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2020.04.01 17:32 UTC(内部時刻:第三日・朝) / ランサー領・上層階・宿泊施設 / 視点:レゼフィル
セイバーの傷も、外から見る限りは癒えたという頃。
ダルグレインから相談があると言われ、あたしたちは部屋に集まることになった。
彼なりの情報収集の結果が出た、ということらしい。
集合場所は、あたしとアーチャーの部屋。
でも、セイバーとアルヴェイルは予定よりだいぶ早く到着してしまっていて、ダルグレインはまだ来ていない。
アーチャーは、再び調査に向かってしまった。
アルヴェイルは、まだ少し眠たげだ。
どうやらセイバーが、彼が遅れないようにと早めに連れてきたらしい。
体のつくりからして、彼の歩みが遅いのは当然のこと。
だったら早く出発して、目的地で寝て待つ方が賢い――
そう判断したのだろう。悪くない配慮だ。
彼は今、記憶や学びを消化する最中なのかもしれない。
わざわざ起こすのも、少し気が引けた。
手持ち無沙汰だったので、羽繕いを始めることにした。
首を背中へと回し、嘴で羽根の根元を一本ずつ摘んでいく。
次に尾脂腺から分泌される油を嘴に含み、それを羽に丁寧に塗りつけていく。
撥水性を保つための、大切な作業。
でも、あたしにとって羽繕いはただの「清潔維持」じゃない。
羽が整っていなければ、飛ぶことはできない。
絡んだり、濡れたり、乱れたりすれば、それだけ空気抵抗が増す。
そのわずかな差が、生き残るかどうかを分ける。
自然界では、それが当たり前だった。
あの「二年間」で、学んだことだ。
そして今――この「聖杯戦争」という異常な競争の場では、なおさらだ。
ふと、視線を感じた。アルヴェイルだった。
彼は、ぼんやりとした目でしばらくあたしの動きを見ていたが……
やがて自分もそっと羽に嘴を伸ばし、羽繕いを始めた。
アーチャーに倣い、彼について考えてみる。
飛べない彼にとっての羽繕いは、泳ぐための準備。
根本は、あたしと同じ。
油が水を弾き、羽を整えることで泳ぐ際の抵抗を減らす。
空と、海。
全く違う場所を飛ぶ二羽。
全く異なる進化を遂げた翼。
でも、その中にある共通性。
それが、何だか面白かった。
床を跳ね、彼のもとに近づく。
「手伝ってあげよっか?」
「ええっ?」
間の抜けたような声が部屋に響く。
アルヴェイルは目をぱちぱちさせて、完全に予想外だったという顔をしている。
セイバーが一瞬こちらに警戒の視線を向けてきたが、目だけで「大丈夫」と返しておく。
「そもそも、あたしに物理的攻撃手段なんて無いでしょーが」
「かもしれんが……うーむ」
軽く羽を揺らすと、アルヴェイルの脇に嘴を伸ばす。
アルヴェイルの脇の羽根を、一本ずつ整えていく。
少しざらついた感触。でも、彼の羽毛は分厚くて、意外と手入れのしがいがある。
「……変な感じだ」
「あら、そう?」
どうやらコウテイペンギンは、こういう「相互羽繕い」をしないらしい。
雛に対して少し行うくらいで、基本的には全部自分でやるものなのだとか。
群れを作るのは同じでも、案外色々と違うものねえ。
そんな感じで羽並みを整えていると、彼の胸元に少し赤い痕が見えた。
どうやら、古い傷跡が残っているらしい。
そこは丁寧に避けながら、作業を続けていく。
「……まあ、あんな寒いところじゃ他人に使うエネルギーなんて無いんじゃねえか?」
黙って見ていたセイバーが呟く。
「それもそーね。あたしの“原産国”はかなり暖かい所。食べ物だってたくさんある。群れで“仲良くする余裕がある”生活だってわけなのよ。実際に見たことはないんだけどねー!」
セイバーの眉間にうっすらシワが寄る。
しまった、失言だったか。
「ああいや、別にお前さんが悪いわけじゃねぇよ……物事には複数の面があるな、って思っただけだ。すまん」
その声音には、ほんの少しだけ、ためらいが混じっていた。
――もしかして。
彼は何か言おうとして、やめたんじゃないか。
あたしが「原産国」を知らない、「人工繁殖」された動物だってこと。
育ったのも、人間の住居。
遺伝子に刻まれた景色としては知っている。だが、実際には見たことがない。
……そういう背景に彼は気づいて、黙った。
弁解めいた口調で無理に気を遣ってくれた彼を見て、あたしは少しだけ笑った。
やっぱりこの竜は、「中身」が硬派だと思う。
強面で、力もあって、それでいてちゃんと気を遣えるなんて――ギャップがすごすぎる。
アルヴェイルは、よく分からないといった表情で羽繕いを受け入れている。
でも、体が少しずつほぐれていくのが伝わってきた。
彼の先祖たちは、南極という過酷な環境で生き延びることを選び、進化してきた。
天敵の多い海と違って、陸上では成体を襲う動物はほとんどいない。
対抗手段のない雛を、たまにカモメが狙うことがあるくらい。
それも、南極大陸が氷海に囲まれていて、そもそも陸上生物が簡単に定着できないからだ。
コウテイペンギンが人間を恐れないのは、「地上における敵対者」を知らないため。
つまり、南極の陸地は「ペンギンたちだけの世界」だと言えなくもない。
難しい言葉で言うなら、
ただし、その代償もある。
コウテイペンギンの群れは、「助け合い」よりもむしろ「競争」の場だ。
ブリザードに耐えるために身を寄せ合うときも、できるだけ群れの内側へ押し込もうとする。
定期的に位置を入れ替えて体温を保つとはいえ、内側に入れなければ凍死のリスクは跳ね上がる。
喧嘩や小競り合いは日常茶飯事。番いの関係だって長続きしない。
――群れは、仲間で支え合うだけの場所じゃない。
限られた繁殖と生存のリソースを巡って、ぶつかり合う場所。
だから、他の鳥から羽繕いしてもらうなんて機会もないのだ。
一方で、あたしの「出身地」はまるで逆だ。
熱帯の森では、「食べ物が豊富」というのは、あらゆる生き物にとっての話になる。
虫には草が、トカゲには虫が、鳥には果実や虫が――みんな、豊富な獲物に恵まれている。
でもそれはつまり、「喰う・喰われる」の関係がいつでも背中合わせにある、ってこと。
頂点捕食者でもなければ、誰もがいつ喰われる側になるか分からない。
生き物が多いということは、それだけ「自分の場所」を守るのが難しいってことでもある。
だから、あたしたちは群れを作る。
互いに信じ合わなければ、生き残れないから。
番いが長続きするのも、信頼関係を築くために羽繕いや餌のやりとりを重ねているからだ。
相手の感情を読み取る。利他的な行動を取る。
そうやって、激しい生存競争を、「協力して」生き延びるのが、あたしたちのやり方だ。
総合的な過酷さでは、南極の方が上だと思う。
でも、「南極だからこそ」の生き方がある。
それは確かに、ちゃんとした生存戦略だ。
それを思うと、アルヴェイルのまっすぐな目に少し敬意を感じるようになった。
なんて話をセイバーとしながら、アルヴェイルの羽繕いを終える。
「ほら、王様なんて名前なんだから羽もしっかりしていた方が良いでしょ?」
「あ、ああ……ありがとう、レゼフィル。なんというか、少し暖かかった」
「どーいたしまして。ちゃんと礼が言えるなんて、学んだ成果が出てるわね」
「それならいいんだけど……うん。何かしてもらったら、そう言うんだよな」
そんな様子を見ながら、セイバーが言う。
「……水を差すようで悪いが、オウサマペンギンだと別の鳥らしいぞ」
「え、そうなの!?」
「昔は一番大きいと思われたから
「な、なんて安直ッ……」
でも――名前なんて、そんなものかもしれない。
自分の「種名」だって、誰かが勝手に付けたものなのだから。
◇
しばらくして、アーチャーとダルグレインが部屋にやってきた。
「皆様方、お集まりいただきありがとうございやす。
内密の話ですので……青竜様、どうかあのランサーに声が聞こえないように御力を賜りたいのですが……」
「是である。暫し待て」
ダルグレインの要請を受け、アーチャーが呪文を唱えると部屋に薄い膜のようなものが張られる。
確かに、ランサーはこの国のことをすべて知ると言っていた。
自分のサーヴァントの力が軽々しく振るわれるのに思うところはあったが……
ダルグレインがかつてなく真面目な顔をしていたので口を噤む。
「結論から言いやす。あっしが愚考するのは……あのランサー、ヴァースキを討つのなら今じゃないかということです」
「……成程。続けよ」
「へい、喜んで。
ライダーの横暴を止めるべきというのは重々承知でありやす。あっしだって志半ばで散ったキャスターの仇を討ちたい。
しかし、セイバーの旦那が見たという“南極の機械”によれば……インドの魔力反応が最強クラスだった。それってつまり――ランサーがこの戦の“本命”ってことじゃありませんか。
あっしはキャスターの仇討ちのため、皆様方に協力することを誓いやしたが……他のサーヴァントと戦い、消耗した状態でランサーに勝てるとはとても思えません。
それどころか、あのランサーに対してはそれ以外のサーヴァント全騎で挑むべきですらある……そう思えてならないのですよ」
ダルグレインは一度呼吸を整え、話を続ける。
「何より、先ほどの話……この国は現在、僅かであれど消耗している。国の修復のためにナーガたちの力は使われている。
加えてランサーの宝具がいかに規格外と言えど、すべての力を最初から発揮できるとは考えにくい。キャスターが遺した知識によれば……この“国の宝具”の在り方は、“固有結界”に近いと考えておりやす」
「固有結界……って何よ? アーチャー、知ってる?」
「無論である。――固有結界とは、魔術師による秘儀の極致。自身の心象の風景を現実にし、世界を塗り潰す奥義。ただしその在り方ゆえ、結界は世界より“異物”と見なされ、いずれ排除されるためそう長くは保たぬ」
「へへ、御解説感謝しやす。つまり、いくら神様といえど、いきなり宝具の完全展開はできないのではないか……と。
証拠として、それが可能であったならば青竜様が外からご覧になった時、国の内部の生命反応は千では済まなかったはず……」
ダルグレインの発言を聞き、セイバーは唸る。
「ぬう、確かに……これは聖杯戦争なんだ、陣地を作って守りを固める戦法を取るのなら……兵隊となるナーガが、そんなに少ないわけがねぇ。奴は広大な地下王国そのものを宝具として持ってこられるはずなんだからな。世界の修正力を避けるため、まずは最低限で展開したってことか?」
「御慧眼でありやす、セイバーの旦那!
この機会を逃せば……ランサーの他に数千、いや万、下手をすればそれ以上の兵団を相手にすることになるやもしれません……おお、恐ろしや」
……とんでもない話だった。
ナーガたちはサーヴァントには及ばないにせよ、対サーヴァントを想定した戦力であることに間違いない。そうでなければ「門番」の意味がないのだから。
「そして、残りのサーヴァントにも居場所の情報を提供するために、キャスターが遺してくれた術を使おうと思いやす。
魔術的な狼煙なんですが……これで場所を教えつつ、協力要請の意図を伝えることができるんです。それについてはあっしに任せてくだせぇ」
ダルグレインは、作戦について語り終えた。
アルヴェイルはセイバーに霊薬を提供してくれた恩もあり、攻撃するのは気が引けるようだったが、アーチャーの「その代価は対話によって既に払い終わっている」という言葉を受け、最終的には戦いを決意したようだ。
ちなみに、ダルグレインは「キャスターの遺した魔術」により自分の群れのオオカミが得た情報を共有できるらしい。ランサーの国について知っていたのもそのためだとか。便利ねえ。
そして、敗退したキャスター「リンドヴルム」が奪われた宝具は『
つまりセイバーのような、宝具で守りを固めるタイプの天敵なのだった。
「それならライダーの血の鎧も突破できるだろ! なんで負けてんだぁ!」とはセイバーの談。
……まあ、ライダークラスはそもそも魔術への耐性スキル【対魔力】を持っている。
初めからキャスターにとって相性がかなり悪い相手だし、仕方ないのかもしれない。セイバーもそうだが、竜種の対魔力は格段に高ランクなのだ。
また、「国の天蓋」を壊したのはこの宝具だとするならば、復旧に時間がかかるのも頷ける。
それでもなお、「一日が一時間」を保てるのも凄い話だとは思うが。
◇
会議の最後に、アーチャーはダルグレインの方に向いて、いつもの仏頂面で言った。
「……作戦立案には感謝する。ただし、ダルグレインよ。対話の場でも言ったが――過度な世辞は、真実を濁らせるぞ」
「へ、へへーっ! 全くその通りで……!」
アーチャーに釘を刺され、ダルグレインは何度目か分からない低頭の姿勢をとる。
……思わず、その姿に呆れてしまった。
「――結局、さっきと同じなんじゃないの?」
「いやあ……性格っていうのは、そう簡単に変えられないものでさぁ。へへ……」
卑屈そうな顔で、ダルグレインは笑った。
サーヴァントマテリアル①
クラス:セイバー
真名:タラスク
属性:秩序・善(マルタへの忠誠を軸にした行動原理)
筋力:A 耐久:A++ 敏捷:B(回転時A) 魔力:A+ 幸運:C+ 宝具:A
保有スキル
【対魔力:A】
ドラゴンとしての強靭な魔力耐性に加え、かつて聖女マルタの加護を受けた神聖性が上乗せされている。並の魔術では傷ひとつつかない。
【騎乗:E】
本人が「騎乗される側」であったためかランクは低い。クラススキルとして最低限の獲得。移動能力にプラス補正。
【竜種:A+】
リヴァイアサンの子として生まれ、神代の存在としての「竜」に属するもの。通常の英霊を超える生命力と再生力を持つ。
【守護獣:A】
死後、マルタの守護霊として生涯共に在り続けたことを表すスキル。
一定のバッドステータスを無効化し、悪属性への特攻を持つ。ただし精神的ダメージは受ける。誰よりも一番怖いのは姐さんである。
また、聖女と共に学び、修行し続けた者として深い知恵を持つ。
【牙獣装甲:A】
その背中の装甲は矢も刃も通さない。彼を説法(物理)したマルタですら甲羅自体は砕けなかったとのこと。更にサーヴァント化により白い鎧が加わっている。この鎧「エアリアル・ドライブ」はブースターを噴射して本体から分離し、独自に攻撃をすることができる。
タラスクは伝承において燃える糞をばら撒いていたとされるが、これは当時の人間がそう誤解しただけであり実際はドローンのような自律飛行する兵装だったのだ。それが礼装となって昇華したのが現在のそれである。
エアリアル・ドライブについて
リヴァイアサンの血を引くタラスクには、“深海の魔力圧縮機構”と呼ぶべき天然の魔力炉が存在する。
それに付随するのが、生得的な魔力放出兵装――過剰な魔力を凝固・切離し、推進剤として放出するための器官である。
タラスクはこの機構を、機動兵装を兼ねた自律式の“使い魔”として自在に制御していた。
伝承において、タラスクは退却の際、燃えさかる糞をばら撒いたとされている。
しかしそれは、当時の人間が爆薬や燃焼反応の残留臭を理解できず、曲解して記録したものである。
聖女マルタの宝具として召喚されるタラスクは限定的な現界に留まるため、この能力についてはオミットされていた。
英霊として召喚されたタラスクのそれは、概念礼装《エアリアル・ドライブ》という形に固定化された。
普段は推進装置として稼働し、魔力反応炉から出力を得て飛行補助を行う。
だがその真価は、12基の半自律式ドライブユニットとしての分離・制圧戦術にこそある。
一斉展開時、それらはタラスク本体の火炎ブレスに匹敵する魔力砲撃を行うことができる。
【不屈の護獣:B+】
致命的なダメージを受けても耐え抜く戦闘続行スキル。また、マスターへの攻撃が行われても幸運判定に成功することで自動的に介入、ダメージを肩代わりすることができる。ただし、ダメージは量でなく割合によるためタラスクにとっては軽微でもマスターにとっては致死…という場合はタラスクへのダメージも大きい。
一度発動すると、再発動までには時間を必要とする。
宝具
・『盾鋼の聖獣(クストーディア・タラスコニス)』:A
種別:対軍宝具 レンジ:0~20 最大捕捉:レンジ内の味方全員
効果: Custodia Tarasconis。
絶対防御の大盾を展開し、一定範囲内の物理・魔術攻撃を完全無効化する。発動時には自身だけでなくマスターを守ることができるのが強み。
相手が混沌もしくは悪属性、魔性属性を持つ場合効果が上昇する。逆に、秩序・善属性の相手からの攻撃は防御率が落ちる。
防御能力が最も高まるのは「真名解放時」であるため、いわゆるパリィにも似た使い方となる。
・『聖鋼一閃・忠義の剣(グラディウス・フィデス・サンクタ)』:B+
種別:対軍宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:100人
効果:Gladius Fides Sancta。
当然ながらタラスクに「剣士」としての逸話は無い。だが守護獣として、「騎士」としての逸話で彼はセイバーとなった。これはその際に手にした「守護の剣」。
真名解放時、対峙した相手の殺意・加害の意思に反応して自動でカウンターの斬撃を食らわせることができる。
また、タラスクは甲羅に手足を引っ込め回転ジェットで飛ぶことができるが、その際に口にこの剣を咥えて相手に突っ込むという必殺技を持つ。