ込んできやがれ! その時が最期だ!)
キャスターから授けられた「秘術」の印が、背中で光る。
……だが、アルヴェイルの爆発力は予想以上だった。
「なっ、速――!?」
雪煙を巻き上げ、ミサイルのように黒い影が突貫する。
辛うじて直撃は回避したが、肉体の「左側」をざっくりと裂かれた。
「再生魔術」がなければ、ここでデッドエンドだったであろうほどに。
(あれがセイバーの礼装、“エアリアル・ドライブ”……小型化してなおこの性能かよ)
奴は今、礼装を「砲撃武器」ではなく「加速装置」として運用している。
恐らく、最低でも時速120キロは出ているだろう。
それは、「強化」されたオレの最高速度をも上回っている。
当然、衝撃と摩擦に耐えるだけの守りも固めているわけで――ンなモンがぶつかれば、どうなるかは自明の理だ。
(だが、そりゃあ“直線”限定での話だ。小回りが効かねえ以上、優位は未だオレにある。そして何より……!)
「今ので、条件は満たされたぜェ……アルヴェイルゥ!! 起動しろ、
「何……何だっ!?」
ドリフトターンを行い、距離を取ってこちらを見たアルヴェイルが異変に気付く。
それは、奴だけじゃなく――
「ぐおッ!? この“壁”は……ッ!?」
高速回転し、大剣を叩きつけてきたセイバーも同様だった。
不可視の防壁は、その攻撃を容易に弾く。
ま、セイバーにどんな膂力があろうと不可能だ。
これは、そういう「ルール」だからな。
「オレぁ親切だから、公平に教えてやる。これはキャスターから預かった、“決闘を行う術”の印だ。
今、オレとアルヴェイルは“両者の同意”の下、一対一の戦いをすると決まった。他者がそれを妨害することは叶わねえ。たとえサーヴァントだろうとなあ」
「ふざけるな! そんなの、同意なんてしていないぞ!」
アルヴェイルが叫ぶが、オレは笑みを浮かべながら言い返す。
「思い通りに事が動く気持ちよさ」の笑みを。
「いいや? お前はさっき、オレを全力で攻撃したじゃねえか。だいぶ痛かったぜェ? で――そいつは間違いなく、“戦いへの同意”だ。神蛇は既に意思を受け取り、律を下した!」
それこそが「遮断の竜」ヴリトラと、「羽毛ある蛇」ケツァル・コアトルの力を基にした竜種魔術――
この透明の闘技場から出る方法はただ一つ。
「どちらかが死に、勝負に決着がつくこと」だけだ。
アサシンの宝具のせいで、ルーラーから奪った「生命の海」は消失した。
ライダーはアーチャーと相打ち、ワイバーンの群れも壊滅。
いくらキャスターが強力な魔術を使えるとしても、相手はあのセイバー。
ただでさえ「最優」と謳われるクラス。
強力な【対魔力】を誇る、本来なら最悪の組み合わせ。
……何より今のセイバーは、ライダーの脱落によって
未だこちらが優勢だとしても、イージーウィンは大きく遠のいた。
ならばやはり、「マスター殺し」を狙い続ける価値はある……!
「……望むところだよ。元より俺は、そのつもりなんだッ!!」
再びアルヴェイルが加速し、突っ込んでくる。
どう見ても、さっきよりも遥かに速い。
効果は更なる肉体強化、闘争心の上昇。
神前での戦いが無様なものでないようにする、粋な計らいだ。
そして、当然ながら――
「その強化を受けてるのは、お前だけじゃねえんだぜッ!!」
黒い弾丸のような突進を、横に飛びのいて回避する。
その勢いで、すれ違いざまに横腹に噛撃のカウンター。
(チィッ、さすがに硬ぇな……!)
一発で「喰い千切る」ことまではできず。
だが、奴の「防御」を確実に削ったような感覚はあった。
(いきなり心臓だの頸動脈だのは狙わねえ。脇腹・腱・関節……そういった部位から、少しずつ獲物の機能を削いでいく。思い知らせてやるよ、持久戦ならこちらが圧倒的に有利だとなぁ……!)
三度の攻防が続き、速度に目が慣れてきた頃。
回避の直後、アルヴェイルを追ってオレも疾走を開始する。
通常のニホンオオカミの運動能力なら、短距離を最大で時速五十キロで走るのがいいところだが――
あいにく、オレは生まれた時から「通常の生物」じゃねぇ。
誰かを殺すために作られた、生物兵器そのものだ。
「――ッッ!?」
方向転換のため、大きくターンしたアルヴェイルが驚愕する。
既にこの身は、奴の眼前にまで到達していた。
魔術による身体強化も併せて、今のオレは時速百キロくらいなら簡単に叩き出せる。
「オラァッ!」
「ぐうっ……!」
鮮血が氷上に舞う。
狙ったのは、再び奴の脇腹。
過たず、牙はほぼ同じ位置にクリーンヒットした。
――今更ながら、自らの怪物性に失笑する。
これだけの速度を出しながら、全く疲れを感じていない。集中力に一切の乱れなし。
魔力が尽きぬ限り、オレはいくらでも走り続けられるだろう。
三年前、かつての「オレ達」が証明したように。
「――まだだッ!!」
鋭い声が、油断した脳に突き通る。
続いたのは、強烈な光と爆風。
「うおぉぉぉオッッ!?」
辛うじて、直撃は避けられた……!
放たれたのはもちろん、「エアリアル・ドライブ」の砲撃。
キャスターの予測では、「移動方法ではなく攻撃に用いるには魔力消費が大きすぎる」という話だった。
それは単純に、今後の移動能力も落ちるということ。
いくら奴が野生のペンギンに毛が生えた程度の知能だと言っても、ここまで短絡的だったとは思わなかった。
――この油断は反省するとしても、アルヴェイルの礼装の出力は相応に低下しているはず。
(攻撃のチャンスは今なんだが……クソッ、火薬の臭いで鼻が効かねえ!)
この状況で脚を止めるのはまずい。
急ぎ、黒煙の外へと駆け抜け――
「――今だ! 最大加速ッ!!!」
オレは、本当に奴を侮っていたと思い知った。
目に映ったのは、あり得ざる「空を飛ぶペンギン」の姿。
厳密に言えば、コマのように横に高速回転しながらだが。
◇
「何故、こうなったのか?」
後から、それを推察するのだけは早かった。
アルヴェイルは、エアリアル・ドライブによる砲撃を「片方だけ」で行ったのだ。
当然ながら、反動は相応に凄まじい。
結果的に奴は空中に吹き飛ばされたが、恐るべきことに「回転しながらもう片方の礼装を噴射して姿勢制御し、回転しながら空中に留まっていた」。
そしてオレが黒煙の外に出た途端、砲撃をしていない礼装を噴射して高速回転。
それこそセイバーよろしく回転しながら接近し――
ここでようやく、
そして、その結果がこれだ。
「が、フぁッ……!」
超硬質化し、回転の威力を乗せた翼の一撃は、斬撃のように氷の大地を叩き切った。
もちろん、オレの胴体も一緒に。
突如発生した巨大クレバスは、オレとアルヴェイルを極寒の海へと呑み込んでいく。
どうにも懐かしい、内側から全身を刺す地獄の冷水の感覚。
そこで一度、オレの意識は遮断されたのだった。